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help RSS “世俗の儒教思想”と“隠遁の老荘思想”の中庸を探った古代中国の処世術

<<   作成日時 : 2007/08/17 22:24   >>

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過去の記事で、 孔孟思想の『陽(世俗)』の原理と老荘思想の『陰(脱俗)』の原理について対比的に考えてみましたが、儒教思想と老荘思想というのは個々バラバラなものというよりは、一人の人間の内部に矛盾を抱えながら存在するものです。長い歴史を持つ中国文化では、官界(政治の世界)で可能性が開けた時には『儒家の道理(処世)』に従い、俗世界の重圧に打ち負かされそうな時には『道家の道理(処世)』に従うというような『儒道互補の処世術』が上手く用いられてきました。

儒家には人為的な努力(学問)によって自分の能力や徳性を最大限に発揮しようとする前進的な『理想主義(道徳主義)』がありますが、道家や老荘には人為的な努力(学問)が及ばなければ、無理をせずに現実(自然)を受け容れていけば良いという『現実主義(楽観主義)』があります。儒教と老荘思想を陰陽になぞらえると、儒教は中国文化において『陽の思想(男性原理の合理的宗教)』であり、老荘思想(道教)は『陰の思想(女性原理の感性的宗教)』であると言えます。

儒教は『俗世に名(自己存在)を顕したいという陽の思想』と解釈でき、道教は『俗世から名を隠したいという陰の思想』と解釈することができます。また、老荘思想で万物の生成原理とされ世界の根本原則とされる『道』には、原始宗教の女神崇拝(女性崇拝)の名残が見られ、『道』は女性器や女性性のメタファー(比喩)として語られていることにも注意する必要があります。

『道』は『老子』の記述によると「天下の母」であり「玄牝(げんぴ)の門」であり「谷神」であるわけですが、「天下の母」は「地母神」を象徴しており、「玄牝の門」は「女性器」を「谷神」は「生殖を司る女神」を暗示的に指示しています。この事から老荘思想や道教は、母性原理(女性原理)に基づく思想体系であることが窺われ、その一つの表れとして『老子』には、徹底的な無抵抗主義(不戦思想)と恒久的な平和主義が掲げられています。

大地(女性)の生殖能力を崇拝する母性的な原始宗教には『生命・保護・慈愛・平和・受動性』などが基本教義に組み込まれていますが、無為自然を説く『老子』においても、男性原理的な『競争・支配・進歩・成長・能動性』などの価値規範が低く評価されており『生命・保護・慈愛・平和』を讃美する記述が多く見られます。『老子』の基本思想は、「パラドキシカル(逆説的)に現世利益を得る」という逆転の発想であり、「戦わずして勝つ・動かずして他者を動かす・無為でありながら有為の結果を生じる」ということです。

『老子』の現実主義的な処世術は、『柔弱は剛強に勝つ(柔よく剛を制す)』という言葉に集約されており、無為自然とは単に『一切何もしない』というよりは『道(天地の道理)』に従って『余計な作為をしない』というニュアンスが強く込められています。

『老子』には何度も繰り返し、『為さずして、為さざること無し(何もしないにも関わらず、やり遂げられないことが全く無い)』という言い回しが出てきますが、老子は『道』に従って無為なる人々(争うモチベーションのない人々)が増えることで『無為(自然)の統治』が成り立つというようなことを述べています。これは現代的な政治体制で読み替えれば、無私無欲によって安定するアナキズム(無政府主義)とも言えますが、現代は競争・努力による前進や成長に高い価値が置かれますから、『老子』の思想が好意的に受け取られる余地は余り大きくないでしょう。

老子は無知無欲な人間のメタファーとして『樸(ハク=加工されていない原木)』という言葉を用いましたが、原初的な自然状態である『樸』としての民衆を増やすことを説いたという意味で反文明主義・反知性主義の傾向が見られます。『知識の増加』を『欲望の拡大』や『他者との争い』に結びつける考えには現代的な意義は見出し難いですが……欲望を出来るだけ小さくして『足ることを知る』ことで不満を最小化しようとする『少欲知足』の処世術は仏教にも通底するものです。

太古の時代から人間は『欲求を満たす為に前進する処世』『苦悩を和らげる為に諦観する処世』とを境遇や心理状態に合わせて使い分けていたのですが、前述した『儒道互補』もその人類史的な精神力動の流れに位置づけることが出来るでしょう。道教や老荘思想の究極的な目的は、『道との合一』であり合一の結果による天地永久と不老不死にあると言えますが、現世における永続的な安定(平和)と存続を願っているという意味で道教や老荘思想も現世的な性格を強く持っていると言えます。

儒教的な世俗で活躍しようとする思想が過剰になれば心身の疲労が限界に達しますし、老荘的な世俗から隠遁しようとする思想が過剰になれば社会生活の適応性が失われてしまいますから、『其の両端を執って、其の中を用いる』というような中庸の態度を適度に持ち続けることが大切なのではないかと思います。


■関連URL
孔孟思想の『陽(世俗)』の原理と老荘思想の『陰(脱俗)』の原理1

孔孟思想の『陽(世俗)』の原理と老荘思想の『陰(脱俗)』の原理2

孔孟思想の『陽(世俗)』の原理と老荘思想の『陰(脱俗)』の原理3


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マンガ老荘の思想 (講談社プラスアルファ文庫)
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