厚生労働省の調査機関である国立社会保障・人口問題研究所は、人口動態の統計分析や結婚・出産・家族に関する意識調査を行っているのですが、妻が50歳未満の夫婦の結婚・出産に関する意識を調べた『出生動向基本調査』の結果が公表されていました。
調査機関の名称が、国家にとっての人口問題の位置づけをそのまま示していますが、国家にとって人口動態はそのまま社会保障財源(国家財政のバランスシート)の問題につながってきます。 今回の調査結果は、現行の社会保障制度の維持を困難にする少子化の進展を予測するものとなっていて、未婚化・晩婚化と合わせて既婚者の出生数の低下の徴候を示しています。 猪口邦子少子化担当相は、今年1月からの婚姻数が前年の同月と比べてプラスに転じたことを指摘して、今年は出生率が反転して回復する見込みが高いとしていますが、今年上半期の婚姻数の増加という根拠だけでは若干頼りない気もします。今回の調査にある完結出生児数の低下は『既婚者が生涯に産む子どもの数』にほぼ等しいので、それが低下するということは結婚がそのまま出産につながらない世帯が増えるということでもあります。
公的年金・社会保険・健康保険などの社会保障制度の財源確保と結婚・出産の問題を同一視して少子化の改善の必要性を義務的に主張されると、将来の財政不安や経済力の低下が夫婦世帯にイメージされやすくなりかえって子どもを持つ意欲を低下させる気もします。 しかし、国策として人口問題を見る場合に、高齢者世代を若年世代が支えるという賦課方式の年金制度を採用している限りは、高齢者と現役労働者層(20〜50代)の人口比率を気にせざるを得ないでしょう。 自分自身で所得を得られなくなった高齢者の老後の生活保障や心身障害者及び生活困窮者、一時的失業者の社会保障の財源をどうするかという問題ですが、大家族(親族関係)による経済的な相互扶助機能を取り戻すことは現実問題として不可能ですから、どうしても現役労働者層から一定額以上の税金や保険料を徴収する必要が出てきます。 近々、タバコ税の増税でタバコが増税されますが、所得税の定率減税の廃止などと合わせて、今後は直接税も間接税も段階的に上がっていく可能性が高いと思います。 企業の場合には、国際競争力の維持や経済活動のインセンティブ、資金の海外流出の抑止、雇用や社会保険加入の機能など社会的有用性(経済的合理性)に基づく判断から法人税ついては据え置きされる可能性も高そうですが。 所得税が高くなって法人税が安くなるのは不公平だという意見は、企業利益と自分の所得が余り関係ない個人事業者やフリーターなどには当てはまりますが、サラリーマンの場合は企業の利益が自分の給料へと還元されることが多いので法人税の増減は余り意識しないことが多いと思います。 『出生動向基本調査』の結果の話に戻りますが、今回の調査結果で興味深いのは既婚者(結婚15〜19年)の完結出生児数が、30年間長らく続いた2.20前後の水準から2.08に大きく落ちたことと、理想の子ども数が2.50人を割り込んだことです。 少子化問題や20代〜30代の男女の未婚化・晩婚化を取り扱った社会学研究や社会統計の分野では、一つの通説として『合計特殊出生率(女性が一生涯で産む子どもの平均数)の低下は、既婚者層の出産率の低下ではなく、未婚者・晩婚者の増加によるものであり、全く産まない層が厚くなることによって全体の出生率が低下する』と言われていました。 つまり、国の人口減少傾向を示す“合計特殊出生率2.0未満(2005年で1.25)”は、既婚者が実際に二人以下しか子どもを持たないことを意味するのではなく、結婚しないことを選択する層・結婚したくてもできない層が増加している為に合計特殊出生率が2.0を切っていると考えられていたわけです。 実際、これまでの統計データを見る限り、既婚者層の出生率は戦後ずっと今まで2.0以上を維持しているので、1.25とか将来の1.18とかいう合計特殊出生率は、未婚化・晩婚化の影響や婚外子(非嫡出子)を持つシングルマザーを快く思わない社会風潮によって出てきた数値だと言えます。 しかし、今回の統計データは見ると、今までの少子化要因とは異なり『既婚者層の出生率と理想の子ども数』が減っていますので、今までの未婚化・晩婚化・シングルマザー回避の風潮といった原因の他に、更に少子化を促進させる要因が加わった形になると言えます。 ただ、それほど極端に大きな低下ではなく、特に理想の子ども数に関しては微減ですので、家計の経済状況の改善や託児所・保育所など育児環境の整備、少子化対策の更なる充実によって既婚者層の出生率と理想の子ども数が盛り返してくる可能性はあると思います。 同時に、現代の日本では『子どもを3人以上欲しい』と明確に意識していてその経済的環境的条件が整っている夫婦・カップルは極めて少なく、また現状以上に子どもを増やしたいという人の比率が韓国と同程度に低いですので、大幅に既婚者層の出生率が改善するという事態もまた望みにくいと思います。 日本に限らずアメリカやヨーロッパの先進諸国でも多少の前後はありますが、合計特殊出生率は軒並み低い水準に留まっています。