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help リーダーに追加 RSS 所得の再分配をする累進課税制と労働意欲の抑制効果(負の誘因効果)の問題について

<<   作成日時 : 2007/05/06 14:12   >>

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前回の記事で消費税と財源の問題について書きましたが、間接税としての消費税や直接税としての所得税の持つ特徴と課税対象について少し書いておきたいと思います。

消費税は一般に、所得の大きい人ほど所得に占める税負担の比率が低くなる「逆進税」ですから、実質的に所得税負担が免除されている年収300万円前後の人にとっては大きな税負担となります。故に、消費税増税は低所得者への再分配となる目的税化(福祉目的税化)がなされない限り、「富裕層の優遇税制」という批判は的を得たものと言えるでしょう。

しかし、増税論議にはもう一つ「所得税の課税最低限の引き下げ」という主張があり、この主張が採用される場合には現在年収100万円台のフリーター(パート)も所得税負担を求められる恐れが高くなりますから、低所得層にとっては「生活必需品に課税しない消費税増税」よりも大きな負担になる可能性が高いと予測されます。

小泉政権で経済財政担当相を務めたネオリベラリストの竹中平蔵氏は、一時期、所得水準と無関係に一律の固定一括税(人頭税)を採用することが効率的であるという主張をしていましたが、課税最低限の引き下げと累進課税の撤廃をセットにした税制が固定一括税(人頭税)であり、「水平的平等(所得や能力と無関係にあらゆる個人を平等に取り扱う)」を徹底した税制であるといえます。水平的平等だけを追求した税制とは、税制から所得の再分配効果(高額所得者から低額所得者への財の移転)という社会格差の是正機能を取り除いた税制ですから、一般に富裕層はますます豊かに低額所得者はますます貧しくなる可能性が高いといえます。

一方、累進課税制に反対するネオリベラリストの論者の意見にも一定の合理性はあり、彼らは「税制の公平性(経済格差の一定範囲での緩和)」よりも「税制の効率性(民間経済に与える超過負担の減少)」を追求することで経済全体のパイを最大化することが全体の豊かさ(効用の最大化)につながるというわけです。累進課税に批判的な人は、課税と労働意欲の低下には密接なつながりがあり、優良企業や高額所得者層に大きな増税をすると彼らは労働意欲を失って日本経済全体の活力低下を招くといいます。あるいは、減税によって現在稼いでいる企業と個人の労働意欲を刺激することで「総税収増加の効果」が生まれ、結果として「低額所得者への再分配効率」が高まるといいます。

平均所得に近い所得水準で厚生年金(共済年金)のあるサラリーマン(公務員)として働く中流階級の場合には、消費税の福祉目的税化は「社会保険支払額の減額」程度の恩恵しかないですが、大手企業に勤める比較的所得の高いサラリーマンであれば、「法人税・所得税といった直接税増税」よりも「間接税の消費税増税(+法人税減税)」のほうがメリットが大きいと考えられます。

莫大な営業利益を上げている大企業・メガバンクの税金を安くする法人税減税に対しては、中小企業に勤めるサラリーマンや非正規雇用の低額所得者から「大企業・大銀行にばかり有利な不平等な税制変更」という批判が根強くありますが、法人税を減税することが平均所得以下の国民の不利益になるのかというとそうとは断定できない部分もあるので難しいです。同じ直接税である所得税にしても、日本では課税最低限が比較的高いので年収300万円程度の既婚者であればさまざまな所得控除によって、実質的に所得税の納付が免除されています。故に、平均所得(平均値)よりも庶民の所得実態を表しているとされる中位所得(中央値)に近い所得を得ている人は、累進課税率の高低を心配するよりも「課税最低限の引き下げ(各種控除の廃止)」による「実質負担の増加」を心配したほうが良いということになります。

日本の所得税に限って言えば、年収が500万円以上くらいにならないと有効な税収源にはならないので、低額所得者の税負担にも一定以上の配慮がなされている部分があります。また、そういった所得税制における配慮が、実質負担を増大させる消費税増税への無条件の反対を生み出す原因にもなっています。累進課税制を採用している日本の所得税は、今のところ『所得の再分配』の機能をある程度重視していますから、総資産数兆円以上の大富豪がかなりの数いるアメリカなどと比べると「税の効率性」よりも「税の公平性」が優先されているとは言えると思います。

