アメリカで何人かの職業的なブロガーが死亡しニューヨーク・タイムズが『デジタル時代の労働搾取』と報じたようですが、ブログと致命的疾患(心臓疾患)との医学的な因果関係はともかくとして、『ある種のブログ運営』には過大なストレスがかかるのではないかと思います。趣味や娯楽の一環として『空いている時間』に短文の記事(日記)を気楽に書くという一般的なブログの使い方であれば、ブログ運営によって強い精神的ストレスや身体的疲労を感じる危険は無いと思いますが、『社会的影響力(アクセス数)・経済的稼得力(収益)の大きなブログ』を運営している場合にはストレスや疲労感が高まる恐れがあります。
精神的ストレスを感じやすいブログというのは、『職業的な位置づけにあるブログ』や『メディア的な役割を果たしているブログ』だと思いますが、ある程度真剣にブログを書いている人でアクセス数の増減を気にしている人であれば、『定期的に新しいエントリーをアップしなければいけない』という種類のプレッシャーを感じることはあるかもしれません。芸能人・著名人などが企業と契約して報酬を受け取っている場合は別として、基本的には『ブログを書かなければいけない義務』がある個人というのは殆どいないと思いますが、『ブログへの愛着・過去のエントリーの蓄積・情報発信や社会時評への意欲・アクセス数の増大』などによって、疲労感やアイデアの枯渇を感じていても無理して記事を書いているという人も少なくないでしょう。 疲れていたり面倒だったりすればブログの更新なんてやめてしまえば良いというのは正論ですが、不快な義務意識があったとしても『好きなことの延長戦上にある作業』という点において、ブログやウェブ上の活動には一定以上の依存性が形成される可能性があります。オンラインゲームを数十時間ぶっ続けでプレイして体力の限界で倒れる人は少なからずいるようですが、『本来的に好きな活動』に没頭している人は『もう少し続けたい・そろそろやめたい』というアンビバレントな葛藤状態に置かれやすくなります。
『仕事(専業)としてのブログ』というのは日本では実現可能性が余り見えてきていませんが、アメリカではブログだけで数百万円以上(トップレベルでは一千万円以上)の所得を得る個人ブロガーが存在しています。好きなことの延長線上にあるブログは、数年間以上続けているブロガーが数多くいるように元々一定以上の依存性を備えていますが、それが専業ブログとして『経済的なインセンティブ』と結びつく事でハードワークの過労状態を生み出しやすくすると言えます。 日本の著名なブロガーに多いように、『本業の収入+副業としてのブログ収入』の組み合わせであれば致命的疾患を招来するようなハードワークは回避できると思うのですが、アメリカの人気ブログのように『本業としてのブログ(ウェブ経由)収入のみ』というのは心身の健康を崩すほどのハードワークに必然的につながる要素をかなり持っているのではないでしょうか。職業的なブログ運営といっても、企業に雇用されている仕事のように『義務的(契約的)な労働』ではないのだから、危険な過労状態を回避するような健康管理がしやすいようにも思えますが、『趣味と仕事の延長線上にあるインセンティブ(経済所得)』というのは一般に労働時間や疲労感を無視させる要因となり得ます。また、過労になりやすい要因として『アクセス数に依拠したブログ(ウェブ)所得の不安定性』があり、『アクセス数が減少するのではないか=経済所得が減少するのではないか』という悲観的な認知によって、トラフィックを維持増大させるために、絶えず新たな面白い記事を書かなければならないという焦燥感・義務感に追い立てられる傾向があります。 会社員・公務員(被雇用者)でも、労働環境(人員不足)や企業体質(従業員の健康の軽視)によって過労死するリスクはありますから一概には言えませんが、『就業時間・所得水準が安定していない出来高制の仕事』というのは『固定給(最低保障給)のある一般的な仕事』よりも健康を害するハードワークに導かれる誘因が強いと言えます。特に、やればやるだけ収入が増えるが、やらなければやらないだけ収入が減り最悪のケースでは収入がゼロになるというような『完全成果主義に基づく不安定な仕事』は、睡眠不足や身体的疲労を無視して働かせ続けるだけの『オペラント(自発的)な労働の構造』を形成しやすいと言えます。