これは、科学技術や医療水準、衛生環境の進歩により多産多死から多産少子の人口の急激な増大を経験した文明先進国が歩む半ば必然的な人口転換(少産少死)の影響でもあります。 少産少死の安定社会(成熟社会)の到来は、国民個々人の結婚・出産意欲・将来不安のマインドなどと無関係に、一定以上の経済成長と教育水準を達成したどの地域でも起こってくるものです。 アメリカだけは世界一の経済大国・軍事大国でありながら、例外的に特殊出生率2.0以上を維持していますが、これは、アメリカが移民(国民の新陳代謝)を受け容れる多民族国家であること、経済階層やライフスタイルの多様化が存在すること、子どもを増やしたいというカップル数が多いこと、シングルマザーを容認する社会通念(結婚・出産の分離を可能とする宗教的歴史的背景)が確立していることなどが関係しているように思います。 アメリカの出産育児に関する社会福祉制度が、日本のそれよりも手厚いかどうかについてはアメリカの各州の社会福祉制度を詳細に知らないので分かりません。有料のベビーシッターや民間保育施設は日本よりも充実しているようですが、アメリカが日本に比べて格段に手厚い出産・育児の支援を公的に行っているわけではありません。 日本でもベビーシッターや民間保育施設のビジネスを計画する事業者は増えているようですが、そういった有料の保育ビジネスの振興が直接的に出生率を上昇させるかというと難しいのではないかと思います。 日本では子どもの養育に掛かる費用に対して育児手当が低すぎるという批判は多いですが、日本の月に5,000円という育児手当の水準は確かに低いものの、福祉先進国のスウェーデンやノルウェーなどでも月に数万円というような単位では育児手当は支給されず1万円前後の金額のようです。 確かに、北欧諸国をはじめとするヨーロッパの国々の多くでは、日本よりも女性の出産・育児をサポートする社会制度・企業制度・育児関連の公的保険・法律規定が整備されているという経済的支援以外の子育て支援を無視することは出来ませんが。 特に、スウェーデンなどでは、企業制度として『長期間の育児休暇・休暇中の給与の保障・出産による退職勧奨や解雇の禁止・育児期間中の労働時間短縮』が法律で義務付けられていて、日中にいつでも子どもを安心して預けられる保育施設が充実しています。 母親が仕事と育児を両立する為の社会福祉制度を充実させることに社会的なコンセンサスが得られていて、出産・育児の物理的・経済的コストを社会全体で分担するシステムが確立しているという利点はあるでしょう。 ただ、北欧の福祉先進国についても『揺り籠から墓場まで』を保障する財政的条件が厳しくなっているという見方もあり、現在の福祉国家が永続的に循環可能なシステムかどうかについては多くの疑念も出されているという状況もあります。 また、現在の日本の少子化の主要因である未婚化・晩婚化に対しては、ヨーロッパ的な出産・育児の支援制度で対応できるかは未知数であり、所得階層と未婚率に相関が見られる日本の場合には、出産する前段階の若年層(フリーター・無職・NEET)の安定雇用や給与水準の底上げが必要になるのではないかと思います。 従来行ってきた既婚者への税制優遇策(各種控除・第3号被保険者など)などでは、殆ど未婚化の傾向に歯止めが掛からないことを考えると、未婚者が結婚しない理由で『結婚したいと思える相手がいない』に次いで上げられる『経済的問題』というのは多少の経済的優遇では埋まらない水準の経済力の不足なのかもしれません。 特に、正規雇用者でないアルバイトなどで生計を立てている層では、家族の生活を支えるために必要な最低限度の所得水準に達していないケースも少なくなく、その場合には、育児を含む結婚生活よりも経済的物理的コストの小さな恋愛関係に留まることを選択する確率が高くなると思います。一般的に、扶養の義務や家計の維持など経済的責任を無視して結婚をすることは非現実的ですし、配偶者となる相手の親からも結婚の承諾を得ることが難しくなるでしょう。 当然、『経済力はあるが結婚したくないからしないという層・経済力があって結婚したいが結婚相手が見つからないという層』も未婚者には含まれますから、未婚化・晩婚化の原因を経済的事由のみに還元することは正しくありません。 しかし、結婚・育児に関する未婚者対象の意識調査で『一生涯結婚するつもりはない(結婚したくない)』という回答をするのは概ね1割を切ることを考えると、結婚したくないからしないという層の絶対数は多くないと推測されます。 今回の『出生動向基本調査』では、理想の子ども数と実際に産む予定の子ども数との差について『育児や教育にお金が掛かりすぎるから』という理由がトップになったようですが、結婚に関する『意識調査(PDFファイル)』で『結婚していない理由』を見ると男女共に『適当な相手にめぐり合わないから』という理由がトップであるものの二番目以降は『経済力がない・自由になる時間やお金が欲しい』という経済的問題に関係する理由となっています。 