カウンセリングルーム:Es Discovery

アクセスカウンタ

help リーダーに追加 RSS 「消費税16%」を求める経済同友会と格差社会における社会保障:福祉目的税化した消費税の負担と効果

<<   作成日時 : 2007/05/01 11:54   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 3 / コメント 0

小泉政権では景気回復の足を引っ張るとして増税論議は見送られたが、安倍政権では本年度中にも増税を基調とする税制改革論議が本格化すると見られている。日本の財政赤字(債務残高)は国と地方を合わせて1,000兆円を越える天文学的な数字になりつつあるが、この財政赤字を今すぐどうにかする必要はなくてもいずれは財政再建に有効な対処を示す必要が出てくるだろう。

莫大な債務の支払義務による政府の財政破綻を心配する意見もあるが、世界市場で重要な位置づけにある日本がそう簡単に致命的な財政破綻を引き起こすとは予測し難い。現実的な問題になるのは、現役世代が漸減する少子化社会における税収減少と老齢世代が急増する高齢化社会における社会保障の支給義務が結びつくことによって、社会保障システムが解体するのではないかという不安であり、それを強引に守ろうとすれば驚異的な増税と消費抑制(景気悪化)のリスクがあるということである。

「数の少ない現役世代」が「数の多い退職世代」を支える賦課方式を採用している公的年金・社会保障のシステムは、日本の少子化の人口動態と若年の非正規雇用者層(フリーター層)や間歇的な無職者層の増加(低所得や無職期間による年金未納)を見る限り、長期的に維持できる可能性は極めて低いだろう。財政再建によって財政赤字を出来るだけ減らすということが、政府の潜在的な支払能力(社会保障や将来不安に対処する貯蓄率)に直結することが望ましいが、実際には増税をしても社会保障関連の財源にその税収が割り当てられるかは定かではない。

税金の使途に関する監査能力の弱さや透明性の低さなどもあり、国民の多くは増税の必要性を自覚しながらも増税に前向きになれないという状況があるが、最近では、『消費税の福祉目的税化(年金保険料による賦課方式の廃止と消費税の年金財源化)』などの議論も活発になってきている。生活必需品にも課税する消費税の増税というと社民党や共産党は『金持ち優遇の弱者いじめの政策』と反射的に非難するが、消費税の福祉目的税化(基礎年金の財源化)が法的にしっかりとフォローされれば、『一律的な老後の社会保障』を意味するのだから必ずしも弱者に厳しい税制改革とは言えないだろう。

経済格差を緩和する『所得の再分配』の役割も持つ税制には、高額所得者ほど高い税率を課す「累進税」と所得の大小を問わず同じ税率を課す「比例税」があるが、全ての商品に同じ税率をかける消費税は一見比例税に見えて、実質的には高額所得者ほど負担(平均税率)が小さくなる「逆進税」である。もちろん、所得と資産が大きい富裕層ほど、高額な商品やサービスを消費するので消費税の相対的な支払額は大きくなるが、「所得に占める消費税の割合」では富裕層よりも低額所得者層のほうが大きくなる。

何故なら、年収2,000万円の人でも年収200万円の人でも、生活に絶対に必要な消費というのは限定されており、数億円単位のお金を持っているからといって月に1,000万円以上の消費をするような人はそうそう多くないからである。年収数千万円でも独身でそれほど派手な支出や贅沢な消費をしない人であれば、月に100万円も消費すれば十分に満足のいく生活ができるだろうし、そんなに何百万円も毎月買いたい物やサービスがないという人も多いだろう。年収が数千万円もあれば所得税もかなり大きくなるだろうが、課税後所得の大半は貯蓄や投資に回されることになり、消費行動に課される消費税が所得に占める割合は微々たるものとなる。

消費税が高額所得者に優しく低額所得者に厳しいと言われる所以(ゆえん)であるが、消費税が福祉目的税化(基礎年金の財源化)されれば非正規雇用の低額所得層や年金未納期間が長くなりがちな貧困層は「年金保険料支払(老後資金の一部)の自己責任」が実質免除されることになる。その為、年金財源化された消費税は、必ずしも弱者にだけ大きな負担を強いる税金とは言えなくなり、消費税は「逆進税」として富裕層に有利な税金であると同時に、「部分的な老後保障(生存権・社会権の実質的な保障)」として低額所得層にも恩恵のある税金となるのではないだろうか。

