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zoom RSS “生物―心理―社会モデル”によるメンタルヘルスや認知傾向の多面的な理解:対人援助の相補的協働

<<   作成日時 : 2010/07/11 04:38   >>

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臨床心理学やカウンセリングで解決すべきとされる『問題・異常』の範囲は、精神医学や特定の環境・集団で解決すべきとされる『問題・異常』の範囲よりも一般に広い。精神医学では個人の精神疾患(精神障害)の症状・特徴について現象学的な分類と医学的な診断を行い、脳神経系の原因を仮定しながら薬物療法を実施する。

精神医学では個人の問題や異常を『精神病理学』によって取り扱い、患者の主訴(悩み)や適応も考慮しながらDSM‐WやICD−10の診断項目に基づいて診断を下すことが多く、『正常―異常の基準』は病気か健康かという病理的(医学的)基準にある。医師が行える精神疾患の病名診断や処方(投薬)は、患者が特定の病気であることの『公的な証明力』を持っているので、臨床心理学が定義する『問題・異常』よりも範囲は狭いが社会的な影響力は強くなる。

精神医学の社会的な影響力というのは、『うつ病かもしれないという蓋然性』を『うつ病であるという確定診断』に変えていく力であるが、臨床心理学は医学的診断(診断的面接)ではなく心理アセスメント(心理検査)や調査的面接(インタビュー)を用いて『問題・異常の見立て』を多面的・複層的に行うことに特徴がある。

科学的根拠を重視するエビデンス・ベースドな臨床心理学では、個人(クライアント)の問題を一面的・短絡的に解釈する誤りを減らすために、人間を多面的に理解しようとする『生物―心理―社会モデル(bio-psycho-social model)』を採用している。

生物学的精神医学の診断・治療のみにこだわる視点ではなくて、人間のメンタルヘルス(こころの健康)や認知行動パターン、不適応問題を以下の3つの領域から網羅的・統合的に理解していこうとするのが生物―心理―社会モデル(bio-psycho-social model)である。

生物領域……脳内の化学的−電気的な情報伝達・中枢神経系の活動・遺伝的要因・生理的要因・細菌やウイルスなど。

生物領域への対処……薬剤の処方・外科的手術・未来の遺伝子治療・生活指導(生活習慣改善)などの医学的アプローチ。

心理領域……認知(物事の受け止め方)・感情(感情表現の方法と強度)・信念や価値観・精神的ストレス・対人関係など。

心理領域への対処……カウンセリング・心理療法・心理教育・ストレスコーピングなどの心理学的(心理臨床的)アプローチ。

社会領域……生活環境・職場環境・人間関係(家族関係)・経済状況(貧困)や雇用(失業)・教育水準・ソーシャルネットワークなど。

社会領域への対処……家族や地域社会のサポート・社会保障・社会福祉・経済政策(政治)などの社会福祉的(コミュニティ的)アプローチ。

エビデンス・ベースドな臨床心理学では、クライアントの個別的で多様な『問題・症状』に有効な介入(対処)をするために、各種の心理検査(質問紙法・投影法)を用いた心理アセスメントを行い心理療法の技法の選択をすることになる。それぞれの問題や精神疾患に対応する『個別技法の有効性』を検証するために、統計的な効果研究も行われている。

効果研究では心理療法の技法における『個人的要因(人格・関係性の要因)』と『技法的要因(技法そのものの作用)』とを十分に区別することが難しいという限界もあるが、効果研究によって認知行動療法(認知療法)のエビデンスが確認された社会的意義は大きい。

上記で要因と対処を説明した『生物―心理―社会モデル(bio-psycho-social model)』では、各領域で精神医学・神経科学・臨床心理学・社会心理学・社会福祉学・精神保健福祉・コミュニティ心理学などの専門性が要請されることになり、クライアントの多様性・個別性のある問題に総合的な処方を与えるためには『リエゾン精神医学・臨床的なコミュニティ心理学』のような協働体制が求められてくる。

『専門的・リエゾン的な協働体制』と『生物―心理―社会モデル(bio-psycho-social model)』との相関では、クライアントの問題理解でも役割分担的な領域に応じた理解の仕方が行われる。生物領域では『病気・身体的側面』、心理領域では『認知・主観的苦悩』、社会領域では『社会適応・生活状況』などに焦点を合わせて対応策を考えていくことになる。

各領域が有機的に連携する協働体制によって、クライアントの実際的な機能回復や社会適応を目指すこの科学的・実用的モデルでは、現実社会や適応行動と切り離された『純粋な心理的問題(内的な問題・精神分析的な無意識の探索)』を集中的に取り扱うことは少ない。










■関連URI
心理学分野の『発達概念』と『社会的価値観』:自我アイデンティティの固有性と社会性

『人格障害の分類と定義』が持つ臨床的意義と倫理的問題:多角的で相対的な人格評価の重要性

心理アセスメントで用いる心理検査とインフォームド・コンセント:ビネー式知能検査による一般知能の評価

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臨床心理学的な“正常‐異常の基準”は何を基準にしているのか?:個人と環境の相互作用と適応基準
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