同じPDFのページにある『結婚相手に求める条件』などの女性側の意識調査も合わせて考えると、適当な相手にめぐり合わないという理由には安心して結婚できる経済力を恋人(恋人候補)が持っていないからという背景も含意されているであろうことが分かります。 更に、『結婚する前の生活水準』と比べて『結婚してから後の生活水準』が極端に落ちる場合には、キャリアのある女性や両親と同居しながら働いている女性(実家に住んでいる女性)ほど、恋人が好きでも結婚を回避しやすくなり、親からも反対されやすいという意識調査があります。 夫婦共働きという男女共同参画社会を前提とした場合にも、30代までの若年層が結婚しない理由の多くが、何らかの経済的問題を孕んでいるといえるのではないかと思いますし、専業主婦としての結婚生活を志向する女性の場合には、更に、結婚相手に求める条件として一定の経済力が必要になってきます。 夫婦で一緒に働いている世帯が圧倒的多数となってはいますが、現在でも女性の中には一定の割合以上で専業主婦になりたいという人がいて、その場合には、『相手の人格的魅力・性的魅力・相性の良さ』という基本条件にプラスして専業主婦と子どもを扶養できる水準の所得が必要になりますから配偶者候補となる相手の幅が若年層では相当に狭くなります。 専業主婦志望でなくても、結婚して食べていくだけのギリギリの生活になることを敬遠する女性の層は少なくありませんから、性格や人柄、性的魅力といった個人的要因だけで配偶者を選択する人は少数派となりますし、職業や経済力を明確に意識していなくても、一定の経済所得があることでファッションや精神的余裕、遊び(趣味やレジャー)の内容などで異性としての魅力が高く見積もられるケースは少なくないでしょう。 配偶者に極端な高額所得や贅沢な生活は望む人は一般的に少数派ですが、一定の社会保障(厚生年金・共済年金・各種保険)や経済的に困窮せずに楽しく家庭生活を営める程度の給与水準を望む人は多数派を形成します。 その為、既婚者の出生率の低下は、企業制度・社会福祉制度(出産育児支援)の充実や託児施設の増設整備によってある程度改善されると予測できますが、結婚願望はあるが経済的事由によって結婚できない未婚者層(フリーター層・NEET含む無職層)に対しては、労働条件の改善・正規雇用者との格差是正・就業につながる教育支援や技能訓練などが必要になってくると思われます。 正規雇用でなく給与水準が独立の世帯を支える水準に達していないフリーター層や経済的活動を行っていない層の人口は、約400〜500万人程度の規模だとされていますが、統計に乗ってこない数も含めるともう少し大きくなるかもしれません。 そして、その多くが結婚願望が全くないわけではないが、恋人がいても結婚できる状況にないということで、未婚であるか将来のどこかの時点で結婚する晩婚であるかということになってくると推測されます。結婚状況に関する『結婚しない理由の意識調査』などを参考にすると、フリーター層の給与水準や雇用待遇(正社員への採用枠拡大や機会増大)を改善することで未婚率や晩婚化傾向がいくらか改善されるのではないでしょうか。 結婚には、両性の合意の成立を促す『相手の人間的魅力・性的魅力・価値観や性格の相性』という情緒的要因が重要ですが、結婚の共同生活には一定以上の経済的時間的コストが必要になりますから、『相手が好きだからずっと一緒にいたい』という情動的要因だけではお互いになかなか合意に至らないと考えられます。その為、結婚を選択することに躊躇しているカップルの情動的要因以外の部分に支援策を打ち出すことで、平均初婚年齢が若干下がる可能性があるのではないかと思います。 少子化の問題と若年層の未婚化・晩婚化の問題はつながっていますので、それらに効果的な対策をする為には、『既婚者の家庭・企業・社会における出産育児支援体制の拡充』と『未婚者の結婚を困難にする経済的・心理的要因の除去(非正規雇用者と正規雇用者の生涯賃金格差の圧縮)』を同時進行的に進めていく必要があるでしょう。 今回は、結婚生活の経済的な側面や社会統計のデータから少子化を考えてみましたが、恋愛と結婚の心理学的考察についてもまた書いてみたいと考えています。 少子高齢化自体を社会政策を通して人為的に改善する必要性がないとする立場、人口動態を自然に推移するままにしておくことに問題はないとする立場もありますが、その場合には現行の社会保障制度そのものを少子化社会に対応できるもの(若年層・現役労働者層の税負担に老後保障を依拠しないもの)へと抜本的に改正していかなければならないでしょう。 ■関連URL 恋愛関係と結婚・婚姻の違い 経済格差とハイパーガミーの挫折による未婚化・晩婚化 結婚意識調査からの考察:男女が結婚相手に望む条件とミスマッチの問題 ■書籍紹介 図表でわかる少子高齢社会の基礎知識
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カウンセリングルーム:Es Discov... 2010/08/12 13:07 |
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