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help RSS 青年期の精神的成熟(安定)を支援する家族関係と社会環境のあり方:対人ネットワークと社会的孤立

<<   作成日時 : 2008/07/29 10:19   >>

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前回の記事の続きになるが、これらの事件に共通する親子関係の要素として、『自分を理解してくれない(本当の自分の考えや希望を親と話し合う機会がもてなかった)・相談に乗ってくれない(今の自分のことを心配してくれない)・親の期待を押し付けてくる(期待に応えなければ切り捨てられる)』といったことが浮かび上がってくる。一昔前の発達心理学的な自立モデルであれば、こういった依存的な要求や甘えは20歳以上の成人が親に訴えることは少ないとされていたが、学生期間の長期化やフリーター化などで平均的に『自立の時期』が遅滞する現代社会では、目だった問題行動がないとしても20〜30代の人たちの親への依存傾向は強まっている。

では、これらの事件の加害者の両親が他の親たちと比べて、特別に子どもを甘やかしたり依存させたりしたのかというと必ずしもそうではなく、『思春期以降の子どもとの関わり方』が上手くいかずに、精神的にも経済的にも自立したようなしていないような曖昧な状況で、いつの間にか親子関係が絶縁状態になっていた(子どもが何をしているのかどんな生活をしているのかの近況が不明になった)という感じがある。秋葉原と八王子の事件の加害者は、表面的な生活状況では両親に経済的にも精神的にも依存していない状態であり、同年代のフリーターや無業者(ニート)の若者と比較すれば両親への実質的依存度は比較的小さかったと言える部分もある。彼らは『外形的な経済的・精神的自立』を実現していて、八王子の事件の加害者は交際していた女性との同棲をきっかけに家を出たという報道もあるが、最終的に『家族以外の他者』と良好な人間関係を作り上げることが出来なかったという対人的な孤立状況がネックになっているように思える。

無論、対人的・社会的な孤立状況は、『不安定な仕事状況』『家庭生活を維持するのが難しい雇用待遇(所得水準)』とも密接に関係しているので、八王子のケースでは過去に恋人ができていたようなので、単純に本人の性格特性やコミュニケーションスキルのみが原因だったとは言えない部分もあるのではないか。仕事が上手くいかなければ無関係な他人を傷つけるという因果関係は全くないと思うが、一人暮らしの状況で仕事が上手くいかないと単純に経済的に困窮するというだけでなく、自分自身の存在・能力・魅力に自信が持てなくなり、異性関係や友人関係に積極的になれなくなるといったマイナスの影響は十分考えられる。

『人間関係の貧困化(孤立感)→無差別的な危害行為』というのは直接的な『原因―結果の関係』にはなく、個人の行為責任が厳しく問われることになるが、『仕事が上手くいかないこと→対人関係の貧困化』であれば一定以上の『原因―結果の関係性』があると言っても良いだろう。仕事で『交際費』が認められるように、人間関係の安定的な維持にはコストがかかる。一般的な交友関係を円滑に継続していくためにしても、ある程度の交際コスト(移動・飲食・娯楽・宿泊・連絡のコスト)が必要になってくるので、仕事や所得がある程度安定していないと難しい。秋葉原のケースでは、過去の親子関係(教育方針)の内容から推測しても今になって親に甘えたり依存したりすることは事実上不可能であり、『家庭的・家族的な庇護』が殆どない状況に置かれていた。家族と絶縁状況にあるだけでなく身近に親しい異性・友人がいないという状況は両者に共通しているが、上記したように『職業上・経済上の問題(仕事がなかったり所得が低すぎたりする問題)』『対人関係の貧困化(自分の生活に精一杯では同性でも異性でも安定した継続的な交際がしにくくなる)』には一定の相関があるだろう。

