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zoom RSS 『脱価値化』が緩和する嫉妬感情と『共感性の欠如(他者の利用)』に根ざす自己愛の反社会性

<<   作成日時 : 2007/04/17 04:29   >>

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前回の記事では、不適応で不安定な対人関係をもたらす『分裂』と『脱価値化(devaluation)』の防衛機制について解説したが、脱価値化は『過去に価値を認めていたものを潔く断念する』といった肯定的な効果を生み出すこともある。しかし、過去に親密だった人間関係をあっさりと断ち切る脱価値化を頻繁に用いると、一般的には、根気のない飽き性や身勝手な気分屋、友人に対して不誠実な人という批判を受けやすくなるだろう。

また脱価値化とは、自分の欲求を満たしてくれない相手への愛情や関心を即座に撤収することなので、『あの人にはもはや何の価値もない』という脱価値化の防衛機制を用いる人は嫉妬心(envy)が強いことが多い。『本当はまだ好きだけど、好きと認めてしまえば自尊心が傷つく(好きと幾ら主張しても拒絶されるばかりで何の効果もない)』という時に脱価値化は最も効果を発揮し、身を焦がすような嫉妬(羨望)の苦痛から自分を守ってくれる。しかし、脱価値化による嫉妬感情の緩和は不快な認知的不協和(矛盾する二つの考えや感情を同時に持っており自己欺瞞していること)を伴うことがあるので、脱価値化(自分で自分を巧妙にだます防衛機制)を繰り返すばかりでは本当の孤独感や空虚感は癒えることがない。

正常な自己愛を持つ一般の人にも、『他者に自分の価値を認めてもらいたい』という承認欲求や自己顕示性はもちろんあるが、病的な自己愛を持つ人の場合には『他者の心情への共感性(感情的な配慮)』『コミュニケーションの相互性(好意の返報性)』などが完全に欠如しており自分勝手に他人を操作して利用しようとする傾向がある。自己愛に障害を持つ人の多くは、自己と他者の境界線が曖昧なので、自己中心的に他人を道具化して利用しても罪悪感や良心の痛みを殆ど感じることがない。

異常な自己愛を持つ人の自己評価は、一般に現実の実力や業績に見合わないほどに高いが、それは、エディプス期(4〜6歳頃)において形成される超自我(superego)の心的機能が脆弱であるか欠損しているからである。自己愛の強い人は、強い自信を持ち自己評価が高い一方で、致命的な挫折や決定的な失敗に対するトレランス(耐性)が意外に弱いという側面を持っていて、他者からの賞賛や評価を失って誇大的な幻想が完全に打ち破られると非社会的な回避行動やひきこもりを見せることもある。内面的な良心(道徳感情)を司る超自我とは、現実原則に適応する為に発生する精神構造(心的機能)であり、幼児的な全能感(誇大的な万能感)に駆動される快楽原則を断念させるものである。

病的な自己愛は、誇大性に基づく過剰な自己言及(自分語り・優れた家族や人脈への言及)や自己賞賛(自惚れ・自慢)という特色を持っていて、『幼児的な全能感』の現実性を証明するために『際限のない性的魅力・強大な権力・莫大な財力・優雅なライフスタイル・洗練されたファッション』などを死にもの狂いで手に入れようとする。自己愛障害の人は、基本的に、人間関係を優劣のある上下関係(主従関係)として見る『階層序列志向のスキーマ(認知図式)』を持っており、対等な個人同士の友情・愛情・信頼といった感情的関係には特別の価値を見出さない傾向がある。

その為、自分自身や家族に対する虚栄心や見栄が異常に強く、学歴・職業・所得水準・結婚相手などの相対的なステータス性に執拗なこだわりを見せたり、主観的な感情(選好)を無視して『他人・世間にどのように見られているか?』という価値基準によってしか物事を判断できなかったりする。自己愛障害を持つ人が結婚して家族を持つきっかけも、大切な相手と一緒に暮らしたいとか継続的な愛情・信頼を感じていたいとかではなく、自己愛や世間体を満たせるような優れた配偶者や子どもを持ちたいという動機が中心であることが多い。

その為、家族構成員が自分の要求水準(対外的な自尊心や理想的な家族像)を満たせない場合には、冷淡に離婚を迫ったり子どもを見捨てたりすることもあるのだが、それは、病的な自己愛を持つ人にとっての『家族の価値』「自分たちが幸福や安心を感じること」ではなくて「他人が羨むような家族の外観」を整えることだからである。冒頭で、脱価値化の防衛機制と嫉妬感情の関係について触れたが、他人を屈服させようとする競争心が旺盛な自己愛性人格障害の人も、一般的に、他人の実力・魅力・業績が高く評価されることを不愉快に思い強い嫉妬感情を露(あらわ)にすることがある。

相手を搾取したり蔑視(差別)することを禁圧する超自我は『互恵的な人間関係』を促進する働きを持ち、適正な強さの超自我を持つ人は『愛して愛されるという関係』を取り結ぶ事に成功しやすい。自己愛障害を持つ人の場合には、精神内界の超自我(道徳的な良心)と対象恒常性(心の中にある安定した愛情の対象)に脆弱性や異常性があるので、『支配して利用すべき他者』はいても『対等に話し合える(愛し合える)他者』はいないのである。

『私より優れている他者の価値を認めることはできない』という誇大感や自惚れ、『完全な成果を出して最高の評価と賞賛を受けなければならない』という完全主義や承認欲求によって、自己愛障害の人は『独我論的な競争環境』で絶えず自己の能力と魅力を力強くアピールするように強迫的に突き動かされている。自己愛障害の人とは対照的に、自分自身の能力や魅力を強く否定して自己評価を必要以上に下げている人がいるが、その場合には、『性的欲求・破壊衝動・攻撃本能』といったエス(es)の生物学的欲求を超自我が過度に抑圧していることや抑圧した暴力的攻撃性が自分自身に向けられていることを考えることができる。

自己愛性人格障害(NPD)は、境界性人格障害(BPD)や反社会性人格障害も一緒に含まれる「人格障害のクラスターB」に分類されているが、自己愛性人格障害と反社会性人格障害の共通点として『他者の苦痛・不快・怒りに無関心であること』を挙げることが出来る。自己愛性人格障害には『顕在的(overt)な自己愛性人格障害』『潜在的(covert)な自己愛性人格障害』があるのだが、反社会性を伴う自己愛性人格障害には『能動的(攻撃的)な反社会性』『受動的(寄生的)な反社会性』とがある。

自己愛性人格障害の反社会性と反社会性人格障害の反社会性の最大の違いは、他者の権利(生命)を侵害する行為についての罪悪感や良心の呵責の有無であり、反社会性人格障害(児童期の行為障害)の場合には、他者の苦痛や恐怖への共感性が完全に失われていて、小動物や子どもなどに対する残酷な虐待行為に快楽を覚える性癖(サディズムの性倒錯)を持っていることも少なくない。

反社会性人格障害では、支持的療法によるカウンセリングや洞察的療法による心理教育(司法矯正)を行っても、非人道的な犯罪行為に対する反省や他者の苦痛及び恐怖に対する共感を呼び覚ますことは極めて難しい。刑罰による犯罪抑制効果や被害者の遺族の訴えによる罪悪感の高まりも余り期待できないので、反社会性人格障害を持つ犯罪者が同様の犯罪や暴力を繰り返すリスクをどう減らせるかが大きな課題となっている。


■関連URL
自己愛障害(自己愛性人格障害)に見られる“自己中心性・承認欲求・脱価値化・カリスマ性”

■書籍紹介
良心をもたない人たち―25人に1人という恐怖
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