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help リーダーに追加 RSS 北京オリンピックの閉幕と国際社会が注ぐ中国への厳しい視線:スポーツと政治

<<   作成日時 : 2008/08/25 16:21   >>

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中国の首都北京で開催された北京オリンピックが24日に閉幕しましたが、『スポーツの祭典』としての華やかさと『平和の祭典』としての欺瞞性の双方を感じさせられるオリンピックでした。スポーツと政治的な思惑を切り離して、純粋に一流のアスリートたちのハイレベルな技術や勝負のみに注目すれば、エキサイティングな試合の多い良いオリンピックだったとは思います。その一方で、近代オリンピックは世界レベルのスポーツ大会であると同時に、ナショナリズム(国家主義)の高揚や国際社会における開催国の威信承認とも強いつながりを持つイベントであり、51個の金メダルを獲得した開催国中国の旺盛な自信と成長意欲が間違った方向に進まないかという懸念も生みました。

オリンピックを平和の祭典(民族融和の場)として捉える立場からは、多くの人権問題や内政問題(極端な経済格差)、統制主義による抑圧(共産党一党体制)といった問題を抱える現在の中国に、オリンピック開催国の資格があったのかという疑念もあります。しかし、当然のことながら、そのことによって北京オリンピックにおけるスポーツ競技やメダルの相対価値がそれ以外のオリンピックと比べて劣るということはないわけで、オリンピックのスポーツ大会としての側面と政治的思惑(国際的な開催国への評価)の側面は切り分けて考える必要があります。仮に、何らかの人権上・体制上の問題により開催する資格が当該国にないのであれば、開催国をIOCが審査選抜する段階においてノーと言うべきでしたし、過去にオリンピックを開催した国々に一切の人権問題や内政問題、環境破壊などが無かったかといえば必ずしもそうではないわけで、『オリンピック後の中国』がどう変われるか(あるいは変われないか)、どのように国内政治や少数民族問題、国際的責務の遂行に取り組んでいくのかに注目したいところです。

『北京オリンピックのスポーツ競技の内容』だけを査定するのであれば北京オリンピックの総合評価はそう低いものではなかったと思いますが、開会式に歌った少女の口パクやCGの花火映像は演出として許容範囲内であるとしても、漢民族の子どもに56の少数民族の民族衣装を着せて中国国旗を運ばせた演出は政治的パフォーマンスの度を越していました。漢民族とは誰を指すのかという定義自体が元々曖昧なわけですが、基本的には『中国文明(中華思想)に自己をアイデンティファイした民族』を漢民族と呼ぶのであり、現代では中華人民共和国の国民としての自意識と密接な結びつきを持っています。漢民族に完全に同化せずに独自の伝統・文化・習俗を残したいと考える少数民族にとっては不本意な演出だったと推測されますが、『少数民族の独立性・発展性』を担保しながら『漢民族との融和』を図るというのはなかなか困難な課題です。元々、漢民族を自認する中国人同士でも統合性や連帯性が十分に保たれている状況にはなく、『沿岸部の繁栄』と『内陸部(農村部)の貧困・荒廃』という格差問題や許認可権を掌握する共産党幹部の不正・腐敗への不満も高まっています。

中国共産党が国内を安定統治するためには『格差縮小の均衡ある発展』と『寛容な少数民族への対応(大幅な権限委譲)』が必要であり、更に、一党独裁体制下における党員・幹部の自浄作用が無ければ中国13億人の人民の党に対する信認はとてもつなぎ止められないでしょう。新疆(しんきょう)ウイグル自治区のテロやチベット自治区で起こった民族自立を求める争乱も懸念されるところですが、北京を中枢とする中国文明圏の範囲と国民国家の射程をどこまで『周縁部(非漢人の文化圏)』に拡大しても良いのかという問題は真剣に考慮すべきであり、軍事的恫喝と民族の共存共栄が両立しないことを深く自省すべきでしょう。

