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help リーダーに追加 RSS 東京都江東区潮見のマンションで起きた隣人による殺害事件:特異な反社会的人格と都会のマンションの盲点

<<   作成日時 : 2008/05/27 08:25   >>

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東京都江東区潮見に立つマンションの最上階(9階)の一室から、僅かな血痕とピアスを残して忽然と23歳の女性が消えた事件は、当初から非常に奇異な印象を受ける事件で気になってはいました。行方不明になっていた23歳の女性は広告会社勤務の派遣社員・東城瑠理香さんであると発表されましたが、事件は予想される幾つかの蓋然性の中で最悪の展開へと進んでしまいました。日々の時間と出来事が絶え間なく流れていく中で、江東区潮見のマンションの失踪事件をほとんど意識することもなくなっていたのですが、東城さんが4月18日の午後7時半頃に行方不明になって一ヶ月以上が経った5月25日に状況が急展開しました。

同マンションの同じ9階に住む派遣会社社員の星島貴徳容疑者(33)が住居侵入の容疑で逮捕され、東城さんを暴行する目的で部屋に侵入後、自室に連れ込み殺害し遺体の切断を行ったという供述を始めました。現在の報道では、星島貴徳容疑者の具体的な行動の時系列は発表されていないのですが、東城瑠理香さんが行方不明になった翌日の午前中には警察の捜査陣を自室に招きいれており、相当に迅速なスピードで犯行を遂行し短時間のうちに自室から東城さんを連れ込んでいた痕跡を消し去ったと推測されています。

女性を拉致した直後の4月18日夜間にも星島容疑者は警察の簡易な事情聴取を玄関脇で受けたとも言われていますが、おそらくその時点では女性の安否は不明なものの、遺体を隠蔽する作業は未だ行われていなかった(物理的・時間的に不可能であった)と思われます。そして、翌日の午前には警察に自室に上がりこまれても何の異常も感じられないほどに部屋(トイレ・バスルーム)の状態をコントロールしていたという常識からは考えにくい手際の良さを見せています。

この問題の発覚当初には、妹の瑠理香さんがお姉さんに「(自宅に)着いたよ」というメールを残した直後に行方不明になったため、姉の警察への通報がこの種の事件ではなかなか期待できないほどに早かったという好条件がありました。マンションへの出入りをモニターする防犯カメラの映像の分析から東城さんがマンション外部に連れ出された可能性は極めて低く、内部犯が自室に監禁している可能性が高いという推測を警察は当初から強く打ち出していましたが、この推測を東城さんの生存確保に結び付けられなかったのは非常に残念に思います。しかし、東城さんの救出ができなかったことの原因の多くは警察の初動捜査のミスにあるというよりも、法治国家における法手続き上の限界と加害者である星島容疑者のパーソナリティの特殊性にあったのではないかと考えます。

民間人の自宅(プライベート領域)に捜索令状無しに強制的に侵入して家宅を捜査する権限があれば、確かにこの一件に限って言えば良い結果が出せた可能性は高いと思いますが、刑事訴訟法に定める令状主義は国家権力の強制措置と私生活の平穏のバランスを保つための原則ですのでこれを覆す強権を警察に与えることは今後も難しいでしょう(女性の悲鳴や争い合う物音が聞こえるなど緊急性が自明のケースを除いて)。また、行方不明の発覚時点では東城さんがどういった種類の犯罪や事故に巻き込まれたのかが特定困難であったこと、星島容疑者の行動選択とパーソナリティ特性が通常の性犯罪者から想定されるものよりも計算高く、犯行後の異常な隠蔽工作が迅速であったことが警察の捜査のスピードを上回ったようにも感じます。

犯罪の実行方法や目的・発想そのものは幼稚かつ安直で衝動的なもののように感じるのですが、犯行後わずかな時間で痕跡を消し去った隠蔽工作は、具体的な時系列と星島容疑者の精神状態が想像しにくいほどに整然とした計画性を感じます。星島容疑者の表面的な愛想の良い対応と自宅捜査(指紋提供)への協力的な姿勢もある程度のカモフラージュの役割を果たしたのかもしれませんが、結局はかなり強い嫌疑を警察が感じながらも、任意の自室捜索の段階で星島容疑者を問い詰められるだけの物的証拠(東城さんにつながる遺留品・痕跡など)が出てこなかったというのが事件の発覚が遅れた一番大きな要因でした。

