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過去に『脳の解剖学的構造と生理学的機能』という記事で、人間の脳の大雑把な構造と機能の相関について書きました。人間の多様性のある行動がどのようにして生まれるのかという行動原理・行動原則について、心理学は長い時間をかけて研究を進めてきました。 そして、ロジャー・ペンローズらによる脳の機能局在説が注目を集めだした20世紀あたりから、心のメカニズムと行動の形成過程を研究する分野は、脳科学や認知科学といった(生理学・解剖学の成果を基盤におく)自然科学的な分野と切り離すことが難しくなってきました。 無論、心理的な問題を心理学的な技法(言語的・非言語的アプローチ)を用いて治療しようとする臨床心理学や一部の社会学とオーバーラップする応用心理学の領域は、生理学や解剖学と直接的に関係していないことも多くあります。 とはいえ、カウンセリングや心理療法という枠組みに留まらず、客観的な人間心理の解明や実証的な人間行動の理解を推し進めようとするならば、物理的な基盤である脳や情報処理的な過程である認知を無視することはできません。 脳神経科学及び認知科学の重要性は、今後、ますます高まっていき、それと同時に高度な専門化や細分化が進行することが予測されます。 それと合わせて心と脳の相関関係もより一層明確化されていき、脳に還元できる部分と脳に還元できない部分(還元することに科学的妥当性や臨床的有用性がない部分)の理解も進むのではないかと思います。いずれにしても客観的な心的機能の物質的機序を解明する脳科学の進歩によって、人間の主観的な意識や感情の価値が揺らぐものではないと私自身は確信しています。 それは、進化生物学の繁殖戦略や生理学的反応で、人間の恋・性愛の始まりや終わりを説得力をもって説明することができても、私たちの恋愛に対する価値の承認や大切な相手と時間を共有するときの幸福感が減弱しないのと同じことだと思います。 精神の実在と世界の実在の根拠を脳におき、精神機能の全てを脳内の電気的・化学的情報伝達に還元する事には一定の留保をしますが、とりあえず、『私の脳』が存在しなければ『私の意識(他者に認知される私の意識)』は存在しないという事は現象界における事実としてよいのではないかと思います。 この問題は、生命倫理学(バイオ・エシックス)の主要命題の一つ『人間の死はどの時点で決定するのか?脳死者の取り扱いはどのように行うべきか?』という問題と深く関わっていますが、ここでは倫理学的な命題の考察に深入りせずに、『脳の構造と機能・神経細胞(ニューロン)の特性』という科学的な事実だけを記述しておきたいと思います。 ヒトを含めた筋を持つ動物の行動(運動)の大部分は、身体各部の筋肉を収縮し弛緩させることによって成り立ちます。 全身に張り巡らされている運動感覚神経(運動ニューロンと感覚ニューロン)を、適切に精緻にコントロールする司令塔が大脳新皮質の感覚連合野であり運動連合野です。 実際の生理学的な行動の発現は相当に複雑なプロセスを介在させていますが、それを簡略化すれば行動主義心理学者ワトソンの“S−R理論(stimulus:刺激;response:反応)”をベースにして説明することができます。 行動科学(行動主義心理学)の理論的文脈では、人間の行動発生は、『外部の刺激あるいは環境の変化に対する反応(適応)』『情報処理(思考・認知・計画)を内面心理で行った合理的な反応としての行動』であるというように解釈します。 これに対応させて『神経生理学的な行動発現』を考えると、感覚受容に対して、脳内で情報処理が行われ、反射的(あるいは意図的)に行動が発現するというメカニズムを考えることが出来ます。 つまり、『感覚受容に対する行動発現』として動物の行動を理解することができるのです。 ヒト以外の動物であれば、ほぼ全ての行動を『遺伝的要因による反射行動』あるいは『過去の記憶・経験と照らし合わせた合理的反応』として説明することが可能でしょう。 ヒト(動物)の行動を生起させる外界の刺激にはどんなものがあるでしょうか? 私たちは、人間を他の動物の特徴や行動よりも高次の生物だと考えたい自己承認のための優越欲求がありますが、客観的に観察される現象から帰納すれば、ヒトと動物の行動発現には多くの共通点があります。 もちろん、ヒトだけにしか見られない人類固有の行動発現を刺激する要因(観念的な形成物・宗教的な理念・人間関係にまつわる感情)などもありますが、それらの誘因の根本には他の動物と同じ『遺伝基盤を持つ自己保存・種の保存の欲求』があり、ヒトの場合にはそれに『個体の主観的幸福感や満足感』が加わることになります。
人間の神経系は、“中枢神経系(脳・脊髄)”と“末梢神経系(自律神経系・体性神経系)”の二つの系によって成り立っていて、脳・脊髄と身体各部は相互的に化学的・電気的な情報伝達をしているわけですが、外部からの感覚刺激は脊髄で反射行動となったり、脳まで伝達されて認知過程を経た行動となったりします。 その行動発現の過程には、内分泌系のホルモン分泌活動や身体各器官の生理学的状態も関与してきますが、最終的な行動のアウトプットは、末梢の運動神経によって筋が収縮・弛緩させられることによってなされます。 神経系は、海綿動物など一部の単純な構造を持つ動物を除いて、ほぼ全ての動物(多細胞生物)に備わっており、『情報(信号)の伝達・部分的情報の統合・身体各部の制御・適応的な反応』という生存に必要不可欠な機能を司っています。 神経系は、物理的には『神経細胞とグリア細胞(支持細胞)』から成り立つ単純な構造をもっていますが、進化の発展段階が進むにつれて(系統樹の先端に分枝するにつれて)複雑な構造になっていきます。 神経細胞(ニューロン)の形状(細胞体・樹状突起・軸索・シナプス間隙など)については、中学校の生物の授業などで何回も見させられていてお馴染みなのですが、均質な脳組織の中からニューロンの形態を観察するためには専用の観察法を用いる必要があります。
大脳は、約140億個の神経細胞(ニューロン)のシナプス結合によって構築される巨大で複雑なニューロン・ネットワークですが、シナプス結合部位によって相互作用するニューロンこそが動物の行動と精神活動の最小構成単位となります。 勿論、ニューロン単体や脳器官から切り離されたニューロンの組織のみでは、精神機能を発現したり、“私”という自我意識を発生させたり、身体をコントロールすることが全くできません。脳の神経細胞は、一定以上の数が遺伝情報に基づいて適切に配置され、身体の然るべき位置に脳器官として発達することによって脳本来の精神機能や身体統御機能を生み出すことができます。これは、『全体は部分の総和以上のものである。部分に還元できない構成要素が、集合することによって部分にはない特性や機能を発生させる』という“脳器官の創発性”を指示しています。 単体としてのニューロンにも幾つかの種類があり、その『分類基準』によって以下のように分類されます。
■書籍紹介 脳のなかの幽霊
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脳が認知できない『見せ掛けの現実』と『物理的な現実』の差異:認知的トリックの世界を生きる人間
大脳新皮質を進化過程で獲得した人間は、低次・高次の脳機能によって『環境(外界)・他者・言語・自己』を認知(知覚)して、適応的な行動(運動)をすることが出来る。しかし、認知科学や脳神経科学の研究成果から分かってきたことは、人間の認知機能にはエラー(誤謬)や錯覚が多いが、人間はそれに気づくことが極めて難しいということである。日常生活の中で人間は知覚・判断・予測のエラーを数多くしているが、通常、『現実世界の認知的な歪曲(捏造)』が実際的な不利益や心理社会的な障害につながることはまずない。人間には... ...続きを見る |
カウンセリングルーム:Es Discov... 2007/12/20 22:15 |
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