親など血縁者の援助がなくても、自分で恋人や家族、親しい友人が作れればまた状況は大きく変わっていたと思われるが、所得が伸びない経済格差や異性との出会いが少ない職場環境などの問題もあり『生まれ育った成育家族』に代わる『新たな人間関係(情愛関係)のネットワーク』を形成することが出来なかったのではないか。『対人的な孤立感・経済的な閉塞感・社会的な疎外感』などがあったとしても、自分と無関係な他人を傷つけても良い理由などには決してならないし、自分の個人的な憤懣や怨恨を他人に転化する理不尽な暴力は絶対に許されないことである。だが、個人的・社会的な承認のネットワークから完全に零れ落ちると人間は『自己の存在意義』や『他者との互恵性・共感性』を見失いやすくなり、『嫉妬・怨恨・自暴自棄』などマイナスの感情に襲われやすくなるという問題がある。

無差別殺傷の要因の一つとして、『過去の人間関係(成育家族)に対する憎悪・不満の社会への転移』が考えられるが、これはS.フロイトのエディプス・コンプレックス論などに示される『家族内部の情緒関係(親子関係)→外部社会の情緒関係(男女関係)への移行』という自立モデルが現代社会で上手く進まなくなっていることとも関係しているだろう。秋葉原や八王子の事件の加害者は生まれ育った家をでて、不安定な生活ではあるが『当面の経済的自立』を達成しており、表面的には自宅(両親)に基本的生活インフラを依存する会社員やフリーターよりも相対的な自立が出来ていたようにも見えるが、そこには信頼感・承認感を満たせるようなコミュニケーションと関係性(他者からの関心)が殆ど無かった。

なぜ、精神的自立に必要な『家族内部の情緒関係(親子関係)』から『外部社会の情緒関係(男女関係)』への移行が進みにくくなったのかの原因は簡単には語れないが、これは若者の自立心の低下や甘えの増加といった『心理的要因』だけに原因があるのではなく、ゲマインシャフト(規範的なライフイベント)の衰退と経済格差(雇用格差)の拡大が組み合わさった『複合要因』として捉えるのが正しいだろう。正社員−非正規雇用の経済格差の拡大や新卒採用主義の雇用慣行によって、新卒段階で安定した企業・官庁に就職できずにフリーターや派遣社員になった人たちが、満足な家庭生活(結婚生活)を送るような所得を得ることが難しくなった。

このことには『非正規雇用の低所得』という問題だけではなく『企業コミュニティの喪失』といった側面もあり、いかなるコミュニティ(安定した社会集団)にも所属できない孤独な若者を多く生み出すことにもなった。ゲマインシャフトとして相互扶助的な係わり合いを持つ社会は既に衰退していたが、社会コミュティの代替としての役割を果たしていた企業コミュニティをも失ったことで、『集団組織に所属したい個人』が疎外感や孤立感を感じやすい環境へと移行した。企業コミュニティに所属する人の数が減少したことは『職場での異性との出会い(職場結婚)の減少』にもつながり、『結婚』は急速に自己責任に基づく『市場化(経済生活上の利害)・恋愛化(魅力の選好)の様相』を強めたと言える。

所属するコミュニティやお見合いと結びついた『ライフイベント的な結婚(大多数が結婚適齢期にすべき結婚)』が衰退し、女性の社会的自立に伴う未婚化・晩婚化の流れも進んだことから、不安定雇用の人たち(あるいは異性へのアプローチが積極的でない人たち)が異性と親密な付き合いができる可能性が相対的に小さくなった。『結婚の自由化』によって一定の年齢になったら結婚しなければならないという社会的圧力は弱まり、自分のライフスタイル(ワークスタイル)を優先しながら、『結婚する時期(結婚しないという選択)』を自由に選べるようになったという恩恵は確かに大きい。その一方で、かつてはライフイベント的な結婚や周囲の干渉(お見合いの設定)によって何となく結婚できていた人たちが、経済所得や恋愛機会の格差によって結婚しにくくなったという問題が生まれてきている。

