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zoom RSS ユング心理学の自己(セルフ)の元型とグリム童話『黄金の鳥』2:父性・イニシエーションの衰退

<<   作成日時 : 2017/02/02 04:24   >>

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グリム童話『黄金の鳥』では、三人の王子の人生・行動の選択や分岐点もテーマになっており、三男の王子は長男・次男よりも『結果として適切な選択だが、一般的に非常識(間違っている感じ)な選択』をすることによって黄金の鳥を手に入れる成功の道を進んでいく。

動物(狐)のしゃべることなど信用できない、何らかの物の怪のしわざかもしれないとする無難で常識的な選択をした王子たちが失敗して、エキセントリックで非常識な選択をした狐をパートナーとして処遇した三男が『冒険の仕事』を乗り越えて黄金の鳥の捕獲に成功するというのも、『既存の価値観や常識観念を逆さまに転倒させる』ところのあるトリックスターの特徴を表しているのだろう。

ユング心理学のトリックスターの元型とグリム童話『黄金の鳥』1:最低と最高の交代可能性

しかし、三番目の王子も『黄金の鳥は黄金のカゴよりも木のカゴに入れたほうがいい』という狐の助言を受け入れずに、価値ある宝を持っていることが周りに明らかになって捕えられたりもする。人生の重要な選択の場面において、『キツネの助言(無意識のメッセージ)』に従うか『自分の判断(意識の判断)』を貫くかによって結果が変わるのだが、この物語では自分自身の判断に従ったほうが結果が悪いものになりやすい傾向がある。

最後に三番目の王子は、黄金の鳥・黄金の馬の次に『黄金の城のお姫様(アニマの象徴)』を手に入れて自国に帰り、次世代の王となるという予兆が示されることになるが、理想の女性像アニマの象徴であるお姫様を手に入れるまでの『苦難・危険・迷いの多い冒険の旅』が子供が大人になるための(新たな体制秩序の担い手になるための)『イニシエーション(通過儀礼)』として配置されているところに、特定の童話物語を超えた普遍性がある。

無意識領域にある価値ある宝(新たな時代の幕開け・アニマとの象徴的な結婚など)は、意識領域の病的状態や疲弊・限界を乗り越えていくために必要なものであり、ユング心理学で『自己実現』に相当する意識と無意識の調和である『個性化』を成し遂げるために手に入れるべきものである。

もちろん、その無意識の宝の多くは誰でも簡単に手に入れられるものではなく、昔話や童話においても『イニシエーション(通過儀礼)の試練・難題』をクリアすることで手に入るという構成になっており、この厳しい試練や難題を乗り越えてこそ新たな可能性が切り開かれるという構成そのものが『父性原理(男性原理)』との相関が深いのである。

物語や童話において『イニシエーション(通過儀礼)の試練・難題』の多くは、『黄金の鳥』とか『かぐや姫』とかにも見られるように、『父王によって王子たちに与えられる試練・冒険』『アニマ的な女性の父親が求婚者に与える難題』といった形で表現されることが多く、そのイニシエーションを乗り越えるための『仕事・冒険・チャレンジ』によって精神的に自立した大人になってゆくという物語構成が一般化されていた。

現代の日本をはじめとする先進国では、『女性原理の優位性(美しさ・可愛さ・優しさ・物分かりの良さ・上下関係のなさ・暴力や危険の全否定などの価値の上位性)』が目立つようになり、物語や童話にあるような生きるか死ぬかのイニシエーション的な試練・課題を無理やりに与えるような『区別して強制する父性原理・男性原理』は衰退や批判に晒されやすくなっている。

近代以前の時代には、父なるものがイニシエーションの試練・難題を科す時には、『若者・息子』にそれを受け入れるか否かの選択権そのものがなく、その厳しい試練・課題を上手く乗り越えられなければ、下手をすれば『死』の結果に見舞われるだけだった。

その時代・集団には概ね人権も法律もなく、『社会の一員(次世代を担う後継者)・能力のある大人としての自己証明』ができなければ死ぬ危険性があるというだけであり、『困難で危険な仕事』を成し遂げていくことが自己証明からの自己実現(個性化)の道であった。

あるいは古い時代・体制秩序から新しい時代・体制秩序へ転換していくクリティカルな契機・運命にもなっており、ユング心理学でいう意識と無意識を統合してバランスさせる『自己(セルフ)』の存在・働き(自己は直接的に認識することはできないとされる)を、童話や物語の試練がほのめかしているのである。無意識の自己(セルフ)は、意識の自我(エゴ)の偏った過剰な一面性を補償して、精神世界の全体性を回復してバランスを取ってくれる役割も果たしている。

だが、現代人の自己実現や個性化は『集合無意識の反映された社会システム・イニシエーション』ではなく、『個人の自由意思や好き嫌いに基づく選択・決定と自己責任』に依拠するようになり、意識と無意識を統合しようとする自己(セルフ)の元型のメッセージにまったく触れられないというケースも増えてきた。

誰もが一定の年齢で半ば無理やりにでも精神的に成熟して社会的に自立を遂げていくような父性原理(男性原理)の父なるものの強制・命令の働きは、良くも悪くも経済的必要性(仕事やお金がなければ大多数の人は生活できない)を除けばなくなってきて、その結果として『不決断のモラトリアム・個人間の精神の成熟度の格差・自己実現への過度のこだわり(できることから始めるという現実適応の弱まり)』なども生まれやすくなっている。


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