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zoom RSS “内的表象による不安症状”の持続性と“外的対象による恐怖症状”の即時性:行動力を抑制する自己不確実感

<<   作成日時 : 2008/04/17 09:18   >>

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心理的不快をもたらす精神症状の代表的なものとして『不安(anxiety)』がありますが、持続期間の短い『正常圏の不安』には『恐怖(phobia)』と同じような特定可能な理由が見つけやすく、持続期間の長い『病理的な不安』には特定可能な理由が見つけにくいという特徴があります。他人に『不安の内容』を具体的に説明しやすく、不安な問題について話を聴いてもらうと気持ちが落ち着いて、自然に不安が和らいでいくという場合には病理的な不安とまでは言えないでしょう。反対に、『不安の内容』についての自己理解が難しく他人に言葉で説明しにくい感じがあり、それなりにしっかり話を聴いてもらってもカタルシス効果(感情浄化の効果)が得られない場合には、『病理的・性格的な不安』である可能性も出てきます。

深刻な不安症状の場合には、不安発生やパニック発作の頻度が多くて日常生活に実際的な支障が起こってくることがあります。その一方で、対象が曖昧な漠然とした不安が絶えずつきまとっていても、具体的な自律神経系の不安症状(発汗・動悸・胸痛・胃部不快感・手足や声の振るえ)が見られないケースもあります。この場合には、日常生活に深刻な支障はないのですが、不安感情や自己不確実感の強い性格傾向によって、社会生活や対人関係における適応に一定の困難を覚えることがあります。S.フロイトによると不安とは外界のストレスや不快な感情の抑圧に対する反応であり、不安の起源は自己の生存可能性を脅かされる『死の不安の予期』にあるとされます。生命・身体を傷つけられるかもしれないという『死の不安』はより直接的には『闘争‐逃走反応(fight or flight reaction)』を生起させる恐怖(phobia)と結びついていますが、不安は恐怖よりも弱い恐れの感情であり『危険に対する警戒信号』としての役割を果たしているとされます。

不安障害の下位分類であるパニック障害では、バス・電車・建物内などでパニック発作(恐慌発作)を起こすかもしれないという『予期不安』が自己暗示的な精神交互作用の観点から問題視されます。予期不安がパニック発作のきっかけとなる意味では、この不安感情は『想像的な危険に対する誤った信号』として機能してしまっていると言えます。バーロウ(Barlow)は認知論的観点から『誤った警報理論』を提起しましたが、パニック発作を一度経験してしまった人は、『いつもと違う身体感覚の異常・呼吸の違和感・手足や背中の発汗・心臓のドキドキ』『死や発狂につながる危険の信号』として誤って認知する傾向があります。

大多数の人にとってはそれほど気にならない『日常的な身体感覚の変化(違和感)』を、非常に危険で『最悪の結果(死・発狂)』につながりかねない破滅的な信号として認識してしまうことで、パニック障害に関係する不安発作や予期不安が強化されてしまいます。パニック障害における不安症状では、過去のパニック発作の経験が『間違った警報・間違った危険信号』の学習につながってしまうという要因が大きく、予期不安に対しては『身体感覚・呼吸心拍の違和感』に過敏に反応し過ぎないような認知療法的な対処が有効です。『予期不安による症状発生のフィードバック』が絡むパニック障害は、(神経伝達障害の生物学的要因を基盤に持ちながらも)悲観的な認知によって引き起こされる『不安』の代表的なものと考えることが出来ます。

生命の危機を直感させる『恐怖の外的対象』に対しては、人間は反射的に『闘争‐逃走反応』を選択しやすいですが、生命の危機をイメージ(表象)させる『不安の内的対象』に対しては、人間は学習的に『自我防衛機制(ego defense mechanism)』を発動させやすくなります。『恐怖の外的対象』は短時間のうちに『危険との戦い(危険からの闘争)』の結果が出て恐怖反応が消失しやすいですが、『不安の内的対象』は本人が不安の対象・内容をイメージ(表象)し続けている限りは持続するという特徴を持ちます。心的過程によって形成される不安感の厄介なところというのは、怖い対象が明確な恐怖感以上に長い期間にわたって持続しやすく、『内向的・強迫的な性格傾向の偏り』によって不安感が強化されるということです。恐怖の原因となるものには多かれ少なかれ共通性があり、『刃物・銃火器・暴力・多足類の昆虫』などは苦手な人が大半ですので、恐怖の個人差は不安の個人差よりも一般に小さくなります。

反社会的組織(人物)に身体の自由を拘束されて眼前に凶器を突きつけられているのに、笑顔で何の恐怖も感じずに応対できるというような性格の人というのはまずいませんが、ある人が感じている『内的な不安』についてその内容を聴かされても『何でそんなことくらいで不安に思うんだろう?くよくよ不安に感じて悩んでいても問題は解決しないのに』と感じる人は多いと思います。

最近話題になることの多い将来不安や各種の社会問題(社会保障・景気情勢・治安状況・政策判断)についても、自分が厳しい生活状況にあってもそれほど不安を感じず、それなりに頑張っていれば何とかなるだろうと楽観的に構えられる人もいれば、ある程度安心できる社会経済的地位に居ても将来が不安でたまらない人がいます。こういった不安感受性の個人差が非常に大きくなってくると、通常の日常生活や対人関係を持つことさえ困難になる『全般性不安障害・社会不安障害(対人恐怖症)・強迫性障害』などの精神疾患が発症してくることがありますが、これらの疾患に見られる不安感は他人に話してもなかなか共感的に理解して貰うことが困難なタイプの『主観性・個別性の強い不安感』であると言えます。

精神疾患とは異なる性格類型(性格傾向)によって生じる不安感というものもあり、特別な理由や対象がないのに慢性的に不安感を感じている人の類型は、『小心(弱気)・臆病・内気・引っ込み思案・おとなしい・自信が無い』といった形容詞によって感覚的に理解されていることが多くなります。ドイツの精神医学者クルト・シュナイダーは異常性格の性格類型論の中で、慢性的に不安感の強い性格を『自己不確実者』に分類しましたが、自己不確実という性格特性の概念には『内面やアイデンティティの不安定性・自信感情の低下』が含意されています。自己不確実者は『内的活動の活発性』とは対照的な『外的活動の消極性』という特徴を持っており、内面心理では豊かな想像力や卓越した思考能力を持っているのですが、それを実際的な行動力に結びつける自己確実性(自己効力感・自信)が障害されています。

体型性格理論のエルンスト・クレッチマーは、心的過程を行動や言葉に転換できないという特徴を『転導能力の障害』という概念で表現しましたが、自己不確実感のある人が内面的な不安の思考・感情に苦しめられる理由の一つがこの転導能力の障害です。現代風に言えば、コミュニケーションスキルにおける『アサーティブ(自己開示的)な態度』の不足であり、内面に鬱積している感情や考え、不満を他人に対して言語的・行動的に自己表現できないところに自己不確実者の自信の無さが現れているとも解釈できます。内面的な心理活動(思考・想像・表象)が活発であるのに、外見的な行動・発言が余り見られないということから、自己不確実者は過度に内向的で一人で悩み考え続けることの多い性格であると言えるでしょう。自信の低下や自己不確実感に伴う不安、そういった不安を生じやすい自己不確実者の性格類型についてもう少し補足します。






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■書籍紹介
知らなかった「社会不安障害(SAD)」という病気ーー恥ずかしがり屋は治るのかもしれない (講談社+α新書)
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“制縛型の自己不確実者”と“敏感型の自己不確実者”の持つ不安感情と強迫症状の特徴
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