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help RSS ジョン・バッテル『ザ・サーチ グーグルが世界を変えた』の書評

<<   作成日時 : 2006/08/29 12:56   >>

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Googleの中核事業である検索サービスの開発と普及の歴史を追い、検索テクノロジーがインターネットに与えた衝撃を解説しながら、未来の検索の可能性を探求する書籍がジョン・バッテル『ザ・サーチ グーグルが世界を変えた』である。

この本の発行日は2005年11月なので内容的にはやや古い部分もあるが、Googleの創設者であるラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンの個性的なパーソナリティや検索エンジンに賭ける強固な信念が伝わってくる伝記としての性格も持っており、Googleが右往左往しながらも史上最大規模の株式上場を成功させるまでの歴史が綴られている。

現在でも、ラリー・ペイジやサーゲイ・ブリンはGoogleの経営方針に対して強い影響力を保持しているようだが、Googleのような破格の時価総額を持つ巨大企業で創業者が長期間にわたって支配的な裁量を維持しているケースは珍しい。

ペイジやブリンが初め株式公開に乗り気でなかった理由の一つが、自分達が創業したGoogleの検索テクノロジー主体の経営理念が、外部の株主や経営陣の思惑によって脅かされるのではないかという不安であった。つまり、自分達が起業したGoogleという会社の意志決定に際して、自分達の判断や決定が反映されない事態を最も恐れていたのであり、外部の経営者や上級役員に経営権を奪われない為に『株式保有の二重構造』によって創業者の圧倒的な議決権を確保したのである。

この株式保有の二重構造では、創業者のラリー・ページとサーゲイ・ブリンが、Google全株式の30パーセントを保有しており、その株には一般公開株の10倍の発言権が付与されているため、会社の最終的な意志決定に関してはページとブリンがその権限を独占していることになる。CEO(最高経営責任者)のエリック・シュミットと三頭政治体制を敷いている観はあるが、経営に関する実際の最終的な決定権は飽くまで創業者の2人が持つというシステムになっているようだ。

ペイジ自身が、『この構造の基本的な意味は、わがチーム、とりわけサーゲイとわたしが、会社の決定と運命に重大な支配権を掌握することである』と述べていて、長期的観点における企業理念と検索技術の使命の保持のためにこの所有形態を採用しているというようなことを語っている。Googleは株式公開(IPO)によって、株式市場から莫大な資金を調達したが、Google自身のビジネスが非常に大きなキャッシュを稼ぎ続けているので、財務諸表の数字に示される資産は増え続けている。

営業利益の成長率と株主の判断を最重要視する『市場の論理』を完全に無視することは出来ないが、検索連動型広告やコンテンツマッチ広告で巨額の営業利益を上げ続けている限りは、創業者の2人がGoogleの経営の舵取りをしていくことになるのだろう。

そして、日本ではポータル・サイトとしての先行者利益を十分過ぎるほどに受けているYahoo!の検索シェアには及ばないものの、世界各国ではGoogleの検索エンジンは60%以上の圧倒的シェアを誇っていて、ウェブ検索の市場における成長率は限界に達しているとの見方もあるが、暫くはその牙城が崩壊することは考え難い状況である。

ウェブ検索の利用者と検索クエリ数が飽和して成長が期待できない時期に近づく前に、Googleはウェブのテキスト以外の検索領域を開拓していくに違いない。著作権の切れた書籍の全文のスキャンと検索、映像コンテンツに対する精度の高い検索技術、人間の生活のあらゆる領域にわたる網羅的な検索事業化を精力的に推し進めていくことになるのだろう。Googleは、ユーザのクリックストリーム(クリック履歴)を追跡しながら、オンライン上でのユーザの行動と選択を解析してより魅力的な検索クリックの市場を探索しているのである。



ローカルな新市場を奪い合うだけでなく、検索サービス会社と革新的な新規ベンチャーがクリックストリームを現金化する画期的な方法を検討している。たとえば、オンラインでの行動に注目して、これまでの検索やウェブのブラウズ履歴を追跡し、オンライン上での行動と文脈的に関連がありそうな広告を掲載する。

