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サブプライムローンの金融関連商品の信用破綻をきっかけにして、アメリカ有数の証券会社だったリーマン・ブラザーズが倒産し、世界最大の保険グループであるAIGが公的支援を受けることになった。アメリカ経済の屋台骨を支えていた金融・保険業界が急速に景気を悪化させて、米国金融とグローバルな結びつきを持つ世界金融は一気に混乱の度合いを増した。リーマン・ショック以降、世界各国の株・債券・投資信託・REITは連日安値をつけており、個人投資家が金融投資によって一定の利率を得ることも極めて難しくなっている。個人のマネーが証券市場に流れ込む流動性が大幅に低下して、個人が『家計維持・生活防衛』のための『貯蓄・消費抑制』を行っているため、金融経済にも商品経済にもマネーが行き渡らなくなってきている。 麻生首相が計画している財政出動による景気対策などでは焼け石に水であり、定額給付金や住宅ローン減税、公共事業では内需(国内消費)を回復させて日本経済を成長軌道に乗せることは不可能だろう。日本経済が低迷して消費が伸びない原因は、熾烈さを増している『グローバル経済・国際競争』に適応するという大義名分を持って、不況時に切り捨て可能な非正規雇用の比率を増やして労働分配率を大幅に引き下げたことであり、労働者の3分の1以上が『雇用の保障・家計を支える雇用待遇(昇給昇進・賞与・社会保険)』を失ったからである。 しかし、現在の日本の経済力や企業の業績予測では、すべての労働者に終身雇用・年功序列賃金を約束することなどはできず、企業側も本来であれば十分な待遇で雇いたいという意思はあっても、現実的・財務的に多くの正社員に労働負担に見合った給与・賞与を支払うだけのパイが無くなってきている。『労働負担(労働時間)に比例する報酬を支払うべき』という古典的な労働価値説に見合った給与体系は、一部の大企業・公務員を除いては既に幻想に近くなっていて働けば働くほど高い給与が得られるわけではない。 どれだけ真面目に勤勉に働いても、どれだけ心身を磨り減らして長時間働いても、労働生産性を発揮するか組織内のポストを得るかしなければ、最低賃金に近いラインから給与を引き上げて生活水準を向上させることができない。これが、現在の日本の労働市場・雇用環境が陥っているジレンマではないかと思う。『企業の目先の利益(人件費カット)』と『従業員の長期的なキャリア形成・経済生活の安定』とのジレンマの中で、正規雇用を最大限に守る努力はするが、非正規雇用は企業業績が悪化した時に切り捨てても良い(契約内容によって非正規雇用者も同意済みである)という悪しき慣習が根づきつつある。無論、副業的なパート・アルバイトでその収入が無くなっても日々の生活に困ることがないというのであれば、非正規雇用を『雇用の調整弁』として用いることの倫理的指弾は弱まるが、正規雇用とほぼ同等の仕事内容をこなしていて家計の主な所得を稼いでる労働者にとっては急なリストラは大きな問題になる。 日本では自動車・電機・機械をはじめとする製造業の雇用調整が拡大しており、非正規社員の削減は主要38社だけで2万1000人に達するという報道もある。こういった景気変動とリンクした雇用調整の最大の問題点は、仕事さえあれば働く意欲が十分にあるという人たちが、会社の寮から突然追い出されることで住居基盤を失い再雇用が難しくなるということである。仕事を失っても住居さえしっかりとしていれば、そこを基盤として過剰な不安感に襲われずに就職活動をすることが出来るので、企業の都合で一方的に解雇をする時には数ヶ月間程度の求職期間を設けて、その間は住居(住所)を保障するなど最低限の配慮が必要なのではないかと思う。 世界同時不況の影響を受けた『派遣切り(強引な雇用調整)』に対して、東京・日比谷野外音楽堂に2千人の非正社員・労働組合の関係者が集まって抗議集会を行ったが、根本的な雇用問題は『工場(生産設備)をフル稼働して商品を生産してもモノが売れない』ということにあるのだから、企業が解雇をせずに今まで通りに雇い続ければ問題が解決するという単純な問題ではない。 住み込みの派遣労働では、『寮費・食費・制服代など必要経費とする費用』を少ない給料から大目に徴収するという徹底的な福利厚生の切り詰めの問題なども指摘されていて、一時期は通常の派遣労働でもグッドウィルの『データ装備費』の徴収などが批判されたこともあった。雇用調整・契約更新の不履行などいざという時に身動きが取れるようにするためには、端的にはお金をできるだけ多く貯金しておくしかないということになるが、逆説的にこういった危機管理意識の浸透が『国内消費の低迷』に拍車を掛けているのである。 持ち家や賃貸物件の契約がない失業者が住居を失うリスクを軽減するには、会社の寮に住む派遣労働者の『手取り給与』を増やしていかなければならず、企業と派遣労働者の双方が貯蓄可能な給与水準と生活設計(浪費の抑制)に配慮しなければならないと思う。