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help リーダーに追加 RSS 景気対策としての“定額給付金の不評”と麻生内閣の支持率低下:労働者派遣法の規制強化とセーフティネット

<<   作成日時 : 2009/01/13 00:02   >>

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麻生内閣の支持率が19%に急落して不支持率も70%に迫っていますが、麻生政権の大きな政治課題は世界不況下における景気対策と雇用回復であり、特に麻生太郎首相が推進している『定額給付金制度』に多くの国民(約7割の国民)が反対しているようです。バラマキという批判のある約2兆円の定額給付金ですが、定額給付金に反対する理由としては『金額が小さくて1回限りでは景気回復の効果が期待できない・バラマキではなくもっと必要なところに予算を配分して欲しい・定額給付金を引き金として消費税増税に踏み切ろうという考えに反対・選挙目当てのバラマキに過ぎない』などがあります。

しかし、この定額給付金を配らなければ景気・雇用が回復するわけでもなく、将来の増税を回避できるわけでもないという状況があることから、貰えるのであれば貰っておくという国民が少なくないというのも頷ける部分があります。また、定額給付金の約2兆円の予算を他のもっと重要な分野に投入して欲しいという批判については、麻生政権が定額給付金以外にも70兆円以上の中小企業支援など景気対策予算を注ぎ込もうとしているという与党の反論もあります。

無駄遣いせずにもっと必要なところに税金を投入して欲しいという場合に上がってくる代表的な政策分野としては、『医療・年金・雇用・介護・教育・育児支援・公共施設・学校等の耐震工事』がありますが、景気対策や雇用創出という目的を考えればそれらの分野に投入してもそれほど大きな景気浮揚効果は望めないでしょう。また社会保障費に関しては継続的な予算計上が必要なものであり、1回〜数回の散発的な景気対策と同列で語ることは難しいように感じます。また、定額給付金に反対する理由として『1万2千円を1回だけばら撒く』という方法に、麻生政権が本気で内需拡大による景気浮揚を考えているかどうかが分からないということがあります。

所得制限の議論についても、年収数千万円以上と一定以上の資産がある麻生首相や他の閣僚が『国民の反応』に気遣いしながら、定額給付金を自分が貰う貰わないで揉めているのも国民に益がない不毛な議論と言わざるを得ません。国会議員が『生活支援』として1万2千円の現金を切実に欲しているとは初めから国民の大半は思っていないのですから、『個人消費による景気刺激』のためにそのお金を使うことに意義があるのか否かという論点に絞って自分の判断を述べるべきだと思います。

麻生首相が本当に定額給付金で消費増大を図れると信じているのであれば、『私も定額給付金を受け取ってそれ以上の消費をしたいと考えています。高額所得者の方もどうぞ受け取っていただいてそれ以上の消費をするという気構えでやってもらいたい』というくらいの自信と決意を示していれば国民の反応も多少は変わっていたかもしれません。給付金制度を提唱している本人が受け取るか受け取らないかで逡巡して、所得制限についても二転三転しているようでは、次期衆院選の票集めのために有権者に少額の現金をばら撒いているだけという低評価を免れないでしょう。

定額給付金に個人消費の増大効果が皆無とまでは思いませんが、消費を促すという意味では金額が中途半端であったり制度設計が粗かったりすることで、本来であれば麻生首相の支持率アップのために仕掛けられた給付金制度が完全に裏目に出た格好だと思います。とはいえ、政府が商品券ではなく定額給付金(現金)を全国民に配るということは、自由市場経済においては極めてイレギュラーな試みであり、定期的な定額給付という『ベーシック・インカム(無条件の基礎所得)』を連想させるものなので、市場経済の労働規律(労働意欲と生活設計の結びつき)を守るためには『金額・回数』には慎重にならざるを得ない事情はあるでしょうね。

アメリカで自由市場の競争原理を重視して財政政策を縮小する『新自由主義』が台頭した背景には、『小さな政府』『個人(国民)の自立』を掲げるレーガノミクスやイギリスのサッチャリズムの布石がありましたが、そこでは低所得の貧困層や失業者・無職者の社会福祉(失業給付)のレベルを上げすぎると自立心や労働意欲が損なわれるという『貧困の罠(福祉への依存と貧困の固定化)』が問題視されていました。

国民に対して無条件で定期的に現金給付するベーシック・インカムについては過去の書評である程度詳しく書いたことがありますが、国民すべてに最低限度の生活を保障するレベルの『完全BI』は、最低限度の労働規律維持の観点から有効に機能する可能性がやはり低いのではないかと考えます。労働意欲や自立心を維持しながら、適正な生活支援として機能するレベルの『部分BI(もしくは働いている人の最低所得を保証する「負の所得税」)』であれば、定額給付金や年金制度改革、雇用制度改革(ワークシェアリングやセーフティネット等)の延長戦上のオプションの一つとしてやや現実味が出てくるかもしれませんが。

衆院解散を巡る政局については民主党の小沢代表が『話し合い解散』を持ちかけて、麻生首相が解散をするつもりはないと回答していますが、結局、衆院議員の任期が満了する秋まで総選挙は引き伸ばされそうです。現在、与野党で『製造業の派遣労働』に対する規制強化が進められていますが、派遣労働の一面のメリットとしてある『雇用のパイの増加・働き方の選択肢』というものを完全に無視して、一律的に規制しても雇用情勢は改善しないのではないでしょうか。

派遣会社に雇用の一部を委託している企業にしても、単純な『人件費のコスト削減』のためだけに派遣労働者を利用しているわけではなく、市場競争の激化により『中長期的な業績・景気・雇用』の見通しが立たないから『雇用の調整弁』として派遣労働を必要としているという側面が強くあります。企業そのものが倒産してしまえば幾ら派遣労働者の待遇を改善しても失業リスクが高まるだけなので、どこまで待遇を改善できるかは『企業の経常利益の大きさ』と『利益の分配比率』に関わってくる問題だと思います。

大企業の経営陣の報酬や株主への配当が高すぎるという批判をどう受け止めるべきなのか、不況で従業員をリストラせざるを得ない状況では、経営責任を取る(従業員に示しをつける)という意味でも経営陣の報酬は引き下げられるべきだと思いますが、株式市場における投資を呼び込み企業の財務基盤を強化するという意味では、株主に対する配当の極端な引き下げ(無配)は難しそうです。株・債券など証券取引等に関する『投資減税』にも金持ち優遇という批判は根強くありますが、リスク投資しても利益がでないということで投資意欲が冷え込んでしまうと、企業の経営状況が悪化してその影響が従業員の給与・雇用にまで及んでしまう危険はやはりあると思います。

長期的な雇用コストが高い正社員だけしか雇えないというほどに労働規制を強めれば、企業が長期的な生き残りを図るために生産体制・雇用規模そのものを縮小均衡させる恐れが出てきますから、現実的な規制レベルとしては派遣労働者のセーフティネット強化か段階的なワークシェアリング(同一労働同一賃金の原則に基づく仕事の分配)になってくると考えられます。年越し派遣村に対する批判の定型として『自分が気楽な働き方を選んだのだから自己責任』という厳しい論調も見られますが、製造業の派遣労働は労働時間そのものがアルバイト・パートのように短いわけではなく、実際の現場における体力の負担も大きいことから誰でもできる気楽な仕事というものには基本的に該当しないのではないでしょうか。

労働市場の流動性を低下させる過剰な雇用規制には疑問があるとしても、現在議論されている労働者派遣法改正で『派遣元と派遣先の雇用者責任』を強化するという点については、派遣労働が本業ではない副収入を目的とした学生・主婦のアルバイト(パート)のようなものでない以上は必要なことです。特に、規制案の一例として出てきている『派遣契約満了前に契約を打ち切る場合、再就職先のあっせんや当面の住宅確保などを義務づける』というセーフティネット的な側面の雇用責任の明確化はあったほうが良いと思います。

その雇用と収入が無くなれば生存が危ぶまれてくるという『本業の雇用』については、一定以上のセーフティネット(社会保険含む)が無ければ、最低限度の国民生活・家庭生活を安定的に営むことが極めて困難になってくるからです。生活保護というオプションが使いにくい現状を踏まえると、採用面接に必要となる『住所』を暫時的に準備したり、規定の就職活動をしている人に当面の生活費を低利で貸し付けるなど、再就職をしやすくするレベルのセーフティネットの充実は社会全体の利益(社会福祉負担の軽減)や国民全般の安心にもつながります。

今は、正社員の雇用を最大限守るために、派遣労働など中途で打ち切りやすい雇用契約の形態が導入されている状況ですが、長期的観点では柔軟な雇用を実現するワークシェアリング(正社員の平均的な雇用待遇の低下という痛みを伴う)か、被雇用者(正規・非正規共に)の失業が生死に直結しないようなセーフティネット・再就職支援の充実かという選択になってきそうです。






■関連URI
トニー・フィッツパトリック『自由と保障 ベーシック・インカム論争』の書評1:労働と所得の倫理的結合

トニー・フィッツパトリック『自由と保障 ベーシック・インカム論争』の書評2:未来の社会保障の論点

麻生内閣の『生活対策』を掲げた総合経済対策の雑感:全世帯への“定額給付金”と消費税増税の問題

小飼弾・山路達也『弾言 成功する人生とバランスシートの使い方』の書評

■書籍紹介

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シティやAIGの経営悪化を受けた金融危機再燃と世界同時株安。金融の本質と不良債権処理の問題
金融危機後の世界経済の落ち込みに終わりが見えない、依然として厳しい経済状況が続いている。サブプライムローンの焦げ付きやリーマン・ブラザーズの経営破たんから世界的な金融危機(信用収縮)が急速に深刻化していったのだが、現在では日米欧の先進諸国すべてで金融危機と実体経済の悪化がリンケージしており、泥沼の不況から抜け出すことができない。非正規雇用(契約社員)の解雇だけではなく正社員のリストラも始まっており、設備投資が必要な製造業(自動車・電機・機械)や信用力が低迷した金融業を中心にして雇用は大幅に... ...続きを見る
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