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zoom RSS 福田定一(司馬遼太郎)『ビジネスエリートの新論語』の書評1:サラリーマン的生き方の原点

<<   作成日時 : 2017/04/02 21:37   >>

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司馬遼太郎が本名の福田定一(ふくだていいち)で昭和30年(1955年)に出版した本で、戦後混乱期にある当時のサラリーマンの処世術や時代・価値観の変化について、古今の偉人の名言を散りばめながら記したエッセイ集である。

元本は『名言随筆サラリーマン ユーモア新論語』で、人口に膾炙した歴史小説家の司馬遼太郎とは異なる文章と感性、経験談を味わうことができる。自分が今生きている時代に即した結婚や夫婦、男女関係について司馬遼太郎が正面から論じた本というのも、本書以外にはそうないのではないだろうか。

大多数の人が新卒採用で企業・役所に就職することを目指す現代においても、『サラリーマン(サラリーパーソン)』という言葉には独特の響きとイメージがある。特にまだ社会に出て働き始めていない学生にとっては、サラリーマンという言葉・働き方に『安定・無難・保障』は感じても『自己実現・夢・希望』は感じにくいかもしれない。

サラリーマンは今の職業では『会社員・公務員』と言われるものに当たるが、司馬は末川博博士(学者)の言葉を引いて、『月給取り(組織に所属して毎月確実に給与を受ける)そのものは能力を活かして何かをしている職業ではない』とし、会社員ではなく総務・会計・技術者・営業などで具体的に何をしているかできるかのほうが職業なのだとするが、こういった考え方も現代にはあまり馴染まないものではある。一般に職業を聞かれれば、どこどこに所属している肩書き(職位)が何がしの会社員・公務員と応えることに何ら違和感はないからである。

決められた給金を確実に受け取るサラリーマンの日本における原型は、江戸期のサムライなのだというが、サムライも織豊政権のあたりまでは実際にいくさに参加して兵法を駆使したり武芸で敵を殺したりする『戦闘技術者としての職業性』があった。しかし徳川家康によって天下が統一され、国内でのいくさがほぼ無くなった平和な時代になると、サムライは実際に人を殺す武芸や兵法では評価されなくなり、どこかの藩・主君に士官するか先祖代々仕えているかで決まった俸禄(扶持米)を貰うサラリーマンへと変質していったというのである。

江戸時代の武士や僧侶は今で言う公務員のような位置づけにあたるが、司馬の着眼点の面白いところは、こういった近世江戸期のサラリーマン的なサムライ(武士)の『サラリーマン哲学』として導入され普及していったのが君臣秩序を絶対化する『儒教の朱子学(同じ儒教でも易姓革命の思想を含む陽明学はアウト)』としているところだろう。

サラリーマンというのは江戸時代の武士でも近代以降の会社員・公務員でも『君臣秩序(身分・肩書きによる上下関係の秩序)』を重んじなければ、安定した俸禄・給料を貰い続けることはできないが、そういった君臣秩序や既存の上下関係を遵守する徳を説く一面が儒教の大元である孔子の『論語』にも確かにある。

孔子が論語において理想の有徳者とした『君子』もまた主君に士官して働く『官吏(役人)』であり、司馬遼太郎が本書のタイトルを『ビジネスエリートの新論語』とした由縁にもなっている。冒頭では元祖サラリーマンとして、京都の碩学の貴族で鎌倉幕府に下ってから栄達した大江広元(おおえのひろもと)を挙げており、その事務仕事(行政)の勤勉と自分が責任をかぶらないようにする明哲保身ぶりが示されている。

イギリスの作家ディケンズの名言を引いて、良い背広(スーツ)を着るほど欠点が隠れて見えたり、地位の高い信用できるサラリーマンに見られる(逆にあんまりボロな背広を着ていると実際以上に無能な信用できない人物に見られる)という『洋服庶民』としての特徴を指摘する。

アダム・スミスは資本主義経済の分業の能率性を説いたが、分業によって『仕事の全体性・一貫性に根ざした達成感』が損なわれやすくなったデメリットもあり、カール・マルクスなどの反資本主義者は資本主義の労働を『全体の一部の細切れの作業を機械的に担う人間の部品化・歯車化』のメタファーで批判することもある。

しかし、サラリーマンにとって『所属組織における秩序・規律の遵守(構成員みんなが守っているルールや上下関係を守ること)』というのは至上道徳に近いものがあり、自分が全体の一部としての役割をこなす秩序も規律も守れない(自分は自分のやりかたや考え方で働きたい・多少の理不尽を我慢してみんなと合わせて働けない)というのであれば、司馬がいうように最終的にはサラリーマンの自己否定=退職・廃業に行き着きやすいということにもなるだろう。


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福田定一(司馬遼太郎)『ビジネスエリートの新論語』の書評2:恒産なければ恒心なしの解釈
サラリーマン哲学の原型を徳川家康家訓の『人の一生は重荷を負ふて遠き道を行くが如し。急ぐべからず。不自由を常と思へば不足なく、心に望みおこらば困窮したる時を思ひ出すべし。堪忍は無事長久の基。怒りは敵と思へ。勝つ事ばかりを知つて負くる事を知らざれば、害その身に至る。おのれを責めて人を責むるな。及ばざるは、過ぎたるより優れり』で示しているのは、後に歴史小説家として大成する司馬遼太郎らしいユーモアが効いている。 ...続きを見る
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