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help リーダーに追加 RSS “道具としての外国語(英語)”の学習とL.S.ヴィゴツキーの内言・外言による言語の発達観

<<   作成日時 : 2008/03/19 22:48   >>

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前回の記事の続きになりますが、太田雄三『英語と日本人』という書籍では、日本人が外国語の日常会話がなかなか出来るようにならない理由として、『一つの言語体系を完全にマスターしようとするような無謀な完全主義欲求(ネイティブであっても完全に自国語の言語体系を完全にマスターしている人などはいない)』について言及されています。

これは、子どもの言語発達過程と会話内容を考えるとなるほどと頷かされるところの多い主張です。日本で3〜4歳の子どもが日常会話ができているように、外国語で日常会話をしようと思う人は、まず身近な簡単な単語だけをしっかりと覚える必要があります。往々にして、こういった日常的な単語(子どもでも知っている身の回りの事物を指す単語)は勉強好きな大人が関心を持つような単語ではないので、覚えるのが面倒に感じるものです。逆に言えば、そこに会話重視の外国語を習得する難しさがあるといっても過言ではないのだと思います。

一つの言語を『実用の道具』として使いこなすためには、美容院でのヘアカットの頼み方とか銀行での取引の仕方とか食材・家具・身体部位の呼び方とかタクシーでの雑談とか……そういった教養趣味(難しい学術的な本の内容)とは全く異なる次元の単語を覚えるところから始まるので、読書趣味(勉強好き)と実用的な語学(対人的な会話スキル)というのは意外に距離が遠いのですね。ここら辺の『ことばの世界』に対する趣味嗜好というのは、母国語で書く文章にも特徴が現れやすく、『抽象的概念を意味する単語』が多い人は大体、話し言葉よりも書き言葉が好きな傾向があり、『具体的事物を指示する単語』が多い人は大体、生活実感のある日常的な話し言葉が好きな傾向があるのではないかと思います。

実用の道具として外国語を使いこなしたいという人の場合には、日常生活と関係した身の回りやお店などにある事物の基本単語を完璧に習得すること、日常会話(生活・仕事の場面)の中で頻繁に出てくる言い回し(構文)が状況に応じて半ば反射的に出てくるようにすることがポイントになってきます。その意味では英会話(外国語会話)というのは、本(教科書)で意識的に勉強する部分も確かにあるのですが、実際の人間や状況と向き合うことによって経験的に自然に身についてくるものという部分が大きいようです。自分の一日の生活・仕事を振り返ってみて、その時々にしている『会話・電話・注文・説明・交渉・おしゃべり』などを自分が使いたい外国語でできるかどうかを考えてみると、自分に求められている日常会話に必要な語彙・構文などのおおよそのレベルが推し量れるということになります。

『読書・趣味・教養の語学』の場合にはたいていが自分の知的興味に従っているだけなので、日常生活に本当に必要な言い回しや口頭での表現方法からは遠く隔たってしまうのですが……乳幼児期の子どもの話し言葉の習得過程では、『母親や父親に自分の意図(感情)を伝えたい・世界にあるいろいろなモノの名前を知りたい』という極めて強い本能的な動機づけがあるので、誰もがスムーズに母語としての話し言葉を習得できるというわけです。大人になると新たな言語を習得するのが難しいのは、脳神経系の可塑性が乏しくなる
という生物学的理由が大きいですが、自分の興味関心の幅が狭くなって(専門性が高まって)、子どものように好き嫌いせずに『すべての事物の名前』を知りたいと純粋に思えなくなることも多分に関係しているのではないかと考えます。

発達心理学的にことばの発達を見る場合には、特別な学習を必要とせず日常的な遊び・会話の中から習得することのできる話し言葉のことを『一次的言語(一次的ことば)』、学校の国語教育などで意図的な学習によって習得する書き言葉のことを『二次的言語(二次的ことば)』と言うことがあります。一次的ことばと二次的ことばの発達は、旧ソ連のL.S.ヴィゴツキー(L.S.Vygotsky, 1896-1934)が定義した『思考と言語の発達段階』とも関係しています。

内言(心の内面で話される言葉)としての特徴を持つ『思考』外言(他者に向けて話される言葉)としての特徴を持つ『言語』は相互作用しながら発達し、最終的に人間は児童期後半〜青年期にかけて内言・外言を適応的に使い分ける『言語的思考』を獲得することになります。

構造主義的な思考の発達理論を展開したことでも知られる発達心理学者ジャン・ピアジェ(J.Piaget, 1896-1980)は、思考の道具として使われる『内言』を、他者の反応(返答)を必要としない言語という意味で『自己中心的言語』と呼びました。一方、コミュニケーションの道具として利用され社会的関係の拡大にも寄与する『外言』『社会的言語』と呼びました。厳密には、独り言として発された外言にはコミュニケーション機能はないので、『他者からのフィードバック(返事)』を期待して発声された言葉のことを社会的言語と考えることが出来ます。

幼稚園くらいの年代では、内言によって自分の思考や行動をコントロールすることは不可能ですが、段階的に内言(個人内面での言語活動)によって思考・行動のコントロールの程度が上がっていき、青年期くらいの発達年齢になると内面的な言語的思考によって自分の行動を適切にコントロールすることが可能になります。一般的には、実際に声に出してする思考作業よりも、声を出さずに内的に整理する思考作業のほうが高度な精神機能であり、幼児期〜児童期前半くらいまでは黙って思考するという作業が余り得意ではありません。そのため、授業中に集中できずに声を出して騒いで、教師から『静かにしなさい』と注意される生徒が少なからず出てきますが、この事自体はADHDやLDなどの問題がないとしても『思考の発達段階』から考えて十分に有り得ることだと思います。

幼児・児童の読書能力も、声に出さないと意味が理解できない『音読』から頭の中で文章の意味を理解できる『黙読』へと発達していきますが、大人(成人)になっても時間が無くて焦っている時やストレスが強い時、周囲が騒がしい時などには、実際に声を出さないと上手く自分の思考過程を整理できないことがあります。そういったことを考えると、内的な言語的・論理的思考というのは、大人にとっても精神的負荷の高い高度な心的作業であると言えるでしょう。







■関連URI
ジャン・ピアジェの発生的構造主義と思考機能の発達仮説

エリクソンの“心理社会的発達理論”と過去に束縛される“アダルト・チルドレンの苦悩”

太田雄三『英語と日本人』の書評1:日本人はなぜ、英語が苦手なのか?英語名人を育てた明治の英語教育

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