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zoom RSS 創造性と破壊性を併せ持つ内的な異性像としての“アニマ・アニムス”:元型イメージと象徴内容

<<   作成日時 : 2006/08/15 19:16   >>

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ユングは、男性の内的な理想的女性像を『アニマ』と呼び、女性の内的な理想的男性像を『アニムス』と呼びました。アニマとアニムスはラテン語で生命の息吹(風)とか魂(soul)とかいう意味ですが、この無意識から立ち上がってくるアニマとアニムスの元型イメージを夢などを介して体験するときに、エナンティオドロミアが起きやすくなるといいます。

社会環境に適応したり対人関係を維持する為に作り上げる『見せ掛けの自己像』や『表層的な人格』のことを『ペルソナ(仮面)』といいますが、余りに長期的かつ日常的にペルソナ(仮面)を用いて生活していると心理社会的ストレスが蓄積したり、本来の自然な人格を見失ったりしてしまいます。

その結果、アレキシシミア(失感情症)を常態化させたペルソナを被り続けて生活を送っていると、分析心理学の心理療法が目指す『個性化の過程・自己実現』と対極の方向に精神状態が布置(コンステレーション)され、心身症の身体疾患や神経症の精神症状が発現しやすくなります。

現代では、同性愛者やバイセクシャルなどのジェンダー・マイノリティ(セクシャル・マイノリティ)も多くいるので、アニマとアニムスを自分とは反対の性とすることにこだわる必要はないという考え方も出来ます。

ユングは恋愛感情や性的欲動も、アニマ・アニムスの元型イメージの投影(projection)によって説明できると考えます。アニマやアニムスは、『意識的な人生の生き方・対社会的(対他者的)な適応的な態度』を補償して、その人に精神的な安定感や幸福感を与えてくれるだけでなく、進むべき人生の進路や選ぶべき選択肢を暗示的に教えてくれる存在でもあるのです。

夢やイメージとして体験されるアニマやアニムスは、自己の性格特徴や行動パターンとは『正反対の特性』を示すことが多いとされています。それは、エナンティオドロミアの補償を行って、『心全体の相補性・全体性』を取り戻させようとする自己から独立した機能と無意識の目的性を持っているからです。

『影(シャドウ)』の元型は、『意識的態度に対する同性像のアンチテーゼ』として心にバランスのとれた全体性を回復させようとしますが、『アニマ・アニムス』の元型は、『意識的態度に対する異性像のアンチテーゼ』として自己に欠如した要素や特徴を補って心の相補性を実現しようとするのです。

影(シャドウ)をイメージで体験しているときには、不快感や抵抗感、否定感情を感じますが、アニマ・アニムスをイメージで体験しているときには、幸福感や恍惚感、肯定感情を感じやすくなるという特徴があります。

影(シャドウ)にせよ、アニマ・アニムスにせよ、物理的現実ではなく心理的現実に属するものですが、多くの場合、それらの元型のイメージが持つ感情や影響力は現実世界を生きる他者に投影されます。嫌悪感を抱いているそりの合わない人物には『影(シャドウ)』が投影されやすく、異性として理想的な魅力や誘惑的な特徴を持っている人物に『アニマ・アニムス』が投影されやすくなります。

内面の変容や経験としては、社会常識や性別役割分担などによって社会的に要請された『男らしい生き方(行動パターン)・女らしい生き方(行動パターン)』への反発や抵抗として、無意識領域に抑圧され排除された『反対の性の表象(アニマ・アニムス)』が立ち上がってくることになります。

アニマやアニムスは、人間の精神生活や人生過程を無意識的に規定する元型であり、ユングが錬金術の心理学研究から洞察したモチーフである『変容と統合』にも深く関わっています。アニマ・アニムスは、人格構造を『個性化の過程』のベクトルの方向へ変容させようとし、無意識領域の内容と意識領域の内容を自己実現の目的に貢献する形でバランスよく統合させる働きを持っています。但し、いつも、個性化の過程や自己実現の目的に適った理想的な精神作用(人生の動機付け)をアニマ(アニムス)が及ぼしてくれるわけではなく、ある程度の偶然性と主体性によってアニマの実際の働きや影響力は左右されてきます。

また、ユング心理学(分析心理学)の性格理論であるタイプ論(内向性・外向性と思考・感情・感覚・直感の精神機能を組み合わせて類型化する性格論)にも、無意識の補償作用を当てはめて考えることが出来ます。

精神的なエネルギー(欲求・興味)を外部世界に向ける「外向性の性格類型の人」には「内向性のアニマ・アニムスのイメージ」が表出しやすくなり、精神的なエネルギーな精神内界に向ける「内向性の性格類型の人」には「外向性のアニマ・アニムスのイメージ」が表出しやすくなります。