同様に、ヤフーなどに登録する際に集められる人口統計学的データか、これまでのクリックの履歴によって、検索者を特定する動きもある。こうして検索エンジンは、クエリーに密接な関係のある検索結果だけでなく、検索者の興味を引くような広告も提供することになる。



Googleは株式上場当初から顧客や市場、メディアに媚びず孤高のテクノロジー企業としてのアイデンティティを鮮明にしていたという意味で、利潤を追求する営利企業としては極めて特異な存在である。イノベーティブで魅力的なウェブサービスを開発し続け、全てのサービスと顧客対応を自動化して提供することによって、Googleの企業価値とブランドイメージは高まり続けるはずだというテクノロジー主体の企業イメージが強くある。個別的で丁寧な顧客対応よりもテクノロジーの進歩と発展を重視するGoogleは、従来の営利企業のようにお客の感情や機嫌に配慮した対応を心がけるような商売重視の態度を取る必要性は感じていないようである。


『ザ・サーチ』の冒頭の『意志あるデータベース』では、検索とは何か?という本質的な問題が人工知能(AI)研究などと絡めて掘り下げて語られているが、ウェブ全体の広大な空間の検索を可能とした技術的背景には、光ファイバーの普及による情報通信の『帯域幅の増大』と急速な『ストレージ価格の低下』がある。

常時接続のブロードバンド環境が各家庭や各個人に整備されたことにより、大容量の帯域を必要とする動画コンテンツが気楽に見られるようになった事と、24時間いつでも好きな時にネットに接続して情報を検索することが出来るようになった事で、インターネットのコモディティ化とネットに公開される情報コンテンツの増加が急速に進んだ。

現在では、便利で有用なウェブサービスの開発が相次いでいる為、ローカルのアプリケーションを使う頻度が減り、メールや検索、文書作成(ワープロや表計算)、音楽や動画の鑑賞、ファイルのストレージ(記憶保管)までブラウザを介したオンラインのネットで行うようになってきている。

ここで興味深く思ったのは、HDDなどストレージ(記憶装置)のコスト低下によって、従来『一時的に消滅すると思われていた各種の情報(メール・チャット・クリック履歴)』などが『永続的に検索エンジンや各社のサーバに保管されるストレージ』となる可能性があるということだ。

自分の過去の行動履歴や個人情報に関するデータがいったんインターネット上に公開されてしまうと、検索エンジンにインデックスされなくてもそれを閲覧した個人のパソコンや外部媒体にコピーされている可能性があるので、その履歴やデータを回収して完全に消去することはほぼ不可能であると言える。

例えば、マスメディアによって実名報道される犯罪者の履歴などは、インターネットと検索エンジンがなかった時代と比較すると、永続的にウェブ上で保管される可能性が高くなっている。過去の汚点や過ちがウェブ上の電子テキストとして延々と保管され続けるという事は、自分の罪悪感や恥辱の記憶が風化しても、他者の検索行為によって過去が再び生き生きと再現される恐れがあるという事である。永続的なウェブ上の記録は、凶悪犯罪の加害者については自業自得な面があるとはいえ、被害者として実名と事件をストレージされている人で過去を忘れたい人(遺族)にとっては迷惑で不快なものであるかもしれない。

現実社会のニュースとウェブ制作者の創作意欲(記述の意志)を反映するウェブ上のコンテンツは、これから先も増え続けることこそあれ減ることはないだろうし、ウェブ上のコンテンツに掲載される企業組織(企業・官庁の構成員)や社会治安(犯罪報道)に関係した個人情報の分量も増大し続けるに違いない。

不特定多数が閲覧可能なウェブでいったん個人情報が公開されてしまうと、それを自分の思惑通りにコントロールしたり回収したりすることは不可能になるが、ウェブに実名を出すような企業・組織の構成員(重要な地位にある者)ではなく犯罪行為とも無関係な人の場合には、個人情報を何処までウェブに公開するのかの情報管理はそれほど難しくないだろう。

