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小泉純一郎現首相が初めて内閣総理大臣に指名されたのは平成13年4月26日であり、幾たびかの内閣改造を経て現在は第3次改造内閣で政権が運営されている。 総裁任期は3年で小泉首相の任期が9月末までなので、自民党総裁選まで約2ヶ月を残すばかりとなった。自民党内の支持層の厚さや次期首相に関する世論調査から見ると、自民党総裁選の結果自体は、本命の安倍晋三官房長官の当選がほぼ確実な趨勢のようだ。 安倍晋三官房長官が首相になる可能性が濃厚であるとしても、党内から政策理念や将来ビジョンの異なる複数の立候補者を出して、政策論争をしっかりと行い日本の今後に関する議論を深めて欲しい。 現在の民主党やその他の野党では、政権交代が望みにくい政治状況だからこそ、自民党や公明党といった政権与党は長期政権を預かる重責と腐敗防止のための人材の新陳代謝を意識しなければならないし、国民からの大きな支持や期待を集められない野党は猛省して、その存在意義を取り戻すために政策中心の戦略を練り直すべきである。 福田康夫元官房長官が出馬を否定したことで安倍氏と異なる政策や主張を持つと目される有力な立候補者が一人いなくなったが、絶対優位が指摘されている安倍晋三氏自身は忌憚なく政策論議を交わし合う総裁選を望んでいるらしいので、麻生太郎外務大臣や谷垣禎一財務大臣ら他の候補者との有意義な政策論争、国民の関心に添った討論を期待したい。 特に、谷垣禎一財務大臣は、自らの職責を意識してのことなのか、『財政悪化を打開するための税制改革としての消費税増税』を掲げて政策論争に望むということなので、谷垣氏の総裁選勝利の可能性は薄くても、消費税増税の上げ幅や税収の利用目的について安倍晋三氏がどう受け答えするのかには関心が集まるのではないだろうか。 現時点で9月の自民党総裁選への立候補が予定されているメンバーは、安倍晋三・麻生太郎・谷垣禎一・与謝野馨・額賀福志郎らとなっている。 毎日新聞が27、28両日に実施した9月に予定されている自民党総裁選に関するインターネット調査では、やはり圧倒的に安倍晋三官房長官の支持率が他の候補者に抜きん出ているようだ。インターネット調査の記事のタイトルは、福田氏出馬に失望3割というタイトルだが、実際に失望した人の支持政党の内訳を見ると自民党支持層よりも野党支持層が多いようで、これは中国共産党幹部に太いパイプを持つ福田氏の親中国外交の対話路線に共感してのものかもしれない。 一緒にお酒や食事を楽しみたい相手として麻生太郎外相が人気なのは、母方の祖父に吉田茂がいるという血統の良さやコワモテな外見とは裏腹に、庶民派の語り口調や軽妙なジョークが好感度や親しみやすさにつながっていると思われる。麻生太郎外相のアジア外交に対する強硬姿勢やハスッパな語り口調が首相になった場合に危惧されるポイントではあるが、彼の政治家としての持ち味というか一部の人を惹き付ける魅力は歯に衣着せぬ豪胆な物言いにあるのもまた事実であろう。
安倍晋三氏にポスト小泉としての大きな評価が集まるきっかけとなったのは、横田めぐみさんなどが被害者となった北朝鮮の拉致問題で、北朝鮮が被害者全員を返還させるまで一歩も引かないという毅然とした決断力を示した事だった。 安倍晋三氏は、北朝鮮の拉致問題への強硬姿勢やミサイル発射に備える積極的な防衛対策(ミサイル防衛システム)など国家安全保障に関する政策発言や9条改正を含む憲法改正の立場表明では注目が集まるが、財政再建や税制改革、社会保障政策など内政問題に関する政治信条が見え難いという印象がある。 来るべき超高齢化社会に耐えうるだけの財政再建と景気回復をバランスさせる経済政策の基本方針としてどのようなアイデアを持っているのかというテーマに基づく政策論争などを聴いてみたい。天文学的な数字で増額し続ける国債残高を前にして年金財政の実質的破綻が危惧されているが、将来、高齢者への年金給付や生活困窮者(労働不能な状態にある者)への生活保護の財源確保をどういった税制改革で実現しようとしているのかなどを具体的につめて論争していって欲しいと思う。 今一部の地方自治体では、生活保護拒否や社会福祉財源の切捨てなどに象徴される社会的セーフティネットの崩壊が問題視されているが、大枠で経済格差の問題に分類される問題も、受益者負担の自由主義経済の原則や市場原理(競争原理)による財の再分配だけは解決が困難な問題である。 