日本は、国家のGDP規模や企業の技術水準では世界有数の経済大国ですが、税制における所得の再分配効果が強く大企業の社長(CEO)の給与水準も低いので、日本よりも国家規模での経済力で劣るインドやロシアよりも破格の大富豪(保有資産数百億円以上の富豪)が少ないという特徴があります。ジニ係数で見る限りにおいて日本は経済格差は年次ごとに緩やかに大きくなってきていますが、日本の税制や株式市場では欧米の成長企業のCEOのような突出した桁外れの所得(年収数百億円以上)を得る大富豪は恐らく余り出てこないでしょう。ただ、日本の場合は特定個人への富の偏在は殆どないものの、年収数百万円〜1,000万円程度の層における階層間の所得格差は開いてきている印象がありますし、その典型的な階層格差が「正規雇用(一般職・専門職)・非正規雇用・間歇的な無職者層(働いたり働かなかったりの繰り返しの層)の格差」なのかもしれません。

財政再建を実施する方策としては大きく『政府活動の歳出削減(コストカット)・増税による歳入増加・経済成長(好景気)による税収増加』がありますが、財政再建を目指す税制改革の議論では『増税による歳入増加(減税による景気刺激)』がメインのテーマとなります。最近の税制論議では、巨額の財政赤字だけでなく日本経済の成熟(低成長率)や人口規模の減少を踏まえているので、減税による景気刺激や需要喚起を声高に主張する論者はさすがに少ないのですが、短期的スパンで見れば、減税による総税収増加の効果が見込める局面が出てくる可能性がないとは言い切れない部分もあります。

所得税の累進性については賛否両論ありますが、現実の民主的な政治状況では累進課税制の負担をする高額所得者よりも累進課税制の恩恵を受ける中流階層以下の人たちのほうが数が多いですから、所得水準と無関係に一律の税率を決める比例税に賛同する人は少ないでしょう。また、「税の公平性」と「社会秩序の維持」という観点から税制の所得再分配効果を全面的に否定する人は殆どいません。そう考えると、累進税としての所得税を前提とした上で、大きな所得を稼いでいる人の労働意欲を低下させない「限界税率(「税金の増加額」の「所得の増加額」に対する比率)」を設定することが求められていると言えるでしょう。

税の効率性と労働意欲の観点から考えると、営業利益を上げている大企業と高額所得を得ている個人だけに大幅な増税を強いることは社会全体の効用を低減させますし、長期的な税源確保の損失につながりますから適切とはいえません。極端な例でいくと、課税後所得2,000万円以上の人に限界税率100%をかけたとすると、1億稼いでも2億稼いでも手元に残るお金は2,000万円ですから、2,000万円程度稼いだところで後は働かずに休暇にしようという人がいてもおかしくありません。

勿論、実際にはサラリーマンで収入を得ている人が多いですから、限界税率100%でも中途半端に仕事を切り上げたり一年の半分を休暇にするような自由裁量を働かせることは難しいでしょうが。一定水準以上の所得を全部税金で徴収するというのが限界税率100%の極端な累進税ですが、これでは一定水準以上の所得を得ようとする労働意欲が完全に奪われてしまい経済活動が停滞する恐れが出てきます。平均所得を意識した限界税率100%でいえば、所得400万円以上は全て税金で徴収されるとなれば所得600万円くらいの人も400万円までしか稼がない可能性が高くなり、これは労働意欲を損なう悪平等の税制となります。

理想的な累進税率は1%から99%の間にあると考えられますが、高額所得者に労働意欲を減退させない税制は、(稼げば稼ぐほど高い税金を取られたとしても)納税後に手元に残るお金が稼がない人よりも多い税制(一定の格差を認める税制)だと言えます。生存困難な貧困状態の救済を含めた一定の格差の範囲について合意を得るのが、民主主義国家の税制改革論議になってきますが、直接税(所得税・法人税)の増税に限って言えば、現行の税率を高くするか課税最低限を引き下げるかといった政策になるでしょう。

労働意欲を高めることにつながる理想的な所得税制は、『個別的な所得の増減に配慮した税率』であり、それは『去年の所得よりも増大した所得分』については限界税率を下げるというものです。つまり、昨年の所得よりも多く稼いだ人のみに『限界税率の減税措置(所得増額分の税率の引き下げ)』が施される税制であれば、総納税額が多くなっても労働意欲が低下せず政府は一定の財源が確保できます。

前年から所得が変化しない人には増税も減税もなく、所得が前年よりも増加した場合のみに減税効果があるので、課税による労働意欲低減といった負の誘因効果を抑制することができます。しかし、前年の所得水準を参考にして個別的に税率を変化させると税務署の事務処理と所得確認が煩雑になるので、人件費が嵩むという批判も当然あり得ます。消費税の税率と課税対象についてもう少し補足記事を書くかもしれません。


■関連URL
税金の公平性と効率性

トーマス・フリードマン『フラット化する世界』の書評

盛者必衰の理とせめぎ合うアメリカの経済的文化的ダイナミズム

所謂、『勝ち組』『負け組』と経済制度のあり方について


■書籍紹介
知って得する年金・税金・雇用・健康保険の基礎知識〈2007〉―「自己責任」時代を生き抜く知恵
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