下部で引用した『消費税を16%に増税すること』という朝日新聞の記事は、かつがつの収入で生活している経済的弱者を追い込むという否定的な方向に解釈することもできるが、経済同友会の税制改革の提言がそのまま税法として採用されるのであれば、反対に年金も払えない水準の経済的弱者を保護する改革ともいえる。『基礎的な食料品を購入した場合には消費税相当額を所得に応じて還付する制度』の導入も求められており、今まで低額所得者層が消費税増税に反対する大きな理由になっていた『生活必需品(基礎的な食料品)への消費税課税』にも配慮されている。一律的に全ての商品に消費税をかけないことで『税の効率性』を犠牲にしながら、『税の公平性(倫理性)』を重視しているところは評価できるのではないだろうか。

ただ一つ大きな問題となるのは、本当に『消費税16%の税源』で全ての国民の基礎年金部分を恒久的にカバーできるかということであり、今まで「年金保険料で徴収していた年間の総額」と「消費税16%を採用した場合の税収」を比較してみて消費税の税収のほうが大幅に上回っていないと実現可能性に乏しいという批判がでるだろう。その意味では、法人税を減税したり所得税を減税したりすることは、「可処分所得の大きい国民」の消費マインドを刺激して消費税の税収額を増加させるので、経済同友会の減税案にも一定の合理性があると言うこともできる。

お金を持っている人たちが贅沢品や高級品、レジャーの派手な消費をすればするほど、あるいは、儲かっている大企業が営業利益を上げれば上げるほど、「国民全体の社会保障の財源」が確実に潤うということになれば、一定ラインまでの社会格差については容認できるという意見があっても良いだろう。また、基礎年金の財源を全て消費税にすれば、国民年金に関しては個人単位の納付実績の確認作業・煩雑な手間のかかる照会作業がなくなるので、現行の社会保険庁を大幅に縮小して年金業務にかかる人的コストや制度的コスト、ヒューマンエラーを削減することができる。

ただし、その為には消費税の税収の大半や法人税の税収の一部を、社会保障費(基礎年金財源)以外には決して使わないという「社会保障目的税の法制化」を絶対必要条件としなければならない。

私は財界を代表する経済同友会がこういった提言をしていることに驚きを覚えたくらいであるが、政権中枢に影響力を持つ圧力団体がミルトン・フリードマンの『負の所得税』に言及して格差是正を促すのは大きな前進ではないかと思う。社会主義的な完全平等は悪平等であるが『負の所得税』は労働のインセンティブとなる「最低ライン以上の経済格差(労働者の競争環境)」は残しており、バイトであっても何らかの仕事に従事して働かないと負の所得税を受給できないので、働かなくても受給できる生活保護とは根本的にその目的と効果が異なっている。

反対に、低額所得者層を擁護する目的や格差社会を糾弾する意図をもって、この経済同友会の増税案に反対するのであれば、究極の格差縮小策ともいえる『負の所得税』について理解を深めその代案を示す必要があるだろう。消費税の税率が16%であるのが高すぎるのか低すぎるのかは判断が難しいが、数千万人単位の基礎年金部分を税源で賄うのであれば、この程度の消費税率は必要になってもおかしくないように感じられる。

格差社会に反対する若年のフリーター層(非正規雇用者層)は、『最低賃金の上昇』や『派遣会社のピンはね禁止』を要求するメーデー集会をするよりも、M.フリードマンの『負の所得税の制度』を政権に承認させるような目的を絞ったメーデー集会をしたほうが政治的に有効な運動になるのではないだろうか。生存権(社会権)の保障を求めるのであれば、負の所得税によって「既定の最低所得ライン(最低限の文化的生活に必要な所得水準)」に達しない部分の公的給付を受けるほうが確実である。

所得階層間の移動が可能な相対的な格差が絶望的な貧困へと固定しないような政策的努力が政府には求められるし、負の所得税が定める「最低ラインの賃金」を下回らないような従業員の待遇を企業は心がけるべきだろう。安倍晋三首相は、政権発足当初に経済的な敗者が『再チャレンジ可能な社会』を構築するといった抱負を語っていたが、こういった生存や文化的生活に必要な最低ラインの賃金水準をシステマティックに保持する制度設計が『再チャレンジ社会』には必要である。