この事件の真相が世間の不安感・嫌悪感を煽り立てた要因としては、『同じマンションに住む2部屋隣の女性を無防備に襲っていること・暴行目的から予想される結果を遥かに逸脱した陰惨な隠蔽工作が短時間(短期間)で行われたこと・星島貴徳容疑者が事件後に平然とした態度でインタビューを受けていること』などが想定されます。任意の事情聴取というのは姉の通報の数時間後に行われているわけで、その時点では自室に東城さん(安否不明ですが)が居たと予測されるにも関わらず、星島容疑者は何ら動揺する素振りを見せず警察は不審な室内の様子を観察することもできませんでした。重大事件を起こした翌日に、ニヤニヤとした薄ら笑いを浮かべながらマスメディアのインタビューに他人事のように『演技的な嘘(虚言)』で応えていることなども印象的ですが、星島容疑者は『平均的な感情反応・道徳感情の鈍磨』と『表層的な社会適応の良さ』が結びついたような特異的なパーソナリティ構造を持っているのではないかと感じました。

犯罪精神医学では、平均的な感情機能・共感能力の持ち主が実行することが困難であるような遺体損壊は『重篤な精神障害(妄想幻覚)・一時的な解離(現実感消失)・人格障害(反社会的な精神病質・情性欠如者)・サディズム(嗜虐性向)やネクロフィリア(死体性愛)』のいずれかのカテゴリーにおいて説明されると考えられますが、遺体を損壊している場面だけの記憶(情景)が抜け落ちている解離性健忘というのは比較的多く報告されます。意識水準が低下して現実認識能力が衰えたり自我アイデンティティが拡散する『解離(dissociation)』というのは“病的な精神症状”から正常圏に隣接する“防衛機制”まで幅広く見られる精神状態ですが、猟奇性・嗜虐性の強い異常犯罪に手を染める人のかなりの部分が“慢性的な解離状態・パーソナリティの一部となった解離状態”にあると考えられています。

反社会性人格障害が『人格構造の偏り』であり『精神の病気(障害)』ではないように、基本的にはかつてサイコパス(精神病質)と呼ばれていたような反社会的・情性欠如的な人格を持つ人の多くは、法的責任能力(判断能力・目的意識・計画能力)を喪失しているわけではありません。また現在のDSM‐Wで反社会性人格障害という分類概念で整理されているサイコパス(精神病質・社会病質)は、必ずしも冷淡無情な犯罪者のみを意味するわけではなく、『他者(生命)への共感性・行為責任の自覚・罪悪感や反省の感情・嘘をつくことの抵抗・現実世界の規範意識のリアリティ』が欠落しているような性格構造を持つ一群の人たちを指します。反社会性人格障害とサイコパスは厳密には同一の人格障害概念ではなく、反社会性人格障害は一般に社会適応性が低いとされますが、サイコパスは表面的な社会適応や人間関係の構築にかけては正常圏の人格と同程度以上であることも多いと仮定されています。

サイコパスのほうが『表向きの適応的な人格特性(常識的な見せ掛けの態度)』『本当の反社会的な人格特性(他者に対する良心の欠如と残酷性)』の二面性がより強く含意されていると言っていいでしょうし、『法律・道徳・他人の不快(権利)』が規定する善悪の判断基準が理性的に理解できないという自己中心的な反社会性を強く持っています。慢性的な解離状態はぼんやりした意識の中で“現実感覚(現実認知)の減弱化”を引き起こし、“私と他者のリアリティ”を奪い取ることで良心的・道徳的な感情機能を麻痺させます。『解離』そのものは意識レベルの低下であり反社会性とは直接的な関係を全く持ちませんが、他者の感情や権利を共感的に思いやることができない方向に解離が亢進すると、良心や罪悪感が欠如して衝動的な行動欲求が高まるという問題が起こってきます。

