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標準化された心理アセスメントや神経心理学的な精神活動の機序など科学的根拠を持つカウンセリング(心理療法)の研究は、最終的には、効果測定による有意性が確認された認知行動療法的な技法に帰結する可能性が高いように思われる。 そして、認知的技法と行動的技法を結びつけた心理的問題の解決や精神症状の緩和は、それほど画期的な目新しい技法というわけではなく、常識的に理解可能な認知と行動(情動)の因果関係のモデルに基づいたものになるだろう。 また、神経心理学や脳生理学のように複雑な説明理論や難解な専門用語を用いた知見は、通常、カウンセリングの言語的アプローチには応用することが難しい。 確かに、薬物療法との兼ね合いから、脳科学の説明を用いて不快な心理状態を説明する事を歓迎するクライエントもいるが、一般的に、精神症状や心理的苦悩を生理学的な機能の失調として説明することそのものに改善効果はあまりない。 脳の器質と精神機能の対応や抑うつ状態を説明するモノアミン仮説などを分かりやすく話すことで、『自分自身の意志や考え方が、病気(苦悩)の直接の原因ではないと考えて、自罰感情や自責感を和らげる作用』が働くこともあるので、そういった話を望む人にはしても良いとは思う。 しかし、対人関係の悩みや環境不適応の問題など人生相談分野も包含するようなカウンセリングを利用するのは、健常者パーソナリティを持ったクライエントが多数を占める。 その為、科学的な脳の構造と機能の相関や神経学的な形成機序の説明より、現在の生活環境や精神状態、人間関係の問題といったテーマを中心に話す事が多くなるのは必然である。脳科学や生理学の知見による心の理解は、科学的な心理学を志向する心理臨床家の前提知識としての意味合いを帯びてくることになるだろう。 客観的根拠を持つ科学の一領域としての医学(厳密な科学ではないが心理学よりも一般に科学性は高いと評価される)は、精神活動と高次脳機能の結びつきを絶えず意識していなければならないし、高次の神経伝達活動と精神状態が無関係であるとするような前提を立てることは科学的ではないという批判を受ける恐れがある。 精神科医には、心理的原因を余り重視せずに脳内の神経伝達機能の異常を問題にする人が多い印象がある。それは、医師が心に訴えかける主観的言語ではなく、神経活動に作用する物質としての薬剤を持って精神状態を治療する事を主要なアプローチにしている事からも当然といえば当然である。 また、精神病理や異常心理を持つ患者を主要な対象とする精神医学の現場では、病態が深刻な患者と向き合う機会が多くなり、言語的アプローチや情的コミュニケーションが通用し難い相手が多くなることも心脳一元論を支持する根拠になっているのではないかと思う。 医師と患者の間でも信頼関係や人としての相性は大切な治療的面接の要素だが、カウンセラー(心理臨床家)とクライエントの間ほど信頼関係や人としての好悪は重要な要素ではないように思える。 言語はそれを発する人が誰であるのかという事によって、それを聞く相手に与える作用が全く異なってくるからである。 少なくともカウンセラー(心理臨床家)に対して、必要な薬だけをとりあえず貰いに行くといったアプローチを取ることは通常ないと考えられる。病院の場合には、慢性疾患でいつも同じ薬を貰っている人や定期的な通院をしている人の場合、(経過観察できないのであまり推奨されることではないのだろうが)診察を受ける時間や手間を惜しんで薬だけを貰うという選択をする人は意外に多い。 言語的アプローチが言葉を交わす相手に左右されるという極端な事例を出せば、嫌いな人や不快感を感じる相手から『あなたの事を好きです。ずっといつまでもあなたの側にいたいのです』などと言われても喜びや感謝の感情が湧くどころか、拒絶感や恐怖感といった気分を落ち込ませる感情が生起してくるだろう。 こういった発話者と受話者の間にある相手に対する好感度や魅力の認知の落差が、セクシャル・ハラスメントのコミュニケーションを生んだり、勘違いや誤解の積み重ねによる関係破綻を生んだりするのだが、『感情的側面を持つ言葉のコミュニケーションは、発言者に対する信頼や好悪』が大きく関係してくる。 その為、『全く同じ発言内容や全く同じ面接構造』を持っているカウンセラーが2人いるという臨床面接場面を仮定してみたとしても、そのカウンセラーが異なる人間である限り、同一(近似)の効果や作用が得られるという事は保障されないことになる。 生理的に嫌悪感を感じるカウンセラーの場合、幾らカウンセリングを重ねても治療効果や気分の改善、問題解決を実感することが難しいことは、常識的な経験則からは明らかに思えるが、そういった統計的研究を実施することは実際には困難である。 こういった臨床効果を期待する相談面接(治療面接)の行き詰まりは、精神分析ではクライエントの抵抗や陰性感情転移の問題として片付けられることが多かったが、実際のケースでは単純にカウンセラー(分析家)の性格や雰囲気が自分に合わないという事も多分に関係しているように思える。 カウンセリング(心理療法)は、カウンセリング後の言語報告や質問紙による効果測定によって、その心理学的アプローチがどれくらい有効であったのかの指標を得ることは可能であるが、薬物療法以上に効果(有意義感)実感の個人差は大きい傾向がある。 心理療法が進歩しても、医学的臨床活動のEBMと同じ水準で科学的客観性や実証的根拠を持つことが難しいとする考え方は、内観法と身体感覚によってしか知りえない『自分固有の内面心理』を前提とした考え方である。 これも『心の世界を特別視しやすい人間の認知傾向』の一側面であるように思えるが、この認知傾向そのものは、物理的要素や一般理論に還元しきれない精神の特殊性を意味している。 それは、他者と区別された『私』という自我意識の固有性を意味するもので、『私が生きる意味・世界に対する自己効力感』とも密接に関係している認知なのだが、科学的な一般理論による精神理解との相性が余り良くない認知である。 化学物質(向精神薬)や物理的刺激(電気ショック療法:ECT,ElectroConvulsive Treatment)を用いて、中枢神経系の情報伝達活動をコントロールしようとする医学的療法は、その作用機序が薬理学や神経生理学といった客観的な科学を前提としていて、『「私」という自我意識の認知や人間関係の質』とは無関係に効果を発揮するという意味で、良好な人間関係を前提とした言語や作業を用いる心理学的アプローチとは異なる。 『心(こころ)』という正式な心理学用語は存在しないが、古典的な心のモデルでは『知・情・意』の3つの機能的側面から人間の心を理解してきた。 この『知・情・意』の精神機能の発達を脳の進化論的見地から大まかに説明した仮説理論として、『ポール・マクリーンの脳の三層構造仮説』があり、『知』に大脳新皮質や海馬、『情』に大脳辺縁系(扁桃体・視床下部)、『意』に辺縁系の帯状回などを対応させることが出来る。 カウンセリングにおいて最も効果が期待される事の一つが、現実的な問題解決や不快症状の緩和に直結する情動のアセスメントと情動障害の改善である。つまり、不適応な行動にもつながる『情』の部分の制御困難や抑圧傾向が心理的問題の中心にあることが多いということである。 不安感、抑うつ感、恐怖感、意欲減退、過剰な怒りと悲哀など情動障害の改善を促進する技法には、大きく分けて、率直な情動表現の経験を強調する『来談者中心療法的なアプローチ』と合理的認知に基づく適切な情動コントロールを強調する『認知行動療法的なアプローチ』がある。 前者は、情動の過剰な抑圧による転換症状や自己主張や自己開示の低さによる不適応に焦点を当てていて、後者は、情動の制御困難による症状悪化や感情的な言動による不適応に焦点を当てているといえる。 従来の共感的理解と肯定的受容に基づくカウンセリングでは、ありのままの情動や日常で抑圧している欲求を率直に言葉で表現してカタルシスを得ることを重視していたが、意識的な情動や行動のコントロールを目的とする認知療法では、不適応な情動や不快な気分を引き起こす『非機能的な認知・思考』を特定してそれを自己肯定的な方向へ変容させることを重視するようになっている。 どちらがより高い有効性や改善効果を示すのかは一概に断定できないが、認知行動療法は『合理的思考による情動の制御』という理性優位の世界観を前提としていて、構造化された臨床面接を通して仮説検証の手続きを採用しやすいという研究調査面での長所があると考えることが出来る。 メンタルヘルスの健康度を左右しQOL(Quality Of Life)の高低にも大きく影響してくる心理機能の情動や意欲の生起メカニズムと制御可能性については、また色々な観点から考えてみたいと思う。 ■書籍紹介 目次 第1章 ダイナミックなシステム 第2章 意識の王国―右脳と左脳 第3章 脳の発電所―大脳辺縁系 第4章 感情は化学物質である 第5章 脳の生み出すもの―知覚の不思議 第6章 他人の脳に入り込む能力 第7章 記憶はどのように保存されるか 第8章 意識はどこにあるか ビジュアル版 脳と心の地形図―思考・感情・意識の深淵に向かって
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カウンセリングルーム:Es Discov... 2011/05/17 11:43 |
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