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help RSS 対象喪失の悲哀がどのようにうつ病の自尊心低下と相関するか1:“喪の仕事”による感情・自我機能の改善

<<   作成日時 : 2011/01/03 14:37   >>

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精神分析では自己と同等の価値を持つ対象を『自己対象(self-object)』と呼び、自己対象を喪失した時には『悲哀感情』が起こると考えますが、重要な他者(対象)を何らかの事由で失った時に起こる『対象喪失(object-loss)』はさまざまな心的過程と関係しています。

乳幼児期から児童期にかけての自己対象の代表は『両親(母親・父親)』ですが、児童期から思春期へと成長するに従って『親友・恋人』などが自己対象として重要度を高め、思春期から青年期になって特定の異性と恋愛関係や婚姻を結ぶようになると『恋人・配偶者』が自己対象としての影響力を強めてきます。

人間は自分が興味関心や愛情・好意を感じている相手に対して、『リビドー(性的欲動のエネルギー)』を向けて備給するのですが、S.フロイト(1856-1939)はリビドー経済の仮説においてリビドーを定量的な概念として定義し、個人のリビドーの総量は有限であると考えました。リビドーは自分自身に向けられる『ナルシスティックな自己愛』の段階から、自分が関心・好意を寄せる他者に向けられる『共感的な対象愛』の段階へと変化していきますが、この自己愛から対象愛への変化を、リビドー発達論(性的精神発達論)における『本能変遷』と呼びます。

S.フロイトの弟子であったC.G.ユング(1875-1961)は、リビドーの量的な有限性を前提として『向性理論(外向性・内向性の性格理論)』を考案しましたが、リビドーを自分の外部にある対象に向けやすい性格を“外向性”、リビドーを自分の内面にある自意識や信念に向けやすい性格を“内向性”としました。

リビドーの有限性を前提とするというのは、リビドーの総量が100であればその備給の配分を『50:50』にしたり『40:30:30』にしたりできるという事ですが、100の総量を超えてリビドーのエネルギーを活用することはできないという事です。あるいは、『特定の対象・物事』にだけ全てのリビドーを備給していれば、それ以外のことに注意・関心・思考を向けることが出来なくなるという事ですが、これは好きな相手の事や次の日の仕事・試験の事だけで、頭が一杯になってしまい他の事に意識を向けられない経験(その事以外には何も手につかなくなるという行動・思考の制限)となって現れます。

ユングの分析心理学では、意識的な内容と無意識的な内容との相補性(バランス)が重要視されますが、この精神の健康・機能を維持するための相補性は『リビドー備給の配分・外向性と内向性のバランス』としても解釈することが可能でしょう。即ち、何か特定の外部対象だけにリビドーの全てを備給し続けたり、逆に自我(自分自身)や内的な表象(イメージ)だけにリビドーを備給することは、心身の不調や精神疾患の発症原因になることがあり、この事は冒頭に掲げた『対象喪失の悲哀感情』とも関係してきます。

どんなライフイベントや生活状況、人間関係が精神的ストレスになるのか、それらの出来事がどのくらい強い精神的ストレスになるのかをまとめたものに、『ホームズとレイの社会適応尺度表』があります。


ホームズとレイの社会適応尺度表

  • 愛している配偶者の死亡:100

  • 愛情のある配偶者との離婚:73

  • 愛情のある配偶者との別居:65

  • 刑務所に収監・懲役への服務:63

  • 家族の成員の死亡:63

  • 怪我もしくは病気をする:53

  • 結婚:50

  • 失業・解雇:47




ストレスの最大値の100になっているのは『愛情ある配偶者の死』であり、それに続いて『愛情のある配偶者との離婚・別居』が上げられていますが、晩婚化未婚化が進んでいる現代であれば配偶者を恋人と置き換えることもできるでしょう。これらは人間にとって『自己対象(自分にとって重要な他者)の喪失』が極めて強い精神的ストレスとなり、精神的な危機状況やストレス性疾患の発症をもたらすことを意味していますが、精神分析では『対象喪失の悲哀感情・喪の仕事・メランコリー(うつ病)の形成』を相互に結びつけた臨床的研究が行われていました。

