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現実吟味能力が保たれた精神疾患(精神障害)全般に共通する中核的症状として『不安・緊張・抑うつ・恐怖・混乱・強迫性』などがあるが、気分が落ち込み意欲を喪失するうつ病(depression)と並んで発症者数が多いのが不安障害(anxiety disorder)である。うつ病や統合失調症といった精神病と不安障害の不安症状(情緒障害)はオーバーラップ(重複)することが多い。それは、人間の精神の病理性の根本に『未来が現在よりも悪くなるのではないか(未来で何か悪いことが襲いかかってくるのではないか)』という悲観的認知があり、悲観的認知が生理学的反応と連動した『不安(anxiety)』を生み出すからである。 不安障害の下位分類には、古典的な精神分析の病理学において神経症(neurosis)に分類されていた精神疾患が多く含まれている。不安障害の発症機序は神経症と同じく素因・ストレスモデルで説明することができ、“遺伝・気質・性格などの素因(個人要因)”に“人間関係・生活状況・家庭環境(親子関係)などのストレス(環境要因)”が加わることで発症する。 不安障害の下位分類となる精神障害には、『全般性不安障害(GAD)・パニック障害・広場恐怖(空間恐怖)・単一恐怖症・社会性不安障害(対人恐怖症)・強迫性障害・心的外傷後ストレス障害(PTSD)・急性ストレス障害』などがあるが、この中で認知の偏りによって生理学的反応(動悸や呼吸困難など身体症状)が顕著に現れるのはパニック障害(PD:Panic Disorder)と広場恐怖(agoraphobia)である。 パニック障害の神経心理学的(生理心理学的)な病理機序でもっとも有力なものは、視床下部青斑核におけるノルアドレナリン系神経細胞(ニューロン)の部分的な異常興奮であり、それに付随する脳内の情報伝達の異常としてうつ病(気分障害)に似たセロトニン(5-HT)の不足も仮定されている。セロトニンの分泌量そのものが不足するというよりも、セロトニンを受け取る受容体の感受性が亢進してシナプス間隙のセロトニン量が不足するようである。 神経心理学的な症状の形成機序にうつ病との類似性が指摘されているように、パニック障害に悩むクライエントの中には抑うつ感や億劫感、意欲減退を感じている人も少なくない。神経活動の異常興奮が生理学的原因となっているパニック障害の薬物療法には、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬(マイナートランキライザー)が第一選択となっているが、抑うつ感や無気力が同時に出ている場合には抗うつ薬が同時に処方されることもある。 パニック障害は上記のようにうつ病ともオーバーラップするが、抑うつ感や意欲減退の症状はパニック発作に対する不安を原因として生まれることもあり、抑うつ感の症状が軽ければパニック障害の軽減と共に自然にうつ病関連症状が消失することも少なくない。DSM‐Wではパニック障害の本体(中核症状)であるパニック発作を『ある限定された時間内に、しばしば死の恐怖を伴う強度の不安もしくは恐怖がとつぜん出現する。発作中には、息切れ、動悸、胸痛または胸部不快感、窒息感または息苦しさ、発狂恐怖または自制能力の喪失恐怖などの症状が出現する』と定義しているが、パニック発作そのものはパニック障害以外の不安障害でも起きることがある。 パニック障害と一緒に併発しやすい不適応状態としては外出が困難になる広場恐怖(agoraphobia)があり、DSM‐Wでは『広場恐怖をともなわないパニック障害』と『広場恐怖をともなうパニック障害』の診断基準が示されている。なぜ、パニック障害の病態と治療を理解する上で広場恐怖が重要になってくるかというと、パニック障害の実際的な不利益の大部分が『大勢の人がいる公共の場所への外出困難』や『誰もいない一人だけの部屋で時間を過ごすことの困難』に関係しているからである。必要な時に行きたい場所にでかけることが不可能になれば、通勤・通学に支障が生じて社会的・経済的損失を蒙ることになってしまう。
