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help RSS 子どものトラウマに対応するプレイセラピー(遊戯療法)とユング心理学のコンステレーション(布置)の関係

<<   作成日時 : 2006/12/28 19:22   >>

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ウェブサイトの記事で子どものトラウマと心理療法を書いたが、この記事では、機能不全家族で成長したアダルチルドレンや養育者から受けた虐待によるトラウマを中心にして「トラウマに対処する心理臨床」を考えてみた。

劣悪な家族関係や危険な周辺環境によってトラウマを負った子どもの心理療法では、箱庭療法やプレイセラピー(遊戯療法)といったノンバーバルな技法(非言語的な心理面接)が用いられることが多い。それは、児童期までの子どもの言語機能(認知機能)の発達が未熟であるからであり、言葉で自分の持っている感情や気分を上手く表現することが出来ず、客観的なトラウマ体験を詳しく説明することも難しいからである。

ユング心理学の影響を受けている箱庭療法をトラウマの問題に応用する場合には、玩具や人形、地形(境界)、色彩などに反映される『虐待的関係(危機的状況)の再現』に注意するだけでなく、『物語的な普遍的無意識の現れ』に配慮しながら子どもの内面の感情(考え・認知)を推察し寄り添っていく。自由な遊びの雰囲気の中で支持的な治療関係を保ちながら、鬱屈した感情の浄化(カタルシス)と否定的な認知スキーマの再体制化を図ろうとする。

箱庭療法を含むプレイセラピー全般では、子どもの『精神的な布置(constellation)』が遊びの内容や出来上がった作品に反映されてくるが、布置(コンステレーション)とは、星座のように個別の要素(恒星)が無意味であっても、個別の要素が全体としてまとまることで意味(星座)が浮かび上がってくるという状況のことを言う。布置(コンステレーション)とは、個別の要素や状況が集まってまとまりを持つことで、突然浮かび上がってくる『全体的な意味』であり、全体的な意味に気づくことが出来るような『視点(認知)の転換』である。

子どもの遊びや動作の一つ一つは、大人にとって殆ど無意味で取るに足りないようなものに見えるが、子どもを見る視点を自由に転換してみると、一つ一つの遊びの内容が『全体としてまとまりのある意味(子どもの自己表現の配置)』を形成する。プレイセラピーのコンステレーション(布置)とは、こういった個別の遊びや動作の集合から生まれる『治療的に有意義な“個別の遊び”の配置』であり、そういった意味(価値)を洞察できるような全体的な状況への気づき(awareness)のことである。ユング派の心理療法でコンステレーションが重要視されるのは、コンステレーションが困難な状況や深刻な問題をブレークスルー(打破)する『気づき・洞察・発見』の原因となるからである。

プレイセラピー(遊戯療法)では、反復強迫的にトラウマとなった状況(人間関係)が再現されることがあるが、人形や描画などを使った遊びの中でトラウマ体験を再現する場合には、子どもは被害者ではなく加害者としての立場で虐待を再現することが多い。

これは、「置き換え(displacement)」や「投影同一視(projective identification)」「分裂(splitting)」などの自我防衛機制の発動によって、『無力で弱々しい被害者(迫害される自己)』としての自分を打ち消して、『強力に支配する加害者(迫害する自己)』としての自己を再構成しようとする試みである。

『迫害される自己(虐待される自己・支配される自己)』『迫害する自己(虐待する自己・支配する自己)』分裂(splitting)の防衛機制によって相互に共通性のないものとして二分化される。そこで、『迫害する自己』のほうに投影同一視(projective identification)の心理機制を働かすことが出来れば、“虐待される恐怖・不安・無力感”を感じずにやり過ごせる。

無論、精神内界において『迫害される自己』から『迫害する自己』へ一時的な置き換え(displacement)が行われても、根本的なトラウマの治癒や現実的な状況の好転が起きるわけではない。しかし、トラウマ記憶のもたらす圧倒的な恐怖や不安を低減する効果を得られれば、パニックや興奮の少ない『安定した感情状態』で認知スキーマを修正する心理療法を受けることが出来るようになる。

外部の世界や他者をどのように受け止めるのか(意味づけするのか)を規定する『認知的スキーマ(認知的枠組み)』を適応的な方向へ変容させていくのがトラウマの認知療法の作用機序であるが、その際に重要となるのが“歪んだ自己イメージ・歪んだ他者イメージの修正”である。

抵抗できない圧倒的な力を持った『現実の虐待者(加害者)』によって、子どもは『迫害する他者(信頼できない他者・支配する他者)』という“歪んだ他者イメージ”を形成される。それと同時に、『現実の被害者(被虐待者)』である自分は『迫害される自己(攻撃される自己・無力な自己)』なのだという“歪んだ自己イメージ”が形成されやすくなる。

プレイセラピー(子ども)や認知行動療法(大人)を用いたトラウマの心理療法の目的の一つが、『いつも虐待されている無力な自己』という“歪んだ自己イメージ”を修正することであり、『いつも圧倒的な力で自分を支配する他者』という“歪んだ他者イメージ”を変容させることである。

最終的には、「肯定的な自己イメージ」と「支持的な他者イメージ」を再構成して、過去のトラウマに関連する断片的な記憶(異物としてのトラウマ)を自分の人生の一部として物語的に統合することを目指していくことになる。先ほど述べたプレイセラピーにおけるコンステレーションの持つ意義も、『断片化されたトラウマ記憶の再現と再統合』にあるといってよい。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)やASD(急性ストレス障害)の原因となる断片化されたトラウマ記憶については、過去のウェブサイトの記事で書いたので、トラウマの病理に関心のある方はそちらを参照してみて頂きたい。

プレイセラピーの治療過程や技法の工夫などについてもまた機会があれば書いてみたいが、プレイセラピーやアートセラピー(芸術療法)の効果を最大限に引き出すためには、子どもがプレイセラピーを実施する空間(遊戯室)とカウンセラーに安心感を抱いている必要がある。

子どもの安全と安心が確保された遊戯室で、カウンセラーとのラポール(相互的な信頼感)が形成されてくると、治療的意義のあるプレイ(遊び)に対する子どもの動機付けが高まり、『断片的(エピソード的)なトラウマの再現』から『全体的(物語的)な再統合につながる布置』が生まれてくるのである。

プレイセラピーでは、「断片的な虐待のテーマ」や「内面的な表象関係(対人関係)のテーマ」が反映された個別的な動作や遊びを見逃さないようにして、『象徴的なコンステレーション(constellation)』に子ども自身が気づくための自己表現を支援していくことになる。しかし、そういった自分の虐待状況が象徴化されたコンステレーション(布置)に気づいて、トラウマを処理する為には相応の時間と安定した生活環境が必要となる。






■関連URL
『自己否定的な衝動性の行動化である自傷行為』とその心理学的意味

境界性人格障害(BPD)という自他の関係性の障害:トラウマによる自己否定的な認知と自傷行為の嗜癖性

個別的な多様性を見せるトラウマの影響:セクシャリティの外傷や家族間の虐待の再現性の問題

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