自分の愛している相手が亡くなったり、自分にとって大切な相手と離別したり、自分が信頼していた相手から裏切られたりした時に『対象喪失の心的プロセス』が始まりますが、対象喪失による悲哀感情や絶望、苦悩、孤独を時間の経過と共に和らげていく心の働きのことを『喪の仕事(mourning work)』と呼びます。自分にとって重要な位置づけを持つ大切な相手を失った時には、誰もが『喪の仕事』に従事することになり、一定期間にわたって気分の落ち込みや精神活動の抑制、興味や喜びの喪失、活動性の低下といったメランコリー(うつ病)に類似した心理状態を経験することになります。

自己対象を喪失した時に生じる悲しみや怒り、不安、孤独を癒していくための『喪の仕事(モーニング・ワーク)』は、ホスピスにおけるターミナルケア(終末期医療・緩和ケア)の実践的研究で知られるエリザベス・キューブラー=ロス(Elisabeth Kubler-Ross, 1926-2004)『死の受容プロセス』と同じような経過を辿る事も少なくありません。S.フロイトは『喪の仕事』という概念で対象喪失の悲哀からの回復過程を説明しましたが、一般的な心理療法の概念としては『悲哀の仕事(Grief work)』という心理的概念によって、悲哀感情の緩和・回復に向けた支持的技法がモデル化されています。

エリザベス・キューブラー=ロスは、ホスピス(終末期病棟)で実際に死の過程を受け容れていく末期患者を多く看取る経験をして以下の『死の受容プロセス』を発見しましたが、『喪の仕事・悲哀の仕事』でも“否認・怒り・取引きによる抵抗期間”を経てから“抑うつ・受容による現実状況の受け入れと回復”が起こってくることが多いのです。


エリザベス・キューブラー=ロスの死の受容プロセス

否認……自分の大切な相手がいなくなったりすることは有り得ないという現実状況の否認。

怒り……理不尽で信じられない大切な相手の喪失や相手の裏切り(離別)に対する怒りの感情。信頼していた相手から予期しない別れを宣告されたことに対する怒り、まだ死ぬはずがないと思っていた相手が突然亡くなってしまった不条理な事態に対する怒り。

取引……自分にできることならば何でもするから、『喪失(死別)・別離・裏切り』の現実を元に戻してほしいという取引き・交渉をする段階。大切な自己対象を失ったという現実が認められないので、何らかの交換条件や奉仕行動によって『喪失・別離』を改善できるはずだと信じ込もうとしている。

抑うつ……どんな交渉も取引も泣き落としも、『相手を失ったという現実』の前には通用しないことが明らかになり、すべてに絶望して強い抑うつ感と精神の内向性(自分へのリビドー備給)を生じる。

受容……相手との関係を回復するための万策が尽きてしまい、どんなに怒っても悲しんでも状況が好転しないことを理解して、『自己対象の喪失・別離』を受け容れて気持ちが安らぎ始める段階。


『喪の仕事・悲哀の仕事』というのは、自己対象(重要な相手)を喪失した悲しみや苦しみを癒すために必要な心理的作業のことであり、一般的には失った相手のことを悼んだり考える事に集中して、徹底的に悲しみ懐かしむような期間を意味しています。『喪の仕事』を行っている人を周囲から見ると、メランコリーのような『気分の落ち込み・外部への興味関心の喪失・喜びや娯楽への無関心・愛する能力の低下・自発的行動の抑止・精神活動制止』が確認されやすいのですが、喪の仕事はうつ病と比べると憂鬱感や思考・行動の抑制の原因がはっきりとしていて期間も限定的なので、当然ながら精神疾患の症状ではありません。






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“閉鎖的な人間関係”における対人トラブルを生む“非社会的な自己愛”の高まり

『ユングの類型的な性格理論』の思考形態と『価値判断のスキーマの複層化』の心理的効果

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2011/01/03 14:40
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