パニック発作は不安を感じる『不安誘発場面』とは無関係に突発的に起こることも多いが、パニック発作が起こる時には大抵、無意識的にではあっても『また過去と同じような恐怖を感じるパニック発作が起きるのではないか』という予期不安を抱いていることが多い。パニック障害の心理療法(カウンセリング)の具体的な達成目標の一つが、パニック発作の回数(頻度)を減らすことであり、パニック発作を誘発する予期不安を楽観的な認知に置き換えることである。 その目標の実現に最も有効なのが、エクスポージャー法(曝露療法)を用いた認知行動療法だが、認知的技法はパニック障害を原因とする『回避行動(パニック発作を恐れて、特定の状況や場面を避けようとする行動)』の改善にも役立つ。
パニック発作が起きているクライエントの血中二酸化炭素濃度は一般に高くなるが、呼吸の回数が小刻みに多くなりすぎて血中から排出される二酸化炭素の量が多くなると血中二酸化炭素濃度が低くなることもある。呼吸パターンが早くなりすぎるパニック発作は過換気症候群の身体症状と類似しているが、過換気症候群でも、代謝の需要を越えた呼吸数により血中二酸化炭素濃度が低下する『呼吸性アルカローシス』が起こることがある。 その為、パニック障害を持っているクライエントの過半数が、過換気症候群の診断と重複すると言われるが、過換気(呼吸困難)の症状そのものがパニック障害の中核症状であるわけではない(Buikhuisen & Garssen, 1990)。過換気の呼吸困難(窒息恐怖)の結果としてパニック発作や不安感が生じるというのがレイ(Ley)の呼吸困難理論だが、パニック障害の呼吸困難は、身体の些細な違和感(異常感覚)を過大に評価してしまう破局的認知によって起きると考えられる。 呼吸困難(窒息恐怖)から、死の恐怖や自己コントロールの喪失恐怖が生まれると考えるのが呼吸困難理論だが、現在では『身体感覚の破局的認知』からパニック障害が発症するという認知モデルが有力となっている。軽度のパニック発作(恐慌発作)は比較的多く見られるが、専門的な対処(薬物療法・心理療法)が必要か否かを見極める判断基準は、特定の場面や状況を避ける回避行動が見られるかどうか、アルコールや薬物によって予期不安を紛らわせているかどうかというところにある。 ■関連URL 予期せぬパニック発作の恐怖と混乱に襲われる“パニック障害”について:1 予期せぬパニック発作の恐怖と混乱に襲われる“パニック障害”について:2 ■書籍紹介 不安障害の認知行動療法〈1〉パニック障害と広場恐怖―不安障害から回復するための治療者向けガイドと患者さん向けマニュアル
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パニック障害の認知モデルと破局的認知を修正する認知的・行動的なカウンセリング
前回の記事で書いた呼吸性アルカローシスを伴うパニック発作や過換気症候群が慢性化する理由については、バーロウ(Barlow)の“誤った警報理論”やクラーク(Clark)の認知理論などに代表される『パニック障害の認知モデル』によって理解することができる。認知行動療法を実施する場合には、認知モデルを前提としたパニック障害の基本メカニズムをクライエントに教えるようにするとスムーズに技法を適用できる。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2007/04/08 21:58 |
自己愛障害(自己愛性人格障害)に見られる“自己中心性・承認欲求・脱価値化・カリスマ性”
広場恐怖をともなうパニック障害の病理学の記事で、精神疾患全般に共通する中核的症状として『不安・緊張・抑うつ・恐怖・混乱・強迫性』を上げたが、性格傾向の過度の偏りや対人関係が上手くいかない問題で重要になってくるのが『自己愛の障害』である。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2007/04/16 03:16 |
ピエール・ジャネの精神衰弱概念と不安障害・強迫性障害につながるパーソナリティ特性
S.フロイト(1867-1939)が創始した精神分析は神経症(neurosis)を主要な研究対象とし、“不安・恐怖・強迫観念・ヒステリー”という感情の病理性を自我防衛機制との相関で考えました。特定の対象に対する明確な恐れを感じる“恐怖”と不特定の対象に対する曖昧な恐れを感じる“不安”の大きな違いの一つは、『将来に対する不安・自分の能力に対する不信』にあります。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2008/09/11 06:00 |
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