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zoom RSS 物事はなぜ計画通りに進まないのかの心理学1:計画の錯誤を生む楽観バイアスと専門家の直感

<<   作成日時 : 2017/03/23 19:11   >>

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未来を予測することや物事を計画通り(予算通り)に進めることはかなり困難である。教育と訓練を受けていて当該分野に精通しているはずの専門家でさえ、往々にして統計的傾向や確率を軽視して間違ってしまう。

今、東京都では築地市場から豊洲市場への移転計画が『土壌・地下水の汚染問題』で難航していて、元東京都知事の石原慎太郎氏が小池百合子現都知事から当時の最高責任者としての責任を追及され証人喚問までされた。過去の豊洲市場移転に対する石原元都知事の計画承認の適切さが問い直されているが、豊洲市場移転計画も当初の計画通りに物事が進まない一例だろう。

福井県敦賀市の高速増殖原型炉もんじゅも、MOX燃料を使ったプルサーマル計画(核燃料をリサイクルして使い続けられる半永久機関)を実現できる『夢の原子炉』として長年期待を集めていたが、液体ナトリウム漏れによる火災、中継装置の落下事故などトラブルが次々と起こり、約1兆810億円ものコストがかかったにも関わらずほとんど稼働しないまま2016年12月に廃炉が正式決定されることになった。この高速増殖炉もんじゅも、未来予測や物事の計画・予算が上手くいかずに膨大なコストを費消した典型的な事例である。

2020年東京オリンピックの開催費用も事前の計画が狂い、約2〜3兆円もかかるとされる大会予算が大幅に膨張した事例である。意思決定者である東京都知事も次々と変わり、総工費が約1500億円以上はかかるとされる新国立競技場も当初のエキセントリックなデザインのザハ案が撤回されることになった。新国立競技場については総工費1500億円でも控えめな予算とされ、大手ゼネコンなどの関係者の中には人件費や建築資材の高騰の影響で更に1000億円前後の予算の膨張があってもおかしくないという曖昧な状況が残されている。

大規模なプロジェクトや建築構造物、科学技術研究ほど、事前の計画や予算がなぜ大幅に狂ってしまうのか、しかも悪い方向(もっとお金がかかる方向)に狂って変化してしまいやすいのか。その心理学的な理由の一つは、『楽観バイアス』『外部情報・統計情報の不活用(内部情報・経験と直感の過大評価)』だと考えられている。

事前の計画や予定・予算が狂ってしまう問題は『計画の錯誤』と呼ばれる問題である。計画の錯誤を引き起こす有力な原因が、世界(社会)を実際よりも安全で善意にあふれた場所と考え、自分の能力を実際に過大評価し、自分の立案した計画を実際以上に簡単に達成できると思い込む『楽観バイアス』ということになる。

人間の多くは、責任者・担当者(ハイレベルの意思決定者)として一定以上の地位と権限を与えられ、周囲にイエスマンが増えて異論反論がなくなると、簡単に計画を実際よりも簡単に達成できる、事前の予算通りに計画を進められると思い込む『楽観バイアス』の認知の偏りにはまり込むことが知られている。また楽観バイアスそのものは個人単位の心理状態にとっては悪いものではない、物事や人間の『良い部分』だけにフォーカスして認知するので、『主観的幸福感・楽天的な性格傾向』を高めてくれるというプラスの作用が大きなものでもある。

楽観バイアスの強い楽天家は、一般的に自分が幸運・幸福・健康だと感じており、人並み以上の能力と体力(生命力)に恵まれていると認識しているので、仕事でもプライベートでも積極的に行動しやすく実際の成果を出しやすい傾向はある。しかも積極性や行動力、能力の高さによって成功経験を繰り返して組織集団での地位を高めやすく、そのために更に自分の判断力や状況をコントロールする力に対する自信を強めやすい。

その結果、計画や自分を疑うという姿勢そのものが弱くなるか欠落しやすくなり、予算や規模が大きくなるにつれて楽観主義者が『計画の錯誤』を起こすリスクも高まるということになる。