その人にとって強力で優勢な精神機能についても、それとは正反対の作用をする精神機能を象徴化したアニマが現れてきます。例えば、理路整然と論理的に物事を考え、客観的なデータをもとに判断するような『思考タイプの人』には、その場の好き嫌いの選好や、感情的な意見や判断によって物事を決定する『感情タイプのアニマ』がイメージや夢として生起したりします。

実際に自分の目や耳といった感覚器官で事象を知覚してから行動を起こす『感覚タイプの人』には、突然、心の中に浮かび上がってきたイメージやアイデアに従って行動を起こす『直感タイプのアニマ』が体験されやすくなります。


男性性と女性性が一対となっているシジミーの元型は、人間世界における『結婚の象徴』であり、精神内界での結婚とは、意識領域にアニマ(アニムス)がイメージとして侵入してきて結合し統合することを意味します。

夢や幻想、想像のイメージとして心の内部に湧き上がってくるアニマ(男性の内面の理想的女性像)には、4つの発達段階があるとユングは定義しました。一般に、性的要素が存在せず敬愛や崇拝の対象とさえ見なされる『叡智のアニマ』が最も高次のアニマであり、性的欲求の対象としてセクシャルな形態的な美が強調される『生物学的なアニマ』が最も低次のアニマであるとされますが、以下の4つのアニマには発達上の前後関係や優劣関係はないとする考え方もあります。


アニマの4つの分類形態(発達段階)

1.生物学的なアニマ

生物学的な外見の魅力や性的な誘惑の力を強く持つ『セックスの対象としてのアニマ』であり、娼婦など誘惑的なイメージとして立ち現れてくる。男性に根源的な生命力や生物的な快楽を与えてくれるアニマであり、『生物としての生殖可能性』や『肉体を媒介する性的快楽』を象徴するものである。


2.ロマンティックなアニマ

異性を惹き付ける性的要素と美しい容姿を特徴として持つが、単純な性的対象としての異性ではなく、一人の人格として愛着や魅力を感じる恋愛対象としての異性のイメージである。男性に異性に対する献身の喜びと恋愛の陶酔を与えてくれるロマンティックな雰囲気をまとったアニマであり、『人格の相互的尊重』や『ロマンティックな異性との情愛関係』を象徴するものである。

3.精神的(霊的)なアニマ

娼婦や恋人のような性的要素を帯びておらず、処女性や清浄性といった肉体の交わりを拒絶する神秘的なオーラをまとった精神的な敬意や愛着を感じる異性のイメージである。『彼女に触れて汚してはならない』というような禁欲的な感情を男性に生起させるアニマで、男性に女性に敬意を捧げる優しさや性的要素のないコミュニケーションの楽しみを教えてくれるアニマでもある。
処女性や神聖性を身に纏った清らかな女性のイメージは、男性に処女崇拝的な禁欲的態度を形成させ、『この世界にある清浄や美しさへの確信』を起こさせるものである。

4.叡智のアニマ

性的欲求を感じるような要素を全て排除した『叡智に満ちた神聖な女性性』を象徴する超越的なアニマであり、この世界の真理や人間の善性を啓蒙する機能を持っている。人間が持てる女性性ではなく、ギリシア神話の処女神アテネやアルテミスなどが持っているような叡智に覆われた神聖な女性性をイメージとして体現したものである。
叡智のアニマは、男性に『真理探究の知性』『禁欲的倫理の体得』を教え、理想的な男性性と女性性の結合やバランスを示唆してくれるものである。


アニマ・アニムスは、無意識に抑圧された元型のイメージや情動が人格化されたものであると考えられますが、意識領域にアニマ(アニムス)が上手く統合されて無意識の補償作用が機能するようになると、アニマは独立した人格性を喪失してしまいます。

日本の心理療法家には、日本の神話や昔話(伝承)に多い異種婚姻譚に典型的に見られるように、『アニマとの別離・アニマからの自立・母性原理の束縛からの解放』が重要なのだとする解釈を取る人もいます。

しかし、いずれにしても、個人の人格の変容や無意識と意識の統合が起きるためには、『偶発的なアニマの心理体験』『内面的なアニマとのコミュニケーション』が非常に重要なものであることに変わりはありません。

ユングによると、アニマ・アニムスのイメージとの対話や交流は、無意識領域への接近の手段であるだけでなく、無意識と意識の中心にある自己(セルフ)を老賢者(オールド・ワイズマン)や仏教思想のマントラとして直感的に体験する為に必要であるとされています。

即ち、アニマ(アニムス)とは、『元型的な無意識内容による補償作用』を意識領域へともたらすものであり、『創造性と破壊性を併せ持つ両価的(アンビバレント)な生命力』として機能するものなのです。


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