カウンセリングルーム:Es Discovery

アクセスカウンタ

zoom RSS 『自己否定的な衝動性の行動化である自傷行為』とそれが持つ心理学的意味

<<   作成日時 : 2006/01/21 01:32   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 29 / トラックバック 8 / コメント 0

前回の記事の続きで、境界性人格障害(BPD)などで起きやすい自傷行為についてもう少し深く掘り下げ、自傷行為が暗黙裡に突きつけてくる『心理学的な意味』について分析してみたいと思います。

しつこく相手を追い掛け回すと反対に相手が距離を取って離れていくという現象は、日常的によく見られるものです。皮肉なことに、人間というものは『何があっても絶対に裏切らない、永遠に離れないことを過度に強制される』と、相手から自分の意志や行動を拘束されて支配されているという圧迫感や息苦しさを感じるようになり、相手との間に距離を置きたいと思い始めます。

ですから、相手との人間関係を長期的に長続きさせるためには、『相手に完璧な愛情や永遠の関係性』を求めすぎず、相手の自由な選択や主体的な決断を尊重することが大切になってきます。過剰な見捨てられ不安を前面に出して、関係の維持に対する異常な執着を見せるのも、多くの場合、相手に恐怖感や束縛感を与えます。どちらかというと相手の行動や時間を束縛せずに、心の余裕を持って相手の感情や態度に対する適切な配慮をしながら緩やかなつながりを維持しようとするほうが結果としてうまくいくでしょう。

少し、境界性人格障害に特徴的な『見捨てられ不安の強さ』『極端な対人評価の変化(賞讃とこきおろし)』の問題に脱線しましたが、自傷行為の持つ心理学的意味には、以下のようなものがあります。



  1. 感情調節機能……自分を傷つけることで、混乱したパニックの感情を収束させ、喪失体験の悲哀を緩和し、鬱屈した無気力感を改善するというように、自傷行為にカタルシスなどの感情調節機能を期待する意味がある。この場合、自傷をして『混乱した気持ちがすっきりして落ち着いた』『ある種の快楽や陶酔を感じた』というような感想を漏らすことがある

  2. 危機・苦痛の伝達(クライシス・コール)……『自分は極限の苦しみや悲しさ、孤独感を感じていて、もうこれ以上耐えることが出来ない限界状況にあるんだ』という事を周囲の人々に自傷行為を通して伝えるという意味。そこには『何とかしてこの状況から私を救い出して欲しい』という悲痛な願望と思いが込められている。

  3. 復讐・攻撃の代理行為……自分を裏切った人たち、自分を傷つけた人たち、自分を侮辱した人たちに対して『自分の苦悩や絶望の大きさ』を思い知らせたいという欲求が内包されているという意味。自分を絶望させ酷い目にあわせた人たちに、自分が死ぬほど苦しんでいることを明示的に示し、何とかして相手に罪悪感や後悔、謝罪の念を起こさせたいという復讐の代理行為として為される自傷行為である

  4. 理想自我と現実自我の乖離……『こうありたいと思う理想自我』と『こうであるという現実自我』の間に余りにも大きな格差や違いがあるために、自己嫌悪や絶望感が高まり『こんな無意味な自分なんて消してしまいたい』という欲求が生起して行う自傷行為である。象徴的に『自己を否定して消し去る』という意味をもつ。

  5. 現実逃避の手段……自分の手首を切ったり、頭を壁にぶつけたりすることで得られる感覚的な痛みを強化することで、現実の問題や苦悩を忘れたり、過去のトラウマや絶望から離れようとする現実逃避の意味がある。

  6. 精神的な弱さの否定……他者との人間関係で感じる見捨てられ不安や生きていく気力の乏しさといった自分の精神的弱さを否定するために、肉体的な苦痛や流血に耐えようとする。誰も耐えられないであろう痛みを耐えている自分は、何者にも負けない強さがあるのだと自己暗示に掛けているような効果がある。

  7. 自己の存在感の認識の強化……過去の幼少期のトラウマなどによって解離症状が発症している場合、『自分が現実にこの世界に生きているという生き生きとした実感(リアリティ)』を喪失することが多い。そういった場合に、自分で自分を傷つける感覚的な痛みによって、自己の存在を確認し、現実感覚を取り戻そうとする意味がある。




