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臨床心理学の研究分野を構成する主要分野には、『心理療法の理論と技法・心理アセスメント・異常心理学(精神病理学)』があり、心理検査(心理テスト)を中心とする心理アセスメントでは、クライエントの問題解決や利益増進を目的とした各種テストを行ってその後のカウンセリング計画や治療方針を立てていきます。 過去の『カウンセリング理論(心理療法理論)の実践と異常心理学(精神病理学)の発展の相補性』の記事で、クライエントの客観的理解を進める異常心理学と心理アセスメントの関係について触れ、心理療法(カウンセリング技法)の各学派が、それぞれの技法の有効性を説明する独自の精神病理解釈を持っている事を示しました。 各心理療法の効果を根拠づける精神病理学には主観的な推測や説明的な解釈が入り込むことがありますが、最も客観的科学性が高い精神病理学は、実証された生物学的理論を前提とする精神医学の精神病理学(記述精神病理学)だと言えると思います。 ただ、心理療法やカウンセリングの適切な選択や効果の発現に役立つ精神病理学という観点からは、客観的で実証的な精神病理学が必ずしも有用性が高いとは言えない部分があります。 精神分析や行動主義、認知理論に基づく精神病理の解釈も、常識的心理観との親近性やカウンセリング場面への導入効果があり、技法の選択や経過の説明に際して役立つことが多くあります。 心理アセスメントを行う最終的な目標は『クライエントの問題解決・症状改善・利益増進・苦痛緩和』といった臨床活動(カウンセリング実践)への応用にあり、『カウンセリングに必要なクライエントに関する情報収集』を効率的に行えるテスト・バッテリー(心理テストの組み合わせ)を組んでいきます。 心理アセスメント(心理査定)の実施方法には、『調査的面接・診断的面接・受理面接(インテーク)』のような面接技法によるアセスメントと『知能検査・性格検査』に代表される心理検査(心理テスト)を用いたアセスメントがあります。 心理アセスメントは、プライベートな領域の個人情報(心理・病理・生活履歴・人間関係のデータ)を収集して分析するという特徴がありますから、カウンセラーはクライエントのインフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)を得た上で実施しなければなりません。 カウンセリングにあまり必要でない不適切な心理アセスメントを実施したり、クライエントに理解できる形で心理検査に関する説明を行わない場合には、心理臨床分野における職業倫理的な問題が生じてきます。 科学的客観性のある心理検査の学問的な歴史は、臨床心理学に応用する性格検査として始まったのではなく、初頭教育の分野で普通教育についていけない生徒を選別する知能検査として始まりました。 心理検査(心理テスト)において職業倫理や倫理規程などが問題になってくる背景には、心理検査の実施が『正常性・異常性の価値判断』や『健常性・病理性の識別指標』から完全に自由になることが難しいという理由があります。 心理検査の目的論の次元では『知的障害児や発達障害児の専門教育(特殊学級教育)を充実させる為に行う知能検査であり、本人の到達できる知的水準や学習課題に専門特化した教育カリキュラムを組むことで社会的自立(環境適応)を促進する』といった肯定的な解釈を為すことが当然できますが、個人の人格特性・知能水準・精神病理を測定しようとする心理検査の基盤には『正常性・異常性の二元論的評価軸』があることもまた事実なのです。 『生産性・効率性・学校教育・技術水準』によって支えられる近代産業社会は、平均的な人格構造や標準的な価値観を持った社会適応性の高い人間を学校教育で育成しようとするオートポイエティック(自己生成的)なシステムを必然的に内在させます。 他者と対等に意思疎通できる精神の正常性や知的能力を持っているか否かによって人格の責任能力や社会適応性(集団帰属性)を判断することも少なくありませんが、私たち一人一人が、『正常性と異常性の境界線の問題』に対して無自覚になることは、精神疾患や各種の心身障害への差別や偏見を助長することにつながる恐れがあります。 中心的価値観からの異質性の排除について関心のある方は『フーコーの系譜学的研究『狂気の誕生』:精神の正常と異常の価値序列の相対性』の記事を参照してみて下さい。 特に、精神病理や各種発達障害を査定する心理検査では『平均値からの逸脱・標準特性からのズレ・異常な数値・特殊な生活履歴・特異な性格特性』などにまず検査者は注意を向けなければならず、異常性・特殊性・病理性といった問題群を解決するという観点からカウンセリング計画や治療面接の指針を立てていくことが多くなります。 クライエントのパーソナリティや精神生活の履歴を総合的に把握するという究極的な目的があるのは確かですが、まずは、クライエントの苦悩や葛藤、病理といった心理的問題を改善することがプライオリティ(優先事項)となります。 