カウンセリングルーム:Es Discovery

アクセスカウンタ

zoom RSS 潜在的(covert)な自己愛障害とシャイネスの強い社会性不安障害(対人恐怖症)の関連性

<<   作成日時 : 2007/04/16 06:05   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 9 / トラックバック 8 / コメント 0

前回の記事と関連して、自己愛障害の人が自分の自尊心(自己評価)や理想自我を傷つける他者を無価値なものと見なす『脱価値化(devaluation)』の心理機制について補足しておく。原始的防衛機制として知られる『分裂(splitting)』は、他人を『完全に良い人』『完全に悪い人』の二つに断定的に分類して、自分を否定的に評価する『完全に悪い人』を攻撃して消滅させようとする心理機制である。

『分裂』の防衛機制の頻繁な使用は『不安定な継続しない対人関係』をもたらすが、それは、人間を良いか悪いかの二元論で選別する「分裂」によって対人評価が『理想化(褒め殺し)・全否定(こきおろし)』の両極端を揺れ動くからである。

自己愛性人格障害・境界性人格障害(ボーダーライン)・演技性人格障害といったクラスターBに分類される自己愛の障害(過剰な愛情欲求と自己顕示)では、昨日まで賞賛して敬意を抱いていた相手に対して突然、攻撃的な罵倒の言葉や冷淡な侮蔑の感情をぶつけることがある。クラスターBの人格障害を持つ人の対人関係の特徴の一つとして、自己評価や自尊心、自己利益を高めるために他者を思い通りに利用するというものがあり、先ほど述べた分裂と脱価値化の心理機制によって『自分の自尊心や自己愛を傷つける他者』を自己の内面世界から反射的に排除しようとしているのである。

自己愛の生物学的な根拠を考えると、他の個体よりも有利な生態学的地位(社会的地位・対人関係における役割)を手に入れようとする自己保存欲求や遺伝的利益を得る為の競争戦略であり、同種間で利益(優位)を争い合う競合的攻撃性(competitive aggression)のようなものが見られることもある。

正常な自己愛と異常(病的)な自己愛とを見極めるメルクマール(指標)の一つが、社会的に共有されている倫理規範(自衛の為の合理的理由)を逸脱した『暴力的な攻撃性』の有無である。また、自己愛障害に特有の誇大自己(自信過剰)や自己顕示性(過度の自慢)と関連した心理機制として『投影(projection)』『転移(transference)』があるが、クライエントの過去の問題を包摂する投影(転移)の的確な理解が自己愛障害の心理療法には必要である。

自己愛障害(自己愛性人格障害)に対する精神分析療法では、境界例研究で知られるO.F.カーンバーグ『現実直視の転移分析』や、自己心理学の考案者であるハインツ・コフートが推奨した『転移感情の共感的受容』が重視されている。コフートは自己愛障害の人との作業同盟の確立を目指し、自己愛性人格障害の人の『欠損した自己信頼感』を取り戻そうとしたが、カーンバーグは自己愛障害の人に安易に妥協しないことで幼児的な自我肥大(自己膨張, self-inflation)を抑制し、『現実適応的な解釈』を厳しくぶつけることで自己愛障害の人格構造に変容をもたらそうとしたのである。

自己愛性人格障害の人のカウンセラー(分析家)に対する評価は、理想化と脱価値化の両極端を揺れ動くものだが、カーンバーグのように『対決的な解釈』を厳しく行う分析家は脱価値化されて否定されやすく、コフートのように『共感的な受容』を優しく行う分析家は理想化されて賞賛されやすい。しかし、『現実適応力の回復(自己評価の適切な調整)』というカウンセリングの目的から考えると、必ずしもコフート的な共感性(受容性)ばかりを発揮するカウンセリングが効果的なわけではなく、クライエントの不適切な反応に合わせて、自身の問題点(自己中心性・共感性の欠如・過剰な自己顕示)に直面させる『対決的な解釈』を取り入れていかなければならない。

自己愛性人格障害の転移感情の意味を理解するための『転移分析』やコフートとカーンバーグの心理療法についてももう少し考えてみたい。自己愛障害とは『過度に誇張(歪曲)された自己評価の病理』であり、自己愛障害の心理療法とは『現実的状況や他者との人間関係に適応可能な自己評価の調整』を系統的・分析的に推し進めていくものである。適切な自己評価や妥当な自己尊重(自尊心)ができている健全な自己愛の所有者は、他者とコミュニケーションする上で『相互的な利益関係(ギブ・アンド・テイク)』を意識しており、自己を尊重して貰いたければ、まずは他者を尊重しなければならないことを自然に理解している。

