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前回の記事で触れた『金融市場における格差』についてであるが、第2章『株式投資の理想と現実、そしてワナ』の冒頭でずばり、株式市場は『金持ち(上得意)優位の世界』であると述べ、『金融・株の勉強をすれば儲かる』という理解の落とし穴を指摘している。金融・財務・経営・投資の専門的な高等教育を受けていない素人の個人投資家が、雑誌や書籍のみを頼りに勉強を進めても、一般知識レベルで到達できるレベルには一定の限界がある。金融取引にまつわる最高の教育を長年受け、特別な人脈(情報網)を多く持っている金融分野のエリートたちに、「手軽な勉強のレベル」で真っ向勝負を挑んでも彼らを出し抜ける可能性は限りなく低いだろう。 大勢の顧客を相手にするビジネスでは、どんな業界でも表向きは『すべてのお客様を平等に取り扱う素振り』を見せているが、実際には『大金を使ってくれる上得意に対するさまざまな優遇』が準備されている。証券会社や銀行でも数億円単位の大口資金を運用するような上客と、数十万円〜数百万円単位の小口資金を運用する一般顧客との待遇が全く同じわけでは当然なく、『有用な金融情報の提供スピード』や『営業マンの丁寧なアフターフォロー』などによって投資の有利さが変わってくる恐れがあると本書ではいう。外資系投資銀行が、小口投資しかしない個人投資家を相手にせずに、法人や機関投資家を対象にするホール・セールのビジネスに集中しているように、利益率が低くて情報管理にコストのかかる資金の少ない個人投資家は、銀行や証券会社から見ると重要度の高い顧客ではないというのが実情である。その為、巨額の利益を上げられる可能性が高いIPO(新規公開株)でも、大口投資をする優良顧客のほうが購入しやすい状況がつくられている。 むろん、株式市場から偶然や運の要素は取り除けないし、金融のプロ(金融機関・機関投資家)であっても米国のサブプライムローン問題で損失を蒙ったように、金融市場の偶発的なマクロ要因(国内外の経済情勢・事件・天災や政府の経済政策)に関しては予測困難な部分が多い。企業の財務諸表(損益計算書・貸借対照表)や株価収益率を分析する『ファンダメンタルズ分析』には金融知識や情報リテラシーの優劣が影響するが、株価チャートの周期性を見る『テクニカル分析』の短期投資をメインにすれば、素人でもプロでも投資実績に有意な差は出にくいかもしれない。ファンダメンタルズ分析もテクニカル分析もどちらか一方だけの投資手法に偏るのは危険なので、各種チャート理論をもとに売買時期を予測するテクニカル分析でも、ある程度はファンダメンタルズ分析の理解と応用ができたほうが良いのは言うまでもない。第2章では、『大多数の人が知らない(合法な)価値ある情報』を素人の個人投資家が入手できる可能性はほぼゼロであり、そういった情報を元に他人を出し抜いて利益を上げることは、まず出来ないということが様々な観点から述べられているのである。 第3章『機関投資家と証券会社の生態を知る』では、本書のタイトルである『なぜ株式投資はもうからないのか(正確には、儲けるのが難しいのか)』についての具体的な要因が上げられている。一般の個人投資家が買えない『ハイリスク・ハイリターンの金融商品(プライベートエクイティファンド)』が多くあり、それらの『プロや富裕層に限定された(将来上場できるような)未公開企業の株』が巨富を生み出す原因になっている。つまり、個人投資家が上場企業の株式を売買していても巨額の利益を得られることはそうそうないのであり、『株は数億円単位で儲かる』というような固定観念の多くは、『株式未公開企業のIPO直後のぼろ儲け(創業者利益含む)』に由来しているのかもしれない。しかし、著者の保田氏は、『成功事例のIPO』に個人投資家が直接的に関与することはできず、本書でも『まともな儲かる投資ファンドに一般投資家がありつけることはない(富裕層や有力者などにしか門戸が開かれていない)』と明言する。 一般的に、未公開企業が株式上場(IPO)できる段階にまで成長すれば、その企業のストック・オプションを持っている創業時のメンバーは、数億円単位の巨額の利益を手にすることになる。IPOすれば上場企業・証券会社・ベンチャーキャピタルのすべてが利益を得ることになるので、一般に新興市場ではできるだけ早く上場したいという利害が一致しやすくなるが、企業に本当の価値や実力がなければ、IPO後から株価は右肩下がりのチャートを描くことになる。第4章『日本の新興市場における問題点』では、魅力的な製品開発(サービス開発)や持続的成長力を伴わない未熟な企業の拙速なIPOによって、(瞬間的な株価高騰後に下落する株を買わされる)一般投資家のリスクが高まり、新興市場への関心が失われていくという構造的問題点について言及されている。 ここまでの感想を読んだところで、『やっぱり、情報弱者である個人投資家は損をしやすいから株式投資はしないほうが良い』という判断に傾いている人もいるかもしれないが、パソコンやモバイル(携帯電話)で即座に株を売買できる現在の投資環境は、それ以前の株式投資の環境よりも有利になっていることは間違いない。1日の時間を株取引だけに費やせるような専業の投資家であれば、テクニカル分析を用いたデイトレードなどである程度は安定的な利益を確保しているようだ。つまり、個人投資家が金融機関(証券会社)や機関投資家に一方的に搾取されていて絶対に儲からないわけではなく、平均すると素人の個人投資家は損をしやすいという統計学的な事実が厳然としてあるということである。 本書の最終章『今後の株式投資を考える』では、ウェブ2.0のフラット化の動向や株式投資の技術的なイノベーションを踏まえて、『個人投資家と機関投資家(富裕層含む)との情報格差を縮小する前向きな提言』が為されているので、これから株式投資をするか否か迷っているような人は、一度本書を読んでみると良いのではないかと思う。