時折、『リストカット・シンドローム(リストカット症候群)や自傷癖は、本当の希死念慮に基づく自殺未遂ではないのだから、死ぬ心配はしなくてよい』という自己流の自傷行為の解釈をする人もいますが、これは正確な情報ではありません。大多数の自傷癖を持っている人は、本気で死にたいのではなく、苦痛な孤独感や虚無的な無意味感から助けて欲しいというメッセージを出しているクライシス・コールとして自傷をしているのは確かですが、中には重篤な解離性障害を併発していて現実感覚を喪失しかかっている人もいますので余りに楽観し過ぎるのは危険です。
特に、『どうせ死ぬ勇気もない癖に、周囲に迷惑を掛けるのはやめなさい』というような叱責や批判をすることには、漠然とした『死にたいという願望』を強化する恐れや『見捨てられ不安』を強めて人間不信に陥る危険があるので怒ったり叱ったりする対応は控えましょう。

出来るだけ自傷行為をしたこと自体を責めずに、手首を切ったり、自分を傷つけずにはいられなかった本人の耐え難い孤独感や苦しみに寄り添って共感的に粘り強く話を聞いてあげることが大切です。

しかし、専門的に話を聞く訓練が出来ていない人の場合には、自傷癖のある人の憂鬱でつらい話を聞くこと自体が、非常な重荷やストレスになることがあります。そういった場合には、心理カウンセラーや精神科医などの助力や支援を得たり、トラウマに対応したカウンセリングを受けることを本人に勧めるほうが、結果として自傷からの立ち直りを早めることになると思います。

自傷癖は、多くの場合、過去のトラウマ体験を根本的な原因として持っているものですが、そのトラウマから派生する精神的問題として『解離現象(解離症状)』が見られることがあります。解離とは、本来、統合されているべき自我機能がバラバラに断片化している状態を意味します。つまり、一貫しているはずの自我意識のアイデンティティが障害されて幾つかの自我意識が生まれたり、連続しているはずの過去から現在の記憶が細分化されてバラバラになったりするというのが解離現象(解離症状)です。

自傷癖を持っている人に解離現象が見られる場合、『外界や自分の身体に対するリアリティ(現実)が失われて、何だか薄い靄に覆われているような幻想的な感覚』を感じます。

更に自傷を行った時に解離症状を呈している場合には、『自分の手首を切っても痛くも何ともないという感覚機能の麻痺・喪失(analgesia)』『自分の身体が自分のものではないような感じがあり、流血したり怪我をしたりしても何の恐怖も不安も感じないという感情鈍麻・感情麻痺』の状態が見られることがあります。


■境界性人格障害のDSM−V−Rによる診断基準



DSM-V-Rによる境界性人格障害の診断基準

全般的な気分、対人関係、自己愛の不安定さのパターンで、成人期早期に始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち、少なくとも、5項目により示される。

1.過剰な理想化と過小評価との両極端を揺れ動く特徴を持つ不安定で、激しい対人関係の様式。

2.衝動性で自己を傷つける可能性のある領域の少なくとも二つにわたるもの。例えば、浪費、セックス、物質常用、万引き、無謀な運転、過食(“5”に示される自殺行為や自傷行為を含まない)

3.感情易変性:正常の気分から抑うつ、イライラ、または不安への著しい変動で通常2〜3時間続くが、2〜3日以上続くことはめったにない。

4.不適切で激しい怒り、または怒りの制御ができないこと。例えば、しばしば癇癪を起こす。いつも怒っている、喧嘩を繰り返す。

5.自殺の脅し、そぶり、行動、または自傷行為などの繰り返し。

6.著明で持続的な同一性障害、それは以下の少なくとも2つ以上に関する不誠実さとして現れる:自己像、性的志向、長期的目標または職業選択、もつべき友人のタイプ、もつべき価値観。

7.慢性的な空虚感、退屈の感情。

8.現実に、または想像上で見捨てられることを避けようとする常軌を逸した錯乱的な努力。“5”に示される自殺行為や自傷行為を含まない。








■関連URL
境界性人格障害(BPD)という自他の関係性の障害

■書籍紹介
境界性人格障害(BPD)のすべて
境界性人格障害(BPD)のすべて

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 29
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス ナイス
かわいい かわいい
驚いた
面白い
ガッツ(がんばれ!)

