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zoom RSS 境界性パーソナリティ障害の『二分法思考』に基づく認知の歪み:『分裂』の防衛と見捨てられ不安

<<   作成日時 : 2009/08/07 15:51   >>

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BPDの対人関係の不安定さは、相手との関係が良い時には『相手の長所・利点』だけしか認知できないようになり、相手との関係が少し悪くなると『相手の短所・欠点』だけしか認知できなくなる二分法思考にありますが、ひとりの人間の中に『良い部分(長所)』『悪い部分(短所)』の両方が同時に存在することをなかなか受け容れることができないのです。

境界性パーソナリティ障害において、物事を両極端に偏って認知してしまう『二分法思考』の起源は、対象関係論のメラニー・クラインが提起した乳幼児期の『分裂(splitting)』の原始的防衛機制にあると考えられます。メラニー・クラインが早期発達の母子関係の中で用いられるとした『分裂(splitting)』の防衛機制とは、母親という『全体対象(統合された人格)』を認識できない乳児が、母親を『良い乳房』『悪い乳房』という部分対象に分裂させて認知するというものです。

自分が空腹を覚えた時にミルクを与えてくれて、寂しさを感じた時に温かさを与えてくれる母親の乳房は『良い乳房』として認知され、逆に、自分が空腹を覚えていてもミルクを与えてくれず、寂しい時にも温かみを感じさせてくれない母親の乳房は『悪い乳房』として認知されます。『分裂』の防衛機制によって、良い部分も悪い部分も併せ持った母親という『全体対象(統合された人格)』は、良い乳房と悪い乳房という単純な『部分対象(その場その場の反応)』へと分割されることになります。

精神状態が退行している時にこういった『分裂』の原始的防衛機制が見られることがありますが、BPDでは慢性的に対人関係の中で『分裂』を用いることによって、偏った一方的な相手の評価を行いやすくなります。つまり、BPDでは相手の『全体的な人格・存在』を認識することが難しくなり、相手が自分の要求や不安を満たしてくれている時には『良い人間』、相手が自分の要求や期待に背いて不安感・寂しさを感じさせた時には『悪い人間』という風に、分裂機制を用いた認識を行うようになります。

ひとりの人間(人格)に『良い部分』『悪い部分』の両方が存在するという矛盾(曖昧さのある現実)を受け容れられないので、BPDでは『現時点における相手の反応・態度・言動』だけが相手を判断するすべての基準となり、『良い部分』『悪い部分』を統合した全体的な他者の人格・存在を認知できなくなります。これは、精神内界に安定した他者表象を形成する『対象恒常性』の欠如という問題ともつながっています。

境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)では、他者に対する対人評価が安定せず、相手が過去に与えてくれた愛情や承認の効果が長続きしませんが、それは『対象恒常性の欠如(安定した内面の他者表象の欠如)』が原因となっています。簡単に言うと、心の内面に『自分を支えてくれる安定した他者のイメージ』が幼児期・児童期に形成されていないということですが、この『対象恒常性(object constancy)』を形成する能力が発達していないと、いつも自分に好意・承認・肯定を与えてくれる他者がいないと心理的に落ち着かなくなってきます。

大半の人が、それほど深刻な見捨てられ不安や極度の孤独感に慢性的に襲われなくても済むのは『対象恒常性』『自己アイデンティティ』が適切なレベルで確立されているからです。しかし、境界性パーソナリティ障害では『他者表象(対象恒常性)』『自己表象』の双方が十分に形成されていないので、絶えず『他者の承認・好意・保護』がないと安定した精神状態を維持することができないのです。BPDではない性格構造を持つ人は、『目の前にいない家族・恋人・友人』の愛情やつながりを過去の記憶を元にして信頼することが簡単にできますが、それは内面に対象恒常性を確立させる能力や『記憶・印象・感情』を保存できる能力が十分に発達しているからです。

BPDを持つ人は、対象恒常性が欠如していて、過去の記憶や良い感情を長く保存することもできないので、極端に言えば、365日24時間にわたって『自分のことを大切に思っている・絶対に何があっても見捨てない・いつでもつらい時にはすぐに行くよ』といった直接的な言動による自己価値の保証を欲しています。BPDの問題の中核には、他者からの承認や愛情が無ければ、自己の存在価値をリアルなものとして実感することができず、空虚感や無意味感に圧倒されてしまうということがあります。そのため、『対人関係による愛情・承認・保護』を得られない場合には、空虚感や見捨てられ不安を補償するために『アルコール・薬物・ドラッグ・ギャンブル』などに依存してしまうこともあります。

BPDでは『過去の愛情・好意・承認による安心感』というのは殆ど通用しないので、絶えず『今・ここの時点における承認や愛情』が無いと、見捨てられ不安や孤独を和らげることができないのです。例えば、BPDの人は配偶者・恋人に対して、仕事中でもお構いなく頻繁に電話・メールをして、それに短時間で返信をしないと浮気をしていると疑ったり、激しい怒りをぶちまけて暴力的になったりすることがあります。BPDは女性に多いパーソナリティ障害(人格障害)とされていますが、実際には、『異性関係・家族関係における見捨てられ不安(執着性・暴力性)』が強い男性にも、BPDの不適応な性格構造が形成されていることが少なくありません。










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■書籍紹介

境界性パーソナリティ障害 (幻冬舎新書)
幻冬舎
岡田 尊司

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