|
古典的な性格心理学では、カール・ヤスパースなどが相当な無理や演技をして『自分を現実の自分以上の存在として顕示すること』をヒステリー的な自己顕示と定義したが、これは演技性人格障害の特徴に近い自己顕示のやり方であると言える。しかし、他者危害性の小さい演技的(オーバー・おおげさ)な自己顕示の問題が“病理的”であるとまで言えるかは微妙であり、自己顕示の最も病理的な現れとしては『欺瞞・虚言・犯罪に基づく顕示的な言動』などを想定することができる。 対人関係における虚言(うそ)の動機と問題については『虚言癖に対するコミュニケーションtips』でも書いたが、嘘・虚言には大きく分けて『自分の利益を図るための嘘・自分の不利な事実を隠すための嘘・相手の不安や不快を弱めるための嘘』の3つのタイプの嘘が考えられる。相手の不安や不快を弱めるための嘘は『嘘も方便』と言われるタイプの嘘であり、相手・場面・状況によっては道徳的・社会的に容認される可能性もある。それ以外の利己的な目的を達成するための嘘や自尊心(虚栄心)を満足させるための嘘には、他人(社会)に危害・損失を加える恐れがあるが、相手を十分に信用させてからつく大きな嘘(結婚詐欺・恋人間での裏切り・経済的な詐欺)は、相手の人間に対する基本的信頼感を損傷するような破壊的効果を持つこともある。 発達心理学的な見地では、自他未分離で現実吟味能力が成熟していない幼児期に『空想的な虚言(内的表象や無意識のファンタジーが反映された虚言)』が多く見られる傾向があるが、ヒステリー性格の特徴を継承したクラスターBでは『性格構造の未成熟による退行(現実と空想が曖昧な発達段階への退行)』が虚言的な自己顕示の原因とする考え方もある。次々と何の躊躇いや抵抗もなく虚言(嘘)を話し続ける病的な虚言癖の傾向というのがあるが、『日常的な発言』の大半がおおげさな表現や嘘の内容になっているような人の場合には、自分自身でも『現実の自分』と『嘘(想像)の自分』の区別が曖昧になっていることがある。病的な虚言癖を持つ人は、時に『口から出ることが全部うそ』というような批判・揶揄がなされることがあるが、重症の虚言癖のケースでは意図的に嘘をついているわけではなく、『想像の自分(物語的な世界)』と『現実の自分』とが半ば一体化していることもある。 他人に迷惑や損害を与えるという問題は軽視できないが、意識性・意図性が乏しい虚言癖には、『虚言・高度な演技・妄想・想像・信仰・暗示(催眠)』といった非常に複雑で多面的な精神現象が複数関与していると考えられる。そこには、自分で自分を無意識的に騙しながら『理想自己』に近い自己概念を人為的に創出して、周囲の人たちを巻き込んでいくという集団力学があり、意図せずして発せられる虚言には想像を超えた妄想の様相が見え隠れすることもある。自分でも自覚できない高度な虚言癖・自己顕示には『暗示(催眠)』や『演技』の要素があるが、完全にある属性を持つ人物像を演じきっているような時には、小規模な対人関係の範囲に『共同幻想・暗示効果』の影響を及ぼすことも少なくない。 自分が望むキャラクターに完全になりきって『同一化』するという心理プロセスには『演技・演劇・コスプレ』などにも共通する要素があり、『自分が想像(演出)する現実』が『他人が認識する自己像』と一致した時に共同幻想や暗示効果といった影響力が生まれるのである。このような周囲にいる他人を『自分の想像・妄想の枠組み』の中に引き込んでいくという精神作用を、虚言・自己顕示という概念だけで説明することには明らかに限界があるが、こういった『他人のイマジネーション・創作的な物語』に強く影響される精神作用は恐らく宗教の起源や政治的・宗教的な個人崇拝ともつながっていて興味深い。 虚言癖における『意図的・意識的な嘘』と『非意図的・無意識的な嘘』とを厳密に区別する方法は存在せず、嘘であることを自覚しない虚言癖に対しては、ポリグラフ(生理的変化の測定機器)による真偽判定は有効に機能しない。