トラックバック(8件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
『人格障害の分類と定義』が持つ臨床的意義と倫理的問題:多角的で相対的な人格評価の重要性
前回の記事では、クラスターB(強い衝動性や自己愛を持ち、対人関係の困難や反社会的行為を伴いやすい群)に分類される境界性人格障害の症状と自傷癖の問題を概述しました。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2006/01/21 02:04
子どものトラウマに対応するプレイセラピー(遊戯療法)とユング心理学のコンステレーション(布置)の関係
ウェブサイトの記事で子どものトラウマと心理療法を書いたが、この記事では、機能不全家族で成長したアダルチルドレンや養育者から受けた虐待によるトラウマを中心にして「トラウマに対処する心理臨床」を考えてみた。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2006/12/28 19:22
自己存在のリアリティ(現実性)を喪失する離人症と相補的な拘束作用の働く家庭環境の問題
常識的に考えてその環境から逃げ出すことが望ましいと思われる場合に逃げ出せない理由として、『アダルトチルドレンに絡む関係の静止性の問題』と『暴力・懐柔・経済的依存によるマインドコントロール』が二重三重に組み合わさっている可能性を考えることが出来ます。過去の記事の後半で取り上げた東京都足立区の元妻殺害の事件に限らず、『元配偶者のいる不遇な環境』に半ば自発的に支配拘束されてしまうケースというのは少なからずあります。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2007/06/22 20:50
エミール・デュルケーム『自殺論』の類型論とアノミーな現代社会におけるメンタル面のリスクファクター
前回の記事の続きですが、具体的な個別の問題については、これからの人生をどのように考えて生きていけばよいのかという目的性(適応的な認知変容)を意識したカウンセリング的対応を行い、経済・生活・健康面の問題については利用可能な保健福祉制度(相談制度)や法律制度など社会的資源の情報提供を行っていく必要があります。硫化水素ガスを用いた自殺の場合には、本人とは無関係な周辺住民を巻き込む問題がありますが、本人の希死念慮(悲痛な絶望感)を緩和する心理的支援の方法と周囲の二次的被害の防止をどのような形で統合... ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2008/05/05 17:51
境界性人格障害の特徴としての『衝動性・依存性・空虚感・不安定さ』と対人関係のトラブル
境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)は、『衝動性・依存性・攻撃性・空虚感』を特徴とするクラスターBの人格障害で、『対人関係のトラブル・コミュニケーションの緊張』を引き起こしやすくなります。境界性パーソナリティ障害を抱える人の『人格構造』は極めて脆弱でストレスに弱く、『相手の反応・環境の変化・悲観的な推測』などによって感情や気分が急速に不安定になります。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2009/08/07 15:45
ジャック・ラカンの『大文字の他者』が支える象徴的秩序と境界性人格障害のコミュニケーションの問題
ジャック・ラカンの精神分析学では人間は現実界において『無意識的願望(本当の欲望)』を十全に満たすことができない、このことは『他者とのコミュニケーションの不完全性』という外観をとって現れることになる。『他者とのコミュニケーション』というのは、外向的で社交的な人にとっては極めて気軽で簡単な行為に過ぎないが、内向的で回避的な人にとっては精神的緊張を伴う難しい行為にも成り得る。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2009/10/23 06:44
土井隆義『友だち地獄―「空気を読む」世代のサバイバル』の書評1:“優しい関係”と“いじめ問題”
現代社会で生きる人たちにとって『友達とは何なのか?』という問いに対する答えは様々であり、友達が多くいることに安心感や自己肯定を感じる人もいれば、友達から私生活に干渉されることに煩わしさや面倒くささを感じる人もいる。学校・会社の所属が同じだったり、人脈をつなぐ必要性からとりあえず付き合っている『見せ掛けの友達(ビジネスライクな友達)』と、何でも遠慮なく話し合い相談できるような『本当の友達(プライベートな友達)』は違うという意見もあるだろう。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2009/11/17 22:37
境界性・自己愛性のパーソナリティ障害と自己愛の発達3:コフートの自己心理学と愛情不足・過保護の影響
境界性パーソナリティ障害でも自己愛性パーソナリティ障害でも、『自律的な自己アイデンティティの形成』ができないという問題が見られ、自己アイデンティティが拡散して依存性や自己顕示性が強まることで『他者との対等な人間関係』を築くこともできなくなります。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2012/01/25 23:26

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コンテンツ&本の紹介

Es Discovery's Encyclopedia(百科事典的なアーカイブ)

心理学の事典や臨床心理学の概説書

S.フロイトとC.G.ユングの書籍
スポンサーリンク


ブログアーカイヴ
2005年
3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2006年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2007年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2008年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2009年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2010年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2011年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2012年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2013年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2014年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2015年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2016年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
『自己否定的な衝動性の行動化である自傷行為』とそれが持つ心理学的意味 カウンセリングルーム:Es Discovery/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる