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今回は、前に書いた『恋愛関係の維持の話題』に関係した補足記事を少し書いてみようかと思います。 恋愛(夫婦)の関係を維持することが難しくなる場合によく見られる組み合わせには、『愛情表現が過度に苦手な男性』と『愛情表現を強く求める女性』の組み合わせや『お互いに相手の短所や欠点しか話題にならない二人・共通の話題や趣味などの接点がまるでない二人』の組み合わせがあります。 一般的に恋愛関係や夫婦関係において期待されるものとは何でしょうか?色々な観念や感情やモノをそれぞれが思い浮かべると思いますが、恋愛(夫婦)関係の根底にあるのは、実存的孤独の悲哀を和らげる『相互的な存在の価値承認』ではないかと私は考えます。 生物学的な遺伝子の保存だとか社会学的な社会の構成単位としての家族形成だとか、心身の成熟の現れとしての恋愛や社会的責任の遂行としての結婚だとか……色々な根拠を挙げて恋愛関係や結婚関係を説明することは出来ますが、自然な人間心理として考えればこの世界をただ一人孤独に生きる淋しさやつらさに耐えられないという弱さに根ざした面があるかと思います。 何故、一人で生きる事に抵抗や孤独を感じるのかという原因を究極的に遡れば、子孫継承を促す“遺伝的な生理学的メカニズム”や集団生活を可能にする“適応的な行動制御”があるのでしょうが、通常、そういった生物学的な回りくどい根拠を憶測して恋愛しようとか結婚しようという決断をする人はまずいません。 人間には仕事や勉強、思索といった一人でないと出来ない行為をする場合などある程度の孤独が必要ですが、『永続的な完全な孤独』となるとなかなかその状況に耐え切れる人はそう多くいるものではありません。 「必要とするある程度の孤独」には、先天的な気質や後天的な性格特性によって大きな個人差がありますが、相当に非社交的で孤独耐性の強い人であっても、一週間に一回程度は電話やメールであってもコミュニケーション欲求を覚える事が多いと思います。 あるいは、積極的に自分から会話や行動に参加しなくても、インターネットでの議論や他者の言葉(文章)を閲覧することにも何らかのコミュニケーション欲求が潜在していると解釈することが出来るでしょう。余りに忙しい日常生活を送っていて、膨大な人間関係のネットワークにいつも組み込まれ続けている人の場合には、人里離れた別邸でのんびり孤独な時間を満喫したいという人もいるとは思いますが。 恋人や配偶者でないとしても、友人や知人などと何らかのコミュニケーションを行ったり、娯楽や遊びで楽しい時間を共有したいというのが一般的な人間の心性ですし、『他者の視線や評価』を無意識的にせよ求めてしまう事によって全ての社会的行為が価値あるものとして成立しているという事も出来ます。 恋愛の本質を『相互的な存在の価値承認』といった部分におきましたが、それを実際の交際や結婚で持続していく為には『愛情表現の言語的コミュニケーション』や『相互理解のための素直な自己開示』が必要となってきます。 自分の感情や欲求を抑圧しやすい内向的で消極的な人ほど、明示的に相手の存在価値を承認する行動や発言をすることを躊躇する傾向がありますが、こういった内気さや内向性の話題を中心として書かれた本にファウスト・マナーラの『本当はタカなのにヒヨコだと思っているあなたへ』というものがあります。 この本は、心理学的な知識の概説書ではなく、著者の臨床経験を踏まえたエッセイといった感じで内容はあまり深くありませんが、「性格特性の内気とペルソナ(隠蔽的な仮面人格)の問題」に焦点を絞った内容になっています。 この本の中で、(ある程度交際期間の長い)カップルの関係性を維持する妨げとなる抑制的で自己開示の苦手な性格として以下のようなものが挙げられています。 訳文があまり良くないのですが、とりあえずそのまま引用しておきます。
自己の感情表現が自己中心的になりすぎてしまうと心地良いコミュニケーションの形を為さなくなり、相手の行動や愛情を独占的にコントロールしようとすると関係が破綻したり、空間(家庭)が息苦しく圧迫感を感じるようになったりします。 かといって、相手に対する欲望を抑圧して、相手からの干渉や影響を最小限にしようとすると、距離感が開きすぎてしまいますね。距離感を広く取ると相手からの束縛や干渉を感じずに済む一方で、次第に愛情も冷え込んで関係が疎遠になっていってしまいます。良好な関係を維持しようと思うなら、ある程度率直な感情と欲求を取り交わすコミュニケーションが必要とされるということでしょう。 異性関係に限らず友人関係でも、余りに距離を広く取りすぎると接触頻度が減って、相手に対する興味関心が薄らいでいく傾向がありますが。 