有力な政治家や高級官僚というのは、一般社会ではテスト・選挙・昇進などで成功体験を繰り返してきた実力者であり、その意味では世の中の平均以上に自己評価・自信・楽天性が高く、楽観バイアス(税源で自分の懐が痛まないのもあるが)に捉えられた『計画の錯誤(予算の肥大)』を起こしやすい傾向はあるだろう。企業の社長や成功した起業家などもかなり楽観バイアスに捉えられやすいタイプが多く、基本的にはもっと成長できるはず新たな市場を作り出せるはずという信念でイケイケ路線を突き進むような人が多いはずである。

そもそも論としては、ニヒリスティックで未来予測・事前計画について暗いことや節約(今後成長・進歩をしない前提での慎重な意見)ばかりをいうケチで悲観主義的な人は、組織集団のリーダーのような地位には立てないことが多いというのもある。これからの未来は今より悪くなるとか、お金が掛かる大プロジェクトはやめておこうとかいう悲観主義者は、他者からの応援や支持を集めにくい傾向が顕著なので、世の中の主流や組織集団に上位者に立つような人には悲観主義よりも楽観主義のほうが圧倒的に多いのは自然の趨勢でもあるかもしれない。

一方、豊洲市場移転問題の土壌汚染で証人喚問された石原慎太郎元知事は、『土地の汚染問題について専門的な知見がなく専門家に一任していた旨』の反論をしたが、最高責任者が大きなテーマについての諾否だけを意思決定して『個別詳細の事項は専門家に任せる』というのはありがちなやり方ではある。豊洲市場問題の専門家の判断の詳細は別として、一般的に専門家の判断や直感はどこまで信頼できるのかという問題がある。

心理学者ダニエル・カーネマンは、意思決定(自己選択)のプロセスやその妥当性について著書『ファスト&スロー』で認知心理学的な研究を行っているが、ある分野の専門家が知識・経験・直感を元にして『予測的な判断』をする時にその判断が妥当かどうかは、『予測しようとする事象に統計的な傾向+規則的な秩序があるかどうか(統計的・規則的に単純な答えを出しやすいかどうか)』にかかっているとしている。

ファンドマネージャーや経済評論家、政治評論家などが、『政治・経済・株価の未来の長期的予測を外すこと』は多い(短期的予測なら少しは精度が上がる)、というかむしろほとんど外してしまうものだが、これは専門家としてのスキルが低いのではなく、『元々政治・経済・株価というものをスキルで長期予測することが不可能だから』なのである。

それらの専門家は確かに過去の政治経済や株式市場の専門分野にまつわる情報・知識を多く持っているかもしれないし、その情報・知識に基づいて彼らなりの理論や法則性を考えているかもしれないが、『政治・経済・株価』というものは元々決まったルールや秩序に従って予測可能な形で変動するものではないから、専門家でも予測はほとんど当たらないということになる。

反対に、同じ専門家でも機械・コンピューターのエンジニア、患者の処置をする看護師(不確実性のある診断・治療の見立てをする医師よりも指示を受ける看護師のほうが予測可能な部分が多い)、現場の消火作業をする消防士などになると、同じ専門家でも『予測可能な法則性・規則性のある対象』を相手にするので、中長期の予測が当たりやすくなり、自分の行動(修理・処置・消火)によって起こる結果をより正確に予測しやすくなるのである。

ダニエル・カーネマンは、専門家が持つ予測能力を高める『本物のスキルの条件』として以下の点を上げている。

1.十分に予見可能な規則性を備えた環境であること。

2.長期間にわたる訓練を通じてそうした規則性を学ぶ機会があること。


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極端にリスクや浪費を恐れて未来を悲観する人、今までの成功経験や周囲の支持・賞賛がない自分に自信がない人は、最高責任者や意思決定者にまずなりにくいというのが『楽観バイアスによる計画の錯誤(予算の肥大)』の要因になっているのである。 ...続きを見る
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