安定した精神的自立を達成するためには、結婚するかしないかは別にしても、『家族内部の情緒関係(親子関係)』から『外部社会の情緒関係(男女・友人関係)』への移行が必要であり、その為には家族外部に信頼できる異性か親友との人間関係が形成されることが望ましい。長期間にわたって心理的に甘えたり親密にコミュニケーションできる相手が全くいない状態が続くと、『自分の存在意義・働くことの意味』や『プライベートにおける自己の位置づけ』を見失いやすくなるので、『外部社会の情緒関係(男女・友人関係)』が欠如している時には、家族(両親)や周囲の知人の心理的支援が必要になることも少なくないのではないだろうか。もちろん、自分は一人でも安定した精神状態が保てるし、一人の時間のほうが自由に自分の好きなことができていいという人も少なからずいると思うが、『完全な孤独状況(話したり会える相手が一人もいない)』『適度な孤独状況(その気になれば話したり会える相手が少しはいる)』との落差は非常に大きいものであり、長期的に完全な孤独状況を好む人というのは極めて稀であろう。

こういった事件報道を見ていると、成人した子に親の側から積極的に保護して上げなくても良いとは思うものの、子どもが困っている様子だったり働いていても社会的(対人的)に孤立していたり、『相談に乗って欲しいことがある』と向こうから来た場合には、快く迎え入れて上げて心理的な援助・アドバイスを与えてあげることは必要かもしれない。八王子のケースでは数年間にわたって親子が音信不通であり、父親が『相談には来ていない』と話しているので、息子からの直接的な相談内容といったものは無かった可能性もあるが……子どもの側も無関係な他人を傷つけるほどに追い込まれているのであれば、迷わずに親や兄弟、心理専門家などに苦境を相談すべきであろう。

その一方で、恋人や配偶者が出来て『自分固有の人間関係』が安定し始めれば親の心理的援助が必要な場面は大幅に減ってくる。また、『精神的自立の個人差』や『社会的責任(倫理規範)の自覚の個人差』は非常に大きいので、すべての成人の子にそういった心理的な配慮・支援が必要なわけでは当然ない。結局、子どもが『持続可能な自分の経済生活と人間関係(情緒関係)』を作り上げていけるかどうか、一人で生きていける強さを持たない大半の人にとっては『相互に甘えられる(信頼できる)関係性』を形成できるかどうかがポイントなのではないかと思うが、自分の絶望や不満を理由に『無関係な他人を傷つけてはいけない・他人に暴力的な八つ当たりをしてはならない』というのはそれ以前の原則的な倫理判断・自己責任の問題ではある。

法的・倫理的な責任問題を別にすると、何歳であっても子どもが経済的・社会的・対人的に厳しい生活(一人暮らし)をしているような状況なのであれば、時々電話をかけたり定期的に会って近況を聞いたりするといった気配りが『孤立感・無意味感・破壊衝動の緩和』に役立つかもしれない。『自分のことを親が心配してくれている・いつもどこかで気にかけてくれている』ということが分かるだけで、『親を困らせるための自暴自棄な犯罪』を確実に減らす効果があると思うし、共感的なコミュニケーションができる相手が一人もいないというような状況は精神衛生上の観点からも好ましくはないだろう。

こればかりは個人差が大きいので一概にこうしたほうが良いというアドバイスはできないが、何年間も音信不通で子どもがどんな仕事をしているのかまともな生活をしているのか生きているのか死んでいるのかさえ分からないという状況は当然好ましいものではなく(八王子のケースのように、どちらかが意図的に自分の連絡先や居住地を隠蔽して連絡できないようにしているケースでは仕方ない面もあるだろうが)、ある程度は定期的に簡単な言葉(思いやりの感情)や近況(現在の生活状況)を交わすことが必要なのではないだろうか。

『自己中心的で未熟な人間・社会生活に適応できない幼稚な人間』が他人に危害・迷惑を加えるような犯罪を犯すというのは一種のトートロジー(同語反復)である……伝統的共同体が衰微したアノミー(無規範)な現代社会において、個人の未熟性や幼稚性の弊害を考える場合には、『個別的な環境適応度』『主観的な情緒的満足度』が前提されていなければならない。また、未熟性や幼稚性を『市場・娯楽・アイデア・好奇心の原動力』とする側面がある現代資本主義では、成人年齢の社会人の多くが『成熟と未熟の中間領域』においてその人生をまっとうすることになるのだが、現代社会における成熟と未熟の問題についてはまた改めて考えてみたい。






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