派遣会社などで日給月給の仕事をしながらネットカフェやファミレスで一夜を過ごさざるを得ない若い人たちにも、自分の健康や幸福、将来を守るために、社会的セーフティネットを税源で手厚くする有効な政策についてもっと興味や関心を持って欲しいと思う。


「消費税を16%に」 経済同友会が税制改革提言

経済同友会は23日、国の税制見直し論議が今秋から本格化するのを前に、消費税率を現行の5%から16%に引き上げることなどを盛り込んだ税制改革提言を発表した。現在約40%の法人実効税率については、法人事業税の廃止により35%程度に引き下げるよう求めた。いずれも2010年代半ばまでの実施を要望している。

提言では、16%の消費税率のうち9%は新設する年金目的税とし、年金保険料はなくす。残りの配分先は国税分が2%、地方税分が5%。法人事業税を廃止し、税源を地方消費税に置き換えることで、「地方自治体はより安定的な財源を確保できる」としている。

低所得者層ほど負担感が重くなる消費税の「逆進性」に対しては、基礎的な食料品を購入した場合には消費税相当額を所得に応じて還付する制度の導入を求めた。

法人実効税率の引き下げについては、日本企業の国際競争力の維持・向上や、諸外国からの投資拡大などの効果があると主張している。日本経団連も30%程度への引き下げを求めている。

同友会はまた、低所得者には、税額控除での対応で「所得税の再分配機能を実質的に発揮できる」としている。低所得者の控除額が所得税額を上回る場合、その超過分を現金で給付するという案だ。経済学者フリードマンが提唱した「負の所得税」の考え方に基づく制度で、勤労意欲を高める効果があるという。


消費税(間接税)と所得税(直接税)のバランス、税金の効率性や公平性についても、また財政再建や社会保障との関係の中で色々と考えてみたいと思う。


■関連URL
税金の公平性と効率性

国家財政の基本機能と構造改革:あなたの望む政府の規模と機能とは?

業績が回復しても多くの企業がフリーターの正社員採用に消極的であるという問題:経団連調査より

“生きるための定常型経済”と“稼ぐための資本主義経済”

■書籍紹介
消費税15%による年金改革
消費税15%による年金改革

設定テーマ

関連テーマ 一覧

月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(3件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
所得の再分配をする累進課税制と労働意欲の抑制効果(負の誘因効果)の問題について
前回の記事で消費税と財源の問題について書きましたが、間接税としての消費税や直接税としての所得税の持つ特徴と課税対象について少し書いておきたいと思います。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2007/05/06 14:13
国家の徴税権・統治構造の基盤にある“国民の安全・生活の保障”:税制改革と“税の中立性”の問題
麻生政権が発足して、麻生首相の所信表明演説に対して民主党の小沢一郎代表の所信表明演説が行われましたが、自公政権と民主党(野党)との対立の中心にあるのは財源の問題であり、財源確保のために税制をどう改革していくのかということです。アメリカの大規模な金融危機から発した世界的な景気悪化の継続を踏まえて、麻生首相は『財政再建・衆院解散よりも景気回復を優先する』とし、景気対策案を含む補正予算を議会で通過させることを喫緊の目標に据えています。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2008/10/02 23:30
民主党の年金制度の改革案についての雑感1:最低保障年金と所得比例年金で負担率は上がるのか?
8月30日に迫った衆院総選挙における注目度の高い争点の一つが『公的年金制度の改革』ですが、自民党と民主党の年金制度改革のビジョン・方向性というのは意外に見えにくいと思います。現在、公的年金制度で問題になっているのは『年金財源の中長期的な確保・負担と給付のバランス・国民年金の納付率(未納率)・給付水準の維持』などであり、特に20〜30代くらいの年齢層では年金そのものが貰えるのかという不安もあると思います。給付開始年齢の引き上げや給付水準の切り下げなどの問題もそこに含まれるでしょう。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2009/08/27 10:24

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コンテンツ&本の紹介

Es Discovery's Encyclopedia(百科事典的なアーカイブ)

ESD ブックストア(インスタントストアで色々なジャンルの本を紹介しています!)

心理学の事典や臨床心理学の概説書

S.フロイトとC.G.ユングの書籍