基本的に、安倍晋三官房長官は、小泉首相の側近として党内でのプレゼンスを高めてきた政治家なので、小泉首相の新自由主義的な構造改革路線と小さな政府の財政方針を踏襲すると思うが、『官から民へ』や『三位一体の改革』『抵抗勢力(既得権益層)との戦い』といったスローガンのもとに行われた経済・行政・財政の構造改革が国民の各所得層にどのような影響をもたらしたのかの再点検も必要なように思う。 行政の構造改革の中核事業として行われた郵政民営化ですが、民営化当初の目的は、郵便貯金や簡易保険の資金を公的部門から民間部門に移して有効活用し、政府保証のもと既得権益事業となっていた郵便・郵貯・簡保に競争原理を取り入れてサービスと効率性の向上を図るというものだった。しかし、郵政公社の子会社間の株式持合や政府の株式買戻しの制度などによって、民営化の終点である2017年以降も、完全な民間会社(金融・保険・郵便・通信分野の民間会社)になるわけではないようだ。 完全な民営化への反対意見としては、巨額な事業資金と全国ネットワークを持つ郵政公社が市場の競争に本格参入すると今ある既存の民間産業が圧迫されるという意見や反対に政府保証のない民営化された郵便貯金銀行や郵便保険会社では厳しい市場の競争を生き残れず、預金者に損失を与えるというような意見もあるようだが、現段階の郵政公社とかつての郵便局を比べても具体的な違いは乏しいというのが実感である。 2007年から本格的な民営化に着手する郵政公社が官であるべきか公であるべきかという問題は、結局のところ、政府保証や公費投入なしに採算のとれる資金運用や利益を上げられるビジネス展開が出来るかどうかという部分にかかっているように思う。 行財政改革の話に戻ると、特に、省庁の予算縮小や公務員の人員削減、公共事業の規模縮小などの政策を含む行財政改革は、小泉政権発足時の掛け声だけは盛んだったが、実際にはまだ殆ど目に見える成果を上げていない状況にあるように思える。 ここから、本格的な行財政改革の聖域(公益性と福祉性の乏しい不採算部門の削減)に踏み込めるかどうかが、構造改革路線を継承すると見られるポスト小泉以降の首相に問われていることになる。 行財政改革の推進と社会保障政策の切り捨てをセットにする構造改革には反対だが、公共部門の巨大事業などにかかる不必要な予算や不採算なビジネス展開など無駄な支出を削減することで、その分の税収を社会保障分野(教育・医療・年金・福祉・生活保護)などに振り向けるような財政改革は必要になってくるだろう。 その意味では、今回、自民党総裁選に出馬した谷垣禎一財務大臣の『社会保障目的税として消費税を引き上げる』と言う意見にはほぼ賛成の立場であるし、実際に将来の社会保障費を税源で賄おうとすれば税率を何処まで上げるかはともかくとして、消費税をはじめとする間接税の多くを年金・医療・介護・生活保護の財源に使途を限定して割り当てなければならないと思う。 消費税の使途を社会保障に限定するというオプションはもっと早い段階で示されて然るべきだったと思うが、消費税の大幅増税の時の最後の切り札としてとっておくという政策的判断もあり得るだろう。 ただ、谷垣禎一財務大臣は、靖国神社参拝問題についてはやや保守的であり、代替の国立戦没者追悼施設の建設には否定的なようである。ただ、谷垣氏自身が靖国神社参拝にこだわっているのではなく、首相の靖国参拝やA級戦犯の合祀に対して批判的である点が小泉首相の宗教的感性とはやや異なっている。新聞報道で読んだ限りでは、谷垣氏が国立追悼施設の建設に反対なのは、靖国神社に祖先や家族が祀られていると信じている遺族の立場に立ってのことであるようだ。つまり、急に『靖国に祀られている英霊をこちらの施設に移しましたから、今からこの新しい国立追悼施設に参拝して下さい』といわれてもなかなか本心から納得できないだろうから今の靖国神社のままのほうが良いという遺族感情と歴史性を重視したロジックによる主張である。
1つ異論があるとすれば、食品や衣料、雑貨という生活必需品にかけられる10%の消費税率をそれほど大きな負担と考えていない谷垣禎一財務大臣の認識のアバウトさであり、税収を社会保障に充当したとしても、日々の生活が苦しい貧困層へその税の再分配の恩恵が回ってこない可能性が高いということに留意が必要だろう。生活保護の適用基準にしても、実際の生活困窮のレベル(生きるか死ぬかのレベル)を反映していない実態があり、消費税を社会保障目的税化する場合にも、本当に福祉や保護を必要とする人が迅速に制度の適用を受けられるような法制の改革が求められるのではないかと思う。 あと、財政改革のポイントとして、特別会計の大きな問題が残されている点に留意が必要だろう。一般会計の約5倍、200兆円以上の予算規模に上る省庁管掌の特別会計は、最も強固な日本の既得権益の牙城といえるが、これから消費税や物品税をはじめとする間接税の大幅値上げが予測される厳しい財政状況の中で、特別会計だけが文字通り特別扱いのどんぶり勘定で許されることはないように思える。先ほど郵政公社の民営化問題で述べたように、特別会計の巨額支出(年金特別会計によるグリーンピア建設など)の問題にしても、使ったコスト以上のリターンや効果があるのであれば国民の側からそれほど苦情や文句は出ないように思う。 自民党総裁選のメンバーに関する雑感を述べたところで、小泉長期政権下の政治と問題を簡単に振り返ってみると、外交では『対米追従外交の安全保障体制の有効性と限界』『歴史認識の食い違いや靖国参拝を巡る東アジア外交の困難』『自衛隊の海外派遣と憲法改正の是非』などがあり、内政では『所得階層の二極分化による格差問題の進行』『継続可能な社会保障制度の立て直し』などがあるように思える。 平成13年から平成18年に及ぶ小泉首相の長期政権下で起こった出来事とその評価を改めて考えると、国内政治と国際情勢を合わせて余りに多くの事件や問題が起きすぎて一言で断言することは難しいが、国際情勢で最も大きかった事件はやはりアメリカ主導の有志連合(アメリカ・イギリス・オーストラリア)によって戦われたイラク戦争(2003年)であり、戦後の人道復興支援として特措法制定で行われた自衛隊のイラク派遣だろう。 勿論、世界の安全保障体制のパラダイム自体を劇的に転換させ、世界の唯一のスーパーパワーであるアメリカ合衆国を不信と復讐の塊へ変貌させた2001年のアメリカ同時多発テロ“9.11”を私達の世代は忘れることが出来ない。 アメリカの対テロ戦争の大義名分や実力に任せた単独行動主義(ユニラテラリズム)の端緒となった意味でも、9.11のテロリズムはアフガン戦争やイラク戦争の原因となった非常に重要な歴史的転換点だったように思う。 もう1つ国際情勢において認識しておくべき点は、9.11のテロとイラク戦争を経験した自由主義世界におきたイスラム教文化圏やムスリム(イスラム教信者)に対する違和感というか不信感かもしれない。それに比較すると、イスラムと同等以上に激しい武力攻撃や苛烈な空爆をレバノンで行っているイスラエル(ユダヤ教徒)に対する偏見や不信感は日本ではそれほど高くないといえるだろう。 イスラエルの圧倒的優位を確保して停戦条約の締結や長期間有効な和解に持ち込むという高度な政治判断が働いている部分もあるとは思うが、現在のレバノンで展開されているイスラエルの空爆作戦はあまりに無関係な市民を巻き込みすぎているという批判はあって然るべきだろう。 イスラエル軍からすれば、「人間の盾」に隠れてゲリラ戦術を仕掛けてくるヒズボラを殲滅するために、人間の盾もろとも叩くという空爆戦略なのだろうが、だとしても、やはり非人間的な戦略であるという事実に変わりはないだろう。シーア派武装組織のヒズボラ側やそれを支援するイスラム国家に正義があるとは思わないが、戦略爆撃機や最先端の銃火器に恵まれたイスラエルが軍事的優位を生かすのは仕方ないとしても、もっと平穏裡に問題解決を模索できないものなのだろうか。 宗教紛争や文化対立といった種類の争いは、パレスチナ紛争の泥沼化を見るまでもなく、理性的対話による和解を不可能にするデリケートな問題ではあるが、イスラームの教義伝統や文化習俗には、やはり他の一神教と同様に融通の効かない部分が数多くあり功利的説得が通用しない規範や信仰に対して、日本や欧米、イスラエルがどう向き合って折り合いをつけていくのかが課題となる。 イスラエル軍とイスラムシーア派武装組織ヒズボラの戦闘が激しさを増していて、レバノンでは子どもを含む多くの民間人を巻き添えにするイスラエルの激烈な空爆が行われたようである。 パレスチナ紛争は再び混迷の度合いを深め、イスラエル軍もヒズボラの得意とするゲリラ戦に苦戦して一進一退の状況から容易に抜け出せなくなりつつある。 無限の復讐の連鎖と怨恨の歴史に決定的な終焉を見出すことは難しいが、ユダヤ民族の歴史やイスラエルの戦争とその解決の手がかりについてまた考えてみたい。
■書籍紹介 アラブとイスラエル―パレスチナ問題の構図
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