自分のことをより良く理解して貰って必要な愛情を得ようと思うなら、相手のことを深く理解しようとする努力を続けることや自分にとっての相手の存在の重要性を積極的に伝えるコミュニケーションを行うことが大切になってくると思います。 密着感・束縛感を適切な水準にコントロールしてお互いに自由な時間を尊重しながら、必要に応じて親密な時間を持つように出来ればいいのですが、二人にとっての最適な距離感が食い違っている場合にはなかなか難しい部分があります。 ■過剰な人間関係へのしがみつきの問題とパーソナリティに関する障害 ここでは、恋愛をテーマにしているので、病的な孤独恐怖や他者への依存性といったものについて詳述しませんでしたが、『他人に愛されていないと情緒が不安定になる・他人に愛されず孤独な状況にある自分は不幸で価値がない・この世界で最も惨めなのは他人の愛情や関心が得られないことだ』といった他者依存的な認知が強まると「情動制御の困難や対人関係の混乱」といった問題が生じてきます。 「恋人や配偶者の有無」に自分の人生の価値や存在意義の全てを注ぎ込んでしまった場合には、「人格障害のクラスターB(不適応な衝動性・攻撃性や不安定な対人関係を中軸とする群)」に分類されるパーソナリティの問題を引き起こす恐れがあります。 衝動性や他者の操作性が最も強い境界性人格障害の場合には、他者の愛情や関心を得る為に自傷や自殺企図などを行って手段を選ばなくなったり、過度に依存的で衝動的な異性関係を繰り返すなどの行動が顕著に見られるようになったりします。 但し、境界性人格障害や自己愛性人格障害といったパーソナリティの偏向の問題は、他人に与える迷惑や損害の側面だけで判断するのではなく、その人の主観的な苦悩や不適応の側面にも配慮していかなければなりません。 表面に現れる強い自己主張や激しい感情表現とは裏腹に「自己に対する絶望的な空虚感」を背景に持っていて、その空虚感を埋め合わせる為に他者の存在や献身を必要としているというのが特徴でもあります。 反社会性人格障害の場合には、他者の犠牲や道徳感情の無視によって、人生に対する虚無感の払拭や歪んだ欲望の充足を果たそうとしますが、その本質は他者の愛情や評価が得られない事による反動形成といった面があります。 『他者が自分を愛したり利益を与えてくれないのであれば、傷つけたり奪ったりしても構わないじゃないか。自分を傷つけ無視してきた当然の報いである』という極端な反社会的な防衛機制と歪曲された基本認識が反社会性人格障害にはあり、そういった人格の形成過程には複雑に絡み合った外傷体験があったり、器質的な発達障害(行為障害・情操欠如及び感情鈍麻)の問題が介在していたりします。 連続殺人鬼と呼ばれる人や快楽殺人者と言われる人たちは、サイコパスという異常人格構造の概念で括られたりもしますが、DSM−Wの分類では重篤な反社会性人格障害に該当し、他者の権利意識の全てが欠損した人格構造といえるのではないかと思います。 過去の性格心理学には、フランスのデルマとボルの性格発展論といったものがあり、社会と他者への有害性として『精神活動の異常亢進(興奮過剰)』が問題視されていましたが、これなどは現代の臨床心理的コンテクストからはやや時代錯誤な観があります。 現代社会では、暴力的な反社会性(精神活動の異常亢進)も問題ではありますが、知的な犯罪行為(精神活動の表層的正常性を維持した犯罪群)の深刻性のほうが高くなっています。 また、デルマとボルの時代には『社会活動に参加しない非社会性・対人関係に消極的な非社交性』は心理学的・精神医学的な問題とする必要がないという判断が一般的でしたが、現代の日本ではひきこもりやNEETといった非社会的行動の問題も心理学的対処の範疇に含められてきています。 しかし、ひきこもりや非社交的な人格など非社会的問題行動を医学的治療と安易に結びつけるような議論には注意が必要だと思います。 デルマとボルは、社会秩序を積極的に破壊する性格傾向を病理的なものと考え、情動性(精神活動性)が過剰である激情型の「情動病」や道徳的善性が欠如した反社会型の「倒錯病(異常性格)」の分類を考えました。 長期間部屋から一歩も出ず、反社会的な妄想に耽っていたり、通常の会話の成立する余地がないなど深刻度が高いひきこもりの場合は別問題ですが、本人の劣等コンプレックスに触れない範囲で家族と会話をしていたり、友人とは電話やメールで普通の雑談をしていたりする場合には特別な精神疾患の心配をする必要はありません。 意味不明な言動や妄想幻覚、完全な無為(一切の興味関心の喪失・気を惹くための演技ではない同一姿勢の長時間継続)など精神病圏の病理性が明瞭であるひきこもりの問題も確かにレアケースとして存在しますが……大半の非社会的問題は、挫折や落胆の経験に基づく一時的な心因反応や自尊心の絡んだ環境不適応の問題に帰結されます。 