ウェブでの情報公開に対して針小棒大な過剰な警戒や恐怖を抱く必要はないが、一度ウェブに公開した情報は『永続的な検索エンジンやウェブ・アーカイブのデータベース』に組み込まれる可能性があるということ、その情報を誰かが思わぬ時に検索して探し当ててしまう可能性があるということは意識しておく必要があるだろう。

Googleが最も重視する社是は、“Don't be Evil(邪悪にならない)”であるが、強力な情報の統合整理と検索可能性を提供するGoogleや顧客の購買商品や検索履歴を完全にデジタル化して保存しているアマゾンが“Big Brother(独裁者)”としての専横を未来永劫、働かないという保証は誰にもできない。

また、GoogleやYahoo!といった民間企業が集めた検索クエリやクリック履歴の情報は、国家権力や法規範から完全に自由なわけではなく、国家が法に基づく要請をしてきた場合には検索関連情報を譲渡することがある。また、情報統制にまつわる中国の強硬な要請を受け容れざるを得なかったように、一部の検索結果に制限を加える可能性も考慮しておかなければならない。
国家権力が検索エンジンに対して掛けてくる圧力や制限が不当なものであれば拒否すべきであるが、営利活動として検索サービスを展開する為には、該当国や地域の法律に従わなければならない。今では検索エンジンは一つの社会インフラになっているので、GoogleやYahoo!が信じる客観中立的な検索結果を何時でもどこでも返せるように最大限の努力を払って欲しいとは思うが。

如何にテクノロジーの進歩と企業使命の達成を最優先する先端企業であっても様々なステークホルダーの影響に晒される営利企業である以上、完全な善性を保持できるとは考え難い。場合や状況によって臨機応変な企業判断をする中で邪悪になってしまう可能性もあるということを念頭において、ネットでの情報管理やコミュニケーションをしていく必要があるのだろう。



しかしコンピュータを操作する場所がウェブに移り、ソーシャルネットワーキング、検索、eコマースのような第二世代のアプリケーションになると、法律はますます不透明になっていく。
これらのアプリケーションによって作られ蓄積されるデータはどのようなものか。そのデータは誰の所有になるのか。そのデータに対してわたしたちにはどのような権利があるのか。こうした疑問に対しては、今のところわたしたちも分からない。

わたしたちのデータをアマゾン・ドットコム、ホットメール・ドットコム、Gメール・ドットコムなどのサーバに移すことで、わたしたちはこれらの企業と、暗黙の取引を行っていることになる。
取引は次のようになる。わたしたちの情報は悪用されないと信じている。わたしたちの情報は非合法な政府、非公式の検索や占有から安全に保護され、わたしたちの管理下に置かれるものと信じている。わたしたちのデータを利用することで、わたしたちにより役立つサービスを提供されるものと理解する。わたしたちのデータによって、わたしたちを特定して、プライバシーと自由を侵害されることはないものと確信する。

このような取引をした上で、わたしたちは企業を信頼して企業に依存しようとしている。このようにデータを企業に移すことに対して、わたしたちと企業側がどう対応できるか、確信は持てない。それを考えるだけで頭が痛くなる。



ウェブは、『情報と知識を共有するデータベース』であると同時に『未来の誰かに自分が公開したコンテンツ(情報)の検索の可能性を届けるシステム』なのである。故に、『誰にも公開したくない情報』は絶対にウェブに公開するべきではないし、『一部の人だけに伝達したい情報』は極力公開すべきではないという事になる。
パスワード制の採用や検索ロボットの対策によってある程度、検索エンジンへのインデックス化を防ぐことは出来るがそれでも万全ではないし、その情報の閲覧を許可した知人が自分のHDDに保存して(ファイルのウイルス感染などで)外部に漏出する可能性も否定できない。

インターネットが存在しなければこの世界に出現しなかったであろう膨大無辺のデータベースから、自分の欲求や必要、感情に合わせて情報を即座に取り出す技術と理論が『検索(search)』である。
一般的な知識や情報が書かれたテキストをデータベースから探し当てる『辞書的用途に耐える検索技術』はかなり精度を上げてきているが、『au 携帯 W47T』というような検索クエリを打ち込んだ人間の意図や欲求を反映した『人工知能に接近する検索技術』はまだまだ発展途上である。



