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help リーダーに追加 RSS 『裁判員制度』の選任方法・設立趣旨と国民を刑事司法に参加させる方法について

<<   作成日時 : 2008/12/01 12:45   >>

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来年5月から裁判員制度が実施されることを受けて、最高裁判所が11月28日に各地方裁判所の『裁判員候補者名簿』に載ったことを知らせる『通知書』を全国の約29万5000人に一括送付しました。裁判員候補者名簿に掲載される確率は352分の1でかなり高いものであり、一生涯に一度くらいは誰もが(最終的に裁判員に選任されるかどうかはともかく)候補者名簿には載るのではないかと推測されます。

この裁判員制度に対しては実施前から国民側の根強い反対運動もあり、国民の意識調査でも裁判員になりたくない、候補者名簿に掲載されたくないという人が過半数にのぼるようですが、制度そのものが持つ国民の拘束性(参加・不参加を自由に選べない)が非常に強いという問題があります。海外では実際に陪審員に選任された人が、選任される前は陪審員なんかにはなりたくないと思っていたが、裁判の後に『参加して良かった』という風に意識を変化させるケースも少なくないと言われますので、裁判員制度を実施してみないと実際に国民が『裁判員になって良かったと思うか否か』は分からない部分もあります。

とはいえ、海外でも陪審員候補者に選ばれても裁判所に出頭しない人の割合はかなり高いようですので、日本でも裁判所からの呼び出しに応じない裁判員候補者が一定の割合でいるという前提に立って、1つの事件に対して“50〜100人”という大目の人数を呼び出す計画を立てているようです。1事件につき裁判員は最終的に“6名”選任されるわけですが、裁判員候補者名簿に掲載されたからといって必ずしも裁判員に選任されることには当然ならないわけですから、実際に裁判員になる確率というのは1/350よりかは相当に小さくなるのではないかと思います。Wikipediaの裁判員制度では、裁判員に実際に選任されるのは国民の『約5,000分の1』ではないかと書かれています。

裁判員の選任プロセスをまとめると、裁判員制度が適用される刑事裁判(重大事件の刑事裁判)が予定された時に、『裁判員候補者名簿』を元にして地方裁判所がくじ引きによる抽選で50〜100人を呼び出します。この50〜100人の候補者には『質問票(欠格事由・辞退事由などの質問票)』『呼出状』が送付されます。この段階まで選抜されると裁判所への出頭義務が生じ、正当な理由なく出頭しない候補者に対しては10万円の過料が科されるという規定があります。また、裁判員になりたくないなどの意図を持って、『質問票』に虚偽の回答・辞退事由を書いた場合には、『50万円以下の罰金・30万円以下の過料』が科される恐れがあります。実際にこの罰則規定が運用されて違反が摘発されるかは分かりませんが、かなり出頭義務の強制力が強い法律になっていることは間違いないでしょう。『呼び出し・出頭』という語感のイメージが余り良くないこともあって、裁判員制度には国民の側から主体的に参加するというよりも裁判所の側から半ば強引に呼び出されるといった印象が強くなっているのは残念なことだと思います。

最終的に、出頭した50〜100人の候補者から『裁判官の質問』『非公開の選任手続き』を経て、裁判員・補充裁判員が選任されることになります。しかし、出頭した候補者に対する裁判官の質問によって『不選任』と判断された人は裁判員には選ばれないということですから、極端に裁判員制度に否定的・非適応的な要素を持つ候補者だったり、『公平な裁判』を行うだけの資質・態度・被告との関係性に問題があると判断された候補者だったりすれば選ばれにくくなるようにも見受けられます。裁判長だけではなく、検察官・弁護士・被告人も候補者に対する質問内容を裁判長に代理してもらうことができ、検察官・被告人は4人を上限として『候補者の不選任』を理由を示さずに決定する権限を持っています。

実際の裁判は、裁判官3名・裁判員6名の『裁判合議体』によって進められることになり、裁判員は『事実の認定・法令の適用・量刑の決定』について裁判官と一緒に審議を行うわけですが、欧米の陪審員制が評決に対して『全員一致の原則』を取っているのに対し、日本の裁判員制度は結果が出やすい『多数決の原則』を採用しています。この裁判員制度の多数決の原則に対しては、評決に対して確実に自分の意見・判断が一票として反映されるだけに、裁判員の責任感・心理的負担が重くなり過ぎるのではないかという批判もあるようです。

元々、国民の民主主義的なコンセンサスとして『裁判員制度』が導入されたというわけではなく、どちらかというと、政界や法曹が『司法制度改革』を主導して欧米の陪審員制のような国民が刑事裁判に直接参加できる制度を作ろうという趣旨で作られた経緯があります。『国民に身近な司法・国民主権の法制化』というスローガンには大きく同意できる部分もあるのですが、現行の裁判員制度の方法や内容がどれくらい『国民の賛同・主権意識』に結びついているのかについてはかなり疑問な部分があります。

そもそも裁判員になることが、『義務(裁判制度の負担を国民が分担する義務)』なのか『権利(司法領域における主権在民の制度化)』なのかという判別は明確ではありません。裁判所から呼び出しを受けて出頭・参加しないと罰則があることから、どちらかというと『権利』というよりも『義務』に近いという印象がありますが、今まで国民の意見や判断を直接的に反映させる手段がなかった司法(裁判)に、国民が裁判員として参加できるようになったという面では『権利(主権の行使)』であるとも言えます。裁判員制度に賛成する法曹関係者は、国民が司法に参加することは『立法・行政に対する参政権(選挙権・被選挙権)』と並列な『司法に参加する権利』というような解釈を主張することが多いようです。

