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zoom RSS 古典的なヒステリー性格の特徴と自己愛性人格障害:他者への信頼感と共感性の視点

<<   作成日時 : 2008/05/31 05:42   >>

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神経症(neurosis)は心理的原因による心身の機能障害と位置づけられますが、無意識的願望や二次的疾病利得が反映されるヒステリーの自己暗示的な側面について過去の記事で説明しました。ヒステリーの身体症状(麻痺・けいれん・感覚‐運動障害)を発症させる自己暗示は何らかの疾病利得と関係していることが多いですが、クラスターBの人格障害へと推移したヒステリー性格は『他者の注目・関心・評価』を求める外向型性格の過剰に由来しています。

ヒステリー性格には『情緒不安定・衝動的な攻撃性・幼児的な依存性(暗示性)・自己顕示性の強さ・表層的な虚言(嘘)の多さ』などの特徴がありますが、これらの特徴は自己愛性・境界性・演技性人格障害の特徴と重複するものです。幼児的な依存性は、感情・気分の波が非常に大きく、自分の価値観や能力を認める相手には依存的に振る舞うが認めない相手には途端に攻撃的になるという対人評価(人間関係)の部分に顕著に現れます。暗示性(催眠感受性)は、周囲の意見への同調性が反映される『流行現象への従属』などになって現れ、自分の身体的な違和感(呼吸・心拍・気分・内臓感覚の乱れ)に対しては『自分は深刻な病気なのではないか?』というヒポコンドリー(心気症)の傾向が発生します。

自分の身体の違和感や病気の可能性に意識・関心が向かい過ぎるというのが神経症の特徴であり、ヒステリーだけではなくかつて精神衰弱と呼ばれた不安性障害群にもヒポコンドリー(心気症)傾向は強く見られます。現代精神医学ではジャネの精神衰弱という疾病概念は使われていませんが、性的欲動(リビドー発達)を中心とする精神分析理論に反対したフランスの精神科医ピエール・ジャネ(1859-1947)によって精神衰弱という疾病概念が提起されました。ジークムント・フロイトとピエール・ジャネは、19世紀の神経医学・催眠療法の最高権威の一人であったジャン=マルタン・シャルコーに師事した経歴を持ちますが、フロイトもジャネも本人が自覚できない無意識領域の心的過程が精神疾患の発症に関係しているという仮説を立てた点では共通しています。

ピエール・ジャネはトラウマ(心的外傷)の固着‐反復‐再現のプロセスを理論化して研究し、ヒステリーと精神衰弱(不安性障害)を心理自動症の概念から分類するという成果を上げましたが、フロイトの精神分析学の無意識(幼児期外傷)による決定論や自我構造論(エス・自我・超自我)に対しては否定的な立場を取りました。しかし、フロイトもジャネも無意識領域に抑圧された『過去の心的体験』が反復・再現して精神症状を引き起こすという基本図式を共有して持っており、二人の理論的仮説は力動的心理学(力動的精神医学)の原点となっています。S.フロイトは臨床経験・内観法に基づく科学的精神医学の構築を目標としましたが、人間の精神現象や無意識の基盤に『本能的・生理的なリビドー(性的欲動)』を仮定したところがP.ジャネとの最大の違いでした。

P.ジャネはトラウマによる解離症状の研究を通して『性的欲求(性的想像)の抑圧』とは無関係なトラウマ形成過程があることを示唆し、『リビドー発達の障害・性的欲求の抑圧』よりも『(性に一元化しない)心的外傷の固着・侵入・反復‐再現』を精神疾患の心因として重視すべきだと考えました。性的問題へのこだわりの強さに違いがあるとはいえ、フロイトもジャネも過去の心的外傷の反復・再現を精神疾患の本態であると考えた点では類似した仮説的発想を持っていたと言えます。