『空想』と『現実』の区別が曖昧な無自覚の虚言癖者あるいは自己顕示者の場合には、言葉の内容だけではなくて『表情・動作・態度・ファッション・背景知識』などのすべてが自然と統一的に連動しており、どんな合理的反駁や圧迫面接(調査・尋問)を受けても自分が自己や他者を欺瞞しているという『客観的次元の事実』を認めることはない。 その中の一部は、妄想幻覚を主軸とする精神病者やパーソナリティ障害の人になることもあるが、自己啓発セミナーや小規模コミュニティの指導者になったり、『想像・信念で作られた現実』を家族・異性・周囲へと伝染(暗示)させることで特異的な社会適応を遂げることもあると思われる。虚言の多くは『自己利益・自尊心・理想自己』を守るために、『客観的現実』を意図的に隠蔽したり捏造しようとしたりするものである。『説得力(浸透力)のある虚言・妄想・信念・価値観』は閉鎖的な環境下において非常に強力な伝染力・影響力を持つことがあるが、ミクロなレベルでは『家庭問題(DV・家庭内暴力・共依存・嗜癖・偏ったしつけ)』として現れやすく、マクロなレベルでは『政治問題(独裁体制・情報遮断・言論統制・風説の流布)』として集団力学的な影響を考えることもできる。 自己顕示的なパーソナリティ障害や被害妄想的な妄想性障害では、『他者を自由に操作したいという欲求・想像を現実化したいという欲求』が問題になりやすいが、その個人の影響力が大きくなると精神医学的なパーソナリティ障害よりも大きな枠組みの『対人的・社会的問題(複数の人間を“想像的・演技的な関係性”に巻き込む混乱状況)』が起こってくる可能性が想定される。そういった事態を未然に抑止するためには、自己顕示的(他者操作的)なパーソナリティを持つ人に対して、『客観的な現実』を前提にしたコミュニケーションができる環境(人間関係)を維持することが重要であり、『空想的な世界観・偏った価値観』に周囲が巻き込まれないように外部世界や専門家との接触を保つことも有効である。 ■関連URI パーソナリティ障害における“内向性・外向性の過剰”と“自己顕示欲求の表現形態” 個別的な多様性を見せるトラウマの影響:セクシャリティの外傷や家族間の虐待の再現性の問題 自己暗示的な神経症症状(自律神経失調)と精神的ストレスへの逃避的適応:古典的神経症における疾病利得 発達早期の母親剥奪(mother deprivation)とナルシシズム(自己愛)の歪曲の問題 回避性人格障害(avoidant personality disorder) ■書籍紹介 パーソナリティ障害がわかる本―「障害」を「個性」に変えるために
|
| << 前記事(2008/07/09) | トップへ | 後記事(2008/07/13)>> |
| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|---|
仕事中だけ鬱になるという“新型うつ病”についての雑感1:一般的なうつ病とストレス反応の異同
8月初めに仕事中だけに抑うつ感や無気力などうつ病の精神症状が出て、帰宅後や休日には活発に行動できるようになるという“新型うつ病(メディアの通称)”が話題になっていましたが、精神的ストレスの強い状況や活動だけに反応して精神症状が発症するというストレス反応性障害は何十年も前からあります。重症度の高い精神病である“うつ病(気分障害)”という疾病概念を、広範囲の抑うつ状態・無気力感に安易に用いることには賛成できませんが、新型うつ病といった曖昧な認識を持ち込むことで、本来のうつ病患者ではない人(セロ... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2008/09/01 05:47 |
| << 前記事(2008/07/09) | トップへ | 後記事(2008/07/13)>> |