反社会性人格障害(サイコパス含む)には、現実認知と道徳判断を担う脳の前頭葉の機能に何らかの器質的・内分泌的障害があるとする生物学的な仮説もありますが、現代精神医学においても原因は不明であり先天的要因(遺伝・内因・体質気質)と環境的要因(心的外傷・家族問題・性的問題・共感体験や愛情関係の欠落)の複合によって生起するという以上のことは言えません。本人に『主観的な苦悩』や『他者への共感機能』『加害行為に対する罪悪感(良心の痛み)』が元々存在せず、独自の観念的な世界観や特殊な善悪判断の基準を確固とした信念で築き上げているケースでは、心理療法やカウンセリング、矯正治療なども殆ど効果を上げることはできません。東京都江東区で起こった残忍な事件の加害者である星島容疑者に、臨床的な反社会性人格障害があるとは断定できませんが、公表されているインタビューの演技的な話し振り(虚言)や表情、罪悪感と責任感の欠如などは反社会的な人格特性の傾向を強く持っている一つの現れだとは言えるでしょう。

少なくとも加害者に、非道な行為に対する後悔(反省)の気持ちや無実の人間を殺してしまった自分を内面的に責めるような罪悪感が全く見られないというのは確かですし、一言で言うならば自分の人生や社会的な現実に向き合う『真剣味(誠実性)・良心性の一切』がばっさりと削ぎ落とされてしまったような空虚な印象を受けます。マスメディアのインタビューで浮かべる不謹慎な笑顔からは『当事者性と責任意識の欠如・現実状況の無視』が顕著に伺われるのですが、非常に多弁で積極的にしゃべり続けている割には、人格構造が空疎で自我の実態(感情・意図の本体)が無いような奇妙な感じもあります。つまり、『この場面では、このように答えることがマニュアル的には妥当だろう(自分が疑われにくくなるだろう)』という脚本に沿ってしゃべっているという印象を強く受けるということですが、手を落ちつきなく絶えず顔(顎・口)の当たりに持っていく動作や的外れな場面での笑いというのは、内面的な焦燥感や不安感からの防衛(他人に自分の本心・意図を見透かされるのではないかという不安)が無意識的に現れているとも解釈できます。

嫌疑(捜査対象)から自分を外すために、マニュアル的な模範解答に終始しようとする姿勢は分かるのですが、それに終始するためには、星島容疑者自身の自我や欲望の実態を偽装しなければならなくなってきます。その偽装が十分に上手くいかなければ、所々に『矛盾する主張』がでてくることになりますが、星島容疑者は自分の関心の一部を話したい欲求を制御できずに『私は女性に興味がないのであまり詳しく顔を見ていないけど、身長とかが違うと思った』と述べた後に、『916に住む人はショッキングピンクのビビッドな感じのボストンバッグを持っていた』とか『場所柄ホステスさんが多いのでその延長線上にいる人かと思った』というような実際の東城さんとは異なる女性のイメージで(自分は行方不明の女性を余り見ていないという)印象操作をしながらも、女性のファッションや雰囲気に対する関心について意図せずして語っています。

そもそも女性が好きなことが当たり前の33歳・男性が、わざわざ『私は女性に興味がない(ヘテロセクシャルではないからこの事件に関わりようがない)』という前置きをする必然性がなく、女性が自室で行方不明になった時点では女性が性犯罪に巻き込まれたという客観的証拠は何もないので、不自然な臆測(当事者しか知り得ない事実)に基づく発言と受け取られる恐れもあります。また男性の異性愛の性癖を知る知人が一人でもいれば、意図的に自分を捜査対象から外すために偽装した発言であると看破されるリスクを孕んでいます。同じ階に住んでいる東城さんに挨拶をしたことはなかったのかという問いかけに対して、笑いながら『男性が女性一人の部屋に挨拶に行けば警戒されるでしょう』というような初めから隣人の男性が女性を簡単に襲いかねないという関係図式(前提)で話を進めている点にも違和感を感じますが、何の落ち度もない女性を無残に殺しておきながら良心の呵責や精神の変調がないということも人格構造の極端な偏りを想起させます。

こういった人格構造の形成過程にはさまざまな心理的要因や器質的原因が関与しているとされますが、サディスティックな行動パターンの心理的要因としては、性的欲求の充足形式や異性関係の原型認識の異常が何らかの劣等性コンプレックスと結合したということが想定されます。共感性の欠如については、発達早期における母性剥奪(愛情・保護の剥奪)や深刻な心的外傷が精神機能(感情機能)の発達障害を引き起こすことがありますが、良好な人間関係が築けなかったことによる自己対象(大切な他者)の獲得の失敗なども共感性の欠如に関係してきます。その根本には、他人から愛されたり保護された体験が決定的に欠如しているために、自己愛から対象愛への変遷が上手く進まないという問題があり、他人が自分と同じような人格や感情(痛み)を持った存在であることを的確に認識できないという対象認知的な障害があります。自分と無関係な女性に対する性犯罪やサディズム(嗜虐志向)、性的加虐を伴う無差別殺傷の場合には、単純な性欲充足の衝動に突き動かされているというよりも、過去の異性体験(異性とのコミュニケーション)や性愛の価値判断によって形成されたミソジニー(女性憎悪)と劣等コンプレックスの補償が深く関わっていることが多くあります。

加害者が、東城さん(おそらく自分以外のすべての他者)を自分と同じ存在価値を持った一人の人間として認識していない部分に名状しがたい無機質的な冷淡性・残酷性を感じて暗澹たる気分になりますが、誰もが懸命に自分の人生を生きていてその人生を理不尽に終わらせる権限は誰にもないという当たり前の事実(規範)を忘れないでいることが『良心を持つ人間』としての最低限の条件だと考えます。また、被害者の女性が多くの人間関係に囲まれたかけがえのない唯一の個人であったことを思うと何ともやりきれない気持ちになりますし、ご両親やご姉妹の方の計り知れない苦痛や怒りは想像して余りあるものがあります。加害者の犯した罪の深さは彼がインタビューで見せた軽薄な笑いの対極にあるものですが、それが恐らく加害者の心には永遠に届かない深みにあることを考えると、大多数の人間に備わっていて当然とされている良心や共感性というものの不確かさに不安を覚えます。

表面上の人当たりの良さと社会的な一定の適応能力の高さから、容疑者の本質的な人格構造や攻撃衝動・嗜虐志向を事前に見抜くことは極めて困難であるか不可能であったと思われますが、本件は都会のマンションのセキュリティの死角(内部犯が存在するリスク)をまざまざと見せつけた事件でもありました。こういった事件を一般化して語ることはできないと思いますが、マンション(集合住宅)の隣人の最低ラインの安全性・常識性をどのように担保できるのかは非常に難しい問題ですし、ある程度までは自分で気をつけることができても確率論的な不幸を完全に回避することはできないでしょう。すべての他人・訪問者が信用できないという前提に立つのであれば、マンションの部屋前の廊下まで完全に防犯カメラでモニターするという方法もありますが、プライバシーを確保したい住民の要求とのバランスが問題としてあります。

地域コミュニティが存在しない“寄せ集めの個人(お互いに無関心な個人)”が住む都会のマンションやアパートというものが成立するためには、極端な迷惑行為や加害行動はしないだろうという“暗黙の信頼感・一定の常識ラインの共有”が必要になってきます。そもそも建築年が古いマンションやアパートには防犯カメラやセキュリティシステム自体が無いことが多いので、女性の一人暮らしには向かないともいえるのですが、すべての女性が万全のセキュリティシステムがあるマンション・一戸建てに住むべきという前提は現実的には成り立たないでしょうね。致命的事件の発生率だけから見ると自分が被害に遭う可能性は低いと思われますが、一回でも危険な執念深い人物に目をつけられれば不可逆的な損害を受けるリスクがあるので、セキュリティ・システムの充実や自己防衛(防犯意識)で追いつかない部分をどのような方法でカバーできるのかというのは本当に差し迫った問題だと思います。本人に何の責任がないにも関わらず加害者の常軌を逸した悪意と複数の不幸な出来事の重ね合わせによって、本来起こるべきでない悲劇に巻き込まれた東城瑠理香さんの安らかなご冥福を深くお祈り致します。






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