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zoom RSS “シャイネスの心理”と社会生活・コミュニケーションへの適応:社会不安障害・ひきこもりとの相関

<<   作成日時 : 2008/12/15 17:44   >>

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生後5〜8ヶ月頃に多く見られる『人見知り不安(stranger anxiety)』は、他者や社会的状況に対して気恥ずかしさを感じる『シャイネス(shyness)の気質』の起源であるとも考えられているが、シャイネスという心理状態は誰にでも起こり得る一般的なものである。他者とまともに会話ができないほどの極端に強いシャイネスは、社会不安障害(対人恐怖症)やひきこもりの原因になることもあり、回避性人格障害の重要な性格因子の一つであるとされているが、社会的場面で軽度の緊張や恥ずかしさを感じるというレベルのシャイネスは多くの人が感じている情動の一種である。

乳児期〜幼児期の知らない他人に対するシャイネスの多くは『視線を合わさない・笑わない・泣き喚く・母親の背後に隠れる・恐怖で動けない』といった回避反応として現れるが、児童期〜思春期を経過して強化される社会的場面でのシャイネスは『自意識・自尊心』との複雑な相関関係を持つようになってくる。3歳を超えて自意識が形成されてくると『他人が自分をどのように見ているのか・他人が自分をどれくらい評価しているのか』という予期が働くことになり、自分に対するネガティブな評価を想像することでシャイネスが強化されてくる。シャイネス(shyness)とは、自分に対する他者の評価・考えを推測することによって生じる社会的情動であり、シャイネスと恥・困惑・後悔・屈辱・劣等感など他の社会的情動には強い相関が見られる。

シャイネス(恥ずかしさ)は『知らない初対面の相手・見慣れない相手』に対して抱かれることが多いが、シャイネスの最大の効果は、他者に対するコミュニケーション欲求(発話行動)や新規な環境に対する探索行動を抑制することである。シャイネスの影響で、見知らぬ相手や初めての環境に対して緊張感を感じて思い通りに行動することができなくなるが、『見知らぬ相手や新規な状況に上手く適応できないこと・過度に引っ込み思案で不安が強いこと』は劣等コンプレックスを強めたり自尊心や自信を低下させたりする。回避性人格障害や社会不安障害(対人恐怖症)で見られる過剰なシャイネスの特徴は、『他者から自分の能力・容姿・態度・所作が評価されそうな場面』をできるだけ回避しようとして通常の社会生活に支障を来たしてしまうということだろう。

簡単に表現してしまえば『自意識の過剰・防衛的な自尊心』によってシャイネスの問題を悪化させてしまっているということになるが、『赤面・発汗・心拍増加などの生理的緊張』に対する不安が強い社会不安障害では『自分が緊張していることを他人に知られることは耐え難い恥である』という偏った認知が見られる。適応的な認知では『人前で何かをしゃべるときには多少緊張するのは当たり前だし、言い間違えれば訂正すれば良い』という風に柔軟に考えられるが、対人恐怖症的な認知では『人前で何かをしゃべるときには緊張してはいけないし、いつも通りの態度で流暢なスピーチができなければ恥をかく』という風に完全主義的な思考にはまり込みかえって緊張感を高めてガチガチになってしまう。

シャイネスには『見知らぬ人・新規な場面に対する回避や緊張』という側面だけではなく、『他者からの社会的評価に対する過度の不安や自信の無さ』という側面があり、社会的状況や新規な場面をできるだけ回避しようとする心理的問題の多くには『新規場面への不安・自意識の過剰・否定的評価への不安』の相互作用が見られる。心理学者のA.H.バスは、発達早期に生じる見知らぬ相手や新規な状況に対するシャイネスを『恐怖シャイネス』、社会的状況における他者からの評価や関心によって起こるシャイネスを『自意識シャイネス』というように分類した。発達段階が進むにつれて恐怖シャイネスよりも自意識シャイネスの出現頻度が増えていくが、成人になったとしても大勢の前で話すときや新しい会社に行くときに緊張するといった『恐怖シャイネス』が完全に消失することはないと考えられている。恐怖シャイネスは、生後6ヶ月頃の『人見知り不安の発生』と同時期に見られ始めることが多い。

自我の発達が進むにつれて恐怖シャイネスと自意識シャイネスの境界には曖昧な部分がでてくるが、誰もが感じやすい恐怖シャイネスの典型的な状況は『他人の前で話すこと・新規な場面に参加すること・見知らぬ相手に会うこと』であり、自意識シャイネスの典型的な事例としては『集団で注目を浴びること・自分よりも上位の立場の人間に関わること・他者との違いに気づくこと』などである。恐怖シャイネスと自意識シャイネスには、類似した身体的反応(生理学的反応)や不快な感情の生起が見られるが、恐怖シャイネスには『特定の言動の回避・抑制』が特徴的なものとして見られ、自意識シャイネスには『自尊心の傷つき・恥ずかしいという感情』が選択的に見られる。

シャイネスを構成する要素は、『見知らぬ他人・新規な状況・人前での発言と行動・上位者からの評価的場面・自意識の強まり』などであり、それらの要素は総体的に見て『他者からの否定的評価に対する不安感・自己の失敗や能力不足に対する劣等感』といった共通の不安感情でつながっている。シャイネスは社会的状況や評価場面に対する反応であるが極端に強いシャイネスの感情反応を示すようになると、『自尊心と自信の低下・社会的ひきこもり・心拍増加によるパニック反応・コルチゾール濃度の上昇・社会不安障害』などさまざまな社会的・心理的不利益を受ける恐れがでてくる。そのため、シャイネスの過剰によって社会的・職業的・対人的な不利益が大きくなるときには、心理臨床的なケア(カウンセリング的な対応)や自己主張のためのトレーニング、基本的なコミュニケーション能力の向上が必要になってくるケースもある。

シャイネスの過剰は、行動的側面における障害や生理的側面における障害をもたらすことがあるが、シャイネスは素因・ストレスモデルに基づく説明が可能であり、『大脳辺縁系の扁桃体(情動反応の中枢)』に生理的基盤を持つと考えられている。シャイネスと回避性人格障害には一定の相関があると推測されているが、両者に共通するのは『社会的場面に参加したいけどできないという心理(他人に話しかけたいけど話しかけられないという心理)』であり、社会参加とコミュニケーションに対する動機づけそのものが低いわけではない。

それに対して、社会参加とコミュニケーションに対する動機づけが極めて低い『ひきこもり』や『統合失調質人格障害(分裂病質人格障害)』の事例もあり、シャイネスには『社会参加・コミュニケーションへの動機づけ』が強いものと弱いものとのスペクトラムがあると予測することができる。J.B.エイゼンドルフ(J.B.Asendorph)は幼少期のシャイネスを『社会性の有無(社会的場面への接近傾向)』『シャイネスの強度(社会的場面への回避傾向)』によって、『葛藤型・回避型・社会型・内向型』の4つのタイプに分類した。

この4つのタイプの中で、心理臨床的な対人援助が必要になりやすいのは『葛藤型のシャイネス(他者と関わりたいけど不安が強くて関われない)』『回避型のシャイネス(社会や他人と関わりたくなくて不安が強いので社会生活に大きな支障がある)』であるが、『内向型のシャイネス』というのは他人や社会に積極的に関わりたくはないがそれなりに社会に適応できているという性格類型のことを意味している。






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■書籍紹介

社会不安障害のすべてがわかる本 (健康ライブラリー イラスト版)
講談社
貝谷 久宣

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