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zoom RSS “安全安心の欲求”−“所属の欲求”−“承認欲求”の相互的なつながりと他者に承認されない孤独感の認知

<<   作成日時 : 2008/07/03 19:10   >>

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人間が安定した精神状態で幸福感や充実感を感じるためには、基本的な衣食住の条件のほかに『安全安心の欲求・所属の欲求・承認欲求』が満たされている必要がありますが、これらの欲求の充足は『養育環境における親子関係』『社会環境に対する適応能力』『対人的なコミュニケーション能力(相手の承認欲求を満たすコミュニケーション)』と一定の相関を持っています。

『安全安心の欲求』とは、『外部の物理的な危険性』を回避したいという欲求であると同時に『内部の心理的な不安感』を緩和したいという欲求でもありますが、安全安心の欲求が満たされているという原初体験は幼少期の母子関係や家庭環境の中で起こります。家庭(両親)が外部世界の危険や他者の攻撃から守ってくれるという安心感の体験は、『信頼できる他者』のイメージが内面化される『対象恒常性の確立』へとつながり、持続的に内面世界で自我を支える対象恒常性は『自己信頼感』を強化するのに役立ちます。自己信頼感とは自分で自分の能力や価値を信頼して状況の悪化(他者からの否定)に耐える能力ですが、自己信頼感の基盤には『自分を無条件に認めてくれた自己対象(親密な他者)』の存在があることが多いのです。

一人でつらくて苦しい時に、実際に目の前に自分を愛してくれる人や支えてくれる人がいないとしても、対象恒常性が内面に確立していれば、自分の孤独感や淋しさをある程度柔軟に受け止めて有効な判断ができるようになります。持続的な対象恒常性は『精神的な安全基地』としての役割も果たしており、『困窮した時に帰れる場所(自己規定)・つらい時に依拠できる心像(記憶内容)』を象徴しています。人は『現実的な人間関係(共感・愛情)』『内面的な感情処理(認知転換)』によって精神のバランスを保っていますが、いつも支持的・共感的な人間関係のネットワークにつながっているという幸運な状況は少ないので、『家族・恋愛・親友』といったある程度固定的(持続的)な関係性を求める傾向が生まれてきます。

『家族・恋愛・親友』を求める欲求は親和欲求や承認欲求ともつながっていますが、地域社会や所属企業のコミュニティ機能(仲間意識の共有)が失われつつある現代では、ただ普通に働いたり学校に通っていたりするだけでは親和欲求が満たされない人が増えていると推測されます。その為、仕事・職業・学問に特別なやり甲斐や面白さを感じられなければ、『プライベート領域における親和欲求(家族・恋人・友人から親密に愛されること)』がその人の人生に占めるプライオリティ(優先順位)は非常に高いものとなります。

仕事や職業、趣味に大きな生き甲斐を感じている人でも、『親密な他者』からプライベートで認められたいという欲求は強いものですが、『自分のやりたいこと(好きなこと)』『他人から愛されたいという欲求』のバランスが取れやすいので、何が何でも他人(家族・異性・友人)に認められていなければならないという強迫性や切迫感が弱まりやすくなります。安定した精神状態を保って人間関係を楽しく続けるためには、『誰かに愛されていない自分には価値がない・他人とつながっていない孤独な状況に耐えられない・他人(異性)に拒絶される自分は魅力のない人間だ』という不適応で強迫的な認知を転換させることが大切です。『他人に認められるのは嬉しいことだけど、認められないなら認められないで自分のやるべきこと・やりたいことをやる』というくらいに気楽に構えたほうが良いでしょう。『一人で過ごす時間を楽しめる・孤独と親密のバランスを取れる』というのも自我機能の成熟の一つの現れであり、いつも四六時中誰かに構ってもらわないと落ち着かないという依存的な心理状態では日常生活に大きな支障が出てきます。

乳幼児期から児童期・思春期へと発達するにつれて、基本的に『他者への依存性・孤独に耐えられない脆弱性』は低下していきますが、その代わりにピア・グループが発展した1対1の親密な関係性や好きな異性(魅力的な異性)に対する欲求は強くなっていきます。戦地・紛争地帯・貧困地域(スラム街)などでは『安全安心の欲求』は、物理的な危険を回避する欲求という意味合いが強くなりますが、日本のような生活水準・治安レベルの高い国では、内面的な不安(孤立感)を緩和する心理機能の基盤(対象恒常性による安心感)とも関係する欲求になってきます。『安全安心の欲求』はマズローの欲求階層説では『低次の欲求』に位置づけられていますが、所属の欲求や承認欲求(自尊欲求)の根底にも『集団や他者に自分の存在(能力・魅力)を認められて安心したいという欲求』がありますから、人間が安定した精神状態で意欲的に生きていくためには必須の欲求だと言えます。

『所属の欲求』は、自分の社会的位置づけ(役割・必要性)を確認できる集団組織(企業・学校・サークル)に所属したいという欲求ですが、青年期の自己アイデンティティの確立とも深く関わっています。『自分はこの社会において何ものであるのか?』という社会的アイデンティティの問いに最も確実に答える方法の一つが、『集団所属の欲求』を満たして『私は特定の社会集団(企業・学校)の一員として必要な役割を果たしている』という自己確認を得ることです。『所属の欲求』『承認欲求(自尊欲求)』が同時的に満たされることでより肯定的な自己認知に根ざした自己アイデンティティを確立していくことができますが、承認欲求には大きく分けて『個人的な承認』『社会的承認』があります。

個人的な承認とは、プライベートな領域における主に『家族・異性・友人からの承認』のことであり、社会的な承認とは、パブリックな領域における主に『企業・権威・不特定の他者からの承認』のことですが、個人的な承認は『精神的な安定感・安心感・幸福感』と深く関わっています。社会的な承認は『職業上の役割(キャリア)・社会的な地位や名誉・経済的な利益』を生み出しますので、『自尊心の強化・経済活動への意欲・職業上のやりがい』と深く関わっていますが、個人的な承認と社会的な承認は相補的なものであり、どちらか一方が完全に欠如すると人生の満足感や精神の安定感が低下することになります。

個人的な承認の中でも、恋愛関係や結婚生活(家庭生活)における『異性(恋人・配偶者)からの承認』は特別な意味づけを持ちやすいのですが、それは『性選択(異性の選択)』が遺伝子保存という本能的欲求(生物学的根拠)と直結していることもありますが、家族外部の他者から『交換不能なかけがえのない対象』として認められる(愛される)数少ない体験の一つだからです。失恋・別離・離婚・裏切り(二股)などの結果に終わることもあるので、恋愛・婚姻における交換不能性は相対的なものではありますが、恋愛関係や結婚関係は基本的に『他の人ではなく特定の異性(自分・相手)を選ぶ』という主観的選択性を持ちますから、『自己の存在意義や安心できる居場所の強化』に結びつきやすくなります。

社会的な承認の多くは『能力・実績・履歴』と結びついた条件付きの承認ですが、いったん確立した個人的な承認の多くは『自分の存在そのもの』を無条件で継続的に承認される体験になりやすく、個人的な承認による安定した精神状態の基盤によって社会的な承認が得られやすくなることも少なくないでしょう。また機会があれば、『恋愛関係における承認欲求の構造』や『対人魅力・経験的学習による異性選択(恋人選び)』について今までの記事とは違う角度から考えてみたいと思います。






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