ひきこもりのケースで多いタイプは、経済活動や学業活動といった本業(責任・義務・利害・評価が絡む行為)には無気力や不安を感じるが、それ以外の趣味の分野(インターネット・読書・娯楽)には積極的に興味を持って行動することも出来るというタイプです。 あらゆる活動領域にわたって完全に抑制状態にあるという人は滅多にいませんし、うつ病のように「性欲消退・睡眠障害・摂食障害の生理的欲求の低下」が顕著であることもそれほど多くありません。 性嗜好障害の圏内に入るほど歪んだ性欲の嗜好があったり、犯罪的な性欲の発露が見られる場合には、セクシャリティの問題に対応したカウンセリングも必要になるかもしれませんが、一般に、性欲の対象や充足方法に関する問題と非社会的問題との間に明瞭な相関関係はないと考えられます。 多くの場合、病理性のある医学的な問題として考える必要はまずなく、職業選択の困難からくるアイデンティティの拡散や対人スキルの不足による集団活動への不適応、理想自我と現実自我の極端な乖離などがひきこもりの原因になっていると考えたほうがいいと思います。 青年期前期に頻発するスチューデント・アパシーが長期化して、モラトリアム(社会的アイデンティティ選択の猶予期間)が遷延したまま20代の時期を終えたり、家庭環境における虐待や過保護の要因、学校でのいじめなど帰属集団からの疎外といった外傷体験から経済活動へ適応できなかったりといった問題が圧倒的に多いといえます。 非社会性や対人関係の回避といった事柄については、性格形成や社会環境との関連性を踏まえて、またゆっくりと考えてみたいと思います。 ■関連URL 『恋愛(結婚)の対象を獲得するまでの問題』と『恋愛(結婚)の関係を維持することの困難』 |
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ジェフリー・F・ミラー『恋人選びの心 T 性淘汰と人間性の進化』の書評:2
本書『恋人選びの心 T』の第3章『脳のランナウェイ進化』では、ロナルド・フィッシャーのランナウェイ過程を脳進化の原動力として多面的に考察していく。男性が『政治的地位(集団内での優位)・経済的豊かさ・創造的知性・芸術的感性』を女性に誇示してディスプレイしやすい脳の形質が、性淘汰のランナウェイ過程を通して発現してきたという話であり、10代後半〜30代の男性がもっとも強くこういった性的形質(行動特性)を女性に顕示するというのは生活実感としてもよく理解できることである。少し可笑しな事例として、本書... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2007/10/06 09:00 |
ジェフリー・F・ミラー『恋人選びの心 U 性淘汰と人間性の進化』の書評2:言語機能の進化と性的魅力
19世紀のゲーテとシラーのドイツロマン主義では、美術(芸術)に禁欲的なヴェールがかけられ、芸術家は有性生殖に非適応的な隠棲者のようなイメージで想起されていたが、その根拠は『芸術はそれそのものが快楽となる自己充足的なものだから』ということであった。しかし、快楽や喜びをもたらす行動には多くの場合、何らかの適応的利益や必要性が潜在しているのであり、美術にも非意図的な本人の意識していない適応度があるという。ジェフリー・F・ミラーは、リチャード・ドーキンスの『延長された表現型』の概念とニワシドリが作... ...続きを見る |
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山崎元『エコノミック恋愛術』の書評:“恋愛・結婚”と“経済・市場”の持つ類似性に着目したコラム集
恋愛に関する心理・行動を、経済学的な観点から著者の経験談も織り交ぜながら気軽に面白く分析した新書です。経済雑誌の連載コラムを書籍としてまとめたものなので、それぞれのトピックが一話完結型になっており、短い空き時間でもさらりと読み終えることができます。自分の好きなタイプの異性や自分と相性が合う異性を求める『自由恋愛』は、財の需要と供給によって価格が決まる『自由市場経済』になぞらえられることがあり、俗に『恋愛市場(結婚市場)・恋愛資本主義』といった言い方がなされることがあります。 ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/08/25 12:43 |
ジャック・ラカンの『大文字の他者』が支える象徴的秩序と境界性人格障害のコミュニケーションの問題
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カウンセリングルーム:Es Discov... 2009/10/23 06:44 |
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