そして、『結果として得られる幸福・利益』を考える功利的な帰結主義の立場からは、心理検査の結果を積極的に利用する事は望ましい事と判断され、問題の早期発見によって改善効果が得られるケースが多くなります。 その為、病気を発見する為の医学検査や異常を発見する為の心理検査を実施すること自体に倫理的な問題があるわけではなく、『検査実施の趣旨・検査の方法と測定する内容・検査結果の利用目的・個人情報の保護』を十分に説明して被検者の同意を得てから実施する必要があるということです。 19世紀の科学的心理学の発展に呼応する形で心理検査の歴史も幕を開けますが、初めに心理検査の作成が行われたのはパーソナリティの性質や構造を分析する性格検査(personality test)ではなくて、知能という精神機能を相対評価する知能検査(intelligence test)でした。 1905年に、フランスのアルフレッド・ビネー(Alfred Binet, 1857-1911)は、文部省所属の専門機関『異常児問題研究委員会』の嘱託を受けて、初等教育で児童の知能の発達水準を測定する知能検査を開発しました。 このA.ビネーとビネーの友人の医師T.シモンによって作成された知能検査は、規定の学習カリキュラムをこなせる正常児とそうでない精神薄弱(精神遅滞・情緒不安定=現在のADHDに該当)の問題を抱える児童を識別する目的で開発されたのですが、それ以前の恣意的な心理テストと比較すると科学性や客観性が高いものとなっています。 ビネーは、児童の発達年齢に対応した問題を作成して、『解答できた問題の難易度』によって知能面の精神年齢(MA, Mental Age)を測定できると考え、1908年版と1911年版の改訂版を開発しました。 ドイツのウィリアム・シュテルン(Stern,W. 1871-1938)が提唱した知能指数(IQ,Intelligence Quotient)の概念を取り入れて、一般知能水準の客観的な測定尺度としてビネー式知能検査は完成度を高めていきます。 アメリカのスタンフォード大学に所属していたL.M.ターマンは、1916年にビネー式知能検査を標準化して知能指数を測定できる『スタンフォード・ビネー知能検査』を開発しました。 日本では、鈴木治太郎による『鈴木ビネー(実際的個別的知能測定法, 1925)』や田中寛一による『田中ビネー(知能検査法, 1947)』という知能検査へと改訂されて学校教育で実施されるようになりました。 また機会があれば、知能検査や性格検査についてもう少し掘り下げて倫理学的な問題意識や哲学的な思索と絡めながら色々と考えてみたいと思います。 一般的な理論や知識としての心理アセスメントについても、投影法(projective method)や質問紙法(Questionnaire)など各種心理検査ごとに整理してまとめようかと考えています。 ■書籍紹介 心理テストの種類・特徴・目的・問題解決に合わせた利用法などがバランスよく網羅された書籍で、心理テストの基礎知識を整理するには便利です。 心理テスト全般に関する知識を、とりあえず一通り得ておきたいという人や辞書的なリファレンスとして使いたい人に向いていますが、各心理テストの実際の事例や理論背景の詳細について知るには、もう少し専門的な参考文献に当たる必要があるかと思います。 心理テスト法入門―基礎知識と技法習得のために
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集団知能検査の開発を促進した第一次世界大戦:投影法の性格検査と無意識概念
『心理アセスメントで用いる心理検査とインフォームド・コンセント』の記事で、クライエントの利益増進や問題解決につながる心理アセスメントの種類(面接技法・心理検査)と目的について書きました。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2006/05/13 01:21 |
ビネー式知能検査に関する補足と臨床診断的に用いられるウェクスラー式知能検査:サイトの更新
心理アセスメントとしての知能検査の歴史とアルフレッド・ビネーが開発したビネー式知能検査については、心理アセスメントで用いる心理検査とインフォームド・コンセント:ビネー式知能検査による一般知能の評価と『集団知能検査の開発を促進した第一次世界大戦:投影法の性格検査と無意識概念』の記事でその内容を概説しました。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2006/05/21 16:12 |
ADHDに対する心理学的なアプローチとリタリンによる薬物療法の概略
前回の記事では、ADHDのDSM‐Wの診断基準と学校生活を困難にする症状について説明しましたが、今回は、療育を含むADHDへの基本的な対処法とリタリンによる薬物療法の概略について書こうと思います。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2006/12/11 21:09 |
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