しかし、民主主義国家における『三権(立法・行政・司法)』を、国民が間接的に行使する手段(選挙権・被選挙権・裁判員制度・国民投票)が必要であるとしても、立法と行政(首長選挙)に対する権利の行使には『選択の自由(投票の棄権には罰則がない)』があるのに、裁判員制度にだけ『選択の自由(参加しなければ罰則がある)』が乏しいというのは気にかかるところです。また、数分間で終わる選挙の投票とは違い、数日間以上にわたって拘束される裁判員制度の場合には『時間的・心理的コスト』が大きくなりますので、『国民の日常生活・職業活動・行動選択』に与える影響の大きさを考えると『辞退事由を認める範囲』にある程度の融通を効かせることが求められるでしょう。また、死刑や無期懲役などの重罪判決を下すことに抵抗感・罪悪感がある人の場合には、(自分が妥当と考えるよりも)重い刑罰の判決が出たことに対して心的な外傷や継続的な罪責感の発生が懸念されます。

司法のプロである裁判官の判決(量刑判断)が『国民感情・常識感覚』からかけ離れているといった意見や報道内容が、司法制度改革としての裁判員制度導入を促進した部分もありますが、近代法の原則と国民の価値判断(日常感覚)をどこまですり合わせるべきなのかというのは非常に難しい課題だと思います。裁判官の下す判決の量刑・理由に対する不満や反発がどれくらい強いのかは分かりませんが、裁判員(国民)の情状酌量や処罰感情・量刑判断などが裁判に反映することによって、司法のあり方がどのように変わっていくのかには関心があります。裁判員制度には『専門的な知識・経験がない自分が、裁判の判決に関わって他人の人生を左右するのが不安だ(冤罪や重すぎる判決・不本意な量刑に関わってしまう可能性を考えると気が重い)』という意見もありますが、この制度の設立趣旨を考えると専門的な知識や経験を持っていないからこそ『一般国民の参加・日常感覚や常識に根ざした意見』を求めているという部分が大きいと思います。

裁判員制度の目標理念である『司法に対する国民の理解向上・裁判の透明性と信頼性の向上』については納得できる部分もありますが、『国民を司法に参加させる方法』についてはもう少し強制性の弱いものに改正するか、裁判員制度への関心が高い事前登録者の中から無作為で選抜して短期間の裁判員研修を科す(研修終了義務+日当をある程度高額に設定して裁判員としての意識を高める)などの方法を工夫してみてはどうかと思います。

その根拠としては、裁判員というのは『国会議員・知事・地方議員』などと同じく『選ばれる立場』に立つものであるということがあります。主権を有する国民のすべてが、国会議員・知事・地方議員になる権利(潜在的可能性)を持っていても、すべての国民からランダムにサンプリングされないように、裁判員もある程度は刑事司法への参加意欲・責任意識がある国民に絞ったほうがより混乱の少ない制度運用ができると考えられるからです。反対に、国会議員の一定の割合の議席を国民の中からランダムにサンプリングして(最低限の政治経済の知見を問うテストをして)割り当てたほうが、現行の国会議員の持つ世襲性(一般国民が政治家になりにくいという問題)や地方利権(利益誘導政治)、国民感情からの乖離という弊害を改善できそうな気もしますがそれは余談ですね。

裁判員候補者名簿への掲載を知らせる通知書が来た国民から約870件の問い合わせが専用コールセンターにあったということですが、問い合わせの多くは『認可される辞退理由の内容(病気や怪我の程度)・裁判員の選考方法』についてだったようです。大企業のサラリーマンや公務員であれば裁判員に選任されたときに確実に『有給休暇(特別休暇制度)』を取れるような雇用者側の配慮が行き届いていますが、人員が少なく有休が取りにくい中小零細企業や自営業者では裁判員に選任されることによる『職業上・取引上の不利益』が大きくなりやすいという問題が残されていますね。

裁判員を辞退できる理由としては『重い病気や怪我・親族や配偶者などの通院・入退院への付き添い・介護・養育、妊娠中や産後・出産への立ち会い・親族の結婚式・仕事などを休むことで重大な損害が生じる状況・現住所や居所が裁判所の管轄区域外の遠隔地で裁判所に通うのが困難』などが上げられていますが、ちょうど世界的な景気悪化の時期と裁判員制度の実施が重なったことの影響も大きいと思います。

裁判員制度に対する賛否の意見にはさまざまなものがありますが、裁判員制度の設立趣旨と国民の利益(日常生活・仕事状況の支障に対する配慮)とが合致するような運用に努力して貰いたいと思います。






■関連URI
三権分立を前提とする近代法の原則:心神喪失者等医療観察法の理念と処遇について

個人の権力(暴力)を禁止する法治主義国家における加害者と被害者:アメリカ国民の武装権の問題

『行為の法的責任』を何処に求めるか?:道義的責任(主体責任)と社会的責任(結果責任)の比重

プラトンの善を志向する政治哲学とクリティアスの寡頭政(オリガルキア)の挫折:善の意図と悪の結果の乖離

■書籍紹介

裁判員制度の正体 (講談社現代新書)
講談社
西野 喜一

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司法制度改革として刑事裁判の『被害者参加制度』が導入され『裁判員制度』の実施が間近に迫っているが、法務省では犯罪者の逃げ得を抑止するための『凶悪・重大事件の公訴時効の見直し』の議論も出てきているようだ。社会的影響力が大きく遺族の処罰感情も強い『重大事件』に対する厳罰化の流れを汲んだ『公訴時効の見直し』であるが、時効の不条理性や反道義性を指摘して『時効の延長及び廃止』を求める声はかなり以前からあった。 ...続きを見る
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