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梅田望夫さんの『My Life Between Silicon Valley and Japan』の「好きを貫く」ことと大企業への就職から始まる『大企業への就職とベンチャーへの挑戦』を巡る一連の記事を読みました。今は4月の入社・入学のシーズンを迎えているので、新卒時の職業選択や個人(学生)の職業適性についてリアルタイムで考えている人には、正に時宜を得たエントリーだと言えるでしょう。 昨年来の大企業(大銀行)の大幅な景気回復を受けて、新卒者の雇用市場は完全な売り手市場になっていますが、一般的な学生はやはり大企業志向あるいは公務員志向が強いと言えると思います。設立後間もないベンチャー企業への就職や自分と仲間でのベンチャーの立ち上げといったものを現実的な目標に据えている新卒者は少ないですが、その理由の第一はベンチャー事業が失敗した場合に背負うリスクが大き過ぎることでしょう。 梅田さんは職業選択の指標において『好きを貫くこと』を優先事項としているわけですが、そもそも学生の大半は就職活動において『何が好きか?(何がやりたいのか?)』という事を突き詰めて考えていないことが多いので、企業の安定性やブランド、社会的評価(ステータス性)にとらわれずに自分の好きな仕事を選ぶという感覚がしっくりこないケースも多々あると思います。 一般的な就職までのプロセスとしては、就職可能と思える企業の中で興味関心を惹かれた企業をセレクトし、相対的に知名度・賃金水準・労働条件・財務状況(将来の安定性)・社風・ステータス性・ブランドイメージなどが良いところに就職を決める人が多いでしょう。高い学歴を持ち学力試験に大きな自信を持っている学生の中には、早い段階から中央官庁の官僚を目指して国家T種試験の準備をしている人もいますが、そういった学校教育制度におけるベネフィットを延長したエリート志向の場合にも『何が好きか?(何をやりたいのか?)』といった評価基準は殆ど考慮されていないか、あるいは、社会的に漠然と共有されている職業ヒエラルキー(ブランドイメージ)の中で頂点に近い位置を目指すといったモチベーションで動いていると思います。 高校時代の模試において偏差値が80を越えるくらいの極めて学力の高い生徒の中には、医師という職業にそれほどの夢や志望はないが、東大の理Vが日本の偏差値教育の最高峰だからとりあえず挑戦してみたいという気概を見せる人もいます。大企業志向とエリート志向のモチベーションやインセンティブには共通する部分が多くありますが、基本的には、大多数の人が関門を潜り抜けることが難しい倍率や難易度の高い難関(各種の選抜試験)を自分の能力で突破して社会的に承認されたいという欲求だと思います。 エリート志向や権力志向と関係する職業や試験(資格)に関する社会的承認欲求は、『大多数の他者(大衆)との差異』を明確に客観的に認識できる指標を求めるということであり、折に触れて、明示的・暗示的な他者の羨望や賞賛を得る喜びを得たいということにつながっています。大企業志向の人が『好きを貫くこと』よりも『大企業に入社すること』を選好する理由の一つが、『好きを貫くこと』が主観的選好なのに対して、『大企業に入社すること』が客観的選好としての特徴を強く持つからです。 職業選択に際して仕事の内容に対する好き嫌いも考慮しているでしょうが、『自分だけが好きなもの(他者との競争がないもの)』よりも『大多数の人が評価しているもの(他者との競争があるもの)』を目指すことに価値を見出す傾向があれば、ベンチャーよりも大企業(国家・官庁)に魅力を感じるということになりそうです。厳密に言えば、ベンチャーのほうが入社後(立ち上げ後)の他者(他社)との生存競争が過酷なのですが、エリート志向というのは加入儀礼としての難関試験を突破して、後は他者よりも優遇される『特別な優遇措置』を得ようとする動機を内包したものだと言えます。 日本人の多くは学歴競争を経験していますから、『初めに頑張って試験にパスしたら、後はご褒美としてある程度楽な生活をしたい』という考えを持っている人は少なくないと思います。高校時代は一生懸命に試験勉強をしていたのに、難関大学へ入学後は、全く勉学や努力に対する意欲を喪失したという燃え尽き症候群的な人はかなり多くいます。