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zoom RSS 男性原理と女性原理の二元論(dualism)が相対化する現代社会:C.G.ユングの無意識の二面性

<<   作成日時 : 2007/02/23 09:38   >>

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前回の記事の続きで、男性原理と女性原理の二元論(dualism)やグレートマザーの元型について補足記事を書いていこうと思います。法治主義と法令遵守(コンプライアンス)は近代国家成立の大前提であり、資本主義や自由主義の精神と矛盾しませんが、合理的でない伝統主義や宗教原理(父権宗教の道徳規範)は、資本主義や自由主義の精神と対立しやすくなります。自由主義とは、他人に具体的・物理的な迷惑を掛けない限り、思想・行動・言論・表現の自由が保障されるべきという思想ですから、『今まで悪いこととされてきたから、今もそれをしてはいけない』という伝統主義的な宗教規範を無効化する潜在力を有しています。

母権宗教は日常生活に影響を与える『禁欲的な道徳規範』の強制が少ないという特色を持ちますが、父権宗教は一般的に男女の性的欲求を規制したり利己的欲求を罪悪視するような『禁欲的な道徳規範』を強制する傾向があります。父権宗教の一つである儒教にも『男女七歳にして席を同じうせず』というような禁欲道徳があり、明治期から太平洋戦争の敗戦までの日本では、儒教的な禁欲道徳が強力に国民生活のエートス(行動様式)を規定していました。禁欲道徳がエートスとして機能している父権社会では、論理的な思索や実利的な根拠よりも伝統的な慣例や社会的な位階が重視されるので、価値観の多様性や個人の自由が認められる余地は一般に小さくなります。

現代の日本やアメリカ、ヨーロッパの先進国では、女性が生き生きとした活動をして男性よりも人生を伸びやかに謳歌している印象が強くなっていますが、性道徳(結婚制度)や社会制度(労働条件)、法・慣習による個人の自由の制約が弱くなればなるほど、一般的に女性のほうが社会的に優位に立ちやすいのかもしれません。特に、『男性は仕事・女性は家庭』という性別役割分担の規範の緩やかな崩壊は、専業主婦を希望する女性には不利に働いても、社会で一定の役割を果たす仕事をしたいという女性には有利に働くでしょう。情報化社会が進展してサービス業や事務職・専門職に従事する労働人口が増え続ける中で、フィジカルな強さが必要となる筋肉労働の需要が低下していて、このことも男性原理の低下に関わっています。

家庭における家父長の権威的な地位は、父権制の社会的価値観だけでなく『仕事(所得)における男性の優位性』に支えられている部分が大きかったのですが、核家族における共働き世帯が増加したことで家計における夫婦の同権化が進み、家族を扶養することによって得られていた父親の権威は弱体化しました。また、夫婦間の同額の年金分割が法制化されたこともあり、真面目に何十年も働き続けたサラリーマンが、専業主婦の妻から熟年離婚をつきつけられるケースが増えています。父親が家族からの持続的な尊敬や愛情を得るためには、単純に家族の生活のために働くだけでなく、妻や子供を気遣うコミュニケーションや家庭の雑事への協力行動が欠かせないものとなっているようです。

つまり、妻が一定の経済力や自立可能な気概を身に付けている世帯では、『家族の経済的な扶養』だけでは老後もずっと一緒にいたいと思わせるに十分ではなく、一緒に居て気持ちが安らぐとか趣味や価値観が合って楽しいとか、人(異性)として相手を尊敬できるというような『人間的な魅力・心理的な好感』が求められるという厳しい状況になっているようです。

自由恋愛の若年化と性愛の自由化によって、一夫一婦制を倫理的に担保していた禁欲道徳は衰微しており、一生を一人の異性とだけ過ごすという結婚の選択に慎重な男女(未婚化・晩婚化)も増えています。現在のまま、未婚率や晩婚傾向が推移すると、アメリカや北欧のように結婚をせずに子供を持つシングルマザーが増加する可能性もありますが、日本の場合は戸籍制度や嫡出子と非嫡出子の待遇格差、子供を抱えた女性の経済的自立の困難などの問題があり、現在の家族制度や雇用環境の下ではシングルマザーで子供を育てるのはかなり厳しいと思われます。

製造業の夫と専業主婦の妻という戦後の高度成長期に多く見られたモデル世帯が急速に減っていること、モデル世帯を想定した性別役割分担と終身雇用制度(老後までの安定したキャッシュフローと厚生年金の総受給)が崩れつつあることなどを考えると、国民個々人の多様なライフスタイルやキャリアプランに適応できる「税制・非嫡出子の法的処遇・女性の雇用環境(総合的な雇用対策)・育児支援制度・老後保障(公的年金制度)・医療保険制度」の見直しは急務と言えるでしょう。