住居(アパート・マンション)を借りるための必要経費を切り下げていくことも必要だが、貯蓄・労働意欲のある不安定な雇用者が新たに住居を借りにくいという現状も改善していかなければならない問題だろう。アメリカの大手自動車会社のビッグスリー(GM・フォード・クライスラー)も金融危機と自動車販売の3〜4割以上の落ち込みを受けて経営状態が急激に悪化しており、十分な量の公的資金がビッグスリーに投入されなければ、経済大国アメリカ(モータリゼーションの自動車文明)のシンボル的な役割を果たしてきた『自動車産業』がアメリカから消滅するのではないかと噂されている。 アメリカの政府関係者や経済学者、アナリストの中には、市場経済の競争において『自動車の需要』を生み出せなくなったビッグスリーに税金を投入するのは無駄であり市場から撤退してもらったほうが良い(凋落の激しい米国自動車産業の短期延命策に意味はない)という手厳しい意見もあるが、本当にアメリカの自動車産業が本業(自動車の製造販売)で復興する可能性がないかというのは判断が難しいだろう。 日本でも自動車の消費は大幅に落ち込み、39年前の水準にまで新車販売台数が減少したという衝撃的なニュースが走ったが、この自動車消費の減少の原因が『供給者側(自動車のデザイン・性能・利便性・必要性の低下)』にあるのか『消費者側(欲しい車はあってもそれを買うだけの所得・貯蓄がない)』にあるのかと問われればかなり微妙である。私は消費者に十分な所得と雇用に対する安心感が再生してくれば、ある程度は自動車の販売台数は持ち直すのではないかと思うが、不安定な非正規雇用や理不尽な労働市場からの離脱者が増加傾向にある現状では、『高額の耐久消費財・娯楽性やステータス性のある商品』は買いたくても買えないということになるだろう。 日本の労働者の平均所得は下落傾向にあり、若年者だけでなく中年者のフリーターや無職者も増えており、敗者復活(中途からの職業キャリア向上)の市場のルールが存在しない中で年収200万円以下の貧困ラインに近づく世帯が増えている。更に、自動車そのもののデザイン性や機能性(低燃費の環境負荷低減)は上がっていることを考えると、消費者側の所得が減ったり雇用が不安定化したために自動車の販売が伸びなくなった部分はかなり大きいだろうし、実際に家計に余裕があれば(維持コストを無理なく払えれば)自動車は無いよりも有ったほうが便利という人が大半だろう。 確かに、インターネットであらゆる情報にアクセスできる情報化社会において、『自動車の魅力・必要性』が相対的に低下して、自動車や住宅ではなく情報機器・通信費用・ウェブサービスにそのお金を使うようになったという仮説は説得的ではあるが、インターネットや携帯電話を利用し続けるコストと自動車や住宅を購入・維持するコストには格段の違いがある。また、自動車(多人数が乗るファミリーカー)や住宅の購入というのは『家族生活・結婚生活の水準』との親和性を持つので、所得水準・雇用形態に関する『雇用格差の拡大』が未婚化・晩婚化の背景にあるという問題も気にかかるところである。 30代以上の非正規雇用の所得が伸び悩む中で、異性関係や結婚・家族に関連する消費生活を断念するという人は増えると予測され、現実的な経済力の制約の中で恋愛・結婚を『コスト(人生の重荷)』としてしか解釈できなくなるという問題も中長期的には無視できない。未婚化・少子化問題は、ジェンダー・フリーや男女共同参画社会などのイデオロギーによって生み出されたという意見もあるが、そういったイデオロギーを全面的に受容して生活実践に取り入れている人は依然として少数派であり、実際の結婚市場や出産・育児の選択の動向は、将来に安定・希望を見出すことが難しい『雇用問題・経済格差』と深くリンクしていると言えるのではないかと思う。 かつて言われた貧乏人の子沢山というのは教育水準が向上した現代社会では全く通用しない原則であり、『労働力としての子』の活用が道徳的に非難される先進国では、自分の生活でいっぱいいっぱいで自分の子どもに十分な教育投資ができそうにないという消極的な予断が働くと子どもを作らなくなる。実際には、子どもの人生の幸福・不幸は子ども自身が決めるのだから産む選択をしても良いのだが、不安定な雇用や貧しい生活状況の中で自分自身の価値や生き甲斐を肯定できなくなると、必然的に未婚化・少子化につながる抑制的な判断を下すことが多くなるだろう。その場限りの育児支援に少額のお金を給付しても、家計の所得を規定する雇用問題の抜本的解決が図られなければ、若年者・中年者の少子化の傾向が減速するということは今後も考えにくい。 ■関連URI 総中流社会と格差社会の違いとは何だったのか?:所得の再分配・機会の平等・労働意欲・セーフティネット なぜ、資本主義社会では労働者のスローライフが実現しないのか?1:政党の経済政策と格差社会の問題 斎藤環+酒井順子『「性愛」格差論 萌えとモテの間で』の書評1:結婚・未婚・規範性を巡る男女の意識 麻生内閣の『生活対策』を掲げた総合経済対策の雑感:全世帯への“定額給付金”と消費税増税の問題 ■書籍紹介 貧困大国ニッポン―2割の日本人が年収200万円以下 (宝島社新書 273) 宝島社 門倉貴史+賃金クライシス取材班 ユーザレビュー: 労働改革を行う必要性 ... 他人の不幸は・・・自 ... 救いはどこにもない再 ...Amazonアソシエイト by ウェブリブログ |
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米国大手ビッグスリーの公的支援・新卒者の内定取消しの問題と門倉貴史『貧困大国ニッポン』の書評:2
門倉貴史の『貧困大国ニッポン 2割の日本人が年収200万円以下(宝島社新書)』というルポルタージュの体裁を取った新書を少し前に読んだのだが、高度経済成長期において企業福祉が部分的に実現した『総中流社会』の基盤は確実に腐蝕されており、いったん貧困層やホームレス・ネットカフェ難民に転落するとそこから這い上がるための雇用制度はほとんど準備されていない。本人に働こうとする労働意欲や職業キャリアへの関心があっても、ハローワークや求人情報では具体的にどうすれば良いのかの職業選択の道筋が見えにくく、今の... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2008/12/06 18:02 |
『ブログ気持ち玉,テーマタブ』の機能強化について雑感・コンビニチェーンが百貨店の年間売上高を追い抜く
12月18日のウェブリブログの機能強化で、ブログへの簡単な感想を伝えられる『ブログ気持ち玉』という機能が追加されたようです。この『気持ち玉』という閲覧者の記事(コンテンツ)に対する感想を表示する機能は、以前からBIGLOBEニュースで採用されていたものです。個人的にはニュース記事についている『気持ち玉』の機能は結構参考になるというか、読者のニュースに対する大まかな感想を視覚的に知ることが出来るというのは便利だと思います。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2008/12/21 10:03 |
平野啓一郎『決壊 上下』の書評:人間の“生きる意味”の錯綜と格差社会に蓄積する無力感の恐怖
格差社会や無差別殺傷事件、将来不安、少年犯罪、ネットでの犯行予告、うつ病の増大の根底にマグマのように蓄積している『ルサンチマン(弱者の怨恨・憎悪)』を文学作品として昇華させた作品であるが、元々どちらかというと暗いトーンの作品が多い平野啓一郎の著作の中でもその陰鬱さと虚無感が際立っている。一応、物語の後半で良介と『悪魔』が対峙する場面では『庶民的幸福の救済と勝利』が準備されているのだが、それでも良介と佳枝・良太の平凡な家庭生活の幸福が突然足元から叩き壊されていくプロセスには胸が痛くなるし、『... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/01/21 07:45 |
キャリアカウンセリングと終身雇用の安定的キャリアの崩れ:働き方(生き方)の多様化の利点・欠点
キャリア・カウンセリングの面接でも『現時点の就職先や進路先の選択』というのは依然として重要な課題ではあるが、そこに『個別的な価値観・職業適応・ストレス対処・人間関係調整・能力開発・社会的役割・家族形成(異性関係)・メンタルヘルスの維持』など多面的なトピックや問題意識が同時的に重なってくるところにキャリア・カウンセリングの特徴が認められる。最近では、企業部門・産業分野に関連する心理カウンセリングは、EAP(従業員支援プログラム)や心理教育セミナー(ワークショップ)などのビジネス・パッケージで... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/04/23 15:06 |
正社員の解雇規制を緩和することによって、雇用問題は改善するか1:『雇用の量』と『雇用の質』
昨年から『派遣切り・内定取消し』に代表される雇用の急速な減少が問題視されているが、現在も日本経済の有効求人倍率は0.5倍前後を推移していて、雇用の供給が不足している状態である。労働問題には『失業』と『格差(低賃金労働・低待遇)』の二つの側面があるが、不況(GDP減少)で労働需要が減少している経済情勢では、正規雇用と非正規雇用の間にある賃金格差を縮小しつつ、失業も減らすというような妙策は無いと考えられている。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/06/15 08:31 |
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