著者の保田隆明氏は、行動ファイナンスや投資心理学について、投資家の過去の行動・判断のオープンなデータベース化によって『より公正な投資環境』ができ、Amazonのような行動履歴の分析に基づくレコメンデーション(株取引のアドバイス)によって『より適切な投資判断』ができるというような話をしているが、現段階の株式市場の制度設計が個人投資家に不利に作られているという認識も忘れてはならないだろう。 『貯蓄から投資へ』の流れはライブドア・ショックや村上ファンドの失墜を起点にして少し弱まった観があるが、『塩漬けにされている金融資産(預貯金)』を使って今まで投資の経験もない人が、お金でお金を増やそうとしても増えるどころか減るリスクのほうが大きいことは言うまでもない。元々、日本人は貯蓄性向の高い国民だと言われているが、株や投信など金融商品への投資に国民の興味関心が向かった背景には、先行きの見えない日本の将来への不安があるだろう。 国・地方の巨大な債務や公的年金制度のいい加減な運用、老後資金の蓄えへの不安、上昇しない労働賃金と雇用不安(終身雇用・年功序列賃金の崩壊)、いざという時の社会保障制度への不信感などが、『貯蓄から投資への流れ(お金の不安を無くす十分な資産形成への欲求)』に拍車を掛けた部分がある。お金を市場に出さずに眠らせ続ける貯蓄は、インフレリスクなどを考えると必ずしも個人の資産保全にとって合理的なわけではなく、『お金のある人』が『お金を必要とする企業(ビジネス)』に投資をすることにも社会貢献や経済の活性化という好ましい部分がある。しかし、より多くの個人が株式投資を積極的にするためには、『公正な投資環境の整備』と『余剰資金を生み出せるだけの雇用環境(労働条件)の改善』が必要になってくるのではないかと思う。 ■関連URL 保田隆明『なぜ株式投資はもうからないのか』の書評1:米国サブプライムローンの焦げ付きと株式市場の下落 堀江被告の実刑判決とライブドア事件がもたらしたもの1:株式市場のグローバル化の流れ 堀江被告の実刑判決とライブドア事件がもたらしたもの2:法律の網と株式分割の錬金術 “働かなくても食べていける社会”と“働けば生活と老後に困らない社会”:高収益企業と社会格差 ■書籍紹介 あなたはなぜ株で儲けられないのか―市場と株式投資の人間学
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なぜ、資本主義社会では労働者のスローライフが実現しないのか?3:“未来への欲望”を燃やす永久機関
前回の記事では、幾ら経済が成長しても労働者の労働負担が飛躍的に減少することがない理由として、『経済の成長と市場での競争を自己目的化する資本主義の特徴』を考えてきましたが、『世界的な人口の増大・天然資源の有限性・地球環境の悪化』など外的なリスク要因ももちろん関係していると思います。経済には『欠乏のない資源分配=生存可能性の確保』と『消費者の需要充足=成長の持続』という二つの側面がありますが、前者の『生きていく為の経済』に限って言えば、世界の資源が不足なく分配できるような『世界人口の規模』を調... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2007/09/20 08:34 |
ロバート・P・マイルズ『バフェット 投資の王道』の書評:企業価値への長期集中投資と株式市場の軽視
世界の富豪や株式投資の戦略などのジャンルでは必ず出てくる人物として、20世紀で最も成功した投資家のウォーレン・バフェット(1930-)がいる。フォーブスで公開される世界の長者番付では微妙な順位の変動があることもあるが、マイクロソフトの会長ビル・ゲイツに続く世界第二位の富豪としてバークシャー・ハサウェイのCEOのバフェットの名は知られている。Wikipediaの記事では、2006年度の世界長者番付で世界第二位、個人資産は約460億ドル(5兆3800億円)とあるので、未だ破格の資産を持つ機関投... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2007/12/09 05:44 |
勝間和代『お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践』の書評:2
前回の書評の続きになりますが、第2章『金融商品別の視点』ではその他にも外債投資・外貨預金の特徴や利率についての説明があり、金融資産としての住宅・REIT(不動産投資信託)についても解説されています。勝間氏は各金融商品の特徴を比較した上で、投資の初心者が最も安定的に資産を増やせる可能性が高い金融商品として『ノーロード(売買手数料無料)の投資信託』を上げています。一方、銀行の最大の収益源でありリテール(個人顧客)部門のゴールである『住宅ローン』については、『他の金融資産に投資できなくなること』... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2008/01/14 02:32 |
堀江貴文『徹底抗戦』の書評
2006年1月16日に、証券取引法違反の容疑で六本木ヒルズのライブドア本社に東京地検特捜部が強制捜査に入り、その後間もなく、ライブドアトップの堀江貴文社長や宮内亮治取締役が逮捕された。それまでのライブドアは旭日昇天の破竹の勢いで、M&A(買収・合併)や株式分割を繰り返し飛躍的に『事業規模・時価総額』を拡大させて日本のIT業界を牽引しており、堀江貴文社長は“ホリエモン”という愛称で時代の寵児となりマスメディアに持てはやされていた。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/03/28 11:23 |
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