『戦争と平和』という観点からすると、平和な時代が長期化して物質的な欲求に人々の関心が向かうと個人の自由と感情(価値観の多様性)を肯定する女性原理が強くなりやすく、戦争の事態(脅威)が長期化して集団の安全保障に人々の関心が向かうと集団の秩序(戦時体制)を強化する男性原理が強くなりやすいといえます。無論、個人単位で見れば男性でも徹底して反戦を主張する平和主義者はいますし、女性でも仮想敵国の横暴に対して好戦的な考えの人もいますが、『男性らしさ・女性らしさ』というジェンダー(社会的性差)を原理的に抽出すると、極限状況下の問題解決手段として、フィジカルな暴力(戦争)を選択する可能性は(体格・筋力・欲求の違いもあり)男性のほうが高く、歴史的な戦争を戦った政治指導者や兵士(戦士)も男性がほとんどです。

法治社会の秩序を維持する男性原理の根底にあるのは集団規律と道徳規範であり、公共の福祉(社会の利益・集団の防衛)を保護する為には、必要に応じて『正統性のある公権力(軍隊や警察の暴力)』の行使もやむを得ないと考えます。生命と生活の保護を優先する女性原理の根底にあるのは共感性と寛容性であり、個人及び家族の平穏な生活を保護する為には、相手に有利な条件で妥協(譲歩)をしても戦争・対立を極力回避しようとします。健全な政治体制における意志決定では、無秩序の混乱を回避する男性原理と支配的な抑圧を回避する女性原理をバランス良く適切に使い分けていく必要があると思います。

太母の元型(archetype)の話から母権社会・母性原理の理念へと脱線しましたが、C.G.ユングのグレートマザー(太母)の話に戻ると、グレートマザーには『包み込むような慈悲深い母親像』『呑み込むような脅威的な母親像』の二面性があります。『包み込むような慈悲深い母親像』は、子供の内面に孤独・不安への耐性を上げる『対象恒常性』の形成を促進しますが、『呑み込むような脅威的な母親像』は、自分のことを自分で決めようとする子供の自律性(主体性)を剥奪して子供を自分の影響下にとどめることで、子供の心理社会的な自立を阻害します。

『包み込むような慈悲深い母親像』は、発達早期の子供の適応性を高める基本的信頼感を植え付けますが、『呑み込むような脅威的な母親像』は、幻想的な母子一体感を遷延させてマザーコンプレックスを強め、過保護・過干渉の弊害によって青年期の自己アイデンティティを拡散させます。D.W.ウィニコットのいう『ほどよい母親(good-enough mother)』とは、『呑み込む母親』のように過度に子供の世話に没頭するのではなく、子供の発達段階や人間関係の変化に合わせて『包み込む母親』の愛着を少しずつ弱くしていけるバランス感覚のある母親のことです。

太母の二面性は、自我のポジティブで意識的(適応的)な側面である『仮面(ペルソナ)』と自我のネガティブで無意識的(非適応的)な側面である『影(シャドウ)』の二面性のアナロジーです。男性であれば、内的な理想の女性像であるアニマと自分との二面性、女性であれば、内的な理想の男性像であるアニムスと自分との二面性を持ちます。普遍的無意識の元型イメージによって示される二元論的な二面性(二律背反)は、『意識領域の心的過程』『無意識領域の心的過程』の終わりのない力動的な葛藤と解釈することができます。

外部環境に上手く適応するために日常生活の大部分で見せている表層的な人格はペルソナ(仮面)であり、ペルソナによって無意識に追い出された自分にとって受け容れがたい性格行動パターンである影(シャドウ)は、ペルソナとの間に無意識的な葛藤を引き起こします。帰属社会の文化的・伝統的なジェンダーに強く影響された行動様式は『男らしさ・女らしさ』を強めますが、その反動として、自分の取り入れているジェンダーとは対極的な性格特性(価値規範)をもつアニマ・アニムスが夢やイメージとなって現れてきます。

自分の生物学的な性差あるいは社会的な性差と、無意識領域のアニマ・アニムスから伝わってくるセクシャルなイメージとの間には、エナンティオドロミアと呼ばれる力動的な葛藤(バランスを図るための反動的な揺り戻し)が起こることがあります。偏向した意識的なジェンダーとそれを補完する無意識的な性(アニマ・アニムス)が葛藤し統合されると、精神状態が安定し対人関係が改善されてきますが、こういった意識と無意識の統合がユング派の心理療法の治療機序でもあります。

■書籍紹介
無意識と出会う ユング派のイメージ療法?アクティヴ・イマジネーションの理論と実践1

転移の心理学
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