大企業志向(公務員志向)の理由の一つとして、大学入試時のモチベーションが遷延した『入社まで何とか頑張って、後はなるべく穏当に波風なく仕事をしていきたい』という希望も無視できないでしょう。大企業への入社の第一理由として『企業の存続性・雇用(賃金)の安定性・相対的な生涯賃金の高さ(将来設計の立てやすさ)』がありますが、一種の長期的な身分保障として大企業(公務員)が認識されている向きもあるかと思います。 職業選択におけるエリート志向(大企業志向)は、基本的に、アーティスト志向(好きを貫く志向)と拮抗する関係にあります。エリート志向というのは、外向的な行動様式で『数が限定されたポスト(地位・資格・合格)』を争い合って勝利を目指すものであり、アーティスト志向というのは、内向的な主観的選好を貫いて『他人とは違う舞台』で自己の独自性(アイデンティティ)を模索しようとするものです。 大卒時の就職にこだわらない事例でいえば、中学校の偏差値(順位)で測定される学力競争のゲームから降りて、『俺は絵や漫画を描くほうが好きだから(俺はスポーツが好きだから)、学校の勉強は適当でいいや』と言って、自分で絵画(漫画)の描画技法を独学しているような人がアーティスト志向の典型と言えるでしょう。現在の中高年世代が、自分の子供に対してアーティスト志向よりもエリート志向(正社員を目指す正統派路線)に好意を示すのは、単純に、プロのスポーツ選手になりたいとか歌手・俳優になりたいとか、自分で会社を起こしたいとかいったアーティスト志向の大半は途中で失敗したり挫折する確率が高いからで、失敗した場合の保険やつぶしが殆どないからです。 自分(親)と同じような中小企業(ある程度の企業)のサラリーマンや地方公務員くらいであれば、ある程度真剣に学校の勉強をしていればなれるに違いないし、大金や名誉や仕事のやり甲斐を得られなくても、家庭や子供を持ってそれなりに幸せに暮らせるのではないかというのが中高年世代や安定志向の人たちの意見でしょう。そして、現実には社会で生活する大多数の人は、エリート志向とまではいかなくても正統派志向(毎月安定した給与が貰える仕事)の職業選択によって生計(家族)を支えていますから、『俺の経験から言うと、ベンチャーよりも大企業(公務員)のほうがいいよ。リスクを取って大きなリターンが得られるのはほんの一部の人間だけだよ』とアドバイスしやすくなります。 またこういったアドバイスをしてしまう背景には、日本の企業社会や雇用市場が、新卒時採用から企業人としてのキャリアを積むという正規路線を過度に重視していることがあります。つまり、いったんベンチャー企業の立ち上げとか夢を追う為のフリーターとかの路線でキャリアを逸脱してしまうと、(特別に有能な引く手あまたの人材を除き)一流とされる大企業へ就職するチャンスはほぼなくなり官僚として出世する道も閉ざされてしまうので、『エリート志向の本流』から逸脱することを恐れる高学歴者の大半は二の足を踏むのではないでしょうか。
梅田さんは、上に引用したように大企業に向いている性格行動パターンのタイプ(類型)として、色々なタイプを示してくれていますが、それらを私の私見を加えながらまとめると以下のようになるのではないかと思います。
大企業を志向する人に体育会系出身や体育会系のノリの人が多いのかどうか分かりませんが、多くの企業では体育会系の部活動に長期加入していたことをプラスに評価する傾向はあるとは思いますし、一般的に、集団活動(チームプレイ)によって成り立つ企業活動への積極的な参加という意味では体育会系の部活での経験は役立つ部分が多くあるでしょうね。 端的に、『自分ひとりで趣味や娯楽を楽しむタイプ(内向型性格の文化系)』と『みんなと一緒に旅行やスポーツを楽しむタイプ(外向型性格の体育会系)』の違いとも考えられますが、企業で仕事をする場合には、早く帰って読みかけの本を読みたいと思うようなタイプよりも、自分の好きなことでなくてもみんなと一緒に過ごす時間を楽しめるタイプのほうが企業文化に適応的に作用することが多いと思われます。 大企業志向とベンチャー志向の違いの話から、企業活動や企業文化への性格的な適応性の話にずれ込んだ気もしますが、『自らの傾向や「向き不向き」に向き合うこと』の記事で書かれた「大企業への向き不向き」は「企業生活への向き不向き」も含んだエントリーと言えるでしょう。