ヒステリーの自己顕示や虚栄心の強さは、実際の自分よりも自分を優れたものに見せようとする行為や虚言(嘘)として現れますが、その価値判断の基準は『学歴・年収・所属企業・配偶者の属性・家柄・ブランド品(高額消費)・成功体験』など社会一般的な権威や俗世間的な価値観に依拠したものが多くなります。内面的(人格的)な美点や知性的(学術的)な水準についての自己顕示や強調というものは基本的には余り見られず、人格的な美点は社会的な権威・地位と同一化しており、具体的な知識(知性)や技能よりも分かりやすい学歴・職業のほうに重点を置いた話をする傾向があります。自分や関係者がいかに他人よりも恵まれた属性を持っているか、どれくらい幸せな生活をしているかを実際よりも相当に大袈裟に吹聴するというのは、自己愛性人格障害の特徴でもありますがその原型は自己顕示的なヒステリー性格にありました。

自己愛の過剰は承認欲求の増大と比例しますが、幼児的なヒステリー性格では『子どもっぽい負けず嫌い』の傾向が見られ、『相手の長所や美点を素直に認めない・相手よりも自分のほうが優れていることを過度に強調する・相手の名声や価値を意図的に引きずり落とそうとする』といった言動になってその性格が現れます。自己愛性人格障害では『自己愛の過剰』と合わせて『他者への共感性の欠如』が典型的な特徴とされますが、古典的なヒステリー性格でも『対象関係における情緒発達の未熟さ』によって他者への共感性が低下することが含意されていました。

情緒発達の未熟さというのは『自己愛から対象愛への発達』が上手くいかなかったことを意味しており、プレ・エディパル(エディプス期以前)な幼児期の自己中心性が児童期〜青年期以降にまで遷延してしまった状況にあります。更に言えば、自分以外の他者の内的心理への想像力に何らかの問題があることが多く、『他者の苦痛・不快・立場』を無視して自分の自己顕示や承認欲求を押し付けてくるような強引さが見られるということになります。他者を自分の承認や満足、不安のための引き立て役(自己確認の道具)として利用することがあるというのが、『自己愛の過剰』によって引き起こされる重大な問題の一つなのですが、ヒステリーでは特に自立困難な身体症状や性格傾向によって相手を思い通りにコントロールできるという疾病利得が潜在的に働いています。

こういった傾向は、境界性人格障害の見捨てられ不安や両極端な対人評価(理想化とこき下ろし)、自傷行為・自殺のほのめかしなどに典型的に見られますが、自己愛性人格障害や演技性人格障害でも『他者への共感性の低さ』によって表面的な人間関係しか作ることができないという主観的苦悩が生じやすくなります。クラスターBの人格障害は、自己中心的で他人をコントロールして迷惑をかけるという側面に注目がいきやすいですが、内面的にはクラスターBの人格障害を持つ人も『深くお互いを理解し合える人間関係を作れない・継続的な安定した人間関係を持てない』という慢性的な悩みを抱えていることが少なくありません。ある意味では、発達早期における『他者への基本的信頼感』『孤独に耐える一定の自己評価』が適切に形成されなかったために、大切な他者に一方的に見捨てられることを恐れて過度に自己中心的かつ依存的(操作的)に振る舞うという部分があります。

ヒステリー性格では『自分への注目と関心を維持し続けること』が無意識的に志向されており、大袈裟な感情表現や誇大な自慢話をする理由の一端も、自分が実際以上に魅力的な人物であることをアピールして他人の興味や承認を絶えず集めることにあります。逆に言えば、実際の自分をありのままに表現しても、他人は大して自分に興味関心を持ってくれないのではないか、何か知人が面白く感じる刺激的なことをいつも大袈裟に言っていなければ、知人が自分の元を離れていってしまうのではないかという不安を抱えている状況でもあります。そこには、嘘や作り話でも良いので、他人があっと感心したり驚いたりするようなことを言っていなければ、特別な魅力や面白みのない自分は他人を継続的に引き付けておくことが出来ないという劣等コンプレックスが介在しており、ヒステリー性格の過度の外向的な親和欲求が直接的に反映されていると言えます。神経症のヒステリー(心因性の身体症状)や精神衰弱(不安性障害)の発症機序について、『無意識的な自己暗示』の観点からもう少し補足したいと思います。






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「自己愛」と「依存」の精神分析―コフート心理学入門 (PHP新書)
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