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前回の記事の続きになりますが、従来のうつ病は『〜しなければならない・〜できない自分には価値がない』という社会的・権威的な価値規範への同一化があり、それが実行できない自分に罪悪感や自罰感情を感じることが多かったのですが、新型うつ病では通俗的な道徳や価値規範を懐疑しつつも、『自分がどのように生きていけば良いのか分からない』という自己アイデンティティの拡散(=方向感覚・価値規範の喪失)のほうが大きな悩みになっています。 この古典的うつ病と新型うつ病(非定型うつ病)の『中心的・権威的な価値規範に対する態度の違い』は、新型うつ病の治療方針やカウンセリング計画の特殊性にも結びついていますが、新型うつ病では『自分のやるべきこと・目指したいと思う方向性・内的な価値規範(物事の判断基準)』が定まっていないこともあり、今までのうつ病に対する治療方針である『十分な休養・薬物療法』だけでは思ったような効果がでないのです。 それもそのはずで、古典的うつ病では『早く職場に復帰して仕事ができるようになりたい・元気になったら自分の果たすべき役割を果たしたい』というような中心的な価値規範に基づく自己アイデンティティがあるので、ゆっくりと休養して心的エネルギーが回復すれば社会復帰できるのですが、新型うつ病では休養で心的エネルギーが回復したとしても、『自分が何をしたいのかがはっきりしない・今までの職場に復帰したいという目的があるわけではない』という自己アイデンティティの拡散があるからです。 そのため、うつ病の標準療法である休養と服薬だけでは“人生の方向づけ・仕事への適応感の向上・自己アイデンティティの探索的な再確立”は実現できず、新型うつ病(非定型うつ病)では従来のうつ病以上に、『自分で自分の人生や職業選択に納得感を持つため』のカウンセリング的な方向づけ・動機づけの支援の重要性が増すと言えます。 現代社会では、メンタルヘルスのトラブルの増加やアノミーな社会状況(価値観の個人化)も踏まえて、一般的にも『職業活動・労働環境・持続的な仕事生活』への適応能力や適応意欲が低下しやすい心理的あるいは社会文化的な素地があると言えます。とりあえずは社会貢献や自己実現、結婚(家族形成)といった高次元の問題よりも、『自分が生きていくための収入』をどのようにして継続的に稼ぐのか(認知転換でストレス耐性を高めたり職場への適応感を得るのか)という現実的な問題をフォローしていくことが、新型うつ病のカウンセリングの後半(終結段階)では大切になってきます。 近代社会において、産業経済や企業活動の『労働(職業)』に適応する国民を育成するシステムは、ポストモダン(構造主義)の思想家ミシェル・フーコーが指摘したように学校教育を中心とする『規律訓練型システム(規律訓練型権力)』が担ってきましたが、現代では価値観(ライフスタイル)の多様化や社会的権威の弱化などによってその効果が弱くなってきています。 学校教育や家庭の躾、同調圧力による『規律訓練型システム(行動様式を内面化する訓練的な権力)』が十分に機能するためには、社会全体に共通する社会的権威や統一的理念、物事の考え方が存在しなければならないのですが、アノミー化(無師範化)・自由化(個人化)が進む現代では、『義務教育課程の規律訓練』だけでそういった社会的権威(規範意識)を内面化するのはおよそ不可能なことですし、無条件に内面化(従属化)することが正しいという確信を得ることもできません。 現代で規律訓練型システムとしての学校・施設・工場労働などが機能不全に陥っている背景には、言われたことを画一的にやらせるという規律訓練の方法論では『市場・企業のニーズ』を満たす創造的な人材が育成できないという根本的問題もありますが、時代的要因として個人の自由な選択の範囲が拡大したことの影響が大きいでしょう。 学校教育にしても強制力の強い体罰・命令に基づいて『単一の基準・価値観』に同一化させて従わせるような集団訓練型の教育は抑制されるようになっており、個人それぞれの興味関心や学力・適性、可能性を伸ばしていくという『個性教育』が中心になっていますが、その個性が現実的な仕事・職場への適応能力を欠いている時には、社会的あるいは自意識的な疎外・排除が起こりやすくなります。 精神分析的文脈では規律訓練型システムというのは、社会的な制度や仕組みを通した『超自我の形成・強化』として解釈することができますが、現代では教育・しつけを通して内面化された道徳規範(善悪の基準)である『超自我の強度』がかつてよりも弱くなっています。 その結果、『権威的・強制的な価値規範』が十分に内面化されることが無くなり、過剰な超自我による抑圧(自己否定)で神経症的な精神疾患を発症するリスクが減ったのですが、その代わりに自分に対する厳しさや社会共通の価値規範の遵守といったものも弱まった可能性があります。青年期の発達課題である“自己アイデンティティの確立”には、両親からの“精神的・経済的な自立”という目標も含まれていますが、モラトリアム(社会的選択の猶予期間)の遷延や労働・仕事にまつわるストレス耐性の低下によって、それらの発達課題の達成も20代半ば〜30代以降へとずれ込むケースが増えてきています。 ■関連URI 新型うつ病の“選択的なストレス反応”と“仕事上の適応困難”3:仕事のストレスの増大要因の考察 対象喪失の悲哀がどのようにうつ病の自尊心低下と相関するか1:“喪の仕事”による感情・自我機能の改善 近代社会(資本主義社会)における非生産的な『高貴性』と『聖性』の消滅:無欲・貧困の怠惰への転落 ひきこもり70万人・親和群155万人の内閣府推計1:現代社会でなぜひきこもりは増えるのか? ■書籍紹介 |
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新型うつ病の労働適応とポストモダンの環境管理型権力5:精神医学的な正常‐異常の基準・働く事の本質
前回の記事の続きになりますが、ポストモダン(後期近代)の社会では、教育制度や命令規則によって行動基準を内面化させる“規律訓練型システム(権力)”に代わって、本人が操作されていると気づかないうちに環境条件の調整によって本人の行動選択を無意識的に誘導するという“環境管理型システム(権力)”が中心になると考えられています。しかし、労働の動機づけや仕事のストレス対応、職場適応といった部分では環境管理型システムも余り上手く作用していないのではないかと思います。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2011/12/02 14:17 |
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