中国という近代と現代の中間領域を彷徨する“帝国”が世界・他民族から肯定的に承認され頼られる存在になるためには、軍事力による強引な同化・領土の拡張という近代主義的な国家論理の否定を伴わねばならないと考えます。北京オリンピックと中国バブルの恩恵によって絶頂期にあるように見える中国ですが、上海株式市場の急落や不動産市場の不況、食の安全性の信用低下などは、世界経済における中国経済の持続的成長に疑問符をつけるものです。格差拡大による地方農村部の不満増大、一党独裁体制・行政腐敗への反発、中国の人口年齢階層の高齢化などを考えると、ここからの中国の国家運営・経済政策は更に厳しいものになっていくと予測されますが、北京オリンピック後の中国が世界経済や軍事バランスに占める影響力はより一層高まるでしょう。

史上最多となる204の国・地域から約1万6000人の選手・関係者が集まった北京オリンピックは、28競技302種目における選手たちの熱戦と勝負を見る限りは非常に楽しくて魅力的なものだったと思います。オリンピックの背景にある中国の政治的問題点について書いたので、スポーツ面についての感想も少し書き残しておきます。

前人未到の水泳8冠を達成したマイケル・フェルプス(米)や陸上男子100メートル・200メートルで世界新記録を叩き出したウサイン・ボルト(ジャマイカ)などの活躍は瞠目すべき素晴らしいものでした。平泳ぎ100メートルで世界新記録を出し200メートルでも金メダルを獲って、二大会連続の金メダルを獲得した北島康介の存在が光りましたが、初めて金メダルを獲った女子ソフトボールのスピード感溢れるピッチングや勝利を目指す懸命なプレイも印象に残りました。男子の体操では、若干19歳の内村航介のアクロバティックな床や軽快に回る鉄棒の演技に魅了されましたが、団体と個人総合で銀メダルという成績も立派なもので、体操競技は若い世代の選手が成長してきたことで次回のロンドンでの活躍も期待されます。体操以外の競技では有力選手の世代交代が上手く進んでいないという課題もあるようですが、大会連覇(実力維持)と世代交代というのがオリンピックの一つの醍醐味にもなっていますね。

女子柔道では、銅メダルを獲った谷亮子が現役続行を宣言したことにも驚かされましたが、アテネと北京で二連覇した内柴正人と上野雅恵をはじめ、谷本歩実や石井慧が金メダルをとるなど日本選手は概ね善戦したと思います。女子レスリングでも吉田沙保里・伊調千春・伊調馨・浜口京子の全員がメダルを獲得するという快挙を達成しましたが、それ以外にも銅メダルをとった男子陸上の400メートルリレーなど多くの見ごたえのある素晴らしい競技が行われいていたと思います。日本の残した金メダル9個、メダル総数25個というのは十分に高く評価されるべき成績ですが、マラソンの故障や野球の不振などを見ると、4年に1度のオリンピックというのは一回一回の『実力勝負・体調管理の結果』がすべてという厳しい舞台だなと改めて思わされます。

北京オリンピックの競技のほとんどをリアルタイムで見たわけではないですが、ニュースのサテライトなどで解説を聞きながら見ていると、今まで関心の無かった競技の見所や面白さもよく伝わってきます。世界で一流とされるスポーツ選手の真剣勝負はどの試合も心地よい緊張感と美しさに満ちていますが、スポーツの観点から見たオリンピックの良さの一つは『普段スポーツに興味がない人(私も普段は余りスポーツは見ませんが)』でも、それなりにスポーツを観戦したいという気持ちになれるところかなと思ったりします。個人的にはスポーツ競技とナショナリズムの一体感がどうとかいうオリンピックの政治外交的・思想的側面にはそれほど関心はありませんが、『平和の祭典』という歴史的意味合いを帯びるオリンピックが『紛争解決・国際協力・人権保護・意識変革の動機づけ』に何らかの形で役立って欲しいと願います。

2012年のロンドンオリンピックに続く2016年のオリンピック開催地に東京が選ばれるかどうかは分かりませんが、もし開催されるとすれば大きな財政負担に見合うだけの国際協調のメッセージ性や精神的メリットのある大会にしていって欲しいものです。北京オリンピックによって中国は世界の大国として『自信』と『栄誉』を手に入れたと自画自賛していますが、『世界の大国』として責任ある地位を国際社会から承認されるためには、国力への自信とオリンピック成功の栄誉に加えて『自由・民主』と『人権保護』の二つの課題を自発的に克服していかなければならないと思います。






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中央公論新社
結城 和香子

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