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help RSS 学校環境でのいじめや対人関係で追い詰められた子どものクライシスコール:遺書を作成する行為と心理

<<   作成日時 : 2006/10/18 00:05   >>

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前回の記事が長くなりすぎたので記事を分けたが、福岡県筑前町の三輪中学校と北海道滝川市の江部乙小学校のいじめ問題において生徒が遺書を書き残していたという事が気にかかっていたので、いじめを苦にして遺書を書き残す生徒児童の心理について思考のメモを書いておきたい。

学校内でのいじめを苦にして自らの生命を絶ってしまう生徒が、遺書を残すというケースは珍しいものではなく、いじめられている内容といじめている相手、自分の苦しい感情などを書き残すことで、自分の絶望や憤慨、悲哀の感情を少しでも理解して貰いたいという遺志の表明であると考えられる。

非対称的な集団力学が作用する場においていじめの問題(現象)は発生するので、孤立無援の状況で自分がいじめられているという自己認知を強く持ってしまった子どもは、自助努力ではいじめ状況を解決することが不可能であるという学習性無力感に囚われてしまう。小学生から高校生までくらいの年代の生徒が、いじめが理由となって遺書を残すという行為の動機には、3つの心理が内在していると私は考える。

即ち、『隠蔽された真実の暴露による精神的カタルシス・いじめた者や傍観者への復讐感情の想像的充足・偶発的な救援を期待するクライシスコール』であり、現状のままではどう状況が変化してもいじめの問題を解決できないと諦めた生徒が、遺書(文字言語)を作成するという行為を通して『現実世界で充足できない欲求(意志)』を何とか伝達しようとするのである。

しかし、私は遺書を作成している段階では、特に心身の発達や行為の意味の認識が未熟な子どもは、生存の最期の可能性を断念し切ってはいないと考えている。人間が自らの意志で死を決断する際には、必然的にある種の病理的な精神状態(解離状態・感情麻痺・状況の認知障害)に入るものであるが、周囲が本人の落胆や抑うつ、絶望などの異状に気づけば、そこから引き返せる可能性は非常に高い。

遺書を自筆で書き綴っている状況では、生存に関する強烈な諦観を感じていることは確かであるが、同時に、何か奇跡的な事態の変化や周囲の支援さえあればやり直せるのにという無意識的な希望を抱えているのではないかと思う。遺書に込められた偶発的で奇跡的な救援を期待するクライシスコール(危機介入の呼びかけ)はぎりぎりの段階で発せられるので、多くの場合には聞き取ることが難しい。

遺書に込められた『最期に、家族・学校・友人に、真実の事柄を知って欲しい』といういじめられた生徒の悲愴な心理や耐え難い苦悩を慮ると、何ともやり切れない無力感に襲われる。学校教育領域で発生する心理的問題には、『いじめ・不登校・校内暴力・対人関係の悩み・ひきこもり・生徒の発達障害(不適応行動)・教師の精神的ストレス(精神疾患)・メンタルヘルスの維持向上・進路相談』などがあり、学校カウンセリングの実践を主体とする学校臨床ではいじめの早期発見と早期解決が模索されている。

しかし、通常の友人関係における遊びや戯れ、冗談との境界線が曖昧なことがあるいじめの問題を、未然に完全に抑止するような心理教育や介入技法は開発されていないし、いじめの把握や対応に関して、効果が実証されたスタンダードな心理学的介入が確立されているわけでもない。心理学者や教育者の中には大人社会にもいじめがある以上、性格や能力(対人スキル)、価値観、集団での権限が異なる人間が集まる集団社会で、いじめを完全に根絶することは不可能であるという諦観に達している人もいて、一般社会でもいじめ現象そのものは不可避で確率論的に生起するという認識を持っている人は少なくない。

だが、現在の学校教育や学校カウンセリング(学校臨床活動)に求められている主要な役割とは、『いじめの発生件数をゼロにすること』ではなく『早期介入によるいじめの減少といじめ被害の軽減』ではないかと思う。いじめが完全に無くなることがないとしても、大人社会の側がいじめを看過したり容認することは許されないのであり、教師・保護者・生徒・心理臨床家・地域社会が相互に協力して、いじめの問題の早期発見と早期対応に最大限の努力と知恵を払っていかなければならない。

本人が苛酷と感じているいじめ状況で生じる徹底的な自己否定感情(無能力感)や未来の悲観的認知、圧倒的な孤立状況は、確かに『主観的な経験に基づく認知』ではある。しかし、いじめの苦悩や絶望は未来永劫にわたって継続するわけではないし、適切な介入と対処さえ行えば精神的被害を緩和することが可能である。

その意味で、いじめで生じる「死ぬしか解決の方法が無い」という破滅的認知は『客観的な事実に基づく認知』とは言えないのであり、実際には、死ぬ以外の選択肢やもっと効果的な解決法が数多く用意されているのである。

