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help RSS 現代社会における“無償の子育て”と“親孝行の倫理”:親の子に対する愛情・期待の強度と過干渉

<<   作成日時 : 2010/06/28 23:08   >>

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子どもは親にどのくらい献身的に尽くさなければならないのかという倫理的な問いかけは、現代社会の都市部では『老後の介護問題』などを除いては殆ど問われることが無くなってきました。当然、親孝行はしないよりもしたほうが良いのですが、子どもの人生設計(仕事・結婚・家計など)を大幅に犠牲にしてまで親孝行をして欲しいと望む親はかなり少なくなっており、『できるだけ子どもに迷惑を掛けたくないという親世代』が増えている傾向があります。

社会保障制度が整備されていなかったかつての時代には、よほど預貯金や資産を持っている富裕層でない限りは、『子どもに迷惑・負担を掛けない老後』を送ることは現実的に不可能であり、介護保険制度もなかったので親族以外の介護施設(特養老人ホーム)やヘルパーに老親の介護を委託することなどもできませんでした。その結果、親を最期まで介護して看取ることは暗黙的に子(親族)の義務となっており、『親子間の孝養の循環』によって大家族の家が維持されていた面があります。

現在でも、女性が『長男の嫁』になることを嫌がる傾向が農村部を中心にして残っていますが、これは婚姻が『家と家との結びつき』や『女性が男性の家に入って奉仕すること』であった時代の影響でしょう。旧家や農村部では長男が家名・家業を継いで、結婚した後にも両親と同居しなければならないことが多く、最終的に『義親の介護や世話』の責任が長男の妻である女性に回ってくることが多かったので、長男の嫁になることは敬遠されがちでした。現在の都市部では、核家族化が進んでいて一人っ子の家庭も増えているので、相手が長男か否かを気にする人は減っていますし、旧家や家業のある家でない限りは『家名を残すという感覚』も薄らいではいますが。

『祖先崇拝』を基本原理とする儒教には、子は親に対して『無条件の孝養・忠節』を尽くすべきという強固な道徳規範がありますが、この親孝行の道徳は近代以前には『子以外の老後保障』がないという現実に即したものでした。前近代社会では、個人の人生の選択肢が少なく身分制度と慣習によって職業・居住地も制約されていたので、平均寿命(老後期間)が短かったことも考慮すれば、『親孝行の負担感・自己犠牲の感覚』は現代よりかは小さかったと推測されます。

しかし現代でも、要介護度の高い重度の認知症や寝たきりになってしまった老親を、子や親族がどこまで自分たちだけで面倒を見るべきなのかという問題は、『道徳的な罪悪感(申し訳のなさ)』を伴うことのある深刻な問題として残っています。

『老々介護・家庭内介護』の耐えがたい悲惨さや悲劇的な結末がメディアのニュース報道で伝えられていることもあり、現在では地域包括支援センターやケアマネージャーの人たちも『家族だけで介護負担を抱え込まないこと・必要であれば訪問介護や施設介護のサービスを利用すべきであること』をアドバイスするようになってきています。

過去と比較すれば、『親と子の人生(生き方)の境界線』が濃くなってきており、『親は親、子は子の人生を生きるという価値観』が主流になってきているのですが、この親子関係の道徳性にまつわる大きな変化は少子化の要因にもなっています。親の子に対する『無償の愛情・手厚い教育支援』が当然視される傾向が強まっている一方で、『将来の見返り(親孝行の義務的な強要)を意識した子育て』に対しては否定的・批判的な見方が強まっています。

現代社会で子育てをすることによって親が得られるものは、『心理的な各種の満足感・子どもの成長と幸福に対する喜び・育児のプロセスにおける成熟と経験』がメインであり、実際の援助行動や思いやり、経済支援というものは全面的に『子どもの自発性・感謝の思い』に委ねられます。

原則的には親の側から子どもに対して『今まで育てて上げたのに何も自分にしてくれないのは不満だ・自分の期待や要求に応えてくれない子どもは親不孝だ』という押し付けの意見を言うことが難しくなっており、子どもに『親の思い通りの人生』を生きるように強制することは基本的には間違ったことと判断されます。

子どもが両親の人間性や生き方、育て方(親子関係の内容)に対してどのような認識を持っているのかによって、親孝行のあり方や思いやりのある行動にはかなりの違いが出てきますが、『親の無償の愛情や子育て』『子の自発的な親孝行や恩返し』とのバランスが取れていれば良好な親子関係を維持しやすくなるでしょう。とはいえ、現代の親子関係では『過保護・甘やかし』の問題がクローズアップされやすいように、親の側が子に対して何か実際的な要求をする場面というのは、過去に比べればかなり減ってきています。

日本をはじめとする現代の先進国で少子化が進んでいる一因として、『子どもの教育コストの高騰・子どもの経済的自立までにかかる期間の長期化・育児に見返りを求めることの道徳的困難』を考えることができますが、この事は全般的に見て『親子間の力関係の逆転(子ども中心のライフスタイルと道徳規範)』を示唆している変化だと言えるでしょう。

子どもに対する親の無償の愛情や世話が重視されている風潮はありますが、その一方で、子どもに自分(親)の期待や要求に沿った人生を忠実に生きていって欲しいという『過干渉・支配性の問題』も根強く残っています。

発言小町に『母親―娘の親子関係』にまつわる以下のような投稿がありましたが、これは母親が自分の人生で実現することのできなかった『希望・夢・理想』を娘に転移している問題であり、母親の『男性嫌悪(異性愛に関連するコンプレックス)』まで娘に転移されていることで複雑な葛藤や嫉妬感情が形成されています。


一生懸命娘を育てた結果がこんなことに

長い間苦労して一人娘を育てて一人前にしたのに、娘に裏切られました。とても悲しく、悔しいので、聞いていただきたく投稿することに致しました。

子宮の手術をしたので、娘一人だけです。大切に大切に育ててきました。命といってもいいくらいです。

私は高校しか出ていませんので(大学に行く能力はあったけれども、女には学歴は要らないといわれたので)娘にはきちんとした教育を、と思っていました。娘の高校は進学校でしたので、大学進学は当然のことですが、娘の希望で大学院にも進ませました娘も大学院に進むためにバイトをしましたが、それだけでは足りません。私もパートに出ました。

(中略)

娘は大学院を卒業して、高校の教員になりました。とても嬉しかったです。誇らしく思いました。

ところが、しばらくして娘に恋人ができたことがわかりました。高校の教員で同僚とのことです。びっくりしました。許せない思いでいっぱいになりました。

娘には「男は臭くて汚い生き物。」とずっと言い聞かせてきました。娘に男の影が見えないよう十分に気をつけてきたつもりです。今回のこと以前に娘には男性と付き合いをした経験はまずないと思います。娘のことは何でもわかりますから、娘が誰か男性と付き合っていればすぐにわかるはずです。

娘はその同僚教師と結婚したいと言うのです。とんでもないことです。

娘には「きっと始めてつきあった人でのぼせ上がっているのだ。」と何度も言い聞かせましたが、聞きませんでした。


投稿者である母親の投稿はこの後にも長く続くのですが、溺愛してきた娘の人生や異性関係(結婚)に対する過干渉の問題が見られ、娘の人生を自分の思い通りにコントロールすることで安心感や満足感を得たいとする『支配的な依存性』が満たされないことで情緒・気分が不安定になっているようです。娘を自分に都合よく利用するために育てたというよりも、『発達早期の母子一体感』から適切に離脱するきっかけを見つけ出せずに、『自分の人生・人格』と『娘の人生・人格』の境界線が無くなっていて、自分の価値観と娘の価値観が一致することが当たり前と考えているように見えます。

この発言小町の投稿についての解釈と意見は、次の記事で書いていきたいと思います。










■関連URI
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家庭環境(親子関係)が性格形成に与える影響と“社会性”の始点としてのエディプス・コンプレックス

“子どもの働く意欲・職業意識”を高める親子間のコミュニケーションと仕事に向かう4つのプロセス

■書籍紹介

子どもを上手に叱っていますか?―しあわせな親子関係を作るコツ教えます
筑摩書房
ロバート・J. マッケンジー

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