こういったオペラントな労働の構造は、文筆業者(フリーライター・作家)や芸術家・漫画家、ミュージシャン、自営業者などにも見られやすいですが、そこに共通する要素は『結果が出なければ所得が発生しないという完全成果主義・趣味(好きなこと)と仕事(義務的な作業)の境界が不明確なところ』であり、高所得を得られることもあれば無収入に近い状態になることもあるということです。 しかし、アルバイトの稼得効率にも及ばない日本のブログ収入では、過労死するほどのオペラントな労働構造は生まれず、『コスト対利益』が悪すぎるということで『ブログ以外の本職』を持つという合理的選択をすることになります。日本でアメリカのようなブログ運営者のハードワークが起こりにくいのは、一般の雇用される仕事に比べて『時間・労力のコスト対利益』が全く見合わず、ブログを本業として運営することが(ごく一部の人を除いて)実質的に不可能だからです。生活の必要による経済所得とは別に『書きたい衝動を抑えられない』という心理的依存の要素はありますが、ブログ更新と生活コストが結びついていなければ、本当に疲れてブログが書けないと思った時には、暫くの間はブログ更新を停止するという判断をするでしょう。 しかし、アメリカではなまじっかトラフィックの大きなブログだけでサラリーマン以上の所得が得られることから、こういったハードワークの問題が深刻化してきているのではないかと感じました。アメリカの職業的なブログ運営では、サラリーマン以上の年収を稼ぐことも可能なようですが、トラフィックに所得が依存する以上は『所得の安定性・継続性の不安』から解放されることがないので、稼げる時に出来るだけ多く稼いでおかなければならないという焦燥感が長時間労働に必然的に結びつくと言えます。
日本においても大きなトラフィックと影響力を持っているブログの運営者は、一定レベルの精神的ストレスや疲労感を感じているようですが、上記で引用したfinalventさんのコメントのように日本のブロガーでは『誹謗中傷・ネガティブコメントに代表される対人的ストレス』に心理的負担を感じているケースが多いようです。年間950万ページビューのブログを運営する経済学者の池田信夫さんも『ノイズの多いコメント欄の整理・対応』にストレスを感じるという回答をしていますが、日本ではアメリカの経済的なインセンティブと結びついた過労(ハードワーク)とは質的に異なる『対人的ストレス・コミュニケーションコスト』に悩んでいる大手ブログの運営者が少なくないようです。 その一方で、他の著名ブロガーの多くは『ブログ運営が健康に悪影響を及ぼすことはない』と答えており、アメリカのブロゴスフィアのようなオペラントな労働構造(ブログメディアのビジネスモデル)が確立していない日本では、心身の健康を害するほどのストレスや過労の問題は多くないのではないかと感じさせる部分があります。ブログ運営を無理なく続けるためには『義務的な更新を減らすこと・オペラントな更新(労働)サイクルにはまり込まないこと・アクセス数の維持増大にこだわり過ぎないこと・経済的な依存度を高めすぎないこと・認知的なストレスコーピング(ストレス対処)を心がけること』が重要になってきそうです。とりあえずの健康管理対策として、ブログ更新によって心身の疲労感の強まりを感じた時には、ブログから暫く離れて休養することが健康を守るために必要だと思います。 ■関連URI 『ブログの量の増大』と『ブログの質の向上』の間にシナジー効果を生み出す事の困難 “ブログの継続的な更新”と“ブログの長期的な存続”を支えるもの ブログでコンテンツを公開する魅力と遠い未来におけるブログのストックの行方 ■書籍紹介 ウェブを変える10の破壊的トレンド
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カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/01/24 15:01 |
『ネトゲ廃人・インターネット依存症』の心理的要因とバーチャル・コミュニケーションのはまり込みやすさ
ネットゲームの依存性の強さについてよく話題になっていますが、インターネットが普及する以前から『ゲーム依存症・ゲーム中毒』という状態はあったものの、ゲームにはまり込んでやめられなくなる依存性のレベルでは、ネットゲーム(オンラインゲーム)のほうが圧倒的に高いと言えます。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/07/02 02:43 |
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