DSM-Wを参考にしてクラスターBの鑑別診断を行う場合に注意すべきこととして、自己愛性人格障害とその他の人格障害(反社会性人格障害・境界性人格障害・演技性人格障害)のオーバーラップ(重複)と面接技法(治療戦略)の使い分けがあるが、DSM‐Wの診断基準で見落とされやすい自己愛障害として社会不安障害(対人恐怖症)の恥ずかしがりやすい症状(シャイネス)と重なり合う部分の多い『潜在的な自己愛性人格障害(covert NPD)』がある。

不安障害の一種としての社会性不安障害(対人恐怖症)の病理学やカウンセリングについても改めて書きたいと思うが、人前(社会的場面)で何かをすることを恐れる社会性不安障害は、他者の否定的評価や侮蔑的態度、拒絶の意志から自分を過剰防衛することで発症する精神疾患である。社会不安障害を発症した人は、自分の失敗(欠点)や緊張(臆病)を他人から見透かされた時に生じる『恥辱感・屈辱感・無力感』を異常なまでに極端に恐れ、人前や公式の場面で発言(行動)することを出来るだけ回避しようとして日常生活に支障がでてくる。

それは、何が何でも他人から普通の人(自信のある人)として良く見られたい、変な人(臆病な人)として悪く思われたくないという『自己愛(自尊心)の強さ』の表れでもある。他人の内面に対する想像力が強すぎる人や他人の発言や評価に過敏に反応し過ぎる人というのは、一般的に自分を全ての恥や失敗から守ろうとする自己愛が強く、潜在的な自己愛障害が社会性不安障害(対人恐怖症)の不適応症状として現れやすくなる。

自己愛性人格障害には、自己主張が強くて傲慢不遜な雰囲気を漂わせている『顕在的(overt)な自己愛性人格障害』だけではなくて、自己愛が強いために他人の否定的評価で傷つけられることを恐れて、過度に礼儀正しい振る舞いを心がけたり、社会的活動(自己主張)に対して消極的・回避的な態度を示したりする『潜在的(covert)な自己愛性人格障害』もある。

潜在的な自己愛のレベルが高くなりすぎると、社会的場面で強烈な不安と緊張を感じる対人恐怖症だけでなく、他者の評価を受ける可能性があるあらゆる社会的場面(対人関係・職業活動)から退避しようとするひきこもりの問題が生まれてくることもある。非社会的な問題行動と相関関係の高い『潜在的な自己愛』は、職業選択や異性関係(性選択)などによって確立してくる社会的アイデンティティの拡散(モラトリアムの遷延による就業困難やアパシー症候群)とも密接な関係があると考えられている。


■関連URL
フロイトのエディプス・コンプレックスとコフートの自己対象との共感的関係

傷ついた自己愛の防衛と補償のメカニズム:母子一体感からの脱却

■書籍紹介
働こうとしない人たち - 拒絶性と自己愛性
働こうとしない人たち - 拒絶性と自己愛性 (中公新書ラクレ (178))

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 9
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い
ガッツ(がんばれ!)

