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help RSS “他人から愛されたい・傷つけられたくない自己防衛”による対人恐怖:フロイトの対象喪失と喪の仕事

<<   作成日時 : 2011/08/14 15:50   >>

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社交不安障害(対人恐怖症)全般に共通する心理機序としては、『他人からより良く愛されたい・認められたい・尊重されて理解されたいという承認欲求の過剰』があり、その自己愛的な承認欲求が『絶対に他人から拒絶されたくない・嫌われたくないという非現実的な完全主義思考(一切の不確実性やリスクを排除して人と理想的な付き合いがしたいという思考)』と結びついてしまうことで、対人不安・対人緊張が強まってしまうのである。

なぜなら、現実社会で取り交わされる人間関係やコミュニケーションは、自分の思い通りにはいかないのが当たり前であり、時には相手から拒絶されたり嫌われたり反論されたりすることもあるからであり、『一切の不安や不快のない理想的な人間関係』というのは事前に準備して得られるようなものではないからである。もしかしたら自分のアプローチ(呼びかけ・誘いかけ)が断られるかもしれない、もしかしたら自分の意見・主張が批判されるかもしれない、自分の笑顔や好意に対して相手が同じような態度を返してくれないかもしれないという『対人関係・コミュニケーションの確率的な不確実性(ある程度の不安感・緊張感)』を受け容れた上で他人と接しようと思えるかどうかが、社交不安障害の不安症状(対人的な不適応状態)の改善にも関係してくる。

すべての不安を無くして堂々と他人に明るく話しかけて、幅広く人間関係を充実させたいという“理想自我”に執着し過ぎると、思い通りに人間関係を進められない“現実自我”とのギャップが大きくなってしまう。“理想自我”と“現実自我”のバランスを調整しながら、全ての不安や心配を取り除きたいという完全主義思考に陥らず、『目の前にある他者との人間関係』に思い切って取り組んでいくこと、拒絶や反論などを必要以上に恐れないこと(ダメならダメで良くあることだと結果を受け容れること)などが劣等感・対人不安の改善のポイントになってくる。

人間の心理的苦悩の原因として『劣等コンプレックス・自己不信感・対人恐怖』などを取り上げてきたが、それ以外の主要な苦悩・葛藤の原因には『喪失感・過去への執着と未来への不安』などがある。喪失感とは『自分にとって大切な他者・自分にとって意味のあるモノ』が失われたという感覚であり、そういった自分にとって必要不可欠で重要な価値を持つ対象のことを精神分析では『自己表象』と呼び、自己表象が失われることを『対象喪失』と呼ぶ。

S.フロイトは対象喪失を原因とする悲哀感情・抑うつの生成発展と回復プロセスを考察したが、自分の愛する者や大切な人を失うことが人間にとっておよそ普遍的・絶対的な苦であることは、仏教の始祖の釈迦牟尼世尊の説いた四苦八苦の一つ『愛別離苦』にも示される通りである。

喪失体験には、子どもが親を死別で失う、親が子どもを死別で失う、夫が妻を死別で失うといった決定的で深刻度の高い喪失だけではなく、『性格の不一致・利害の対立・言葉のすれ違い・別に好きな相手ができる』などの理由から、配偶者と離婚する、好きな恋人と別れる、仲の良かった親友と離れるなどの喪失が起こることもある。

対象喪失の経験は強い悲しみや寂しさ、絶望感、孤独感、抑うつなどを引き起こすが、それは『自己表象に対する愛着』によって自他の同一化が進んでいるからであり、対象を失ってしまうことが自分の身体・精神の一部を失ってしまうことのように感じられるからである。失われた対象に対する執着・愛着が残っている限りは、人は悲しみと寂しさ、孤独感で苦しみ続けるが、S.フロイトのいう『喪の仕事(モーニング・ワーク)』のように自分の感じている悲しみ・苦しみと正面から向き合って、その悲しみを表現して思い切り涙を流したり、自分の気持ちに区切りをつけられることによって、次第にその喪失感と悲しみの苦悩は和らいでいく。

喪の仕事(mourning work)は、ホスピスの終末期医療で死に直面する患者を看取ってきた女性精神科医エリザベス・キューブラー・ロスが発見して整理した『死の受容プロセス』と類似した構成を持っている。喪の仕事とは、自他を同一化する人間関係の認識によって、『自己喪失の苦悩』に陥っている対象喪失の経験を、自己と他者を分離することによって『純粋な対象喪失』として再解釈し、時間の経過と共にもう取り戻せない対象との別れを受け容れていくということである。

逆に、『過去の喪失体験』と現在の自分の人生とに永続的に区切りがつけられなくなり、その対象喪失によるショックや絶望がいつまでも生々しい実感(リアリティ)を伴って残っている時には、精神状態が悪化しやすくなりPTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病の発症リスクが高くなってしまう。現時点からはどうしようもならない過去の喪失体験を、自分自身の喪失・欠損・責任として悩み苦しみ続ける時に、人間の精神の正常性は障害されやすくなり、不安感や抑うつ感、絶望感にはまり込みやすくなるが、その状態を脱け出すためには『自分の悲しみ・苦しみ』を真摯に見据えてその感情を思い切り表現して受け止めることが必要となる。


喪の仕事のプロセス

1.ショック・感情麻痺の段階……強烈な精神的ショックを受けて現実認識が難しくなり(感情が鈍麻し)、死別・離別の現実を必死に否認したり疑おうとする。

2.思考・模索の段階……深刻な悲哀感情について考えながらも、どうにかして失われた対象を回復できるのではないかと探索・交渉の行動を取る。

3.混乱・絶望の段階……対象喪失の現実に打ちのめされてどうすれば良いか分からなくなり混乱する。混乱が収まってくると、本当にどうしようもないことを改めて認識して絶望的な気分に陥る。

4.愛着離脱・受容と再生の段階……自分にとって大切な他者に向けていた愛着が少しずつ弱まっていくと同時に、心理的な苦悩・悲しみの鋭い痛みも緩和されていく。どうしようもならない死別・離別の現実を受容して諦める段階であり、自分自身のこれからの人生や人間関係へと意識・注意の転換が行われていく段階でもある。

更に、『自分と他者との区別』を現実的に認識しながら、『現実的な喪失体験(客観事実としての喪失)』ではない『象徴的な喪失体験(文学的・概念的なことばで表現される終わりのない感傷的な喪失の苦悩)』について、必要以上に自分を追い込んでいる要素を少しずつ減らしていく事も心理状態の回復に役立つ。『今・ここにある自分』がどのように生きていきたいのかという方向に意識を向けていくこと、『現在の自分を支えてくれる他者』への感謝の念や興味関心を強めていくことも、メンタルヘルスを良好な状態にしていくために大切なことだと思う。






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