しかし、試行錯誤する中で『自分の好きなもの』を発見しても、何処まで(何時まで)食べられる仕事を生み出せるのだろうかというアポリアに行き当たるわけで、『没頭できる好きなこと』を見つけた後に現実的に通用するビジネスモデルや需要のある商品・サービスを考案することのほうが難しいと思います。 あるいは、『好きな仕事』が既存の企業体制の中で実現できる場合には、自分でゼロから作り上げるよりも既に出来上がったシステムの中に入り込んだほうがリスクと負担が少なくて安心できるというのも企業志向の魅力でしょう。梅田さん自身も、大企業志向とベンチャー志向(好きを貫く志向)に優劣はないとしているように、最終的には、主観的な選好をどこまで突き詰めていくのか、自分の人生の時間を何に対してどれくらい配分するのかというキャリアデザインの葛藤の問題になってくると思います。 ※この記事を、「My Life Between Silicon Valley and Japan」へトラックバックしていたところ、梅田望夫さんから『勉強になる反応(トラックバック等の中から)のご紹介』という記事で過分にも取り上げて頂きました。その後の記事にも、人生の選択と個の強さを生かしたビジネスの進め方、ウェブリテラシーやお金リテラシーなど興味深いテーマが色々と取り上げられています。 ■関連URL 大企業の今後、そこでの適性、それと「好きを貫く」こと(My Life Between Silicon Valley and Japan) 『採用面接で語られる苦労体験』と『一般社会で求められる共感体験』 『同じ穴の狢コミュニケーション』と『尊厳保持のコミュニケーション』 『でたらめな仕組みで動く社会』の正当性や根拠にまつわる考察 マックス・ヴェーバーの『支配の社会学』と政治権力の正統性の根拠 ■書籍紹介 キャリア・アンカー―自分のほんとうの価値を発見しよう
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[日常]大企業に向いているのかな?
梅田氏のエントリー勉強になる反応(トラックバック等の中から)のご紹介の中にあった「カウンセリングルーム:Es Discovery」.ここで分類されていた,大企業に向いている性格行動パターンのタイプを紹介する. 他者との協調性や貢献意欲があり集団適応性の高いタイプ(個人 ...続きを見る |
はにゃおか研究日誌 2007/04/10 22:16 |
ウェブ上のコンテンツを閲覧(活用)される喜びとブログの情報価値のストック化
年齢を重ねるにつれて主観的な時間感覚というのは明らかに変化するし、積み重ねてきた人生経験による対人関係の質の変化によって『暇(退屈)な時間』は激しく増減するのではないかと思う。私は20代半ばくらいから主観的な体験としての『暇(退屈)』を意識することがあまりなくなったように感じるが、『やりたい事が見つからない時間(何をすれば良いか分からない暇な時間)が殆どない』という意識の転換に合わせてゲーム(室内娯楽)やレジャー(室外娯楽)を楽しむ時間も相対的に低下した。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2007/04/11 15:23 |
『暇(退屈)な時間』の意味するものと性格傾向(外向性・内向性)による時間の使い方の違い
前回の記事では、ブログの更新とストック性や文章のアウトプットの閾値の話になってしまったが、冒頭で挙げた『タイムマネージメント(time management)』と『暇(退屈)な時間』の話も少しだけ書いておきたい。この問題について書こうと思ったきっかけは、まず、自分自身が『暇(退屈)な時間』を意識することが殆どなくなったこと、そして、梅田望夫さんの『好きを貫くこと』に関する一連の記事で人生全体(個人の利用可能な時間)のタイムマネージメントを考えたことがある(当ブログの関連記事)。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2007/04/12 12:29 |
効率的な勉強法や仕事のプロセスを構成する要素:なぜ、人は終わりなく仕事や勉強をしようとするのか?