グローバルな情報世界において検索は、わたしたちがなにかを調べて発見する際の、武器となり道具となる。空のボックスときらきら輝くカーソルは、デジタル文明の宝庫を予兆させる。バージンブルーのリンクをわたしたちのマウスがさまよっていると、やがてスクリーンは変貌して、新たな時代へ誘う永遠のインデックス(索引情報)が現れる。



何かの調べものをするような辞書的用途では、検索クエリの一般的な定義や解説的な意味を検索結果として返すだけで良いが、人工知能的な検索エンジンでは、『機械と人間の擬似的な対話(自然言語をある程度解釈する検索エンジンのアルゴリズム)』を成立させなければいけないので開発と実用化までのハードルが相当に高いように思う。

未来の検索技術の水準(レベル)は、『検索者の意図と要求を検索エンジンが何処まで読めるのか?』という事と『ウェブ上のコンテンツ(情報)の歴史性(更新日時の新旧と公開期間)をどう評価するのか?』という事に大きく依拠してくると考えられる。

日々更新されるブログのように『情報の正確性よりも話題性のあるインタラクティブな最新情報』が重視されるメディアでは、コンテンツの歴史性よりも話題の速報性や更新日時の鮮度が検索結果に求められるだろう。反対に、特定の専門分野やトピックを体系的にまとめたウェブサイトでは、『体系化された情報の正確性と歴史性(信頼性)』が検索結果に求められることになるので、最新のコンテンツでも解説が不十分で内容が充実していなければ意味がないことになる。

検索エンジンをマーケティングや宣伝広告と絡めて考えると、検索エンジンは情報の公開性や透明性を高めて企業やビジネスをユーザに対して見えやすくする働きがあり、基本的に自由競争原理が非常に厳しく働くマーケットを創出する作用を及ぼすと考えられます。

検索エンジンとビジネスが密接に関係することには良い面も悪い面もありますが、企業活動が環境に及ぼす影響や企業の雇用条件や労働環境に対する情報の透明性が高くなるにつれて、検索エンジンが企業の説明責任を代行するような事態が生じるかもしれないと『ザ・サーチ』では記されています。

どれだけ魅力的で利便性の高い商品(サービス)を提供しても、その生産流通過程で第三世界の人々に低賃金の長時間労働を強制していたり、環境汚染を進めて公害を引き起こすような工場設備で商品を生産していたりすれば、検索によってその事実が白日のもとに晒され、消費者から厳しい批判や糾弾を受けるような経済社会が形成されるかもしれないというのです。

『商品の生産・流通(輸送)・宣伝・販売』という企業活動のプロセスに関する『情報公開の透明性・公開性の確保』に検索エンジンが貢献するとすれば、経済の公正性や環境性が高まると予測されますが市場での競争はより一層激しくなるでしょう。
市場経済の競争原理が、商品・サービスの評価以外に様々な分野に及んでくることになり、企業倫理や環境意識が厳しく問われる経済風土が培われることになります。しかし、それが多くの人々にとって幸福な経済環境や社会状況を準備してくれるかどうかはまだ未知数です。

『ザ・サーチ グーグルが世界を変えた』で取り上げられているGoogle以前のアルタビスタなど検索エンジン開発の歴史や、Googleの検索連動型広告“Adwords”の原形となったビル・グロスの“Overture”の紆余曲折の歩みなどについてここで触れることが出来ませんでしたが、『ザ・サーチ』の書籍では、検索エンジンとGoogleに関する様々なテーマが取り上げられています。

検索エンジン全般の歴史や検索ビジネスの急速な発展、ベンチャー企業として始まったGoogleとYahoo!の成長の軌跡、検索エンジンとプライバシーの問題、セマンティックウェブと完全な検索の可能性などウェブ関連の刺激的な話題を数多く読むことができるので、Googleの検索技術に興味を持っている人だけでなく、インターネットのビジネスや時代の進展に関心を寄せている人であれば楽しく読めるのではないかと思います。

■書籍紹介
ザ・サーチ グーグルが世界を変えた
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