自分ひとりではどう努力しても解決できない問題にぶち当たり、どう足掻いても苦しい状況を抜け出せない時には、身近な信頼できる大人に、自分はどうすれば良いのかとまずは相談して欲しい。大人の側も子どもが助けや支援を求める声に、共感的に寄り添って真剣に話を聞き、いじめ状況を改善する為の具体的なアクションを起こすことで「死ぬ必要などない」という安心感を与えて上げることが重要である。子どもは周囲の大人や友人の全てが、自分の悩みを解決する力にはなり得ないと思った時に、深刻な無力感と絶望感に襲われて希死念慮を抱くようになってしまうが、「最後まで責任を持って、お前を助け出してやるから安心していろ」という信頼できる他者(親・教師)がいればそう簡単に生存を放棄することはないのではないだろうか。

親や教師など周囲にいる大人は、本人の表情や体調、雰囲気、学校を休むなど行動の変化に気をつけて、積極的に問い掛けをしていき、何かあれば必ず助けて上げる準備があることをアピールすることが必要だと思う。今回の福岡県筑前町のいじめ問題は、教師の不適切な揶揄の言動が関与しているのでやや問題の性質が異なるが、中学校程度の年齢で暴力・恐喝を伴う犯罪に類するいじめを受けている生徒の場合には、学校内で権力を掌握しているグループが、自分の親や学校の教師よりも強い力を持っているという『相手を過大評価する認知』に陥っていることがある。その為、本人を助ける大人(親・教師)の側が、いじめている相手の行動や復讐を制止するに十分な実力と意欲を持っていることを示すことは、いじめられている子どもに本当の事を話して貰う為に必要なことでもある。

『文字言語による手紙』では即時的に他者に自分の苦悩を伝達することが出来ないが、『音声言語による対話』では即時的に他者に自分の感情や希望を伝達することが出来る。いじめ問題で最悪の帰結を回避する為に必要なポイントの一つが、本人の『言語的な対人スキルの向上』『信頼できる他者(家族・教師・友人)の存在』である。

自分がいじめであると感じている事柄の内容を親や教師に説明できれば、『いじめ事態への注意・関心・認知』が問題解決の責任を持つ教師(学校)・保護者・心理臨床家の側へと喚起される。自分が何を不快であると感じているのかについて、気持ちが伝わる言葉の表現を用いて話すことが出来れば、『いじめている友人との話し合い(和解)』を大人の側が円滑に仲介していくことができる。その結果として、当事者間におけるいじめの認識の違いを擦り合わせていき、いじめられた側がいじめ(苦痛や不快)と感じるいじめ問題の再発を抑制することが出来る。

また、子ども達の対人コミュニケーションを活発化させる教育・指導を励行することで、信頼できる他者に救援や介入を求めやすくなり、早い段階でいじめの問題に対応できる可能性が生まれる。短期的にいじめ状況の改善が見込めない場合には、本人が苦痛や恐怖、屈辱を感じる集団状況から一時的(継続的)に引き離すという危機介入も大切になってくるだろう。

学校現場で心理相談やカウンセリングを行う学校臨床家は、いじめが発生してから事後的に介入するケースが多いと思うが、いじめ状況をどのような方法を用いて、どのくらいの期間で改善できるのかの「見立て」を的確に行うためには、実地での事例経験を積み重ねて漸進的に技法やアプローチを改善していかなくてはならない。

また、事後的な危機介入だけでなく、生徒や教員に『いじめの発生・維持・解決のメカニズム』を分かりやすく解説したり、対人関係を円滑にして自己主張をしやすくするアサーティブ・トレーニングや生徒が興味を惹くロールプレイングを用いた心理教育(ピア・サポート)を実施していければ良いのではないかと思う。実際には、学校カウンセラーに付与された職務権限はごく限定的なものなので、自分の側から積極的に心理教育やピア・サポート、アサーティブ・トレーニングを行うことは難しいと思うが、担当教員との共同歩調を固めながら相互の職能と専門性をフルに発揮して問題の解決に当たってもらえたらと願う。

生徒が、何か自分ひとりでは解決できないと思える問題が生じた場合に、その問題の内容を信頼できる他者に気楽に話せる『学校のセーフティネット整備と相談環境づくり』が重要だが、最も信頼できる他者の一人にならなければならない教員自らがいじめに関与してしまうような過ちは繰り返してはならないと感じる。

今回明らかになった二つのいじめ事例のような最悪の結末を回避する為に、本人・教師・親・友人・学校臨床家・周囲の大人が取り得た最善の対応や介入とは何だったのだろうかと改めて考えさせられたが、学校現場から生徒同士のいじめ問題が根絶することはないにしても、いじめを制止すべき立場にある先生自らがいじめに関与する悲劇を無くすことは出来るのではないかと考えている。

自分で自分の生存可能性を奪ってしまうという自殺の心理については、また機会を改めて、環境不適応の問題やうつ病の気分障害、認知の歪曲、アイデンティティの拡散、集団からの疎外感と未来の閉塞感などと関係させながら書いてみるかもしれません。

■関連URL
福岡県筑前町と北海道滝川市のいじめ問題:1
福岡県筑前町と北海道滝川市のいじめ問題:2

■書籍紹介
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いじめいじめられる青少年の心−発達臨床心理学的考察

自己を追いつめる青少年の心−自殺の心理 発達臨床心理学的考察

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