仕事や勉強、作業を滞らせずに効率よく進めるためには、『インプット(情報入力)−モチベーション(内発的動機づけ)−アウトプット(結果の出力)』の3つの要素を重要度や優先度、状況、気分に合わせて効果的に使い分けていく必要がある。一般に一定以上の知的能力(読み書き能力)や専門スキル、コミュニケーションスキルを必要とする仕事では、『集中力・記憶力・理解力(思考力)・状況適応力』のバランスを取ることで、あなたのパフォーマンスを最大化できるが、相手のある仕事であれば、この中で最も重要なのは状況適応力と... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2007/09/05 00:53 |
「キャリアのスタートに最適な職場」ランキング─米国企業の「ジェネレーションY」争奪戦─
<記事要約> ビジネスウィーク誌に、「キャリアのスタートに最適な職場」95社の... ...続きを見る |
専門家や海外ジャーナリストのブログネット... 2007/10/24 18:17 |
梅田望夫『ウェブ時代をゆく ―いかに働き、いかに学ぶか』の書評1:経済圏と知的情報網としてのウェブ
1990年代後半から続くIT(情報技術)の発達とウェブ環境の普及によって、18世紀イギリスの産業革命に次ぐ情報革命が起きたと言われるが、私たち個々人にWeb2.0(総表現社会)を前提とする情報革命はどのようなインパクトをもたらしたのだろうか。産業構造の概略について考えると、『産業革命』は管理された集権的な工場労働(営利活動)によって全世界に高コスト・高品質な工業製品を大量に頒布することに成功したが、個人と企業(組織)の結びつきは半ば義務的・必然的なものとなり、福利厚生をも担う企業から個人が... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2007/11/14 15:14 |
グローバル化と情報革命による“産業構造の転換”と“崩れかけた年功序列制”の下で閉塞する若者たち
前回の記事で、労働所得が極端に低いワーキングプア(働く貧困層)の問題を取り上げましたが、非正規雇用者(フリーター)や無職者が増大したマクロ経済的な要因として『産業構造の転換・バブル経済の破綻・新興工業国の台頭・経済活動のグローバル化・労働市場の流動性の低さ』などを考えることが出来ます。一億総中流社会と呼ばれた日本を支えたのは、労働集約性(大勢の労働者)を必要とする第二次産業(工業)の製造業・建設業であり、高コストな生産施設を抱えて規格型工業製品を大量生産する大企業が手厚い福利厚生によって従... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2007/12/14 00:54 |
梅田望夫『ウェブ時代 5つの定理』の書評1:ポジティブな金言と主体的な人生の可能性
梅田望夫さんが精選した『ウェブ時代の金言』はビジネスの成功とポジティブな希望を志向する言葉の群れであり、一つ一つの言葉の中には『仕事(起業)のヒント』とは別に『生きる姿勢』への問いかけが含まれています。『ウェブ時代 5つの定理』では、理想的な未来のビジョンや先進的な思考過程を言語化するビジョナリーの金言が、5つのカテゴリーに分けて収録されています。興味を惹かれた定理の言葉から読み進めていく内に、絶え間なく変化する現代社会(情報化社会)を生きる勇気や未来の世界への知的好奇心が高まってくるよう... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2008/04/20 20:14 |
齋藤孝・梅田望夫『私塾のすすめ――ここから創造が生まれる』の書評1 :志向性の共同体と教育ビジョン
子ども達と直に触れ合いながら教育学の分野で実践を続ける齋藤孝とウェブの最先端を見据えながらビジネスの分野で活躍する梅田望夫の対談本です。未来におけるウェブ技術を駆使した『学習の進歩の可能性』というテーマについて語り合う齋藤孝と梅田望夫ですが、二人がイメージしている『教育活動の具体像・対象範囲』にはかなりのズレがあり、そのズレを補正する共通の理念として『私塾願望』が掲げられます。リアルとネットを架橋して『志を同じくする仲間』が集い『ロールモデルとしての師』と出会うことで、年齢や場所に制限され... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2008/06/25 11:37 |
“社会適応”と“個性教育”を目的とする学校教育の問題点1:個性的であることへの欲求と逸脱行動
現代社会には“普通であること”と“特別であること”という二つの価値基準があり、学校教育では規律訓練によって『(個性を抑制した)普通の生徒』へと教育しようとする一方で、長所や利点を伸ばす個性教育によって『個性的な生徒』を生み出そうとする。人間には『無個性な主体として集団に適応したい』という欲求と『個性的な主体として集団の中で目立ちたい』という欲求の相矛盾する二つの自己定義的な欲求があるが、児童期・思春期・青年期の発達過程における『承認・成功』や『拒絶・失敗』を通して自分なりの環境適応の方略を... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2008/09/29 04:21 |
職業相談からキャリアカウンセリング(キャリアガイダンス)への移行:キャリア概念とは何か?
産業カウンセリングの分野では就職・転職・解雇・昇進降格・職場適応・人間関係(ストレス)などを巡って『キャリア(career)』というものが問題視されることがあるが、雇用情勢や人生設計が不安定になる中で、キャリアを主要な研究テーマとするキャリア・カウンセリングの必要性は高まっているように感じる。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/04/23 15:03 |
新人は“仕事で分からないこと”をどのように質問したら良いのか?:新人教育と疑問解決の質問力
新入社員(新人)がどうして『自分が分からないこと』を質問に来ないのかという以下の記事がありましたが、仕事をしながら技術や知識を学ぶ“OJT”では『先輩の教育業務に対する意欲・適性・方法論』と『後輩の学習意欲・理解力・質問力』によってその教育の成果に大きな差が出てくると思います。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/11/21 05:34 |
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