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zoom RSS 境界性パーソナリティ障害における『対象恒常性の欠如』と『自己アイデンティティの拡散』

<<   作成日時 : 2009/08/12 17:44   >>

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境界性パーソナリティ障害(BPD)では、他者のことを継続的・安定的に信頼することができず、絶えず分かりやすい形での愛情や承認、保証を求めているので、『現時点における相手の反応・態度』だけを手がかりにして相手の全体像を評価しようとするのです。BPDを持つ人は、理想化(褒めごろし)と脱価値化(こきおろし)で対人評価が両極端にコロコロと変化しますが、それと同じように自分に対する自己評価も『自己肯定』『自己否定(自己嫌悪)』の間で激しく揺り動きます。

BPDの非合理的信念(イラショナル・ビリーフ)として、『他人に必要とされない自分には価値がない・他人に愛されない自分はダメな人間だ』という他者の反応に自分の存在意義を仮託した信念がありますが、BPDでは他者が自分を愛してくれたり承認してくれた時にのみ自己評価が向上して感情(気分)が安定してくるのです。しかし、現実問題として、毎日毎日BPDを持つ人が『他者からの承認・愛情』を遅滞なく与えてもらうことは難しいですから、必然的に見捨てられ不安や孤独感の高まりによる『対人関係のトラブル・仲違いの葛藤』が増えてくることになります。

BPDでは退行的な心理状態によって『自己』『他者』の境界線が曖昧になり、『対象恒常性(他者表象)の欠如』『自己アイデンティティ(自己表象)の拡散』によって、自己の存在価値や生きがいが他者の反応(存在)によって、他律的に規定されるようになってしまいます。即ち、自分ひとりで何かを計画したり考えたり行動するだけでは、『安心感・自己価値感』を得ることができず、自律的な対人関係やライフスタイルを確立することが極めて困難になるのです。

対象恒常性の欠如によって『見捨てられ不安』が強まり、自己アイデンティティの拡散によって『空虚感(虚無感)・自己の無価値感』が生まれますが、BPDのカウンセリングや心理療法の最終的な目的は『安定した他者表象・自己表象』を確立して、他者の反応や存在に過度に感情的に振り回されないようになることにあります。

簡潔に言えば、一貫性・連続性・目的性のある自己アイデンティティを確立して、他者との適切な距離感の中で安心感を得られるようにするということです。実際にはBPDを持つ人は『自分がどのような存在なのか分からない・自分が何をしたいのかがはっきりしない・とにかく誰かが自分を見ていてくれないと孤独でつらい』というように、自己同一性が大きく拡散していることが多いので、信頼できる対人関係を通して段階的に『対象恒常性(相手の全体性や過去の良い体験を持続的に保持する能力)』を形成していく必要があります。

また、対人関係以外の分野での目的意識や充足感を培うことにも時間がかかると思いますが、自分の内面に安定した『自己像(自己表象)』『他者像(他者表象)』を少しずつ形成していければ、感情・気分の不安定さや衝動的な行動、自己否定的な認知が改善しやすくなってきます。境界性人格障害(BPD)のパーソナリティ障害の原因には、脳内の神経伝達物質の不足などの『生物学的要因』や乳幼児期の母子関係における愛情剥奪(見捨てられ体験)などの『心理的要因』、集団生活状況(学校環境)でのいじめ・疎外体験などの『社会的要因(環境要因)』が想定されています。

BPDのカウンセリングや心理療法といった専門的対応だけではなくて、周囲にいる人たち(家族・恋人・友人)もBPDの特徴や問題の要点を理解して対応する必要があります。周囲の人たちがBPDを持つ人と接する場合には、BPDの人の要求や期待に何でも応えるというのではなく、『ここまではしてあげられるが、これ以上のことはできない・ここからはBPDの人自身の問題や選択である』という『自他の境界線(BPDを持つ人の責任領域)』を、少しずつ明確にしていったほうが問題行動の改善につながりやすくなります。

特に、BPDを持つ人の『理不尽な怒りの感情』や『攻撃的な脅しの行動』に対しては、そのまま受け容れて相手の要求に応えてしまうと、怒りや脅し、自殺企図などがBPDを持つ人にとって『有効な行動戦略(相手をコントロールできる行動)』として定着してしまうこともあります。BPDを持つ人とのコミュニケーションでは、『愛情・共感性・受容性』をベースにして自分が相手の味方であることを繰り返し示していくことが大切ですが、BPDの人の自己アイデンティティと責任能力を確立していくためには、『極端に非適応的な行動・攻撃的な反応』をやんわりと説得しながら修正していく必要がでてきます。

BPDを持つ人が『自分の行動(部分)に対する批判』『自分の存在(全体)に対する批判』とを区別できるようになってくることは、『他者の全体表象の認知(他者の良い部分と悪い部分の統合)』にもつながってくるので、長続きする良好な対人関係を作ることの起点にもなってくるのです。

クラスターBに分類されるBPDは、非常に複雑なパーソナリティ障害であり多種多様な問題が起こってきますが、そのエッセンスは対象恒常性の欠如と自己アイデンティティの拡散にあり、『身近な他者を安定して信頼する能力』『自分の存在や生き方を規定する能力』を経験的・認知的に確立することが長期的な課題となるでしょう。










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■書籍紹介

境界性パーソナリティ障害―患者・家族を支えた実例集
保健同人社
林 公一

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