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help リーダーに追加 RSS 言論・表現の自由と公共の福祉による人権の制限2:政府からの自由と政府による自由(保護)のバランス

<<   作成日時 : 2008/06/09 18:53   >>

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現代の自由民主主義国家で、社会全体の利益や秩序によって個人の自由・権利を制限することができるという外在制約説を採用している国は殆どありません。それは、政府(世論)の政策的・功利的判断に規制基準が左右されやすい外在制約説では、国民主権(主権在民)によって精神的自由を十分に保護することが難しく、恣意的な基本的人権の制限が行われる危険性を排除できないからです。外在制約説では社会全体の利益や多数者の支持する慣習的規範によって、個人の種々の人権が強制的に制限される可能性に絶えず開かれており、人間の尊厳(プライバシー)と主体性(他者からの自立性)を根底において保証する『自己所有権(自分の人生・生命を最終的に自分が所有し、他者の権利を侵害しない範囲でコントロールできるとする権利)』を否定する法権力と背中合わせなのです。

また、原理的に『個人の自由・権利』は国家(法律)によって保護されるものであっても、国家や民主主義(数的な優劣)によって『個人の自由・権利の価値』そのものを制限することはできませんから、人権原理の外部的要因(全体の秩序・利益)によって人権を制限できるとする外在制約説には集団主義的(秩序志向的)な国民統制のリスクがあります。内在制約説は基本的人権の不可侵性を前提としており、人権の内在的な限界である『他者危害原則の基準』によってしか人権(自由権)は制限できないとするものですが、『集団規範(公権力)と私生活との距離感・価値観の選択の自由』を担保しているという意味で外在制約説よりも個人の内面的な倫理観を重視した立場であると言えます。

基本的人権が公共の福祉によってどのような形で制限されるのかという理論的な部分については『Wikipediaの公共の福祉』が参考になりますが、他者の干渉(権力による干渉)からの自由を意味する自由権については『一元的内在制約説』が通説となり、国家が生存権を保障する社会権(経済的自由)については『内在・外在二元的制約説』が通説となっています。つまり、自分ひとりで実現可能な精神的自由(政府・他者からの自由)については『他者の自由・権利の侵害』以外の要因によっては制限することができないとされていますが、国家の経済政策や他者の納税(所得の再分配)などが必要な自分ひとりでは実現できない経済的自由(最低限度の文化的な生活保障)については『人権以外の財政状況・政策判断・努力義務』によって一定の制限が加えられる可能性があるとされています。

個人主義というと利己主義(エゴイズム)と同義のものとして批判的に評価されることも多いのですが、近代社会で最も普遍的な価値の一つである『精神的自由(思想・信条・良心・言論の自由)』は究極的には『数の論理(集団の同調圧力)』に対抗可能な個人主義の法的保障がなければ実現することができません。個人主義の倫理性は『他人の自由(選択)を強制的にコントロールしようとしないこと』にありますが、集団主義の倫理性は『集団社会(国家)の目的や全体的な利益・秩序に向けて個人をコントロールすること』にあります。

近代以前の共同体社会では集団主義の倫理性が支配的でしたが、現代の自由民主主義社会では個人主義と集団主義の倫理性の間を世論が揺れ動いているものの、『ある価値観や多数派の主張に反対する自由・自分の意見や思想を検閲されずに表現する自由』というのは民主主義社会の根幹であり、言論(表現)の自由そのものを政治的決定で否定することは出来ません。自由主義に個人主義を加えた価値観に対しては『社会的な義務や公共の倫理が軽視されている』という批判もありますが、自由主義・個人主義が社会的責務や倫理的判断を軽視する性格を持っているわけではなく、個人の理性的判断や主体的選択を尊重して社会的共生・他者との協調を自発的に促進するところに特徴があります。

自由主義(個人主義)とは『法的な強制力・集団の同調圧力』を倫理観や価値観の精神的次元には極力持ち込まないという立場であり、教育活動や社会生活、経済活動を通して形成される『個人の主体的な倫理観』と『行動・価値の選択の自由』を尊重することに主眼があります。そのため、『個人の社会(伝統維持)に対する積極的な協力・社会的(国家的)な適応に向けたコントロール』を重視する保守主義的(伝統主義的)なスタンスと自由主義(個人主義)の相性は余り良くない部分もあるのですが、現代の自由民主主義社会では『他者の行動・考え方をある特定の方向に強制的にコントロールする規制(社会全体の目的的秩序に合致しない個人を処罰するような規制)』というのは基本的にできないようになっています。

青少年ネット規制法には『判断能力・責任能力が未熟な青少年の保護(教育的配慮)』という合理的な理由がありますが、インターネットにおける一般的な有害情報・誹謗中傷の規制が難しいのは『何が有害情報であるのかの権威的な定義・判断』によって事前規制できないはずの精神的自由が侵害される恐れがあるからであり、『適度なレベルの情報規制(情報の善悪の判断基準)』を策定する権威的主体の正統性を担保することが難しいからです。『政府(国家)からの自由』という古典的自由主義と『政府による自由(保護)』という近代的リベラリズムの対立は、基本的には『社会権が規定する経済的自由(欠乏からの自由)』を巡る対立であり、精神的自由との直接的な関わりはあまりありませんでした。

最近話題になることの多いネット規制やタバコ規制(taspo導入)などの国民保護政策は環境管理社会(社会環境のシステマティックな管理)に関連するトピックであると同時に、『政府による経済生活の保護(社会保障)』に加えて『政府による精神生活・健康生活の強制的な保護(情報環境の人工的な整備)』をどこまで認めるべきかという問題でもあります。インターネットにおける受忍限度を越えた誹謗中傷の対策は、一律的な情報規制(検閲・削除)ではなく当事者間の交渉や法的対処で解決することが望ましいと思いますが、現在の司法(民事訴訟)による問題解決は手間と時間がかかり過ぎるという問題があり、ネットの誹謗中傷に対応しやすい『新たな訴訟制度(原告・被告双方に負担が少なく教育的効果が期待できる低額の損害賠償制度やネット接続をISPが制限するペナルティ制度など)』や『司法手続きの迅速化』が求められるのではないかと思います。







■関連URI
言論・表現の自由と公共の福祉による人権の制限1:個人の自由(権利)と主体的倫理のバランス

情報化社会における著作権・知的財産権の問題4:リバタリアニズムと功利主義の視点から見る著作権の正当性

“言論・表現の自由”とインターネットの規制論議:青少年保護のためのフィルタリングと規制の強度の問題

自殺を“個人の問題”に還元しない自殺対策と自由主義社会におけるアトミズム(個人化)の問題:1

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