トラックバック(8件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
『脱価値化』が緩和する嫉妬感情と『共感性の欠如(他者の利用)』に根ざす自己愛の反社会性
前回の記事では、不適応で不安定な対人関係をもたらす『分裂』と『脱価値化(devaluation)』の防衛機制について解説したが、脱価値化は『過去に価値を認めていたものを潔く断念する』といった肯定的な効果を生み出すこともある。しかし、過去に親密だった人間関係をあっさりと断ち切る脱価値化を頻繁に用いると、一般的には、根気のない飽き性や身勝手な気分屋、友人に対して不誠実な人という批判を受けやすくなるだろう。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2007/04/17 04:29
“自己愛性・強迫性・依存性”を特徴とする摂食障害と精神の退行を伴う自己愛障害
摂食障害の病態には『特別な自己アイデンティティの獲得』を目指す自己愛性と『見捨てられ不安の退行的な補償』を求める依存性の特徴が見られるが、『摂食障害の病理学と家族療法的アプローチ』では拒食と過食・嘔吐によって家族関係をコントロールしようとする強迫性についても取り上げてみた。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2007/04/24 11:24
自己愛性人格障害に特有の“自己対象転移”の分類定義と転移分析を活用する心理療法
精神分析学のリビドー発達論を前提にして考えると、自己愛性人格障害の人は過去にトラウマや母性剥奪(愛情喪失)を受けた時点へと精神を退行させて自己を防衛する。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2007/05/18 12:22
“他者の注目”を求める演技性人格障害と“社会的な価値(他者の好意)”を拒絶する反社会性人格障害
ウェブサイトで演技性人格障害と反社会性人格障害の特徴と概略についてまとめましたので、興味のある方は読んでみて下さい。クラスターB(B群)の人格障害に分類される『境界性人格障害・自己愛性人格障害・演技性人格障害・反社会性人格障害』に共通する特徴は不安定な対人関係(感情機能)と抑制困難な衝動性であり、その根本には自己と他者の境界線が曖昧になるという『自己愛と対象関係の調節障害』が横たわっています。自分で自分のことを尊重して大切にする自己愛(self-love)は適度なレベルで働けば、自分の能力... ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2007/12/30 10:30
“制縛型の自己不確実者”と“敏感型の自己不確実者”の持つ不安感情と強迫症状の特徴
前回の記事の続きになりますが、エルンスト・クレッチマーの言う内的活動を外部に表現する『転導能力』には、精神内界の表象(イメージ)や感情を外部に発散して内界に留めないというカタルシス機能があります。しかし、転導能力が障害された自己不確実者は、一度体験した強烈な出来事に伴う表象(イメージ)や感情を外部に発散(表現)することができないので、長期間にわたってその表象・感情に伴う不安感に悩まされ続ける恐れが出てきます。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2008/04/29 16:56
社会不安障害(SAD)における『対人不安・回避行動・環境不適応』の症状:対人恐怖症の自己認知の障害
社会不安障害(SAD:Social Anxiety Disorder)は社会的な場面や対人的な行為に非常に強い『不安・緊張・恐怖』を感じて、その社会的な場面をできるだけ回避しようとする不安障害の一種です。通常の社会生活(仕事・通学)をするためには、他者の前で話したり書いたりする行為を回避し続けることはできませんから、社会不安障害の症状が強まってくると社会的・職業的な不利益が大きくなり日常生活に支障がでてきます。大勢の人の前でスピーチをしたり、権威ある人物の前や重要な会議で発言をするときには... ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2008/11/20 03:35
“シャイネスの心理”と社会生活・コミュニケーションへの適応:社会不安障害・ひきこもりとの相関
生後5〜8ヶ月頃に多く見られる『人見知り不安(stranger anxiety)』は、他者や社会的状況に対して気恥ずかしさを感じる『シャイネス(shyness)の気質』の起源であるとも考えられているが、シャイネスという心理状態は誰にでも起こり得る一般的なものである。他者とまともに会話ができないほどの極端に強いシャイネスは、社会不安障害(対人恐怖症)やひきこもりの原因になることもあり、回避性人格障害の重要な性格因子の一つであるとされているが、社会的場面で軽度の緊張や恥ずかしさを感じるというレ... ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2008/12/15 17:44
"原始的防衛機制として知られる『分裂(splitting)』は、他人を『完全に良い人』と『完全に悪い...
原始的防衛機制として知られる『分裂(splitting)』は、他人を『完全に良い人』と『完全に悪い人』の二つに断定的に分類して、自分を否定的に評価する『完全に悪い人』を攻撃して消滅させようとする心理機制である。 ...続きを見る
Dust of the rhymes
2009/11/16 16:14

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文



コンテンツ&本の紹介

Es Discovery's Encyclopedia(百科事典的なアーカイブ)

ESD ブックストア(インスタントストアで色々なジャンルの本を紹介しています!)

心理学の事典や臨床心理学の概説書

S.フロイトとC.G.ユングの書籍
スポンサーリンク


ブログアーカイヴ
2005年
3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2006年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2007年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2008年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2009年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2010年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2011年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2012年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2013年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2014年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2015年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2016年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
潜在的(covert)な自己愛障害とシャイネスの強い社会性不安障害(対人恐怖症)の関連性 カウンセリングルーム:Es Discovery/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる