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help リーダーに追加 RSS 演技性人格障害の“自己アイデンティティの拡散”と“性的アイデンティティの未成熟”の問題

<<   作成日時 : 2007/11/12 09:29   >>

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前回の記事の続きになりますが、演技性人格障害の全般的な印象としては、物事への注意深さや慎重な判断が不足がちで、長い時間をかける熟慮を好まず相手への親身な共感性に欠けているという印象があります。大雑把な直感(好き嫌い)やその場限りのノリだけで物事を判断してしまうので合理的な問題の解決が苦手であり、勢いで軽はずみな対応をした時には『他人からの信頼』を失いやすいというリスクを孕んでいます。

演技性人格障害の人は一見すると非常に外観(容姿・ファッション・明るい感じ・経済力)が魅力的な人物であることも多く、相手と友人・恋人になるまでの『人間関係のつかみ』はかなり順調に進んでいきます。その一方で、相手に伝達すべき『内面的な価値体系を備えた自己アイデンティティ』を殆ど持っていないので、表層的な関係のままで終わってしまうことが多いのです。気に入った相手と長く話せば話すほどに相手との関係が親密になっていくというパターンが望ましい人間関係ですが、演技性人格障害(HPD)では付き合いが長くなればなるほど『内面の空虚さ・自己アイデンティティの曖昧さ・相手への共感性の低さ・楽しめる話題の少なさ』が目だってきます。その結果、外見的な魅力やテンションの高さ以外の良さが殆ど見えなくなり、長期的な人間関係への発展が阻害されることもあります。

物事を掘り下げるコミュニケーションや内面的な意見・価値観の共有などが苦手なHPDでは、『美貌・ファッション・性的魅力・高級ブランド品』など『外的な分かりやすい魅力(初対面で好印象やインパクトを与えられる要素)』を終わりなく磨いていく傾向が見られやすくなります。しかし、自己アイデンティティが確立しておらず自分自身の考えというものが乏しいので、自分と性格や考え方の合う『本当の恋人・友人』がなかなか出来ないという欲求不満を抱いている人が少なくありません。

HPDの対人関係における典型的な悩みの一つが、『結構他人から好かれるタイプなのに、なぜ、人間関係が長続きしないのだろう?・異性からはモテるほうなのに、なぜ、安定した恋愛や結婚ができないのだろう?』といったものですが、安定した持続的な人間関係や内面を語り合えるような異性関係を築きにくいというのもHPDの特徴です。他者が受ける印象としては、話題が上滑りして本質的なことにまで深まっていかず、長い付き合いなのにふざけ半分のやり取りばかりでその人の関心事や考え方などがよく分からないといったものがあります。コミュニケーション面では『友人・恋人の内面的な事柄への関心』が弱いので、友人が聴いて欲しいと思って一生懸命に話している気持ちや主張に対して積極的に話を深めていくようなことは殆どありません。どちらかというと、話題を頻繁に切り替えて何となく話し続けているような状態のほうを心地よく感じるので、一つの話題(問題)に留まって色々と考えていく会話のスタイルには退屈さや返答の難しさを感じるでしょう。

演技性性格には『病的な演技性人格障害』『正常圏の演技性性格』がありますが、ポジティブな行動パターンを持つ演技性性格は一般的に社会適応は悪くなく、正常圏の演技性性格になると『社交的で人付き合いが良く、楽観的でいつも明るい感じがあり、直接的な感情表現が分かりやすい理想的パーソナリティ』と見られていることも少なくありません。演技性人格障害(演技性性格)は『他者の表面的評価の視線』を内在化した人格構造であり、『他人の注目・喜び・好意を集める行動と外観(ファッション・コスメ)』を無意識的に選択するので自己アピールが得意(過剰)な人という印象を周囲に与えます。

HPDにはNPDと同様に身体的・性的なナルシシズム(自己愛)が見られますが、HPDの場合には『より多くの他者の注目と視線』を集めるという方向にナルシシズムが作用し、ファッション(服装)やコスメ(化粧)、装飾品などが過剰になりやすくなります。その結果、場面や状況に合っていないファッションやスタイルになってしまうこともありますが、HPDの人は多くの人から注目されて関心を持ってもらえることに選択的な興奮や満足を覚えます。言葉によるコミュニケーションが余り得意ではない演技性性格者では、『他者の注目を集める高価な商品・優れたファッションなどのモノ』を介在して他者と積極的につながろうとするので、『奇抜さ・新規さ・高級性などの利点を持つ商品やファッション』に依存症的なこだわりを示して、(他者の視線を集められない)ノーマルな雰囲気を回避しようとすることがあります。

それがDSMの演技性人格障害の診断項目に挙げられている「4.自分への関心を引くために絶えず身体的外見を用いる」にもつながってきますが、ここで注意すべきなのは、演技性人格障害の人は性的に誘惑的であるが実際の性行為に対しては嫌悪感や抵抗感を持っていることも少なくないということです。演技性人格障害の人は『他者からの注目・好意・評価』という『対人的な正の強化子(インセンティブ)』によって自己アイデンティティを支えられているので、『自己の性的魅力(性的な身体性)』を異性の視線を引きつけるためのアピールとして用いることはありますが、性行為そのものに対しては消極的であり具体的な性行為の内容(話題)についても関心がないことが多いようです。HPDの性的行動の活発性には大きな個人差がありますが、身体的なセックスそのものに嫌悪感や抵抗感を持っていることや、恋人や夫婦の関係であっても性の絡む猥雑な話を極端に回避する感受性を持っていることが少なくないのです。

『外見の派手さと性的な成熟度の間の落差』が非常に大きい下位タイプがHPDにあり、年齢相応の性的なアイデンティティが上手く確立できていないケースを想定することができます。その場合には、生々しい性に関連するキーワードに対しては不潔感や罪悪感に近いものを感じ、現代の自由主義圏の性道徳からすると潔癖(純潔)過ぎる印象を与えます。当然、現代の自由主義的な性道徳は普遍的な道徳基準ではありませんので、本人が異性関係上の困難や問題を抱えていないのであれば、性関連事象への嫌悪感や罪悪感そのものが問題であるとは言えないということも合わせて書いておく必要がありますが。

成人になっていても、異性関係に対しては『永遠の少年少女』のようなドラマティックなものしか想起できず、大人の男女関係の具体的な性や快楽志向の性的行為については具体的にイメージできないこともあります。これは性行為そのものを全くしないということではなく、子どもを出産しているような女性であっても、『生殖(妊娠出産)のための性・夫婦間の義務としての性行為』しか語れないといった性嫌悪的な否定感情となって現れてくることがあります。妊娠のための義務的な性と快楽のためのコミュニケーション的な性との間に厳しい境界線を引くような態度として現れ、前者は仕方なくすることもあるが後者は基本的にはすべきでないことというような禁欲道徳的な認知を持つことも考えられます。

すべてのHPDが性生活に対して否定的なわけでは当然ありませんが、『快楽のための性』についての嫌悪感や否定感が強い群がHPDに存在しているようであるという指摘があります。HPDの絡む夫婦生活の中にはキスも前戯もほとんどしたことがなく、物理的な性行為のみの体験で終わってしまうようなケースや出産を経験していても、性が家庭内・夫婦間において強固なタブーとして意識されているケースもあります。本人の生活年齢や知的水準から考えると、やや不相応な性関連事象に対する幼稚性や未熟性が見られることがあり、実際の男女関係は極めて淡白だったりお互いの内面に触れ合わない形式的なものになりがちです。

自己愛的かつ形式的な異性関係が極端なものになると、性的アイデンティティの拡散が『恋人(配偶者)のアクセサリー化・承認欲求充足のための体裁』へと発展していき、恋愛関係・婚姻関係を作ることそのものが自己目的化してしまいます。その場合には、相手と付き合ってから一緒に何をするかとか、結婚してからどのような家庭・生活を作り上げていきたいのかといった問題意識を共有できないので、恋人(配偶者)との関係が親密な感情交流のない空虚なものになってしまう恐れがあります。『特定の恋人との愛着やコミュニケーション』ではなく『一般的に魅力的と評価される恋人を惹きつけること』が目的化して、恋愛・結婚における主目的が『他者からの承認や羨望の視線を浴びること』に置き換わってしまうわけです。通俗的に言えば、お互いにそれほど関心や愛着はないけれど、とりあえず世間一般で恥ずかしく思われないような相手と一緒になっている仮面夫婦のような関係になりやすいということです。

HPDの要素を持つ仮面夫婦というのは、『魅力的なパートナーを惹きつけている自分を世間(他者)に見て欲しい』という承認欲求によって2人の関係が支えられているようなお互いへの敬意や愛情・関心が乏しい状態を指しています。その場合には、『二人だけの空間』よりも『誰かが自分たち二人に注目してくれる場所』のほうに興奮や満足を感じることになり、できるだけ人通りの多い場所に派手なファッションや目立つスタイルをして出歩くことが『交際する目的』になってしまうこともあります。素敵な彼(彼女)が好きなのか、そんな魅力的な相手を連れ歩いている自分が注目されるのが好きなのかという葛藤は誰にでも多少はあるものですが、HPDの性格傾向が顕著になると『二人だけで過ごす時間(他者の視線がない場所)』には余り価値を感じなくなってしまいます。魅力的な異性を連れ歩いている自分を羨望の眼差しで見て欲しいという承認欲求そのものは誰にでもあり得るものですが、それ一辺倒に傾いて誰かに見られて認められていないと満足できないという状態になると人格構造の偏りが想定されてきます。

年齢や出産経験を問わずHPD(性的虐待などトラウマ問題を除く)の人の一部には、年齢相応の性的アイデンティティを確立できない人や少年少女のような性に対する羞恥心(罪悪感)を抱き続けている人が見られるという話をしました。カップルである2人の性的成熟度に極端な格差があると、『深みのある性生活や性に関する会話を楽しめない・自分の性的欲求のあり方を相手に全く理解して貰えない・性行為に対して自分も罪悪感や否定感情を持つようになってしまいそうになる』といったことが夫婦間・恋人間の性の問題として立ち上がってくることがあります。しかし、性的虐待の被害(トラウマ)などがないHPDの性的成熟がなぜ停滞しやすいのかということについて詳しいことは分かっていません。合理的な仮説としては、他者の注目や好意を多く集めようとする自己愛の過剰によって『他者(恋人)の物理的な身体性』に関心が向かわなくなっているという理由や、幼少期からの家庭環境が『快楽的な性』に対して拒絶的(否定的)であり『性行為の快楽は基本的に悪である』という強固な価値判断が形成されたことなどを考えることが出来ますが、HPDの人の両親の躾(価値観)と性格形成過程の相関については明らかになっていません。

親の教育方針によって一切の性関連情報を有害情報として遠ざけるような偏った認知のフィルタリングが出来上がると、『性行為=悪いこと・罪深いこと・不潔なこと』という性嫌悪的な価値観が形成されやすいとは思いますが、性を拒絶する家庭環境と性的アイデンティティの拡散に直接的な相関が見られないケースも多いので一概には断定できません。演技性人格障害の根本には『確固とした自己アイデンティティや内面の価値体系構築が不十分』という特徴がありますので、『内面的な自己アイデンティティの拡散』『対象愛に基づく性的アイデンティティの未成熟』にも何らかの相関があるのかもしれません。また、HPDの極端に外向的な価値認識の傾向は共感のある性行為との相性が悪いようにも感じます。

自分の外部の出来事(刺激)や他者からの注目に最高の価値があると感じるHPDの極端な外向性と自己愛の過剰が、『内向的な自己イメージ(ボディイメージ)の要素』を必要とする性行為への衝動を抑制するという面もあるでしょう。また、性の本質や性欲の高揚に関係する『(自分が与える)相手の快楽を想像して自己の快楽と重ね合わせる共感的・奉仕的な内的作業』『共感性の乏しいクラスターBの一部の人格障害』の間に相性の悪さが存在する可能性も考えられます。他者の快楽のあり方に対する想像力の共有の弱さは、クラスターBの問題だけに限らず性嫌悪やAセクシャル(無性欲者)を含むセックスレス全般に関係する心理機序でもあり、不特定多数とビジネスライクに関係を持てる性的逸脱行為の心理プロセスにも関係しているように思います。無論、性欲の高低や性への関心(倫理規範)の度合いのようなものは、後天的(環境的)・心理的(家族的)な要因だけではなく、生得的(遺伝的)・生物学的(内分泌的)な要因も絡んでいる可能性があるので、性に関する問題を全て臨床心理学・性格心理学の次元で語り尽くすことは不可能です。

最後に、『7.被暗示的、つまり他人または環境の影響を受けやすい』というHPDの特徴が、目立ちたがり屋で承認欲求の強い演技性人格障害の生き方を根底において決定している原因と言えます。自律的な自己アイデンティティの確立を果たしていくためには『他人の要求を満たす行動』と『自分の希望(意志)を満たす行動』とのバランスを取っていくことが必要になりますが、周囲の空気(大多数の求めている役割や反応)を読みすぎることがHPDの自己概念の希薄さにもつながっています。HPDの認知療法的なカウンセリングでは、『誰にも注目されない自分には価値がない・他人に嫌われたら自分はおしまいだ・対人的な刺激のない人生なんて無意味だ』という自己否定につながりやすい認知の歪みを緩やかに変容させて、他人の態度や発言に振り回されすぎない自己アイデンティティと内面的な価値基準を作り上げていくことを目指します。

その場凌ぎで他人の注目を集めるだけの言動(自己演出・外的装飾)に全てをかけると、他人(周囲)の価値基準や場の空気のみによって自分の人生が規定されてしまうことになり、他人(所属集団)から拒絶されると自分の生き甲斐と方向性を見失って精神的な危機に陥ってしまいます。しかし、将来の計画や自己の信念、内面の変化を意識しながら『今の自分にとって本当に必要な行動・達成したい目標に必要な感情の制御・自分の考えを捨てない人間関係・自分と他人の適度な距離感』を選択していくことで、HPDの人が失いやすい安定した自己アイデンティティと適正な自己評価を取り戻すことができるのではないかと思います。


■関連URL
性格心理学の類型論(タイプ論):C.G.ユング、クレッチマー、シェルドン、シュプランガーの仮説理論

『人格障害の分類と定義』が持つ臨床的意義と倫理的問題:多角的で相対的な人格評価の重要性

心理学分野の『発達概念』と『社会的価値観』:自我アイデンティティの固有性と社会性

自尊心を求めるH・コフートの自己愛の発達理論とS・フロイトの病的なナルシシズム

■書籍紹介
弁証法的行動療法実践マニュアル―境界性パーソナリティ障害への新しいアプローチ
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